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ジェラルド・キャセール(DEVO)インタビュー

2010年、DEVOはニュー・アルバム『サムシング・フォー・エヴリバディ』をリリース。グレッグ・カースティンをメインのプロデューサーに迎えた20年ぶりの新作は、彼らの力が少しも衰えていないことを示す好作品だった。あれからいつの間にか、もう10年以上が過ぎている。当時、マーク・マザーズボーとともにバンドの中核をなす人物であるジェリー・キャセールと行なったインタビューを、ここにフルテキストで再掲してみたい。


我々は人の話を聞くのが嫌いじゃない

---インタビューできて光栄です。20年ぶりの新作『サムシング・フォー・エヴリバディ』では、外部スタッフの協力を得ることでディーヴォという存在に対する客観的な視点を確保したことが大きかったそうですが、ザ・バード&ザ・ビーのグレッグ・カースティン、ダスト・ブラザーズのジョン・キング、サンティゴールド、マニー・マークといった面々は、どのような縁で制作に参加することになったのでしょう。また、そういう形でアルバムを作ってみた感想をあらためて教えてください。

「これまでコラボレーションの経験がなかったから、単純にやってないことに挑戦してみたかったんだ。今回参加してくれたのは、このアイデアに特に熱意を持って興味を示してくれて、かつスケジュールの調整がついたアーティストたちだ。もちろん我々も、ちゃんと彼らの音楽を聴いていたし、彼らのファンでもあるから、いっしょに作業できたのはとても楽しかったよ」


---アーティストたちとのコラボだけでなく、収録する曲についてもWEB上の投票で選んだりして、外部からの視点を確認することにより、あらためて気づいたこと、あるいは再確認したことなどがありましたか?

「とにかく、今まで我々がとってきた行動とはまるで逆のことに挑戦したわけだから、新鮮ではあった。この地球上で生きていられる間に、可能な限りいつも新しいことを試してみたいという気持ちはずっと持っているよ。単に発見というより、今までに味わったことのない楽しみを得られたという感じだね。しいて、気づいた事実と言えば、『我々は人の話を聞くのが嫌いじゃない』ってことかな(笑)」


---収録曲の投票や、新しいエナジードームの色の決定など、リリース前の様々な試みは、当然のようにネットを通じて行なわれたわけですが、20年前にはなかった、このインターネットというものについて、あなたはどう考えているのでしょう?

「インターネットはあくまで道具であって、多くの人々はこの道具を本当にくだらない、ゴミのようなものを生み出すためにしか使っていない。しかしDEVOは、この道具をもっと有意義に、外の世界とのコミュニケーション・ツールとして有効に活用できるのではないかと考えたんだ。確かに、20年前には存在していなかったわけだけれども、そのぶん、かなり慎重に扱うことができたと思っているよ」


---そのおかげもあってか、収録曲はどれも良い出来で、新鮮なエネルギーが満ちています。外部スタッフ参加の他に、ソングライティングやサウンド・プロダクションの面で新しい試みはありましたか? 他のメンバーとの共同作業においても、20年の間に何か変化が起きていたでしょうか?

「今回はかなりモダンな手法で曲作りを行なった。以前なら、当たり前だけどメンバー全員がスタジオに集まって『このフレーズは何小節』、『このコード進行はこうした方がいい』みたいな議論ーーというか口論が絶えなかったものだけど、今回はそれぞれが作った歌詞やフレーズ、リフなんかをファイルで送り合って、相手に会わずしてそれに手を加えるというやり方をしたんだ」


---"No Place Like Home"はピアノをフィーチャーしていて、あまり過去のDEVOにはない感じで新鮮でした。この曲はどのようにして出来上がったのでしょう?

「これまでにDEVOでピアノが使われたのは、ファースト・アルバムに収録されている"Gut Feeling"で、長いイントロにエレクトリック・ピアノを使ったパートがあったけど、それ以外は確かにピアノは聞こえてこないね。しかし、マーク(マザーズボー)はもともとピアノが弾けて、彼が曲を作ってくる時は全て鍵盤で書かれているし、彼が手がける映画音楽も全てキーボードから作られているんだ。で、"No Place Like Home"は彼がとある映画のために用意した曲だったんだが、その映画が急に製作中止になってしまって使われないことになったので、私がそのフレーズをとても気に入っていると伝えたら『じゃあDEVOで使っていいから、君の好きなようにいじってくれ』と言ってくれた。そうして、彼のピアノ・パートをもとに、私の好きなようにこねくり回して出来たのが"No Place Like Home"なんだ(笑)」


---先頃のレターマン・ショウ出演時、あなたはベース・パートをシンセで弾いていましたね。ベース・ギターとシンセ・ベースをどのように使い分けているのか教えてください。

「もともとMoogでベースラインを弾くことはよくやっていたけど、今回サント(サンティゴールド)とスタジオに入っていた時、彼女から『昔みたいにMini Moog使えないの?』と言われて、試しにやってみたらとってもいい感じになったんだ。単純にベースラインを作ると言っても、弦を弾いて作るベースラインと鍵盤を叩いて作るベースラインとでは、まるで違う発想が働く。で、"Fresh"に関しては、ベース・ギターで作ったラインよりも、シンセを使った方がよかったというわけ」


---大きな質問になりますが、あなたにとってのエレクトロニック・ミュージックとは?

「ハッハッハ! 何だろうな? エレクトリック・ミュージックは私の脳と骨盤に快楽を与えてくれる。私が個人的に好んで聴く音楽もほとんどが、エレクトロニカとか、EDMと呼ばれるものばかりなんだ」


フー・ファイターズと一緒に演奏したりツアーできなかったことが、とても悔しいと思っていた


---こうして2010年というタイミングに新作をリリースすることになったのは、なんというか「時代の空気が再びDEVOの存在を必要としている」ように感じた部分もあるのでしょうか?

「我々が世界を欲した、という方が正しいだろう。あわよくば世界も我々を必要としてくれればありがたいけどね(笑)。で、こうして活動してみて思うのは、時代の先を行く存在というよりも、この時代に取り込まれたバンドになったというか、それが非常に居心地もいいし、時代とシンクロしているという感覚が今はある」


---90年代に入ってDEVOが活動を停止していた時にはグランジ/オルタナティヴ・ムーヴメントが起こり、それはまさしくパンク/ニューウェイヴに影響された次世代による、2度目の、より大きな規模の革命だったと思っています。私は1995年にシアトルで、フー・ファイターズの最初のビデオ・クリップの撮影現場を見学するチャンスに恵まれ、監督を務めていたあなたの怪演出っぷりも間近で見ることができたのですが、そんな形で関わりを持ちつつ、あなた自身はDEVOの影響下にある新世代について、どのような気持ちで見ていたのですか?

「私は彼らの音楽がとても好きだったし、むしろ自分もDEVOとして、彼らと一緒に演奏したりツアーできなかったことがとても悔しいと思っていたよ。もちろん、ディレクター業は嫌いじゃないけれど(※ジェリーは、フー・ファイターズのほか、サウンドガーデンの"Blow Up the Outside World"や、ア・パーフェクト・サークルの"Imagine"などのビデオクリップを監督している)、昔から自分はずっとプレイヤー側でいることを望んでいたから、歯がゆい気持ちは常にあった」


---その後さらに十数年がすぎた現在もなお、DEVOの与えた影響はいっそうシーンに深く存在し続けていますね。

「我々の音楽がこうして若い世代にちゃんと受け継がれていったことを目の当たりにできるというのは、とても光栄なことだ。私は、LCD SoundsystemやThe Tin Tins、The Killsなんかも大好きでよく聴くけれど、彼らの音楽からはDEVOの影響を感じられるし、実際インタビューとかで我々からの影響を公言してくれる多くのバンドを見るのはとても幸せだよ」


---ちなみに、90年代に入って活動停止する直前、DEVOはナイン・インチ・ネイルズの"ヘッド・ライク・ア・ホール"をカバーしていますね。今やドラマーが同じ(ジョッシュ・フリーズ)という関係でもありますし、当然トレント・レズナーもDEVOから大きな影響を受けた1人なわけですが、あなた方が当時あの曲をやってみた理由は何だったのでしょう?

「もちろんNINは大好きなバンドで、トレントは私の親友の1人だよ。そしてあの曲は私のオールタイム・フェイバリットのひとつだし、トレントの書いた作品の中でもおそらくベスト・チューンだと私は思ってる。もともとは、とある映画のサントラ用に頼まれてカバーしたんだ。確かジャッキー・チェンか誰かの『スーパーコップ』みたいな映画だったと思う(笑)」


---さて現在、音楽産業はまさしく滅亡に向かって真っ逆さまとも言われています。音楽が富を生み出さなくなった時代、ポピュラー・ミュージックと音楽芸術表現はどのようになってしまうのか、その中でミュージシャンやリスナーはどうすべきかなど、何か考えていることがありましたら教えてください。

「産業が滅亡に向かっているのは真実だ。私が何かアドバイスできるほどの立場にいるとは思わないが、今ミュージシャンたちは自分でやれることは全てやろうと頑張っている。もし人々が音楽に価値を感じなくなったり、支払った金額に見合わないと思うようになってしまったら、アーティストたちの創作意欲を殺してしまうことになる。誰も勝つことがないレースは成り立たないだろう? だから今は非常に興味深い時代で、確かに君の言う通り産業としては成り立たない、価値を見出せない、金を払わなくても手に入る、メジャー・レーベルは何も仕事をしない、そういう時代なんだ。ただ、私の耳にはソーシャルネットワークやライブの現場で、素晴しいバンドや素晴しい曲がたくさん入ってきているよ。アーティストはとても努力を強いられているのは事実だ。頑張ってるバンドも、4〜5年もするうちにスタミナが切れて解散してしまうかもしれない。みんなの耳に届くべきヒットソングは今も生まれているのに、きっと多くの人には聴かれることがない。それはとても悲しい話だ。私に解決法はわからないし、きっと1つだけの方法では解決されないだろう。DEVOがラッキーなのは、たとえ我々の音楽を聴いたことがなくとも《DEVO》という名前だけは知っていたり、我々のコンセプトやアティチュードだけは世に伝わっているから、ツアーを廻ればチケットは売れるし稼ぐことができる。さらに、昔の曲をCMかなんかに使われたりして、そのライセンスでも稼げるしね。新しいバンドにとっては、今を生き残るのは我々より何百倍も難しい。だってビヨンセくらいCDを売らなければ、誰もその売上だけでは生きていけないんだから。いろんな噂話は絶えないけれど、最近よく聞くのが、まるで光熱費のように、月々数百円から数千円の固定金額を徴収し、それを支払えば無制限でどの音楽でもダウンロードできるようにして、アーティストにはダウンロード数に応じて分配するようなシステムとアグリゲーターを立ち上げるという話だ。ぱっと聞いた感じ、そこで生まれた売上がアーティストの手元に届くまで、いろんな汚い政治も働くんだろうなって気がするね。とはいえ、エンターテイメント・ビジネスは常に腐敗と不道徳のうえで成り立ってきたから、仕方がないのかも知れないな(苦笑)」


---オリンピックやサウス・バイ・サウス・ウェスト、コーチェラ・フェス出演とライヴ活動も行われていますが、我々日本のファンもニュー・アルバムの楽曲をぜひライヴでも体験したいと切望しています。また来日公演を行なってくれる可能性はありますか?

「あってくれないと困るね。我々は日本を愛しているし、今から行ける日を楽しみにしているのだから。まだハッキリとは言えないけど、桜の咲く頃には行ける予定だ(※残念ながら実現しませんでした)」


---最新のユニフォームは、グレーのマスクとコスチュームですが、このデザインには何か込められた意味とかがあるのでしょうか?

「シルバーとグレイだね。我々の髪の毛と同じ色だ(笑)」


---それが理由、ではないですよね?

「今は不明瞭で曖昧な時代だ。我々は謙虚かつ冷静に、その時代に相応しいムードをコスチュームに投影している。つまり今は、毎日6万ガロンもの石油が海に流されているような、非常に卑猥で猥褻な世界/時代だということなんだよ。ジャケットのデザイナーたちは青を選んだのが、とても面白いと思ったんだけど、ブルーはUN(国連)の色だと思っていたから、私の中では『国連世界清掃DEVO部隊』だと思っている(笑)」


---ちなみに、ジャケットでは青いエナジードームを女性が食べている絵が描かれていますね。先頃ボブ・ディランが来日公演を行なった時にはチロルチョコとの共同制作でチョコレートを売っていたのですが、DEVOはエナジードーム型の青いキャンディーかグミを作って販売したらどうでしょうか?

「わっははは! ボブ・ディランがそんなことをしたなんて知らなかったよ!(爆笑)是非そのアイデアはやってみたいね! でも、もっとやりたいのが青いエナジードーム型の健康食品で、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)というデトックス効果のある、アメリカでは腸の洗浄に使う薬を作りたいと思っているんだ!(笑)」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。