俺(オレ)たちは…
エディ「ヴェノムだ！」
ヴェノム「リーサルプロテクターだ！」

ヴェノムとエディは1作目で「俺(オレ)たちはヴェノムだ！」と声を揃えて宣言した。それなのに今作ラストの決め台詞は全く噛み合わない。一体何故だろう？

光

「光」はVENOM:Let There Be Carnageの重要なキーワードだ。今作における光とはすなわち自分を認め、尊重し、受け入れてくれる存在。メインヴィランであるクレタスはフランシスに、フランシスはクレタスに、それぞれ光を見出した。重要なのは彼らが光を求めるだけではなく、お互いにお互いの光でもあろうとした点だ。幼いフランシスはクレタスを孤独から救い、クレタスもまたカーネイジと化して一番最初にフランシスを救いに行った。クレタスは死刑直前の面会においても遺されるフランシスへの憂いを口にする。死に向かう自分の怒りや憎しみより先にだ。この状態にぴったりの台詞がアナと雪の女王に出てくるので紹介したい

結婚式

お互いを想い愛し合っているクレタスとフランシスが結婚するのはごく自然な流れに見えるが、二人の結婚式には自然ではなく必然の流れが存在する。そもそも結婚式というのは夫婦になる二人を社会が認めるという一種の儀式でもある。彼らはカーネイジ(大量殺戮)することで自分達の披露宴に世界を強制参加させようとしているのだ。誰にも止められない殺戮を目の当たりにすることで、世界中の人間が最強最悪の夫婦の存在を認めざるを得なくなる。エディ、マリガン刑事、ヴェノムが結婚式に招待されたのは、クレタスとフランシスを否定した世界を象徴するのがこの3人だったからだ。“カーネイジ“は殺戮と認識、二つの意味で社会に対する彼らの復讐となる筈だった。逆に言えばクレタスとフランシスはお互いという光を見つけながら、その光でも癒すことのできない「自分を否定した存在への憎しみ」を抱えていたということだ。(そもそも彼らの愛自体「受け入れられた」を前提に成立している。もし何かのきっかけでお互いを否定する状況が発生すれば、クレタスとフランシスは一転、殺し合う関係へ発展しただろう)

ヴェノムとエディ

光というならばヴェノムもまたエディを認め、尊重し、受け入れる存在として振る舞う(エディはそれを認めないが)。更に物語前半のヴェノムの立場はレイヴンクラフトにいたフランシスの境遇ともよく似ている。力を封じられ、誰も知らない小さな部屋に押し込められ、存在しないかのように扱われているのだ。にも関わらずヴェノムはエディを憎むことをしない。クレタス/フランシス夫妻とよく似た立場でありながら、彼らとヴェノムの違う点はここにある。力を振るえない不自由も、耐え難い空腹も、街のヒーローとして得られるはずだった名声を諦めることも、エディがいるなら我慢ができる。ヴェノムのにとってエディは絶対的で唯一無二の光ということだ

愛

エディに光を感じたからこそヴェノムもまたエディの光であろうとし、落ち込むエディをいつも励まし讃えた。本当は空腹を我慢できるのにマリガン刑事を食べようとしたのは、刑事がエディを侮辱したから。クレタスに殴りかかったのもエディに酷い言葉をぶつけたから。死に至る空腹を感じながらエネルギー効率の悪い小さなチョコレートを求めたのは、人を食べないというエディとの約束を(喧嘩別れの後もなお)大事にしていたから。しまいにはエディの生活の為に彼から離れることさえ決意する。ヴェノムがエディに抱いていたのはまさに自分より人のことを想う気持ち。本当の“愛“だ

“ヴェノム”とは誰か

愛し合うことは一人ではできない。それは別個の存在がお互いの違いを認め、受けいれる行為だ。だからこそ今作のラストは「「俺(オレ)たちはヴェノム！」」となりえない。2人のタッグに新しい名称(リーサルプロテクター)を使いたがったのは、ヴェノムの意識が「オレたちはヴェノム」から「オレはヴェノム。オマエはエディ」へと変化したことを示唆している。エディを愛した結果、ヴェノムのなかで必然的にエディと自分が別個の存在となり、同時に”ヴェノム”の名称は自分個人を表す大事な固有名詞へと変化したのだ

(一作目で)半ば強制的にエディと一心同体となったヴェノムは、改めて自分の意思でエディを選び、エディから選ばれようとしている。エディはこれから先ヴェノムの気持ちをどう解釈し、応えていくのだろう。

余談
ヴェノムの愛情を赤ん坊が親に抱くソレではないかと考えた瞬間もあったけど、ヴェノムの言動が「ちょっと駄目な男を愛してしまい勢いで喧嘩別れして別の相手を探したけどやっぱりアイツじゃないと駄目だった女」という一昔前の恋愛映画のパブリックイメージをきれいになぞっていることに気付いて、これは保護者と被保護者ではなく自立した(？)大人の恋愛だなと思い直しました。ヴェノムに必要な栄養素としてさりげなくフェネチルアミンの名前をあげてるしね