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性被害②その後の話。


あの地獄のような話合いから数日間
私は少しの休みをもらった
持病の悪化という事で後輩たちには説明された
体調を見ながら自主練には出れる時に出ることになっていた


睡眠薬と安定剤のせいかいつもボーッとしていた
Hくんは「何も考えないで過ごせ」と言ってくれた
昼間授業がある時だけは一緒に行った

少人数のゼミでもウトウトしてしまう
教授に「どうしましたか?」と聞かれて
「すみません、昨日急にアルバイトが夜勤になってしまってそのまま来ました。失礼しました、気をつけます。」とシレっと嘘を吐く

授業の関係上、Hくんを待つ間、図書館で資料をまとめていたがいつのまにか眠ってしまっていた。
待ち合わせ場所に来ないことを不審に思ったHくんがいつもいる場所に探しにきてくれて起こされて、急いで資料を借りる手続きをしてバスに乗る。

バスに乗っても眠っていた。
「着いたぞ」
肩を叩かれて「うん?」と目を開ける
足が重い
「じゃぁ、先に帰るね」と寝ぼけながら歩く

スーパーで夕食の材料を買う
こんな日は簡単に作れる丼物だ

下宿先に着いて常駐している管理人さんに「ただいま帰りました」と挨拶する。

「おかえり!いい野菜獲れたから持って行って!」
マンションの1番日当たりのいい場所に管理人さんは趣味の畑を作っていた

「わぁ〜!立派な大根とおっきい白菜ですね」
「しかも葉っぱ付きだぁ、嬉しい」
「ふりかけにしてHくんと食べますね」
「いつもありがとうございます」

「ホント若いのに自炊して偉いねぇ」と頂きものして誉められて少しむず痒い。

明日は鍋にしよう。今日は豚肉も買ってある。
部屋に入って白菜の芯にペティナイフで何本かの傷をつける。成長点をとめる。新聞紙に包んでキッチンの涼しいところに置く。

大根の葉っぱをボウルにつけて頑固な土汚れを浮かす。
その間に半分を浅漬けにする。タッパーに塩と砂糖と酢をいい感じにいれて冷蔵庫にいれた。

半分は大根おろしにして、今夜の丼物のつけあわせにした。小さなボウルに入れて冷蔵庫に入れる。

葉っぱをしっかり洗ってから細かく刻んでごま油で炒めた、仕上げに鰹節を入れて砂糖と醤油で少し味をつけて生ふりかけにした。思ったより嵩が減る。

料理をしている時だけは無心になれた
慣れだからだと思う

メインの親子丼も作り終えて、ご飯をしかけて、こたつでコーヒーを飲む。勉強の本を開くとまたいつのまにか眠ってしまった。

夕方Hくんが帰宅する。
「ただいま」
「おかえり」
「変わった事ないか?」
「管理人さんからお野菜もらったよ、また会ったらお礼言っといてね」
「うん、分かった」


順番にお風呂に入る
先に入るのは大体私だ
髪にタオルを巻いたまま親子丼を仕上げる
卵は2度に分けて入れる

お風呂上がりの彼にまだ痛む箇所に湿布を貼ってもらう
「色はだいぶ綺麗になってきたぞ」と教えてくれた

一緒にご飯を食べる
穏やかな日々が戻ったと思った
「大根の葉っぱって食べれるんやな、美味しい」
「お漬物もあるよ、よかったら」
「まじで?やったぁ」
モリモリ食べてくれる

作り甲斐がある
いつもやっている家事は何も考えずに出来る


程よい時間になり
睡眠薬を飲んで眠る
初日は疲れもあって朝まで眠り続けた

本当に大変なのはここからだった
悪夢にうなされて起きてしまう
あの日の恐怖は
簡単には拭えない

「やめろーー!!!」と夢で叫んで起きる
起きたら決まってもう涙が出ていて
呼吸が浅く苦しい
溺れているような息苦しさだった
枕元に置いてあるタオルで口を塞いで
自分で落ち着かせようとする
ベッドの上で膝を抱えて耐える

ちょっとした物音でもHくんは起きてきて
「どこか痛い?大丈夫、大丈夫」と声をかけてくれる

「怖い…」と昔よりも随分大きくなった背中にくっつく

「もう絶対に安全だからな」
「大丈夫だよ、ちゃんと解決した」

うぅ〜…と勝手出てくる涙が止まらない
「どうして欲しい?」と聞かれる

「うっ…分からない」
「頭がボーッとする」

「薬効いてるのかな?横になろうか、ほらおいで」
いつものように太ももに頭を乗せる
寝付けるまであざになった箇所をさすってくれる 

ゆっくりとお腹をトントンとされる
まだ薬が効いていたせいかあっさり眠りに落ち
眠りながら「…痛い…誰か…助けて怖い」と言ってたらしい


朝になり昨日のことをうっすら覚えている
「…夜中ごめん」

「仕方ないよ、まだ日もそんなに経ってない。
気にすんな、誰だってあぁなる」

次の診察でもう少し効果の強い薬に変えてもらおう。
療養期間、こんなことが数え切れないほどあった。

昼間はまだ平気なのに夜になると途端にダメだった

あの日の出来事を怖いくらいに鮮明に思い出してしまった

まだ未消化の出来事なのだろう

ある夜起きた時、部屋が暗いのに耐えられなくなり、隣のキッチンの電気を点けて掛け布団を持っていき包まって座っていた

声を出さないようにしていると
勝手に涙が流れてくる

ポタポタと布団に染みが出来てくる

ガチャリとドアが開く

「…何してんの?」
「まーた、そんな泣いて…」

頭を撫でられる

「ごめん、暗いのが怖くて
なるべく起こしたくなかったから」

「大丈夫、こんなとこじゃ疲れ取れないよ」
「ほら、向こうの部屋行こう」

手を引かれて移動した
ん?お前熱くない?
「なんか、ちょっとしんどい」


また暗いところに戻ったせいか
急に感情の歯止めがきかなくなる

「もう嫌だぁ!暗いの怖いよ!しんどいよぉ!うわぁぁぁー!あぁー!!!」限界だった

Hくんは動じることなく
「うん、辛いな。」と言って抱きしめてくれた
「もう、大っきい赤ちゃんだな」と苦笑いされる

体温計を差し出されて38℃を越えていた
「寒い…」

「今思ってること全部言ってみて、言葉選ばなくていい」

「…苦しい、眠いのに寝れないのがしんどい、アイツが生きてるのが怖い、あと寒い」

「寒い?まだ熱上がるなぁ…
気持ち悪くないか?お腹痛いとかないか?
怖いのは完全にトラウマだろうなぁ。
どうしたらいいんだろ」

ポカリを入れてくれて飲む
枕元に置いて横になる


寝付けない
床の布団で寝ている彼もスマホを見て起きている

「ねぇ、寒いからそっち入ってもいい?」
「いいけど…珍しいな」
温かい背中にくっつく
それでも寒気がする

上に置いてある掛け布団を引きづり下ろす
それをかけても寒い
背中に耳をくっつけて心臓の音を聞く

「反対向いて」
寝返りを打ちこっちを見る
彼の喉仏あたりに顔を埋めた

頭を撫でられて
「大丈夫、怖くなったら起こしていいよ」
「…起こさないよ」

寝息が変わる頃にベッドの方に運んでくれたらしい


先に起きてる彼に熱を測られていた
ピピッ…ピピッ…という電子音がした
まだボーッとする

「お前、大丈夫か?39℃あるぞ」

「熱上がりきったみたい」
「一応病院開いたら内科行ってくるから」

「欲しいものある?」
「飲み物とアイス」
朝イチでコンビニに行き買ってきてくれた

「感染症だったら実家に帰るね」
「どっちでもいいけど、感染るならもう感染ってるだろー」
「諦めて一緒に寝込もうぜ」と笑ってくれた


開院時間に合わせて歩いて近所の内科へ行く
念のためインフルエンザの検査をする
陰性だった

特に流行っている病気もなく喉もリンパも腫れてない不明熱だった

ただ熱と背中の痛みが強いと伝える
あと食欲がないこと水分が摂りにくいことも
そのため飲み薬と坐薬が処方される

結果を彼にメールする

「了解。寝てろよ。」と帰ってくる。


帰宅して買ってきてくれてたアイスを食べる
着替えて眠る

起きたら彼が帰ってきていて
おでこには知らない間に冷えピタが貼られていた

「おはよう。おかえり」

彼はキッチンにいた
「ただいま。熱どうだ?」

「ちょっと下がってる、いつものやつだと思う」
「昼間ずっと寝てたから夜寝れないかも」
「まぁ、起きてるよ」

「寝ないと治らないだろ」
「今卵がゆ作ってるからもうちょい待ってて」
「薬飲む前に食べて」

葱がたくさん入っていて美味しかった
止められたがシャワーだけ浴びた

深夜にやっぱり痛みがでる
熱も上がっている
どちらにも効く頓服の坐薬を使うか…

トイレに行き坐薬の先端を指で溶かして使う
異物感がすごい、何度やっても慣れない
辛いけどすぐに効くはずだ


翌朝かなり熱が引いた
片付け忘れた坐薬の薬袋は机に放置していた

「ねぇ…坐薬って何?」

横になったまま片付けておけばよかったと後悔した

「…説明したくないから自分でググって」
「あと子どもの頃に大体の子が使ってるから!変な薬じゃないから!」

「えー何で怒ってんの?」
言われたとおり調べていた
「お尻から入れる…薬?ご、ごめん」と言われる

20代前半、まだまだ羞恥心が強い
「もういいよ」と壁の方を向いた
てゆうかなんで坐薬くらい知らないのと拗ねた


もうすぐ卒業式がある
あの色欲魔は除籍なので
卒業生を送る会には来ないはずだが
私は不参加の予定だ

あの日大暴れしておいてなんだが
先輩たちに合わせる顔がない

だけどその前にやらなきゃいけないことがある
行かない理由を説明しないといけない
先輩が1人減ったのも

これは私に課せられた責任だ

定期ミーティングの最後に少し時間をもらった

「もう知ってる人もいると思いますが、xx先輩に◯月◯日に性的な乱暴をされました。詳細は写真や音声が残っていますがかなりセンシティブなので伏せます。女の子たちは自衛のためにも知っておくといいかもしれないので個人的には聞いてもらって大丈夫です。」

「OBの先輩たちの力も借りて、その為xx先輩は除籍となりました、だから卒業式の記念にも来ません、私への接触も禁止されています、皆さんから1人先輩を奪ってしまってごめんなさい」

身体の怪我はほとんど治っていた
短時間だが練習もしている
だが平衡感覚がおかしくなっていて狙いがブレる

「ただまだ不安定な部分があって…あの日の怖さが消えません、病院にも通ってはいますが少し時間がかかりそうです。すみません、団体戦の戦力にはなれないと思います、サポート面で在籍させて下さい、よろしくお願いします。最後にあの時たくさん差し入れしてくれてありがとう。私からは以上です。」

…シンッとなる

後輩たちは何を言っていいのか
混乱している様子だった

口火を切ったのはあの日部室に
居合わせた2回生の男子だった

「りょう先輩のやりたいようにして下さい。
技術面も伝え方も分かりやすいし
不定期でもいなくなるよりは
来れる時に来てくれたらいいんじゃないですか?」

「あとxx先輩のこと奪ったって言うけど、
アイツは勝手に消えたと思ってますから
そんなの全然気にしませんから
そんなに他人に構ってる余裕ないでしょ
メシ食って寝てちゃんと休んでください」

他の後輩たちも大体そんな感じだった
そしてなるべく触れないようにしてくれた

練習中に突然動けなくなっても助けてくれた
ここには思い出すトリガーが多すぎる
似た声の掛け声や口癖を聞くだけで硬直した

仮にも3年間一緒に練習をした人だった
怒られたことや褒められたことだってあった
いい思い出もあった
練習終わりに下心があったとはいえ飲み物を
買ってもらったこともある

私にも落ち度はあったのだ
その思いが湧き上がるたびに身体が動かなかった

こうしてゆっくりと復帰に向けて動いた


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