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10分で感動できる、ちょっと不思議な物語1 【朗読 台本】

これ、載せようか迷いましたが改めて読んだら、まあいいかと思ったので載せます。元ネタの漫画を当てたら、すごいかも。
追記
修正箇所が多くて、めっさ時間かかってる。こんなはずではなかった。

素敵なヘッダーはPicNos!さんです。みんなもどんどん使っていけー。

規約

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本編 「心の芯までだきしめたい」 読了時間10分

この町には誰も知らない秘密がある。

※※※※※

心身まで冷え込む12月の東京の下町亀戸で、土手に寝そべっている男性がいた。
 
手元には荷造り用の太いロープ、ゴミ袋。袋の中に、潰れたビール缶が乱雑に入っている。男の近くには千切れたロープが放置されていた。

近くに黒のドレスを羽織った若い女性が男性の目線に合わせ、しゃがみ込む。
「今、私があなたのそばにいます。あなたが必要です」
「はあ……なんで首吊り用のロープが千切れるんだよ。頑丈な太縄だってレビューにもあったから、買ったって言うのに。

くそっ!!考える前に死ぬつもりだったのによ。この上手くいかない感、俺の人生そのものだっての。
疲れた……もうイヤだ。……思えば俺の人生、なんにもなかった。親に虐待され、学校では虐められ、虐げられて、仕事場でも殴られて、学がないって後輩に罵倒されて……誰も俺なんて必要じゃなかったんだ」
「……私がそばにいます。だから……やめて」女は励ますように男の耳元でささやいた。

「友達もいない。遺言しようとしたら、友達からの連絡が途絶えた。なんでなんだろうな、どうしてこうなっちゃったんだろう。

もう、何を糧に生きていけばいいんだろうか……いいじゃないか、最期に好きなだけ飲んで酔っぱらうんだから。友達も最初は優しかったけど、徐々に疎まれて離れていった。もう駄目なんだ、自分になにも感じられない……」

「そうじゃありません、世の中は悪い人間もいますがいい人間だっています。友達も、事情があって離れただけかもしれません。

きっと、あなたは肩の力を入れ過ぎだったんです。だから、お願いです……やめてください」

「ずっと孤独だった。いつもこんなに独り言言わないのに、酒の力を借りてるからかな。
久しぶりに飲んだよ、ビール。
一人だったんだ。誰かの、何かの役になりたかった。
役割みたいのが欲しかった、誰かに仕事を与えたかった。誰かから信用されたかった、信用したかった。任せられたかった、信用した人間に任せたかった。

支えて欲しかった、支えてあげたかった。救われたかった、救いたかった……底辺でグズでバカな俺には何一つ、一片も得られなかった、あげられなかった」 
 
女性の話しを介さず、立ち上がり土手の周りをうろうろし、男は土手内の公園にある欅を見つける。
 
決心ができず、ハワイアンブルーのブランコに乗る。しばらく漕いだ後携帯から連絡が入る。
 
画面を見て男は意を決し、ロープを置いてどこかへいってしまう。

若い女性は涙を押さえきれない。

「そうです、あなたは一人じゃない。必要とされてなくなんかない。あなたが辛い時に、私はそばであなたに触れ泣いていました。

苦しさ、辛さが私に伝わりました。あなたの悲しみが癒えず、絶望も消えず私は一層悲しみました」

「自分語りいいんだけどよー、エミちゃんはまた生き返らせちゃったわけ?」

黒サングラスをかけた、アフロでモミアゲの濃い男がため息をつく。くたびれた礼服を着ているせいか、エミには全体的にだらしなく不潔に見えた。多分、朝ご飯に納豆食べるけど歯を磨いたりしないタイプ。


「番場(ばんば)さん……。良かったです、また助けられたんです」
「あれれー、人の話し聞いてない?俺ら死神だよ、職務怠慢じゃないの」

エミは番場に反発する。


「私達は死にそうな人を生き返らせる……死神ってお仕事じゃないですか?」

「ちがうだろうが。ただなー最近寿命有り余ってるのに、勝手に終わらせる連中が多くてなあ。俺も思う所はあるよ。こっちの仕事を増やすなよって」
「番場さん!!」
「仕事の愚痴くらいさせてよーエミちゃん。エミちゃんと違って、俺仕事してきたんだから」番場はへらへらと笑った。

「仕事……もしかして、さっきの友人さんの電話。何か関係でもあるんですか?」
「どうだろうな。俺はただ、その友人とやらに耳元で残業させるな、死なせんなってぼやいてただけ」
「……ありがとうございます」ぺこりとエミはお辞儀をした。
「だろー。調べるのめんどくさかったー」
「本当にありがとうございました」
「ははっ、あっそ。でもな、あの男おそらくまたやるんじゃねえのか。近い内に」と、番場はクイクイと親指で放置されたロープを指差す。

「そう思います、私も」
「思うんだったら、どうして」 

「また助けます。どうしようもならなくなったら、最期の時まで一緒にいます」
「……おまえが辛くなるだけだぞ」と言った後で、番場がタバコに火をつけた。

「番場さん、優しいですね。なんだかんだいって、私の様子とかちょくちょく見に来ますし」
「うるせえ。まあ仮にも上司だしな」
「いつも仕事中なのに、平気でギャンブルとかしてても?」
「げほっげほっ」番場はいがらっぽい咳をした。
「その分、私が番場さんの分を負担して仕事やってるのに?」

「ほらっ、仕事を丸投げするのは上司の特権だから」
「今日私有休なんですよね」
「マジで!?」
「部下のスケジュールは確認しといて下さい。死神として業務を行っていたわけではないから、この件で課長にどやされたりはないですよ」

「べ、別に関係ねぇよ。俺はエミちゃんがマジで心配だったから」
「やっぱり番場さん優しい……たまには。それにね、ぼっちじゃないんですよ」
「んん?」
ふふ、とオリオン座が輝く寒空の下、エミは笑う。
「一人じゃないんです。一人な人はいないんです。ここには。この町には。私達がいる限り」エミは自分の胸をポンと叩いた。
「あめーな」
ペロッと、エミは涙を拭った指を舐める。
「甘くはないです、塩っ辛いんです」

※※※

この町では他の都市に比べて自殺者の数が平均に比べて少ない。
その秘密は誰も知らない。
 

(了)

FM那覇様にて朗読されました!!!!!!


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