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公式戦【シングルラウンド】


平和な日々が終わる前に遠距離の大会(2回目)に出た

今年は今後のためにも女子の後輩を2人くらい出場させたくて外部の練習場に一緒に行き少し練習したが、力が足りずポンド数をあまり上げられなかった。長距離には不安定の為、断念した。

私は基本筋肉ゴリラなので2回生から40ポンドを引いていた。男子がポンドアップする前より少し重い具合だ。

なので選手は圧倒的に男子が多い大会でもある。

とにかく矢取りに行く距離が長い。
看的で他校の選手と点を相互に記録し合う。
70m.60m.50m.30mの144射をする。

開始直後、会場がほぼ砂地で風が吹くたびに呼吸を止めないと砂埃を吸ってしまう。
吸ってしまうと咳が止まらない。
その上目も痛い。
喉に貼り付く砂を流し込むようにお茶を飲む

1射射つたびにスコープで確認する
音が響く
ちゃんとあたっている
今年こそマシな成績を残したい
女子も出た人がいたという記録を残したい

横目で一緒に出場している同回生の男子と男子2年を見るとやっぱり砂で苦しそうにしている。

70mが終わった時点で少しだけの休憩時間がある。念のため気管支を広げる吸入器を持っておきたいけど貴重品はアローケースに突っ込んできてしまった。

自分で取りに行く時間もないし、大きい声を出すわけにもいかない
応援に来てくれている後輩に向かって
手を振りジェスチャーで
「 お願い 誰か こっちきて 」と伝える

勘のいい子が寄ってきてくれた
あんな訳のわからん動きでよく伝わったな

「ありがとう。気付いてくれて。んで、悪いんだけど私のアローケースに入ってる吸入薬の入った巾着取ってきてくれないかな?あとお財布もお願い。これケースの鍵で、暗証番号は◯◯◯だから。頼むー!」

「おっけーです!わっかりました!でも暗証番号大きな声で言っちゃダメですよ〜!」と駆け出してくれた。

すぐに帰ってきてくれて頼んでいた物を渡してくれる。

「もう一つお願いがあるの、お茶とスポドリ何でもいいから買ってきて欲しいの。思った以上に水分の減りが早くてこのままじゃもたなさそう。出てる男子たちと応援に来てくれてる子の分も頼めるかな?」

財布から千円札を5枚抜いて渡す

「任せてください!先輩は何がいいですか?生茶でしょ?」

「うん、生茶がいい。無かったら何でも。あとご飯抜いてるからカロリー取れそうな甘いやつも1本頼める?」

「了解です!先輩試合前も練習前も本当に食べないですよね…」

「そういう体質なんだよ。」

合宿の時も夕飯以外はほぼ水分で過ごしていた。
あらかじめ民宿側には伝えていた。
食べると胃が腸が痛くて動けなくなってしまうからだ。

会場内の自販機はいつもあっという間に売り切れる

今の時点では多分あるだろうか買い占めるのはちょっと気が引けた、それも含めて

「それで本当に申し訳ないんだけど、近くにコンビニがあったからそっちで買ってきてくれるかな?自販機は私たちみたいにサポートしてくれる子がいない人に置いておいてあげたいから」

「おっけーです!」
「重いのにごめんね、何人かで行ってね、ありがとう」

60mが始まり順調にあてていく
ぶっちゃけ、遠いけどなぜか1番あたる距離
的も少し大きいし見える
気持ちいいくらいあたる
横風もマシになる
相変わらず矢取りはちょっと距離があるから大変だ

看的相手とも点数の確認だけのドライなものから段々と話せるようになってくる
同じ学年の強豪校の女の子だった

「うまいね〜」と言われてちょっと嬉しい
「たまたまですよ〜こんな長距離なかなか射つ機会ないんでテンションは上がりますね」
と歩きながら話す余裕もある

「学校で長距離射てないの?」
「そう、だから外部行ってサイト合わせと1日練しか出来ないの。新人戦もあったし後輩も見ないと」
「実質2回?!ヤバイね」
「去年も出たけどね。弱小校はそんなものだよ」

金持ちと貧乏の差を感じる
試合会場にも前泊で入るらしい
財力…
私たちは始発電車だ

おつかいを頼まれてくれた後輩が帰ってきてくれた

競技の合間に2本受け取る。
「遠いのにありがとうね、助かった」
「いえ!頑張ってくださいね!」と他の子にも配りに行ってくれた

例の生茶と甘いやつ
甘いやつが「どろり濃厚ピーチ」と書かれていた
いちごミルクとか伝えておけば良かったと少し後悔する、微妙に汗ばむ季節に、どろり濃厚…。
しっかり振ってから開けて飲む。
意外と悪くなかった。


時々咽せてしまったりするものの
射ち慣れている50m.30mはかなり順調にすすんだ

調子のいい時は吸い込まれるようにいいところに刺さる

後輩たちも静かに拍手してくれる
応援は基本自由なので声出しする学校もある
30秒前の合図があれば静かにする決まりだ

やっぱりホームで練習してる時とは違うなぁと改めて思う

的間違いをしないように慎重に射っていった
あと3エンドで終わる
しんどいけどもうちょっと射っていたい
あっという間に終わった

看的相手と握手して抱き合う
一応言うが今日会ったばかりの人だ
また会いたいねと言って別れた 
頑張ろうねと言って別れを惜しむ
なぜか女子とはすぐ距離が縮まる

大学の荷物を置いてる控えの場所に戻る
弓を持って荷物持ってゆっくり歩く
重い

「お疲れ様です、さっきは飲み物買いに行ってくへてありがとうね。助かったよ」と言って弓をバラしていく。

「いえ、こちらこそご馳走様でした」と言ってくれる。

軽く拭いて専用のケースにスルリと弓具を入れていく。決められた手順で詰めないと閉まらない。もう手が覚えている。

矢も一本ずつ収納していく。

「いつも思ってたんですけど先輩、片付け超速いっす」

「まぁ、慣れだよ」
短期バイトで引越し屋も経験してる。最終的には梱包じゃなくてなぜか力仕事を回されることになったけど。

閉会式に並んで出る
立っているのもしんどい
バッチの対象者の名前が呼ばれる
私もギリギリ入っていた
一気に背筋が伸びる

点数に応じてスターバッチがある。
私は1番下のランクだったがまぁ嬉しい。

ちなみにあのバッチは有料だ、世知辛い。
記念に申請した。
後日、少し照れるがクイバーに付けた。

ちなみに元彼も持っていた。
色は違うけどあるとないでは気持ちが違う。


帰り道、同期男子が「飯行こー」と言う
「ごめんしんどいからパス、帰る、男子だけで行っといで」じゃぁお疲れ様〜

Hも出ていて「じゃあ俺も帰ろうかな」
「せっかくだから行っといで、いっぱい食べてこい」と言って皆のところへ行きなと背中を押す

後輩から「過保護ですねぇ」と笑われている

笑って手を振り駅に向かう

どろり濃厚ピーチを飲みつつ帰宅する
疲れて座りながらアローケースに頭を乗っけていた

音楽を聴きながら眠らないように最寄駅を目指す


下宿先に着いて気管支を広げるテープと常備薬を飲む。そんなに酷くないけどしんどい。
シャワーも面倒なくらい疲れた。
座椅子に座って厚手のブランケットを被って寝た。

電話で起こされる。Hからだ。
「はいはいー?」
「大丈夫そうやな、晩飯作るけど何がいい?」
「うどんとかお粥がいい」
「病人じゃん、了解」
あと15分くらいで帰ると言って切られる

自分は食べてきてるのに優しいな


「ただいまー!明日のパンも買ってきた。
って、なんで座椅子で寝てんの?
着替えてもないし」

「泥だらけでベット入るの悪いし、座ってる方が呼吸を楽なんだよね、シャワーもまだ浴びてない」

「じゃぁ先にお風呂溜める?
一緒に入る?」

「はいはい、1人で入る」

「溜めてくるからお先にどーぞ」と言われる

「動きたくないからタオルとか着替えとか用意して〜」

「も〜わがままっ!」


お風呂につかり冷えまくった身体を温める
しばらくすると湯気で咽せてしまう

「大丈夫か?お茶入れたから飲める?」とドア越しに聞かれる。

「うん、ありがとう。開けて」

「はい。」と逆方向を向いたまま渡してくれる

信じられないかもしれないが
まだお互いにお互いの全部を見ていない

キスさえもまだしていない


後日連盟の写真のページの女子の部に
私の写真も掲載された
後ろ姿で70mを射っていた
腰まである黒髪をあの赤いシュシュで束ねていた

これが私がまともに出られた最後の試合になった
出るには出るが不十分な記録しか出せていない。

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