その5 走り屋は鼻が利くようになる

お金もないもので、ポンコツのクルマのまま走り続けていた自分。反復練習が利いて、さすがにテクニックは向上し、クルマをコントロール出来るようにはなってきていた。

同じ条件での反復を繰り返したので、わずかな違いにも気づくように。例えば自分のクルマからラジエター液のニオイがしてきたら、どこかから漏れてるな?と疑うように。ブレーキパッドは短時間でバトルを繰り返していると高温になり焦げたニオイを発する。これはそろそろヤバいなと心する。この焦げを超えたら、次は摩擦が発生しない領域に入ってしまう。パッドには利く温度域というのがあり、それをハズレると途端に利かなくなってしまうのだ。だからスポーツパッドというものも売られていて、これは利く温度域が高く設定されていて、ハードな走り方にも対応する。こういった高性能パーツを知ってからの話はまた今度。

タイヤからもニオイがする。ロックさせたりすると焦げ臭くなるのは当然として、ちゃんとグリップさせて走っていても、表面温度は上がるものでチンチンに熱くなる。これもゴム特有のニオイがするので、これ以上やると滑り出すな…と分かるわけ。

走る時はパワーロスを避けるためにエアコンはオフにする。従って窓を開けて走るのだが、これがまた重要。音とニオイで色々分かるから。

相手のクルマのエンジン音を聞いていれば、アクセルやブレーキ操作は手に取るように分かる。アクセルを緩めた瞬間、排気音が落ちる。これによって、ブレーキランプの他にも情報が入るため、ギリギリまで車間を詰めていても追突せずに走れるわけ。相手がアクセル全開だったら、こっちも全開にしてギッチギチに車間を詰めてやればいい。コーナーが迫ってきたら、先行車が急ブレーキを踏むかもしれないので、後続が先にアクセルを緩めて、やや車間を開けて、ターンインするのがセオリー。従って、前走がブレーキ我慢型、追走がスローインファーストアウト型に寄っていく。これによってお互いの安全が確保されていたのだなと、今になって思う。

窓から入ってくるニオイには自分のクルマのニオイとは限らない。飛ばしているのに、急に焦げ臭いなと感じたらイエローフラッグだ。これは、この辺でタイヤをロックさせたり急ブレーキを掛けた人が居るという事。「あ!」と思ったら、ほぼ確実にその先でクラッシュしている。このニオイを感じたら、例えバトル中でもアクセルを緩めるべき。下手すりゃ多重クラッシュしちまうよ。見通しが悪いから、全ての感覚を使って危険を察知しなくてはならない。ちなみに首都高では、ブラインドコーナーの先のブレーキランプが、反対側の壁に映るので、それを見て察知するんだとか。

そして、必然的にミラーを見るようになる。狭いコースで先から目を離せない状態で後続とバトルをしていると、理論的には前だけを見て自分のベストな走りをするしかないんだけれど、実際にはどこでどれだけ詰められてるか、引き離せているか常に把握していたい。詰められて負け状態になったら、即座にマイッタしなければならないし。最初は後ろなんて見てる暇がなかったが、コースを暗記してくうちに、後続に気を配ることが出来るようになっていた。後には「あんたあのコーナーでメチャ詰めてくるよな?得意なアールなの?」なんてアフタートークも。

走り込んでいくと、こりゃ五感をフル稼働させなきゃならない競技なんだなと思い知らされる。









かつて自分の血を沸騰させたスポーツカーと界隈の人間。その思い出を共有していただきたい、知らない方に伝えたいと、頑張って書いております。ご支援いただければ幸いです。