見出し画像

JGサールウェル(フィータス) インタビュー

フィータスことJGサールウェルは、故郷メルボルンからロンドンを経てニューヨークに辿り着き、その間、ニック・ケイヴ、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、マット・ジョンソン(ザ・ザ)、マーク・アーモンド、コイル、リディア・ランチ、ソニック・ユース、ジョン・スペンサー、メルヴィンズなど数多くのアーティストと交流を持ちながら、アンダーグラウンド・シーンで独自の存在感と影響力を示してきた。完全に「我が道を行く」タイプであり、様々な名義を使い分け、特定のシーンに属さず、近年は映画やテレビのサントラ制作という分野で活躍しているといったことなどから、際立って大きな注目を集めた機会はないが、あらためて振り返ってみると、そのたたずまいのユニークさには特筆すべきものがある。
2020年4月に発表したサイモン・スティーンズランド(ユニベル・ゼロを継承する暗黒音楽を鳴らすスウェーデンのアーティスト)との共同名義となるアルバム『オシロスピラ』がよかったこともあり、ここにきて自分の中で再び彼のことがクローズアップされてきたところへ、タイミングよくインタビューさせてもらえるという話になった。
すでに『FEECO vol.2』に決定版と呼べるロング・インタビューが掲載されており、さらに「The Quietus」や「Echoes and Dust」の記事も充実していたので、もう自分の出る幕はないかもと思ったりしたものの、個人的に追加で訊いてみたいことがそれなりにあったし、せっかくの機会だと思って幾つか質問を投げさせてもらった。思いつくままに色々な質問をしてしまったが、(いかにもフィータスらしく)エクスクラメーション・マークを随所で用いながら、しっかり返答を書いてくれていて、かなり読み応えのある内容になったと思う。

※後半は有料になります。


もちろんピーター・クリストファーソンは大喜びで、ジョン・バランスの腕をねじり上げた。歌ってる間、彼に本物の痛みを感じさせたんだ。


---ニューヨークはコロナによる危機的な状況もひと段落ついたようですが、2020年8月現在、あなたはどのような日々を過ごしていますか?

「日常生活はずっと、非常に忙しくしてるよ。とにかく家の外に出て仕事して、『アーチャー』新シーズンのためのスコアを仕上げたり、アラーム・ウィル・サウンドのための曲を書いたりしている。普段はコンサートやエキシビジョンにたくさん行ってるんだけど、もちろん今は論外だね。恋人以外、ほとんどの友人と直接は会えないままだ。用心深く、外出時にはマスクをして、よく手を洗うようにしてる。車を持っているから、公共交通機関は避けられるんだ。ニューヨーク・シティでは、屋外での食事や路上生活も増えてきて、違う段階に入ってきている。俺は何人かの友人を病気で失い、幾人かの友人も軽重の差こそあれ病気になったりはしたね」

---あなたとサイモン・スティーンズランドの共同名義によるアルバム『オシロスピラ』が4月にリリースされました。今回サイモンと共作することになったのは、ストックホルムのEMS(Elektronmusikstudion)というところで、グレート・ラーニング・オーケストラと関わりを持つようになったことがきっかけだそうですが、そもそもEMSでモジュラー・シンセに関する仕事をすることになったのには、どのような経緯があったのですか?

「マッツ・リンドストロームに誘われてEMSでレジデンシーをしたんだ。最初はブックラに集中し、何度も何度も通って、自分がやったことを全て録音したよ。パッチを手伝ってくれたエンジニアと一緒に仕事をして、そこから発展させていったんだ。サージも使ったし、サラウンド・サウンドの部屋でも作業した。そこで俺が作った音のいくつかは、Xordoxとして発表したトラックに採用されている」

---サイモンとは、それぞれ自国のスタジオで、遠く離れたまま『オシロスピラ』の制作を進めたそうですが、それまでの自分の作品と比べ、制作プロセスにどんな違いがあったか、それを通じてどういう刺激を感じられたかなどを教えてもらえますか?

「リモートで共同作業をすることには慣れてるけど、誰かと仕事上の関係を理解し、コラボレーションがどのように機能するかーー誰が何をするのか、付け加えたものに対して相手がどのくらい満足できているかを理解するには、いつも少し時間がかかるね。サイモンとはすぐに自分たちの基準を見つけることができた。彼はとてもオープンで、素晴らしいミュージシャンだ。俺はすでに彼の作品が好きだったから、それを強みとして活かしたいと思っていたよ」

---今作は、ドラマーのモルガン・オーギュレンによるプレイが、ひとつの聴きどころになっていると思います。彼は、あなたが作ったパターン通りに叩いているのでしょうか?

「ドラムのプログラムも用意したけど、モルガンは自分の解釈で演奏したんだ。場合によっては、新規に何か考え出してくれたこともあったよ。彼がこのプロジェクトの一部となってくれたことは、とてもエキサイティングだったね。驚異的なプレイヤーで、このアルバムに多くのものをもたらしてくれた」

---サイモンの音楽は、ここ日本では、マグマやユニベル・ゼロを引き合いに語られています。高円寺百景と合わせて、あなたはこれらのグループの音楽のどういうところが特に興味深いと感じていますか?

「俺がマグマやユニベル・ゼロといったバンドに惹かれるのは、クラシック音楽の影響とロックのエネルギーが融合しているところなんだ。ユニベル・ゼロの音楽は非常にダークで、バルトークを思い起こさせる。
高円寺百景は絶対的に好きなグループのひとつで、最初に聴いた時はマグマの影響が強いと思ったけど、超速くてハイエナジーだ。ラッキーなことに、吉田達也がルインズ・アローンとして高円寺百景の曲を幾つか演奏しているのを見ることができた」

---あなたは映画音楽に本格的に取り組む前から、もともとバンドは組まず1人で全ての音を作り上げるというスタイルでやってきており、同時に自らの音楽表現の中にオーケストラルな要素をずっと持っていたとも思います。クラシカルな管弦楽のアレンジなどに関しては、完全に独学で身につけてきたのでしょうか?

「そう、独学だ」

---サントラの作曲というものは、映像やストーリーに合わせるというところで、必然的に制限を課せられる作業ではないかと思います。それは、ロック・ミュージックというフォーマットの制限から自由になろうとしていたあなたに、新たに立ちはだかる壁ではなかったのでしょうか? どのようにそれを克服したのですか?

「映画やテレビ番組のスコアを書く際は、ある一定のパラメーターの中で仕事をすることになる。俺は自分のすることによって素材を高め、プロジェクトをより良く、より説得力のあるものにしようと努めているんだ。スコアを書く時には、自分が映画の脚本を書いたわけじゃないから、何より監督のヴィジョンを実現したいと思っている。つまり、監督や番組の音楽を担当している人との良好な関係性やコミュニケーション能力が必要になるわけ。
俺はプロジェクトのために音楽的なボキャブラリーを作る傾向がある。スコアを書くのは問題を解くようなものだと思っていて、そういうアプローチはスコア以外の仕事にも波及している。2003年からテレビの仕事をたくさんしていて、『ベンチャー・ブラザーズ』の80エピソード分、『アーチャー』の45エピソード分、『ディックタウン』の10エピソード分、それに様々な短編や長編の映画を手掛けてきた」

---他の人間による映画音楽もよく聴いているとのことですが、ミカ・レヴィ、トレント・レズナーとアティカス・ロスなど、もともとはオルタナティヴ・ロックの世界にいて、その後ユニークなサントラを作るようになった作曲家たちについて、どのように評価していますか。

「そういった作曲家たちの作品を楽しんでるよ。人によってスコアへの取り組み方は異なるけれど、ミカ・レヴィのスコアのやり方は驚くほど効果的で、彼女自身の個性をスコアに導入してる。『ソーシャル・ネットワーク』でのレズナーとロスのスコアも、かなりダークな感じで、とてもうまく機能していて、面白かった。マテリアルがあの方向に進むために、泣き出すようには思えないにもかかわらずね。
他にもロック畑から来て素晴らしいスコアリングをしている人たちの仕事で、俺が楽しめたのは、コリン・ステッソン、El-P (『Capone』で素晴らしい仕事をした)、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、ジェフ・バーロウ、モグワイ、ベン・フロスト、そしてゾンビのスティーヴ・ムーアだ」

---あなたは、サンプラーも無い頃からサンプリング的な手法を用いて音楽を作ってきました。以降、アナログからデジタルへ、そしてコンピューターの目ざましい発達の中、創作環境は劇的な変化を遂げてきたと思います。いろいろと便利になったのと同時に、失われてしまった古い技術の良さなどもあると思いますか?

「アナログに関して、無くなって寂しいと思うものは、バリスピード(テープの速度調整)くらいで、それ以外はデジタルの方が遥かに好きだ。テープを買ったり、ピンポン録音したり、テープをつぎはぎしたり、ドロップインしたり、テープが巻き戻されるのを待ったりするのが恋しくなったりはしないな。俺は今でもハードウェア・サンプラー(アカイ S5000)を使ってるんだけど、コンピュータと接続して、サンプルの保存はコンピュータ内にしている。ソフト・インストゥルメントやソフト・サンプラーも使うし、Moog Phatty、Novation Ultranova、デイヴ・スミスのMopho X4といったハードウェア・シンセも持っているよ。ピアノは、主にサイモン・ヘインズとの作曲に使っていて、"準備"のため以外には滅多に録音することはない。作曲とレコーディングのプラットフォームとしては、Logicを使う」

---『オシロスピラ』はイピキャックからリリースされました。ステロイド・マキシマスの『Ectopia』以来の契約となるようですが、「アルバムが完成した時、ふいにマイク・パットンのことが思い浮かび、彼ならこの作品を理解し、真価を認めてくれるだろうと思った」ので連絡してみたんだそうですね。マイクと知り合ったきっかけや、どのようなつきあいをしてきたのか教えてください。

「ミスター・パットンとどうやって知り合ったかは覚えてないけれど、彼とは長いつきあいになる。その仕事の幅の広さと多作ぶりをとても尊敬しているよ。素晴らしいレーベルも持ってるしね! 大切な仲間であり、同志だと思っている」

---現在、やはりイピキャックの所属で、過去にもコラボレート経験があるメルヴィンズと新作を作っているそうですね。パンデミックが起きて、いろいろ制限も出てきてしまったと思いますが、進展状況はいかがですか? もともと彼らとはどんな縁で共演するようになったのでしょう?

ここから先は

4,091字

¥ 200

他では読めないような、音楽の記事を目指します。