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マーメイドは深く呼吸する


ぼんやりと光が見える。
光に手を翳してみる。
すると何も見えなくなる。
光からは暗闇が生まれた。



気付いたらいつも溺れないように踠いている。
動くほどに、沈んでいく。
呼吸が浅い。

岸から誰かこちらを見ている。
何か言っているのか。
誰の声もこの耳には届かない。
助けて。


何度こんなことを繰り返しているのだろう。
もう、無理だなぁ。
十分足掻いた。
諦めて穏やかに息を吐き切る。
空気がなくなった体は容易に沈んでいく。苦しいな。

何かを掴もうと必死に伸ばしていた手は、最後に波紋を残して底へと落ちていった。






目を開けるとそこは見慣れた水の中。

居場所はここだった。
踠かなくとも、息ができる。

嫋やかに、優美に、溺れることなく水の中を泳げている。
なんだ、こんなに心地良い居場所があったじゃない。
何を苦しんでいたのだろう。
息ができることも泳げることも忘れて。


まわりを見渡すとサカナたちがいる。
ワタシと姿形が同じものはいない。
それでもなんだか心地良い。


ずっと
ここにいたらよかったのに。







どうして陸に行こうと思ったんだろう?





あの日、淡い光を見たから。
あの光はどこから来ているのか、なんなのか、見つけてしまったら知りたくなった。



ワタシはだれ?
なにものなの?
ここに存在しているのは何故だろう?


世界は、本当はもっと広いのでは

ちっぽけなワタシは、このままでいいのだろうか




それを知りたくて、陸というところに行ってみたくなったのだ。
そして、陸にいるはずのヒトというものにも、会ってみたい。
ワタシが何者なのか、この世界はなんなのか知りたくて、何度もトライしていたのだった。


サカナたちは幾度となくワタシを引き止めた。
住む場所が違うんだよ。
陸では泳げないよ。



それでも、知りたい。
手に入れたい。
掴みたい。


気付いた時には思考ばかりが駆け巡って
浮かんでくる物事に圧迫されて
行かなきゃ!
掴まなきゃ!
何を?

次第に呼吸が浅くなり踠いていたらしかった。
何度も何度も。

沈んだのは、虚構の頭の重さのせいだった。
頭だけで突き動いていたから
置き去りにされた心と身体が悲鳴をあげていた。


それでもこの踠く日々を経て
あの日光を見つけた時、心に灯った僅かな強い火と、しなやかに動けるはずの身体がすでにあることをやっと、思い出せた。



頭と心と身体が繋がる。
思いもよらぬほど摩擦なく岸へと辿り着く。

あの日あの時、こちらを見ていたヒトが居た。


あなたはとても美しい

そのヒトは言った。

曇りのない眼でこちらを見つめている。
そのヒトの言う美しさとは、もしかしたら、もしかしたら


自分の中からあふれているものだったのかもしれない。
目を塞いで、見えなくしていた、自分の中の光。


この世に生を受けたときから、ワタシは光り輝く命であった。

本当は泳げる。
しなやかなヒレがあるから。
本当は深く呼吸できる。
世界と繋がれる身体があるから。
自分のことなのに簡単に忘れてしまう。


心と身体と頭、全て忘れてはいけなかった。
全てワタシの中にあった。


周囲の水の流れは輪郭を創ってくれる。

これからは自分の中に流れる血の、エネルギーの、流れに従いたい。


ただ自分と共にいれば。
どんな世界でも生きていけるはずだ。


あの日見た光がはっきりと見える。
光に手を翳してみる。
真っ赤な血の流れが透けて見える。
ああ、たしかにワタシはいま生きている。


何かを欲して、何者かになりたくて、もがいて、溺れて、そして気付いて、ワタシはワタシに還っていく。


何度忘れても、その度に思い出せばいい。
必ず戻る。
大切なものは、もうすでにここに。



深く、呼吸する。



そうだ。ワタシの名はーーー











ここまで読んでいただきありがとうございました!
わーい!!!難しかったー!!!😂

りみさん、まーさんが企画してくださったアドベントカレンダーに参加のnoteでした。
本当に素敵な企画をありがとうございます。

私がいただいたキーワードは「嫋やか(たおやか)」でした。
キーワードを贈ってくださった方、ありがとうございます🎁
"嫋やかさ"を自分に重ねてみた時、とてもくすぐったく感じました。
だから、浮かんできたマーメイドというイメージに世界を描いてもらった。
誰の中にも嫋やかさはあるのだろうなと、思いながら書いてみました。

ばるさん、心揺さぶるバトンをありがとう。

明日は夏の時もバトンを繋いだマホさん
ご縁を感じています。たのしみ!

このお祭りでもっともっとたくさんの素敵な輪が広がっていきますように。

2022.12.09

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