STORY SOCKS とわたし

ひとめぼれだった。配色、デザイン、丈感、すべてをとっても「かわいい!」の一言に尽きた。

初対面の方にも関わらず、どこでそれを見つけたのか根掘り葉掘り聞きたくなるくらいにはそのくつしたにときめいていた。


愛媛県の内子町五十崎で、「IKAZAKI CRAFT FAIR」は県内を中心に手仕事を生業としている方達のマルシェとして毎年開催されていた。

和紙ジュエリー、お洋服、ピクルス瓶詰め、木工品、地元のロングセラーお菓子など錚々たる面々の中で、出店者として参加していた私はフードやドリンクを提供していた。

ゆるやかにわいわいとした空気感で開催されるこのイベントは出店者どうしも気軽にお話できるので商売半分、異業種交流半分と自身もお客としても楽しんでいた。

その中で出会ったのが手染め・手紡ぎの糸や布を使って雑貨を製作している「おりつむぐ」のうえぽんさんだった。

おりつむぐは2人のユニットで活動されていて、相方のまいさんはご近所さんでお世話になっているよく知っている方だけど、うえぽんさんと会うのは今回が初めてだった。

うえぽんさんは大阪在住のためおりつむぐの2人が揃うのはレアなことだそう。以前から一緒に活動している子がいるとまいさんから聞いていたこともあり、名前だけ1話から出てるけどようやくその姿を現したキャラクターを拝見できた、という謎の感慨深さがあった。


そのうえぽんさんはくつしたに黒のスポーツサンダルを重ねて履いていた。当時は夏だったけど、素足より快適なのと、好きなくつしたを履きたい、見せたい欲がある私は同じスタイルをよくしていた。

そのとき私はうえぽんさんのくつしたに釘づけになってしまった。黄緑、生成り、グレー、オレンジの配色のセンスの良さ、しかも左右でデザインの違うアシンメトリー、だけど幼いイメージはなく、すっと肌に馴染む落ち着きさも備えたくつしただった。


なにこの色の組み合わせ……天才すぎる………黒のスポサンがより色を引き立たせてて足元がおしゃれの大渋滞を起こしてる……

私はいてもたってもいられなくなり、うえぽんさんのくつしたが気になってます/// という旨を直接本人に伝えた。興奮を隠すのに平然を装ってたけど、嬉々として唐突にくつしたの話をする女ってどうなん?

そんな私にもうえぽんさんは「実はこれ友だちがデザインしてるの」と優しく話してくれた。え?!そうなんですか!

「ただのアシンメトリーなデザインじゃなくてイソップ寓話をモチーフにデザインされてて。私が履いているのはうさぎとかめ。ほら、ここにゴールの旗が描いてあって…」

めちゃくちゃ丁寧に説明してくれた。そして販売元まで教えてくれて某楽天のサイトを教えてくれた。そこにはうさぎとかめ以外にもいろんなイソップ寓話を題材にしたくつしたがあった。「わ〜!すごい!帰ってじっくり見てみます!」と興奮ダダ漏れでうえぽんさんにお礼を伝え、無事出店も終えた。


帰ってサイトを見てみると、「北風と太陽」「きつねと葡萄」「きつねとつるのごちそう」など、懐かしの作品が見事にくつしたの中で描かれていて感動した。きつねのひねくれた性格は当てはまる部分があるから覚えやすかったのかな…(自戒)。

これはいつか買いたい!買うとしたらどれにするか、その悩む時間も楽しい!

すぐ買ってしまったらその楽しみもなくなるから、少し時間を置いて買おう、そう決めていた。

しばらくして久しぶりにサイトを覗くといくつか売り切れていたり、新しいデザインが増えていた。そこで私がひとめぼれしたうさぎとかめのくつしたがなんと売り切れていたのである。

あっ…売り切れちゃったか……そしたら別のデザインにするか…どうせ買うなら知ってるお話がいいな。けっこうイソップって知らないマニアックなお話あるんだな…「きつねと葡萄」は秋冬に合いそう、「きつねとつるのごちそう」は喧嘩してるときと仲直りしたときのきつねとつるが描かれてて愛おしいね…

なんていろいろ考えたがどれも決め手に欠けてしっくりこない。そこで私は気づいた。私が履きたかったのはひとめぼれした「うさぎとかめ」だったことを。

失ってから気づく大切さ。もう廃盤になって復活することはないかもしれない…そんな心残りを抱えていて、未練がましくもスマホのブラウザには記録として残していた。


後日、不定期に訪れるインターネット検索整理。この情報はもう要らない、これは残す、という選別が始まる。100以上あるページが50以下になるときは自分に必要なことが明確になり情報の断捨離ができる。

盛大な心残りがあるため、在庫がないかどうか調べてはないことを確認する作業が辛くも続けてはいた。

ところが、ついにやってきたのである。私の目前(スマホ画面)にうさぎとかめが現れたことが。


やったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


光の速さでポチった。在庫が復活していたのだ。


そして自宅に到着。待ちに待っただけあって履くタイミングを考える。履くなら全体のコーディネートを考え、くつしたの良さが一番発揮できる服にしたい。結果、到着から2週間後にようやく履けた。

地元のフリマで300円で買ったカーキのオーバーオールのスカートは膝がちょうど隠れる丈感でくつしたを見せるには抜群だった。オーバーオールの下にはユニクロで買ったアイボリーのモックネックできれいさを出す。

そしてプレゼントしてもらった、香川の「青い羊」というヴィンテージショップの真っ青なジャケットは一見上に目を引かれがちだけど、かっこよさが上半身に出る分、下半身はスカートと絶妙な配色のカラーを取り入れて可愛さも逃すことなく取り入れた。

靴はOPANAKの黒のバレエシューズ。あなたはくつしたの引き立て役だよ!(めちゃくちゃ愛用してますありがとうございます)


そして実践。履き心地としてはなめらか。厚さもちょうど良い。冬だと一枚履きは寒そうだけど春〜秋は余裕で履けそう。足首と膝の中間くらいの長さで一般的なクルーソックスよりは長めかも。季節感を問わない色味なのも推しポイント。肌馴染みの良いグレーと生成りの優しい色合いに、黄緑とオレンジのアクセントが加わって可愛らしさをさりげなく主張してくれている。バレエシューズは足の甲が半分見えるデザインになってるからくつしたの色味もばっちり見える仕様である。

ジーンズを履いてスニーカーとの間から覗く色味もコーディネートによっては差し色になるからかわいいはかわいいが、真の力を発揮するのはやはり膝〜膝下丈のボトムス&くつしたが見えやすいパンプス系シューズの組み合わせの時なのだ。

私がこの子をフルパワーで履ける時は何回訪れるだろう。普段はスカートやワンピースを着ないからこの子が日の目を見られる機会は限られているかもしれない。でもたくさん履きたい。そんなジレンマを抱えながらこの子が輝けるコーディネートを考えるだけでも笑みが溢れるのである。