『自分のこころを守る』の功罪

あなたはストレスや恐怖・不安を感じた時にどのように反応するでしょうか?
実は私たちのこころには『(自動的に)自分を守る』という機能が備わっており、これを『防衛機制』と呼びます。
「なんだ、ストレスから守ってくれるなんて良い機能じゃないか」と思うかもしれません。
実はこれは私たちにとっては『毒』にもなるのです。

『防衛機制』について簡単に説明します。

  • 抑圧: 痛みを伴う感情や記憶を無意識に抑え込むこと。抑圧された記憶は意識外に存在し続け、しばしば影響を及ぼし続けます。

  • 否認: 現実の事実を認めないことで、不快な現実から自分を守ります。
    「お前の能力は低い!」と上司に指摘された時に、「俺の考えていることを理解できない上司の能力が低い」と考えることは否認である場合もあります。

  • 投影: 自分の許容できない思考や感情を他人に帰属させること。例えば、怒りや敵意を他人が持っていると考えることで自分の感情に直面することから逃れます。
    「みんな〇〇さんのこと嫌いって言っていますよ~」と言う人、相手が怒っている状態なのに「お前、イライラしてんじゃねぇよ!」と言う人は投影を行っている可能性が高いです。

  • 合理化: 受け入れがたい行動や感情を合理的な理由で正当化し、その行動や感情を納得させます。
    童話の『すっぱいブドウ』が良い例でしょう。あのブドウは酸っぱい(はず)だから別に食べられなくても問題ない、というやつです。
    (脳科学的に実証されています。認知的不協和についてはまた別途…)

  • 昇華: 受け入れがたい衝動やエネルギーを社会的に受け入れられる形で表現すること。例えば、攻撃的な衝動をスポーツ、仕事や芸術活動に向けることが挙げられます。

  • 同一化: 他人の特性や行動を取り入れることによって自己の価値を高めたり不安を軽減したりします。権威ある人物やアイドルや親しい友人の特性を自分自身に取り込むことも含まれます。

  • 置き換え: 置き換えは、実際には怒りや攻撃を向けることができない対象への感情を他のものへ
    分かりやすく言えば『八つ当たり』です。

  • 分離: 感情的な内容と思考内容を切り離すことで感情の影響を無効にします。例えば、悲劇的な出来事を冷静に詳細に語ることができる場合、その人は感情的な影響を分離していることがあります。

  • 代償: 自分の弱点や欠点を他の領域での成功や能力の発揮で補うことです。例えば、社会的な交流が苦手な人が学問や職業で顕著な成果を上げることで自己評価を保つことも代償の一つと言えるでしょう。

  • 知性化: 感情的な問題を論理的または知的な方法で扱うことで、それに伴う不快な感情から距離を置く防衛機制です。

  • 退行: ストレスが高まった時に、以前の発達段階に戻ることで安心感を求める防衛機制です。例えば大きなプレッシャーを感じる大人が子供っぽい言動をとってしまうような場合はこれに当てはまりそうです。

このように、『防衛機制』は私たちの感情や思考に大きな影響を与えます。
上記の説明では、『否認』『投影』『置き換え』『退行』は良くない影響を、反対に『昇華』は良い影響を与えるものと感じられた方が多いと思います。『昇華』をして偉大な成果を出している芸術家や音楽家はたくさんいますからね。

ただし、そのように単純に考えるのは危険かもしれません。例えば、次の例ではどうでしょうか。

・重要なプレゼンテーションの直前に「これは大したことない」と自分に言い聞かせる。これは緊張を和らげるために『否認』や『合理化』を働かせようとしていると考えることができます。
・ネガティブな感情を仕事にぶつけて発散する『昇華』をしていたら、仕事のし過ぎで精神や身体を病んでしまった…という人もいます。

このように、『防衛機制』は私たちにとっての毒になることもあります。そして「毒になるか薬になるか」は様々な条件によって左右されます。

毒になる『防衛機制』を避けてより良い感情や思考をもつために、私たちは自分自身のこころがもつ『防衛機制』がいつ動いているかを認識してコントロールすることが重要です。

まずは認識しましょう。
この記事で知った『防衛機制』の知識を頭に留めておくことで「今、自分は投影をしているのではないか?」という気付きができるようになるはずです。その場では気付かなくとも、一日の終わりにその日の感情・思考を振り返ってみると気付くことができるでしょう。

次はコントロールしましょう。
『防衛機制』に気付けるようになったら、「これは良い防衛機制だろうか?悪い防衛機制だろうか?」と自問自答してみて下さい。
良い結果に繋がらない『防衛機制』だと気付けたら、その感情・思考を捨てるように気持ちを切り替えるように試みて下さい。おそらく最初は簡単ではないですが、根気強く繰り返すことで段々気持ちの切り替えが上手になっていきます。

そこまでできたらあなたは『防衛機制』を使いこなしていると言って良いでしょう。
自動で起こるこころの働きに支配されずに自由な感情と思考を手に入れて下さい。

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