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ティム・ケイシャー(カーシヴ/ザ・グッド・ライフ)インタビュー

2013年にリリースされたセカンド・ソロ・アルバム『アダルト・フィルム』リリース時のインタビューです。あっさりめのやりとりですが、基本的な情報をおさえたものにはなっているかな、と。カーシヴのライヴ盤、いつ出るんでしょうねえ……。ちなみにティムは、2017年に3作目のソロ『No Resolution』を発表しています。また、ザ・グッド・ライフとしてのアルバム『エヴリバディーズ・カミング・ダウン』を2015年に完成させた時のインタビューは、こちらに掲載されていますので、ぜひ続けて読んでみてください。

翻訳:平山秀朋


--新しいソロ・アルバム『アダルト・フィルム』がリリースされました。昨年はカーシヴとして『アイ・アム・ジェミニ』を発表したわけですが、今回のソロ作品についてはいつ頃から構想し、どんな風に形にしていったのか、まずは大まかな経緯を教えてもらえますか?

「『ジェミニ』完成後まもなくこのアルバムにかかり始めたから、2011年の秋だと思う。だいたいの曲は2012年にカーシヴがツアーをしている合間に書いたんだ」


--今作のレコーディング・メンバーは、ソロ前作『ゲーム・オブ・モノガミー』をフォローするソロ・ツアー時のメンバーがそのまま参加しているようです。やはりライヴを通じて手応えを感じ、その体制のままアルバムも作りたいという気持ちになったということでしょうか? 近年のソロ活動において、カーシヴとは違う形で新たに得た成果とはどんなものですか。

「そうだね。今回のメンバーは、よいミュージシャンたちの集まりで、アルバム自体は僕のソロ名義だけども、もっとメンバーたちにも思い入れを感じてもらえるように、次の作品には彼らに参加してもらいたいと思ったんだ。ソロを作ることでどのくらい学んだかはちょっとわからないけれど、ほとんど1人だけでやるというのは、ずいぶん時間がかかるということはよくわかったよ。それと、自分と対等の立場にいるメンバーとアイデアや曲をぶつけ合うことがないという意味でバンドとは異なるし、賭けともいえる。多くの判断が自分の双肩にかかっているからね」


--このところカーシヴでも大きな役割を担っているパトリックは、もはやあなたにとって最重要なコラボレーターになった印象さえあります。やはり今作でも、共同で曲を書いていったりしたのでしょうか?

「このアルバムでは一緒に作曲はしていないけれど、そう、彼は僕が音楽をやるにあたって、なくてはならないプレイヤーだね」


--今回リズム隊を務めたSarah Bertuldo(See Through Dresses)とDylan Ryanとは初めてのレコーディングになるのですよね。サラは同郷オマハのミュージシャンで、ディランはシカゴでエクスペリメンタルなジャズ系のバンドをやっている人物みたいですが、彼女たちが本作で果たしてくれた役割についても解説してください。

「その通り、彼らと一緒にレコーディングしたのは初めてだよ。彼らの音楽に対する感性と本能を信じているから、リハーサル・スタジオでは僕が曲を提示して、それぞれのパートのアレンジは彼らに任せたんだ。結果は素晴らしいものになったよ!」


--今作のレコーディングを、スティーヴ・アルビニのエレクトリカル・オーディオ・スタジオで行なった理由を教えてください。

「エレクトリカル・オーディオを選んだのは、ただ単に僕が現在シカゴに住んでいるからで、それにアイコン的なスタジオだから録音するのに楽しいだろうなと思ったから。僕のシカゴでの体験をまとめ上げるのにも役立って、いいんじゃないかと思ったんだ」


--このアルバムでは、様々なキーボード類や、テルミン風の音、ナイロン弦っぽいギターなど、音色的な工夫は随所に聴くことができます。本作の制作において新たに試したこと、心がけるようにしたことなどがあれば、教えてもらえますか?

「今回、"You Scare Me To Death"という曲でノコギリをレコーディングしたんだけど、とても興奮したよ。レコーディングでミュージカル・ソウをずっと使いたいと思っていて、この曲はまさにぴったりの曲だった。シカゴで素晴らしいプレイヤーを見つけてね。驚きだったな」


--ミキシングはジョン・コングルトンによってダラスで行なわれたようです。彼に任せようと考えた理由と、それによって得られた成果はなんだったでしょう。ちなみに、ジョンの過去の仕事で特に好きなものとかはありますか? 私はアマンダ・パーマーとセイント・ヴィンセントです。

「僕もセイント・ヴィンセントは大好きだよ! 僕がジョンと仕事をしたかった大きな理由のひとつは、彼女の作品だね。(かつてコングルトンが在籍していた)ペイパー・チェイスとカーシヴは昔よく一緒にライブをしていたから、ジョンとはもう10年以上の知り合いなんだ。僕らはずっと何かしたかったんだけど、今回はいい機会だったってわけ」


--さて、本作には『アダルト・フィルム』というタイトルがつけられています。これまでにもあなたは映画の制作に興味を持ち、実際に行なってもきたわけですが、そうした経緯と、今回のアルバム・コンセプトとは何か関係があるのでしょうか。

「実は、まったく関係ないんだ。このアルバムをアダルト・"フィルム"とつけたことと、僕の個人的な映画への興味がリンクしていることは分かっているけどね。その点では単なる偶然とは言い切れないけれど、タイトルと、映画ビジネスへの僕の探求心との間には実際的な関係はないんだよ」


--歌詞やジャケット以外のアートワークはまだ手元にないのですが、前作についていた「あるいは、元カノたちとまたやりたい」みたいなセンテンスがあるとしたら、どんな感じになるでしょう?

「アルバムをまとめるような一言は思いつかないけれど、このアルバム全体を具現化している曲は"American Lit"だと思ってる」


--ちなみに新作のジャケットでは、あなたは汚物まみれになっているように見えるのですが、これはいったい何事でしょうか?

「ははは、そうだね、気持ち悪かったよ。ジャケットのカバー写真にはああいうヴィジョンが僕にあったから、やってみることにしたんだ。結果は気に入っているよ。だいたいはワセリンと泥を使ったんだ」


--前作の収録曲"Cold Love"のビデオでも、そういう感じの描写があるので気になっていたのですが、ここにきてスカトロジー的な表現を取り込みたくなった原因などあれば聞かせてください。

「こういう質問は好きなんだ! 本当のところは自分でもわからないんだけどね。"Cold Love"のビデオは以前から温めてきたショート・ストーリーを基にしていて、ビデオ作品にできたことを嬉しく思ってるよ」


--先日から、オマハを皮切りにソロ・ツアーを開始していますね。今度のツアーもレコーディングと同じメンバーで、つまりは基本的に『ゲーム・オブ・モノガミー』のツアーを踏襲したような形で行なわれるのでしょうか。カーシヴやグッド・ライフとは違う、ソロ・アーティストとしてのライヴ・スタイルを確立したという実感を持っていますか?

「そう、同じメンバーでツアーに出ている、つまり、サラ、ディラン、パトリックと僕だ。僕としては、今自分がやっているソロが、ほかのふたつのバンドと離れて、うまく伸びて作品として増えていくというのは、悪くないことだとは思っているけれど、それと同時に、曲を書いて発表しているということをシンプルに喜んでいる。だから、僕が現在この名前で作品を書いている、ということは僕にとってそれほど重要なわけではないんだ」


--少し前にジョーン・オブ・アーク周辺のミュージシャンであるネイト・キンセラによるソロ・プロジェクト=バースマークと対バンしたそうですね。彼は『アダルト・フィルム』でも何曲か叩いているようですが、シカゴという町や、そこにある音楽シーンに対する印象など聞かせてください。

「シカゴはかなり気に入っている。キンセラ兄弟(ジョーン・オブ・アークのティムとマイク)とは、過去に一緒にツアーをやったりして昔からの友達なんだ。シカゴが持っている音楽的な美意識が好きだし、とても中西部的なフィーリングがあるところが、僕には共感できるんだよ」


--ところで、現在あなたはツイッター上でのファンとのやりとりをとても楽しんでいるように見えます。フェイスブックよりも自分に合っていると思ったりしますか?

「よくわからないけど、そうかもしれない。ツイッターの好きなところは動きが早くてスレッドがどんどん前に進んでいくことだね。それに対してフェイスブックでは考えが鬱積するように見える。僕自身、特別どちらも面白いとは思ってないけれど、残念ながらどうにも避けられないものだから、少なくともしばらくは、なるべくツイッターを楽しんでみるよ」


--最後に、今後の活動計画を教えてもらえますか? カーシヴとしての予定についてはどのように考えていますか?

「カーシヴは12月にオマハで幾つかショウを行なう予定だ。そのすべてを録音して、その音源からライヴ作品を形にできればと思ってる」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。