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テリ・ジェンダー・ベンダー(クリスタル・フェアリー/ブチェレッツ/ボスニアン・レインボーズ)インタビュー


 クリスタル・フェアリーは、メルヴィンズのバズ・オズボーンとデイル・クローヴァーが、ブチェレッツのテリ・ジェンダー・ベンダー、そして現在は再結成したアット・ザ・ドライヴ・インで活動しているオマー・ロドリゲス・ロペスと組んだスーパーグループだ。バンド名を冠したデビュー・アルバムは、メルヴィンズならではのヘヴィなサウンドが、テリのパンクなポップ・センスと融合し、彼女の堂々たるフィーメイル・ロック・シンガーぶりと合わせて、聴き応え満点の快作になっている。このスペシャルなプロジェクトの背景について、リリース・タイミング(2017年3月)でテリにメールで質問し、回答を得ることができた。以下にその全文を掲載したい。


--あなたとメルヴィンズとの縁は、ブチェレッツのことを気に入った彼らが、ツアーのサポートを依頼してきたことがはじまりだそうですが、最初に連絡を受けた時はどんな気持ちがしましたか? もしかして、あなたががイピキャクと契約したのも、長らく同レーベルに所属する彼らが縁を繋げたということだったりするのでしょうか。
「ツアーに呼んでくれた時は本当にウキウキした。彼らの音楽を聴いて育ったから、正直、信じられなかったし、まるで夢が叶ったみたいだった。例えば、可愛すぎる子猫の夢を見て、夢の中で強く抱きしめてたら、目覚めた時に子猫を抱いていて、あらゆる規則や科学の常識を破ったみたいな感じ。とにかく夢の一部が現実世界になったみたいだった。イピキャクとは、メルヴィンズと出会う前から契約の話を進めてたけど、どれだけ世界が狭いか証明しているようね」

--クリスタル・フェアリーのアルバムは、どのように作り上げられていったのでしょう。
「レコーディング・セッションの流れは、儀式と呼んでる。魔法の儀式ね。みんなで曲作りをしている時は、まるで何かに取り憑かれてるみたいに、スタジオにいる時間があっという間に過ぎてしまった気持ちがするな。私にとって、バズとデイルとオマーと一緒に確かな何かを作っている経験はとても大切だった。オマーとは過去に色んなプロジェクトをやってきたけど、まったく別の世界からきたレジェンドとともに音楽を作るのは初めてで、でも人生に対する疎外感は似ていたりもしてね。クリスタル・フェアリーの曲は、私が書いたり、バズが書いたり……オマーもそこかしこで何か足したりしてる感じ。歌詞とヴォーカル・メロディー全部、あと一部のキーボード・パートは私が書いた。デイルは、だいたい2テイクでドラムが完璧に録れるという素晴らしい仕事っぷりで。そんなふうに、私たち全員のソングライティングがいい形で混じり合った感じも出ていて、このアルバムをとても誇りに感じてる。メンバーみんな、きっとそうだと思う」

--バズやデイルと組んだことによって、歌詞の内容やヴォーカルのメロディなどに関して、ブチェレッツとは違うものが自分の中から引き出されているという自覚はありましたか?
「最初は何が起きているかも理解できてないくらいだったし、とにかく自分が出し切れるものを出しきって、自分たちの音楽を自分たちで調理しなきゃって思ってた。ひたすら音楽に仕えて、適応して、創り出すっていうのが自分の哲学で、その時に起きているリアルタイムな出来事からインスピレーションをもらうスタイルなの。今回はみんなで書いてたから、どういう感じで仕上がるかっていう事前の感触みたいなのも無かったし、自分の内に秘められているものを信じて出し切るしかなかった」

--それにしても、メルヴィンズの生み出すヘヴィなサウンドに、あなたの声は予想以上にハマっていると感じました。彼らの演奏をバックに歌うにあたって、歌い方や発声に関して特に何か意識したこととかはありますか?
「嬉しい言葉をありがとう。その瞬間とかその時の流れに身を任せてるだけだった。私は時々、超然としてしまうことがあるんだけど、曲作りとなると、心配や恐れが消えていって、無意識的に小さな声が自分の中を支配して、自分の頭の中にある考えを広げてくれたりする。なんかヒッピーみたいな発言かもしれないけど、この感じを説明する他の方法がないの。あまり考えすぎないで、心に身をまかせるのが一番ね。だって実際には、私はどうしょうもない怠け者なんだもの(笑)」

--クリスタル・フェアリーというバンド名は、アルバム5曲目のタイトルからつけたようですが、どのような意味を込めて、この言葉を選んだのでしょう? 曲中では「Hey you Crystal, Do you want Cigaret?」とか何とか話しかけていますね。あなたが珍しくタバコをくわえているアーティスト写真も見ましたが、誰か特定のモデルとなる人物がいるのでしょうか。
「あれは偶然だったの。メキシコで、とある雑誌の取材をブチェレッツとして受けていて、そのための写真撮影をしていた時、カメラマンがプロップのためにタバコを持ってきてて、撮影前に勧めてきて。で、とっさの流れで《ええい、吸っちゃえ!》って。フランス映画で登場人物がタバコ吸ってる姿とか好きだったから。タバコに対しては、後ろめたい満足感がありそうなものだなぁと前々から興味があった。タバコって、なんだか助けを求めてる感じがする、緩慢で無自覚な自殺というか。普段まったくタバコは吸わないんだけど、たまに吸えたらな〜と思ったり。ふとした時、死にそうって気持ちになることがたまにあるから……いや、正直ほとんどの時がそういう気持ちかもしれない。自分でも、それが頭の中の自分だと認識していて、そのバカな自分が、人生を大好きな私に悪魔の囁きをしてると分かってる。タバコの裏には、こういうデリケートな瞬間への逃げ場所みたいな行動が隠れている気がして、私には助けを求めているものに感じるな。だからタバコを吸えないのがたまに残念に思ったりするけど、どうしても味が嫌いなんだ。あっ、心配しないで、私の心は"死"を信じてないから! 自分で気づけば気づくほど、生きていることがとても嬉しい! それで、クリスタル・フェアリーという名前は、ちょうどセバスチャン・シルヴァ監督の『Crystal Fairy and the magical Cactus』っていう映画を見たばっかりだったで、たまたま出てきた言葉だったの。すごくいい映画で、大好きな作品」

--メルヴィンズの作品に長らく関わってきたトシ・カサイさんが今作にも参加していますが、彼の印象は?
「トシは、とても優しい心をもった真面目な人。それに、すごくユーモアのセンスがあって、めちゃくちゃ美味しいコーヒーも淹れてくれる! LAでのレコーディング中、休憩の度に、トシは私とデイルに最高のカプチーノを用意してくれてた。そして、エンジニアとしては、マジシャンのような技術の持ち主ね」

--今年はクリスタル・フェアリーのツアーを行なった後、再びアット・ザ・ドライヴ・インといっしょにブチェレッツとしてライヴをやるようですね。ボスニアン・レインボーズのセカンドももうすぐ出るだろうという話も聞いたのですが、あなたの今後の活動は大体どんな予定がたっているのか、わかっている範囲で教えてください。
「私がひとつ心がけているのは、絶対に自分が決めた予定に縛られすぎないこと。だって予定なんて一瞬にして変わってしまうから。とか言いつつ、今年はもうたくさんの予定が入ってて、でもそれは確約がないものだっていう気持ちでいて、とにかくうまくいくことを神に祈る気持ち。病気やトラブルにも負けず、ちゃんとそれがまっとうできるように祈るばかり。私の中で決めているのは、とにかく時間があればツアーとレコーディングをして、ちゃんと家族との時間も作ること。私はレコーディングがひとつ終わると、すぐ気持ちが次に移ってしまうから、それがリリースされるかどうかは神のみぞ知るって感じなんだけど、ボスニアン・レインボーズのアルバムもリリースされるといいな。まあでも、神様は賢いから一番いいタイミングを分かってるはず。今はこれじゃない、っていうコントロールもしてるって信じてる」

--ところで、オマーは、昨年(※2016年)後半からすでに十数枚のソロ・アルバムを隔週でリリースし続けていて、今年の前半までに全24枚を発表する予定ですね。あなたもそれらの作品のうちの多くに参加していますが、以前の作品に比べ、彼自身が積極的にヴォーカルをとっている様子がうかがえることや、全体的にポップな感触が増していると感じられることが個人的には興味深いです。この傾向は、多分あなたからの影響が大きいのではないかと推測しているのですが、あなた自身もそう感じてはいませんか?
「あら、まず初めに、ありがとう! 私たちはお互い影響しあってると思う。曲も一緒にたくさん書いているし、ボスニアン・レインボーズのツアーが終わった頃には、お互いの発言を言葉にできてたくらい(笑)。彼は私の親友よ」

--メルヴィンズもオマーも、パワフルなロック・ミュージックだけでなく、かなりエクスペリメンタルなサウンドの作品を作ってきていますが、クリスタル・フェアリーのアルバムを聴いても、あなたはそれを、ポップでパンク・フィーリングを持った方向に引っ張っているのではないかと思うのですが、いかがでしょう?

「音楽をどう感じるかっていうことに、正解とか間違いってないと思う。私にはポップ・ミュージックの背景があって、小さい頃はスパイス・ガールズが大好きだったし、それからビートルズみたいなクラシック・ロックが好きになって……でもビートルズもずっとポップとしてメディアには扱われてきたんだよね。オマーは、サルサのバックグラウンドがある。10代になってからパンク・ロックに出会って、そこは私も同じだけど、それから色んな音楽への扉が開けた。私はオマーをすごく尊敬してる。ザ・マーズ・ヴォルタは、プログレッシブ・ロックの新しいジャンルを作りだしたんだもの!」

--オマーのソロ作品のうち『Zen Thrills』では、あなたが歌と歌詞を担当していて、ラインナップ的にもほとんどボスニアン・レインボーズと言っていいかと思いますが、この作品はどんなふうに録音されたのですか?

「これはわりと前にレコーディングされたもので、たぶん2010年頃かな。オマーから突然連絡があって、一緒に作りたい曲があるから聴いてほしいって言われて。それで、彼のスタジオに行ったらジョン・デバウン(マーズ・ヴォルタやブチェレッツも手がけたエンジニア)が、私のためにマイクをセッティングしてくれていて、素敵なレコーディング環境が整っていた。3〜4時間でジョンが私のテイクをトラックダウンして、すぐにオマーも気に入って、そのまま次のプロジェクトに進んだの」

--オマーの大量のアルバムを前に、呆然としてしまうリスナーも多いのですが、参考までに、あなたが特に気に入っている作品はどれか教えてもらえますか?

「『Ensayo de Un Desaparecido』っていうアルバムが大好き。はっきりは覚えてないけど、多分2006年くらいのすごく古い作品で。このアルバムのプロダクションとかアーティステックさとか、すごく貴重だと思う。度肝を抜かれてしまって、すぐには理解してもらえないけど、きっと何年もかかって人々に解ってもらえるような作品だと思う。そういう作品ってあったりするよね」

--アルバム『Corazones』に収録された”Running Away”という曲は、あなたやバズの他に、ジョン・フルシアンテやエヴァ・ガードナーといった人たちが登場する、面白いビデオクリップが作られましたね。あなただけがオマーを手で殴らずに見事な回し蹴りをくらわせていますが、これは誰のアイデアだったのですか?

「すごく楽しい撮影だった! あれはオマーのアイディアだったの! 彼がコンセプトを考えて、ディレクションもした。いつか本人から話してもらえるといいな。とにかくあの撮影の一部となれたことがすごく光栄」

--現在ブチェレッツのドラマーを務めているAlejandra Robles Lunaが加入した経緯を含めて、簡単に紹介してもらえますか?

「アレとは、LAのフェミニスト・フェスティバル=Riot Grill Festで出会った。そのフェスは、彼女のバンド(The Menstrators)のメンバーであるナディア・Gがオーガナイズしていて、私たちはお互い出演者だったんだけど、彼女はすごく優しくてね。そのエネルギーや誠実さによって、彼女が演奏している姿を見た瞬間に一目惚れしてしまった。だからクリス(・コモン)も私も、いつか彼女は素晴らしいブチェレッツになるって思ったの。最近イギー・ポップと共演する機会があったんだけど、彼もアレジャンドラはクールだって言ってくれた。彼がそんなことを言ってくれるなんて、最大限の褒め言葉でしょ。私は常にカリスマティックで素晴らしいドラマーに囲まれてて、とても幸せ」

--そのクリス・コモンは、オマーの大量のソロ作品でもミキシング/マスタリングを任されていますが、現在はエル・パソにあるオマーのスタジオの専属エンジニアになったようですね。そもそも彼とオマーのつながりはいつ頃からできていたのでしょう?

「クリスとオマーはLAで最初に会ったの。『Cry is For The Flies』をクリスにミックスしてほしくて。2011年だったかな。彼らはすごくいいチームワークを発揮してる。クリスはスタジオに入るとほんとに天才的だし、お互いの才能を理解しているからすごく良い関係性。どちらも音楽に関する工作が大好きだから、2人の作業を見ていると学ぶことがたくさんある。クリスタル・フェアリーでもクリスと仕事できて、すごく嬉しかった。彼にドラムを叩いてもらったことも、とてもいい経験だったし。今まで自分には無かった厳密さや的確さを、クリスからはすごく学んだ。本当に素晴らしい人で、私は彼を狂った音楽博士って思ってる」

--クリスタル・フェアリーでも、ブチェレッツでも、ボスニアン・レインボーズでも、あなたのライヴをぜひまた日本で見たいと思っています。

「ありがとう! 日本に行くたびに、未来に行ってるような気持ちになる。いつか東京に住んでみたいな。すごく居心地がいいし、いつもビタースイートなインスピレーションをもらえるところね。いつかブチェレッツで日本ツアーすることを目標にしてるの」


他では読めないような、音楽の記事を目指します。