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マリリン・マンソン インタビュー

2020年9月11日に、アルバム『ウィー・アー・ケイオス』が発表されるのを記念して、前作『ヘヴン・アップサイド・ダウン』リリース時にとったインタビュー(の一部)をアップしてみます。ステージ上の事故で足に大怪我を負い、手術後の療養中に行なわれた取材でした。


楽しいからと言って、曲の激しさが削がれるわけでは決してないんだ。怒りの感情を吐き出すことで楽しくなれるという面もあるわけだからね

---まずは、先日のステージで負った怪我についてお見舞い申し上げます。

「うん」

---あなたの舞台演出を考えたら、これまでにも危険な思いは随分してきたのではないかとも思うのですが、それでも再びステージに上がることが怖くなるようなことはないのでしょうか?

「いや、答はノーだ。これで怖くなるということはないよ。今度の出来事は、完全な不慮の事故だからね。あの場面の動画を見て、俺がセットによじ登ろうとしたら倒れた、と思っている人も多いかもしれないけど、それは違う。俺はただバランスを取ろうとしたんだけど、セットがきちんと固定されていなかったんだ。手で押し戻そうとしたのに支えきれなくて、足首が挟まって骨が折れてしまったんだよ。それで実は、親友のYOSHIKIが、『自分が骨折したときに世話になった人がいるから』と、いい医者を紹介してくれて、すごく良くしてもらったんだ。結局、脚に小さなピンを10本と金属プレートを1枚、入れることになったんだけど、今は回復に向かっている。唯一腹立たしいのは、本来なら今ステージに立っているはずなのにそれができないことさ。ツアーも始まったばかりだったし……ともかく、何が起きてもステージに立つのが怖いなんてことは、俺にはあり得ない。そういう気持ちは存在しないね。バンドを始める前は、大勢の人前で話すこと自体が怖かったのに、こういう気狂いじみた格好を始めてからは、そういう気持ちはすっかり無くなったんだ」

---最新アルバム『ヘヴン・アップサイド・ダウン』は、前回に引き続きタイラー・ベイツが全面的に制作に携わっていますね。

「ああ、今回もタイラーは作曲だけでなく、サウンド・プロダクションにも関わっているし、とにかく何でも1人でできてしまうタイプで、それが曲作りにも影響してる。だから、曲を書く最初の段階では、タイラーと俺の2人だけで進めたけど、その後にドラムやベースを追加した時には、もう俺は完全に彼を信頼して任せることにしたんだ。『出来上がったものを聴きたいか?』って訊かれた時も、まず先に『お前は気に入ってるのか?』と尋ねるようにしていた。で、『気に入ってる』という返答だったから、さらに『惚れ込んでるか?』と問いかけて、『そうだ』って言われたら、『じゃあ、俺が聴く必要はないな。任せたよ』と伝えて、それでおしまいだよ。タイラーも俺の書いた歌詞は見るだろうけど、それに関係なく、2人の間には相通じるものがあるんだ。俺が歌っていない間、あいつは曲作りに集中していて、俺が歌い始めると、またピタッと感性が合うんだよ。タイラーも俺も、ブルースに物凄く思い入れがあるし。俺たちはいつも、自分が楽しいと思える方向に進むようにしている。でも楽しいからと言って、曲の激しさが削がれるわけでは決してないんだ。怒りの感情を吐き出すことで楽しくなれるという面もあるわけだからね」

---ちなみに、タイラー・ベイツは映画音楽の作家としてもその才能を知られていますよね。

「ああ、お互いに相手の人生にかなりの影響を与え合っている。彼は映画では『300〈スリーハンドレッド〉』(2007年)の音楽を担当して名前が知られるようになったけれど、本当に有名になったのは『ジョン・ウィック』(2014年)からだ。映画のヒットにも大きく貢献したしね。しかもその音楽は、ちょうど俺とアルバムを作っている頃に作られたものなんだ。つまりマリリン・マンソンでの作業と並行して、映画用のスコアを書いていたわけで、マジで人間離れしてるよ。俺の脳とはまた働きが違うけれど、やつの脳みそも休むことができないっていう意味では同じさ。俺もタイラーも、音楽を作ることが難行苦行ではなくて、むしろそうせずにはいられないってタイプなんだ。あと、あいつは飲むと陽気になるんだよ。そこは本当に評価できるポイントだね。俺は酒を飲むとクソ野郎になるけど、タイラーはいいヤツになるっていう(笑)。そこでもいいバランスが取れているんだ」

---彼が過去の創作パートナーと違っているところ、特に優れているのはどんな点でしょう?

「それはもう、単純に数字の問題だよ。この2年間、タイラーほど何度も顔を合わせている人間はいない。アルバムを作っている間、ほぼ毎日会っていたわけだからね。そうして、まるで兄弟のように親しい仲になった。俺には数は少ないけれど、とても大事にしている友達が何人かいて、彼らは、たくさんいる “単なる知り合い”とは別格なんだ。タイラーは間違いなく、俺にとって一番の親友だよ。本当に大事な存在だから、《3人いる親友の1人》みたいな言い方はしたくないな。あとはジョニー(・デップ)だね。ジョニーのフルネームをわざわざ言うような野暮なこともしないよ。ずっと前に俺とジョニーの間で、そういうことに決めたんだ。ガキくさい話だけど、2人の素性が知られている中であえてこういうことをするのが面白いなって未だに思っててさ(笑)。ハリウッドに住んでると『有名人の誰それに会ったぜ』みたいな自慢話を腐るほど聞くんだけど、親友なら、そんなこと言うまでもないわけだし。でも『ジョニーと言うだけで察しろ』とか言うほうが、かえって自慢っぽく聞こえるかもしれないな。まあ、フルネームを出さない限り、他の人の話だよって逃げられるんでね(笑)」

---(笑)

「それはさておき、タイラーは、俺と共同作業をしているとき、『ロックンロールに限って言えば、一緒に音楽を作りたいと思う相手は君だけだ』と言ってくれた。映画音楽の作曲とは違って、息抜きになるみたいなんだよね。俺にとっては、自分が仕事上のパートナーにとって気の休まる存在になるなんて、なんだか笑えるな。でも本当に心からの言葉だったし、とても感じるものがあった。お互いのことを思いやっていて、すごく距離が近いんだ。今となっては、どこまでが相手の影響かもわからないくらいさ。でも、それはいいことだと思う。俺が映画の世界で活動するようになったのも、タイラーと知り合ってからのことだけど、ただ、それぞれ相手のジャンルで仕事を始めたことに直接的な関連はないんだよ。俺が俳優業をやり始めたのは、あいつが映画関係の仕事をしていたからではないからね。不思議な縁というか、いいことは続くっていうことなのか」

---もともと新作は別のタイトルで2月に発売される予定だったのが、延期になった経緯について教えてもらえますか。

「いろいろあって、予定されてたリリースから時間が空くことになったんだけど、そうしたら当初つけていた『Say 10』というタイトルがアルバムにそぐわなくなってきて、それで『ヘヴン・アップサイド・ダウン』に変えたんだ。もともと俺はすぐにでもリリースしたいという勢いだったんだけど、もし予定通りに出していたら、“Revelation #12 ”、“Saturnalia”、“Heaven Upside Down”といった曲は収録されずに終わっていたはずだよ。この3曲はアルバムの中でも俺が一番気に入ってる曲なんだ。もともと原型はあって、ずっと歌ってきたものだから、歌詞が目の前になくてもちゃんと歌えるほどだったのに、なかなかきちんとした曲にならなくてね。出来上がるまでにもっと考える時間が必要だったということさ。でも、じっくり完成させたおかげか、このアルバムの曲、特に“SAY 10”なんかは、1回聴けば2回目はもう一緒に歌えるという人が多いんだ。それはタイラーのサウンド・プロダクションがスゴいところでもあるし、俺も歌いたいように歌えているよ」

---タイラーと組んだおかげで、再び充実期を迎えられたという自覚はありますか?

「どんなアーティストでも、いったん成功して自分の立場を確立してしまうと……これは俺が愛聴してきたデヴィッド・ボウイやイギー・ポップでさえそうなんだけど、プロデューサーやバンドのメンタリティー、レコード会社の意向とか、何がそうさせてしまうのか、なんか『どうでもよくねえ?』って言いたくなるようなアルバムを出す時期があるよね。何か新しいことを試しているならまだいいんだけど、そういうものでさえなくて、単にレコードとして質が低いっていう。で、それってやっぱり、怖じ気づいて、自分が得意としていることをやらなくなってしまうせいじゃないかと思うんだ。だから今回、俺はクリーンで完璧なサウンドを求めつつも、ひずみまくったヴォーカルを、あえてさらに生々しく押し出すことにしたんだよ。今までも、ひずんだヴォーカルはさんざんやってきたけれど、やっぱりそういうスタイルが曲に合うなら、迷わず採用するんだ。これについてはタイラーにもどう思うか訊いてみたけど、彼も『このままやろうぜ。でも、どうせやるなら他の誰にもできないような形にしてみないか』という返事だったな」

---またライヴを見られるのを楽しみにしています。

「ああ。きっと近いうちに日本で会えるさ。まだ時期についてはなんとも言えないけど、必ず行くから」

---はい。まずはケガを治してくださいね。
「うん、そうするよ。きょうはどうもありがとう。話せて楽しかった」

---こちらこそ。ありがとうございました。
「ありがとう」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。