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夏合宿(3回生)ミロのヴィーナスの誕生

※今年もバス酔いして倒れてます。苦手な人は読み飛ばしてください。

今年は私たちがしおりを作り民宿に予約し、練習場を貸切にして、練習メニューを組むことになった。千本射ちをしたいというなかなか根性のある下級生がいた。

もちろん夜行バスの手配もする。
今まで先輩に甘えていた分、想像以上に各方面に連絡するのが大変だった

加えて私は満足に身体が動く状態じゃなかったので、事務面とお金の管理面はほぼ任されていた。こんな時くらいは役に立ちたい


私は合宿に不満が少しだけあった。
男子部は去年レクリエーションでOBが持ってきた肉でBBQをしたと聞いた

女子部がOB相手にエセコンパニオンをしている時に美味い肉を食い散らかしていたと聞いてものすごく嫉妬した

ストップジェンダー差別
今年は女子も合宿の真ん中の日に自由時間を作って半日観光に繰り出す計画を立てる。
そうは言っても駅まで1時間かかり、その汽車は1時間に一本あるかないかだった。

でも私たちには車の免許がある。
近隣のレンタカー会社を見つけ連絡し、場所を指定して帰すのもそこでいいと快く貸してくれた。

これでどこでもいけるぞー!
部員を集めて何したい?!とワクワクで聞く

「甘いものを食べに行きたいです」
「道の駅行きたいです」
「ゆっくり過ごしたいです」

気ぃ遣いの後輩が「先輩は?」と聞いてくれた
「温泉に行きたい!」

合宿中の芋洗い風呂に1回生の頃から非常に不満があった。

「ふやけるほど浸かりたいね…」もう1人の3年も言う。

結局道の駅に寄り、お土産を買い、合宿所からほど近い温泉に行くことになった。

女の子全員でお風呂入るなんて初めてだ
非日常を楽しむのも醍醐味だろう

あと合宿前のミーティングで
「女子だけだから提案なんだけど、生理被る人大半でしょ?キツイ日にあんなトレーニングしたら身体によくないから休んでいいことにしたいんだけど。私も重いから2日目は休ませてもらいたい。意見ある?」

「賛成です!」
「でも日数は1日だけにしようか」

それでもしんどい時は休み休み参加することでまとまった
活動記録には(腹痛)で記載することにしようと決めた
まだ公には生理で休むなんて非常識と思われてる時代だった

でも痛いもんは痛いししゃーないでしょ?の提案に反対はなかった
「根性論の時代は終わって理論と技術で勝負しよう」

時代は変わる

今年は去年に比べてバス酔いの心配も少ない
通学バスのおかげで慣れて自信もついた
それでも一応1番前の席でHくんと隣にしてもらった

合宿1週間前くらいから1回生たちは心配そうにしていた

その度に「どしたん?」と不安を聞かせてもらう
共感と傾聴。解決方法は見つからなくとも。

最終的には「行ってみたら分かるよ。終わったら見える景色が変わるから。どうしても耐えれない子は帰ってもいい。それで辞めることが確定することでもないから、今は産むが易しの気持ちでいよう」

ホームシックになる子も意外といる
携帯で家族に電話してみるか?と聞くと大体意地を張っていらない泣く
「とりあえず渡しとくから終わったら返しにおいで」と言うと、外で話す声が聞こえて目を真っ赤にして「まだ頑張れます」と帰ってくる

救急箱も点検する
基本的なものからライターや針なども確認する
テーピングも多めに補充する
みんな皮が剥けて真っ直ぐ歩けないからだ

前日にHくんからメールが来る
「常備薬と吸入器忘れんなよ」
「おっけ〜ありがと!じゃあまた明日」


いよいよ出発の日がくる
荷物を搬入して点呼する
「全員いるかー?」
「酔ったら早めに前おいでー」

そうして見送りに来てくれた4回生に頭だけ下げて行ってきますの合図をする

無邪気な1回生は手を振っていた
はしたないからやめな!と2回生が教育してくれていた

Hくんと顔を見合わせて笑う
みんな通る道だなという意味だと思った

バスが高速に乗り揺れが一定になる

「お前今年は機嫌いいな」
「バスを克服した今年の私は一味違う」
「調子乗んなよ」
「今年は酔わないと思う」
完全にフラグを立てた

20時にトイレ休憩がある
「コンタクトの子、このタイミングでメガネに変えときなぁ!」と声をかけておく

22時の休憩で夜食を摂れる時間がある
毎年何か食べてるみんなが羨ましかった
軽食なら大丈夫だと思った


大きなPAに着き集合時間を伝えて解散する
みんなパーキングのフードコートにいる
私も小さめのうどんを注文した
同期の女子に「…大丈夫なの?」と耳打ちされる

「大丈夫、酔い止めも効いてるしこんなに乗ってるのに酔ってない奇跡」

「体質って変わるんやな」と素直に良かったねぇと言われる。

「私みんなとこうやってご飯食べるの夢だったんだぁ」と笑った
汁は残した

1回生は「食えばいいじゃないですか?」という視線だったが、2回生以上は去年までのゾンビ状態を知っているのでウンウンと頷いてくれる。


バスに戻って点呼を取る
「隣の子いる?忘れ物ない?携帯と財布忘れてない?大丈夫なら出発するよ」

「大丈夫でーす!」元気でよろしい。
「消灯するから寝る子は寝るのよー!おやすみ!」

運転手さんに「では、お願いします」と出発のお願いをする。

30分くらいして少しだけ胃に不快感を感じる
「Hくん…ちょっとだけ窓あけていい?」
「え?大丈夫か?」
「まだ大丈夫。」
「もー…仕方ないな」

Hくんが席から立ち運転手さんに予定にないPAに寄ってもらうようにお願いしてもらう。
次のPAまで10分で行けるタイミングだった。

「一応袋あるけど10分くらいなら我慢できそ?」
「…(首を縦に振る)」

5分くらいしてHくんの腕をたたく
限界だった

苦しい、やっぱり固形物は食べちゃだめだった
「うっ…」両手で口を塞ぐ
「もうちょいだから、耐えて」


PAに着いて
「みんなゴメン!20分くらい休憩な!トイレ行く子おったら今のうちに行っといで。」とHくんが全体に言う。

明け方に時間調整で大体3時間くらいバスで待機するのだだからこう言う手も使える。

歩けずに両手で口を塞いでないと出てきてしまいそうだった。
「よいしょ」っも横抱きにされてトイレに連れて行ってもらう。いつの間にこんなに力がついたんだろう。ふわふわと運ばれながら多目的トイレに入る。

後から聞いたが、「姫抱き…あの2人本当仲良しっていうか…もう夫婦ですよね」と揶揄われる
「まぁなんて言うか恒例行事みたいなもんだからね」とも言われた


うっ…ん…!おぅぇ!!と空えずきばかりだ
背中を下から上にさすったり叩いてくれる

「ほら、遠慮すんなって。出したら楽になるから」

「ぅぅ〜、苦しい…出ない」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになる

「水飲んだら出そうか?」

「たぶん…」

コンコンコン!!

「センパーイ?ここですか?水持ってきましたよ」
2回生だった
なんというタイミング

「ありがとう、助かった」
「うまく吐けなくて困ってた」

「なんかあったら電話ください。私居酒屋勤務なんでゲロ耐性あるんで」
頼りになる

ちょっとずつ飲みながら吐き気を催すのを待つ

突然強い吐き気を感じて
思い切り吐いた

ビチャビチャと汚い音と質量のある液体が便器に落ちる

ハァ…ハァ…と荒れる呼吸を宥めるように背中がさすられて、見ないようにして流してくれる

「大丈夫、大丈夫。」

「…PA寄るように言ってくれてありがとうね」

「まぁこうなるかなーって思ってたよ」
「ごめん」
「気にすんな、もう慣れた」

口をすすいでからおんぶしてもらってバスに戻る

バスに戻り背中にくっついたまま小さな声で「みんなごめんね…お待たせしました」と謝る。ふらっふらだった。安定の真っ青。

Hくんが代わりに「みんなもトイレとか我慢できなかったら早めに言ってな!今みたいにPA寄れるからなー!」

「はーい」と返事が返ってくる
体調不良は人格まで変えるんだなと仲の良い後輩に笑われる


ぐったりして眠った
途中で気持ち悪さを感じるものの我慢できたを

明け方に目が覚めて時間調整のPAで停まっていることを確認した

あぁ、もう着いたんだな
20日近く男子たちとはお別れだ
だが今年は温泉がある


先に女子が目的地に着き荷下ろしをした
Hくんに「今年もごめんね。帰りも隣でいい?」
「嫌だよ。ばーか。」と笑われて
「嘘だよ。でも乗る6時間前くらいから飯は抜いとけよ」と言われた
「…はい」と素直に言う

部屋は学年別で用意してもらっていた
お世話になる女将さんたちに手土産を渡す

同じ学年の女子が
「荷解き終わったら練習着に着替えて玄関に集合で」と言う

毎年恒例、基礎体力作り。
持病の関係でランニング以外は参加する。
それでもやっぱり下半身の筋肉は衰えた気がする
それをカバーするようにスクワットや体幹トレを増やしている

午前の練習を終えて民宿に帰る


お昼ごはんをじっと黙想して待っている下級生がいるので急いで私たちも向かう

「黙想やめ!頂きます!」
合図で一斉に食べる。
静かな食卓だ。

ふと思い立って、テレビをつけた。
「他府県の地元テレビ見よーよ、珍しいじゃんか」

「会話の無い食卓は良くないって心理の授業でも行ってたよ〜」と笑う

「本当にもう。OBくる日はダメだからね!みんなも真似しないでよ!」

「は〜い」と可愛い返事が聞こえる

午後からは弓で2R射って反省会
やっぱりここの練習場は特別だ
圧倒的緑の力 
マイナスイオンが爆発だな〜と思っていた

食事前にお風呂を済ませていく
毎年のようにサッと流す程度で下級生に順番を回す

髪を乾かすのに時間がかかるため人よりも早く上がる。スーパーロングで臍くらいまであった。一度も染毛もパーマも縮毛もかけたことがないストレート。練習中は束ねて巻きつけるようにしているためあまり長さは目立たない。

後ろで一つにゆるく結び食事を頂く
「今年も味噌攻めか…」と顔に出る
まぁ無いよりはマシだと無理矢理納得させる

ミーティングを大広間で行う
「みんな、足の裏と手の状態見せて」
と確認していく

「明日から水ぶくれができたり、血豆もできると思う、おかしいなって思ったらすぐ言いに来なさい」

私たち3回生はもうほぼ皮が固くなりすぎて豆なんか出来ない。
1回生が心配だった。
明らかに不安そうだった。

「明日に備えてゆっくり寝ましょうか」
お布団敷いて寝れなくても目は閉じておくように」
「明日は夜明けと共にランニングスタートです。
ごめんね、私は走れないので筋トレして待ってます」

布団を敷き終わった時間に1回生の部屋をノックする。2回生の方は同期が行っている。

「りょうです。開けてもいいですか?」
「どうぞ!」何かを隠す音がした

失礼します
お菓子の匂いがする
「お菓子食べた人ー?怒らないから言ってごらん」
全員挙手だった

「合宿は身体づくりも兼ねてるから過剰な糖分はダメなの。一旦回収します。」

絶望していた。かつての私もそうだった。
「相談して、折を見て食べられそうなタイミング作ります、お菓子は心の安定剤だからねぇ」

「ちゃんと歯は磨いて寝なさいね」

じゃぁお邪魔しました。

3回生の部屋に戻る。
「そっちはどうだった」
「例年通り出てきた」

もういっそ全部オッケーにしてやりたい。
「午後練の時に1つだけ食べるのってどう思う?」

「アカンでしょ」
「もう私たちは食べる気ないけどあの子たちはダメって言われても持ってきちゃうお子様なんだよ?」

「じゃぁ温泉の日にだけ!」
私たちだってあの日に甘味を食べたことがある

「そうしよう」渋い顔をしていた

同期と2人で寝る前にストレッチする

「…2人っきりだね」
「気色悪い言い方やめな」
「…2人になっちゃったね」
「切ない言い方もやめろ」

うつ伏せで筋肉をほぐしていく
交代ばんこって言ってたのに寝落ちしやがった
布団をかけて電気を消す

仕方ないので自分でほぐす
肩甲骨周りが凝って仕方ない
背中もひどく痛む
私も眠った

前半は比較的順調に進んでいった
怪我人も病人も出なかった
不安感から突然泣いちゃう子もいたけど
次の日にはケロッとしていた
概ね順調。
明日は温泉。

「今日は午前に基礎練と1Rだけ!昼からは散策です」
気持ちよく自己ベストを出すがいいさ

昼食を食べて温泉セットの準備をする
レンタカーに全員乗り出発する
ナビに目的地を入れて知らない街(村)を走る
それなりに緊張する

無事に辿り着き、全員分の購入券を購入する
はーい、順番に入ろうね〜
と最後に脱衣所に入った

昔ながらのカゴに衣類を入れるところで治安の良さが分かった

一応鍵と財布はコインロッカーの方へ突っ込む

野生の猿とかいないかなぁ?と
ほぼ貸切状態なのではしゃぐ下級生たち

「ちゃんと身体洗ってから入るのよー」
「走らないよ」
「泳ぐなー」

だんだんと注意がオカンみたいになっていく

髪を洗いトリートメントをつけてタオルを絞り頭に巻く
ちょっと時間を置いて流す
温泉にはみんな並んでちゃぽんと浸かっていた
なんか可愛い

来てよかったな
両手両足を伸ばす

「先輩、どうやったら腹そんなに割れるんですか?皮下脂肪どうやったら落ちます?彫刻みたいなくびれじゃないですか」
と横腹を触ってくる

「くすぐったい〜!ねじるように腹筋してたらこうなったよ。練習以外は特に何もしてない」
皮下脂肪も自然に落ちる。毎日あれだけハードな運動してたら合宿終わる頃にはぺったんこだ。

彫刻と聞いて「ミロのヴィーナス降臨!」と長髪を利用してポーズを取る
めっちゃ笑ってくれる、よかった

同期の3年女子はボインだ。
一緒に温泉に浸かり「乳って浮くんだね、知らなかった、いいなぁ」とセクハラ且つアホな感想を言っていた

後輩たちも興味津々だ
どうやったら大きくなるんですか?
「体質だよ。でも豆乳は毎日飲んでる」
豆乳…!!飲もう!と心に決めた
みんな!豆の力で豊胸すっぞ!!

久しぶりにゆっくり浸かるお湯を堪能して
脱衣所で薄着で涼んでいた

飲み物コーナーで豆乳を探すがない
「フルーツ牛乳飲む人ー?」
バッ!と人数分手が上がる
「全員かよ、運ぶの手伝って」
みんな味わって飲んでくれている


帰りに道の駅に寄る
私はのぼせたのもあってちょっと休んでいた
後輩たちは元気に駆け出していく

「あの子たち♾️だね」と空に指で描く
「本当だよね、もう真似できないわ」

「私まだ喉乾いてるからなんか買ってくるわー」と同期が降りようとするので私もお願いしていい?とお金を渡す

しばらくして帰ってきた時、持っていたのは豆乳だった

これぞ乳の源
イソフラボンパワー!
味はよく分からんけど効く気がする!

「はよ飲め。」と呆れられる

全員が時間通りに帰ってきて民宿に戻りレンタカーも返却する。

さて、あと半分頑張れるかな


次の日の夜OG.OB訪問があった

慣例となっていることを済ませて
3回生だけその場に残る

いい頃合いになり

「今年は勝てそうか?」と尋ねられた

「個人ならいい線行く子はいますが、団体はまだまだです」
「私たちが2人になってしまったのも損失です」

喫煙者が多いため部屋が曇っている
息苦しい

「確か君だったよね?呼吸器悪くて走れなくて矢取りも出来ない子」

「はい、そうです。皆に助けてもらって何とかやってこれてます。」私は答えた。

「それで大丈夫なの?後輩とかちゃんと言うこと聞く?先輩なんだから態度で示さないと」 

「そうですね、後輩たちも内心不満かもしれませんが、素直な子が多くて助かってます、まとまりはあります」

「彼女が1番高いスコア安定して出しますから」と同期が笑いながら言ってくれた

きまりが悪かったのか「まぁ卒業生は事故なく楽しくやってくれたらいいと思ってるよ」とビールを流し込んでいた

「毎年来て頂いてありがとうございます」
「明日の午前は看的の試合形式にする予定です。」

先輩方も練習場に見に来てください
それでは失礼しますと言って2人で部屋を出る


「私、あんな大人にはならないわ」と
同期女子がプリプリ怒っていた

「…ありがとう」

寝る準備をして電気を消す。

「あんなの気にしなくていい」

「うん」

そう言って眠るがすぐに咳き込んで起きてしまう
吸入器を持って、タオルで口を覆って鞄から出して同期を起こさないように廊下に出る
吸入して三角座りで落ち着くのを待つ

ヒューヒューと音が鳴る
苦しい…なかなか薬が効かない
辛い、さっき言われた図星のことも思い出して悲しくなった

少しマシになり、布団に戻って朝まで横になったまま眠れなかった
夏なのに寒かった


「りょう?どしたの?体調悪いの?気持ち悪い?」
「ごめん、夜中に発作出ちゃって寝れてない、あとすごく寒い」すぐに布団をもう一枚掛けてくれた。

「今日休みにしな」
「でもあと3日だよ?」
「でもじゃない」

無言で泣きそうになる…情けない

「泣いたら苦しくなるよ、落ち着いて」

「ごはんもお粥にしてもらって、部屋に運んでくるから大人しくしてな」

「うん」

暇だなぁ。
静かすぎる。
梅がゆをすする。

練習記録を読み返す気にもならず眠って過ごした。


手持ちの解熱剤を飲み、多分明日には治ると思う

今日の試合形式の練習でちゃんとやれてるところ見せたかった

自分のやっていること否定されたような気持ちになっていたから余計に


最終日前々日、予定していた千本射ちをする。
10本×100本
この日だけは矢取りも全員が歩く
夜明けと共にスタートして食事の時間も個人でとる専用のスコアに書き込んでいって終わったものから終了とした

結局、日暮れギリギリまでかかった
こんなの考えたの誰だよって途中で思った
合宿の記録を読み返していたら何年かに一回はやっていた

1回生はほぼ全員がリタイアしてしまった。
手の豆が爆発したり足が限界で動けなくなったり。
2回と3回は700本を越えた辺りからしんどくなり、言葉は交わさなくなった。

計測係も3回生2人で交代でする「はじめ、おわり、矢取り。」以外の言葉を発さなくなる。

久しぶりに疲れた
終わりの円陣で「明日は帰るだけなので今日は片付けと身支度、終わったら早く眠ること、お疲れ様」とシンプルに終わる。

最終日、お世話になった民宿の方々に挨拶する。
「今年もお世話になりました。また来年もよろしくお願いします。」
バスが来る前に全員で集合写真を撮った。

バスが来て荷物を下のトランクに入れた
座席にはもう男子部が乗っていて
「お疲れ様ですー!」と元気いっぱいだった

「お疲れ様です」と言ってHくんの隣に座る。
「…しんどい」
首を触られて「熱はないな」
「どこか痛い?」

「どこも痛くない」

黙ったまま泣いた
ペッと靴を脱いで三角座りする

もう合宿に来ないことが寂しいと思う日がくるとは思わなかった
無事に全員が合宿を終えられたことも安心した
1回生の時は帰りたくて布団被って泣いたのに
OBに言われたことも思い出して
感情がぐちゃぐちゃになる

「も〜…どうしたんだよ」
「ねぇ!女子主将こっちきて」
「これ、どうしよぉ」

「なに、どしたの?もう酔ったの?」
よしよーしと撫でてもらう

「大丈夫?話せる?」と手を握られる
「…走れないし、みんなと同じ練習出来ないからもう自信ない」
小さな声で言った

「あの事まだ気にしてたの?」
「何のこと?」
OBに言われたことの経緯を代わりに話してくれる

「本当に気にしなくていい。もう一生会うか分からない人に言われたことなんか忘れてしまえ」

「そうだよ」
「だからもう泣かないよ、Hくん困っちゃうよ」と親友に抱きしめてもらう

「次の個人戦きっと結果出せるよ」
「大丈夫だから今は帰ることだけ考えよう」

「うん、そうする」と返事をした

「りょう、たまにめちゃくちゃ情緒壊れるよね〜ある程度泣いたら勝手に泣き止やんで落ち着くよ。そんな訳だから泣いてても放っておいて大丈夫だよ」じゃぁ席戻るね

窓の方を向きカーテンで顔を隠して
ぐすぐずしていた
時々鼻をかむ

「のど飴なめるか?」
「いらない」
「次のPAでジュース買ってやろうか?」
「飲まない」

イヤイヤ期の子どものように拗ねていた


トイレ休憩に行き、結局自分でリンゴジュースを買ってくるとHくんも同じものとコーヒーを持っていた

「ほら〜やっぱり欲しかったんでしょ?」
「うん、欲しかった、ごめんね」
「いいよ、これもあげるから飲みながら帰ろう」
「ありがとう」

到着までの約10時間が長く感じた
眠れなかったし不完全な選手でいいのかという 自己嫌悪が消えなかった

* 
相変わらず酔いまくる
頭もガンガンする
Hくんを揺さぶり起こして
「酔った。頭痛い」と伝えた

水分しか摂っていない
なのになんでこんなに弱いんだろう
Hくんが背中をさすりながら

「起きてる子いる?誰か救護箱取って〜」
と声をかける
1回生の男の子が来てくれた
「何使いますか?」
「冷えピタ1枚出してくれるか?」
「りょうかいでっす!」
失礼します!とそのまま前髪を上げられて
おでこに貼ってくれた

「ありがとう」

「一応袋何枚か用意してるから使う時言って」
と言われる

「うん、毎年毎年ごめん」

「はいはい、慣れました」
「ほとんどの子寝てるし気にすんな」


大学に着いて円陣で締めの挨拶を聞く
色付きの袋を持ったまま真っ青で「みんなお疲れ様です。反省点は後日伝えます」としか言えず、私の合宿は終わった。

下宿先に戻る
今日ばかりは2人とも瀕死なのでご飯はカップ麺の予定だった

そもそも何も食べる気がしない
買い置きのゼリーを食べた

「あー…合宿終わったー…」
同感。

お風呂をためる音がする。
洗濯機で汚れ物を洗濯の準備をする
家中のハンガーを使っても足りない

また乾いたら回すか〜と言う


「お風呂一緒に入る?」
実は女子全員で温泉行ったんだと自慢する

「…一緒に?入れる訳ないでしょ、アホか」と言われる

いつも通り私から入り髪を洗った
「ねぇ、入ろうよ〜冷めるよ〜」
「だめだって!!」

仕方なく服を着て出る

「今日よく寝れるように一発芸してあげるね」
髪をそれっぽく持って
「ミロのヴィーナス!」

「…やめろ、裸婦画想像するだろ!」
顔を真っ赤にしている

「こっちでも風呂場でダビデ像やってた奴いたぞ」

「嘘…同類じゃん。」
なぜか急に落ち込んだ。


ベッドと布団に寝転がり
「合宿楽しかったね、3年間もいけてよかった」

「本当にそうだな」
人数は減ったけど毎年新入生が増える

「毎年移動の時迷惑かけてごめんね」

「いいって」と笑う
でも…
「帰り道、顔見るなり泣かれたのは困った」

「ごめん、説明出来ないくらいショックだった。ずっと我慢してんだけど、顔見たら安心してあんなことになっちゃった」

「分かるけど、後輩もびっくりするからあんまりビービー泣くなよ、もういい大人なんだから」

「そうだね。恥ずかしいし」

「そうだぞ。反省しろ。家まで我慢しろ。ちゃんと聞くから、放っておかないから」

「分かった。ありがとう」


こうして私たちの最後の合宿は終わった
疲れすぎて次の日の買い出しはHくんに任せた

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