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ウルム②2つの世界記録を持つ街

ウルムの一つ目の世界記録はこちらから。

Ulmer Münster ウルム大聖堂

次の世界一はこちら。
大聖堂の建設は1377年に始まり、完成は1890年。
高さは161.53メートル。

大聖堂前のモニュメントで、街の様子が分かる。

訪れた時は尖塔部分を工事しており、70m地点までしか登る事が出来なかった。
階段は全部で768段あるそうだ。
ドナウ川や、大聖堂前のミュンスター広場を見下ろす。

70mの場所は展覧室になっており、各都市の大聖堂の様子が集められていた。

地上に戻り、教会内部を見学。
この教会の中には、可愛らしい像がある。
それが、スズメだ。

スズメはこの街のシンボルにもなっているが、こんな言い伝えがあるという。

大聖堂建設のために、木材を街へ運んでいた時のこと。
門の幅より木材の方が長く、木材を運び入れる事ができないため、仕方なく門を壊す作業をしていた。
すると、スズメがどこからか飛んできた。
スズメは門の近くにあった巣を作るため、藁を口にくわえていたが、藁がなかなか巣に合わない。
しばらくすると、藁の向きを横から縦に変え、ようやく巣を作る事ができたという。
それを見ていた作業員達は、門を壊さずに木材を縦にすれば良いと気付いたという。

私はこれを読んだ時に、思わず吹き出して笑ってしまった。
元々、このスズメは教会の一部分として飾られていたが、今は教会内部に大切に保管されているそうだ。

この木材と門が、そのお話を伝えている


スズメは街で愛されるキャラクターのようで、街のあちこちで見かけた。

大聖堂内のステンドグラスには、アインシュタインも残されている。

祭壇とパイプオルガン。
夏に開かれるオルガンコンサートは、とても人気だそうだ。

洗礼盤と、その近くに飾られたバッハ像。

St. Georg Kirche 聖ゲオルグ教会

大聖堂はプロテスタント教会だが、こちらはカトリック教会で豪華な内装だ。

Einstein Brunnen アインシュタインの噴水

生家だけでなく、街の東部には噴水もある。
ロケットの発射台の形をしており、カタツムリの殻からは、あの舌を出した有名な顔がのぞいている。
冬場で水が出ていない為、まるでモニュメント。

大聖堂のステンドグラスにも、カタツムリが描かれていた。
何故カタツムリなのだろうかと調べてみると、カタツムリは知恵の象徴だそうだ。

もう一つ、ウルムの街とカタツムリのお話を、
街の中で見かけた一つの標識が教えてくれた。
カーニバルを終え、イースターまでの四旬節。
断食の中、特に好まれてウルムから輸出されていたものがあるそうだ。
それが、ウルム近郊で飼育されたカタツムリ。
1570年頃から1897年頃まで、木製の樽一つにつき一万個のカタツムリが、ウルムボートと呼ばれる船を使い、ウィーンまで輸出されていたということだ。

Adlerbastei / Berblingerturm
鷲の堤 / べルブリンガータワー

さて、ウルムが生み出した天才は、アインシュタインだけではない。
鷲の紋章が刻まれているこの場所には、一つの悲しい物語がある。

ウルムの仕立屋アルブレヒト・ルートヴィヒ・ベルブリンガーは、1770年6月24日に誕生した。
仕立て屋として成功した彼は、飛行機械にも興味を持っており、ミケルスベルク山で滑空実験に成功した。
1811年5月31日、ヴュルテンベルク国王の弟ハインリヒ公が街を訪れた際に飛行を披露する事になっていたのだが、残念ながら失敗しドナウ川に墜落してしまう。
人々は彼を馬鹿にし、彼は経済的にも社会的にも立ち直ることができなくなってしまった。
そして、1829年1月28日、58歳の時に市内の病院で貧しく孤独な死を遂げた。

その後、ライト兄弟が、初有人動力飛行を成功させたのは1903年。

孤独な死を迎えた彼は、しかし現在は飛行のパイオニアとして評価されている。
ウルム市は、彼の生誕250年記念の2020年にベルブリンガータワーを建設したそうだ。

塔の高さは16メートル。
かつて、この堤は13メートルあり、彼は飛行台を作成し、20メートルの高さから飛行したそうだ。
この塔は10度の傾斜が付けられており、その飛行台を再現している。
上部まで登ってみたが、風の強い日だったので、吹きさらしの塔は非常にスリリングだった。
ドナウ川と大聖堂を見渡せる、素晴らしい場所だ。

飛行機がなければ、私は今このドイツという国に住んでいなかっただろう。
塔の上部で、彼が見たであろう景色を見て、彼の果たせなかった夢を想い、そして静かに祈りを捧げた。

タワー近くには、仕立て屋だった彼を偲ぶハサミのオブジェクトも。

このような装置で飛行を試みたそうだ

世界一が集まった街、ウルム。
更にこの街は、世界一の天才とも言われるアインシュタインや、ベルブリンガーを生み出した。

その反面、木材を門に通すために、門を壊してしまおうと考える市民がいた街。
いや、ウルムのスズメがこそが、天才だったのだろうか。
そんな事を考えながら歩くウルムの街は、大変面白かった。

私が訪れたのは冬。
街で出会うかたは、みな親切で人懐っこかった。
どこから来たのかと問われ、南ドイツ特有の訛りで、それぞれが観光大使のように街を魅力的に紹介してくださった。

ねぇ、あなた。
街の小路にテラス席が設けられ、人々が寛いでいる様子を想像してみて!
木組みの家の窓に、赤いベゴニアが飾られているのを思い浮かべられる?

君はまだ、街の中にあるたくさんの噴水から、太陽の光を浴びた水が流れ出ているのを見ていないなんて残念だ。

今日のように冷たい風の吹くドナウではなく、暖かい風が吹くドナウは、気持ちいいのよ。
ドナウ川沿いのバラ園には、綺麗なバラが咲くの。

あなたは、本当のウルムを知るべきね。
大聖堂の尖塔にも登っていないのでしょう?
ほら、ごらんなさい。
あなたは、もう一度ここに来るべきだと、そう決まっているのよ。
ぜひ、夏にまたいらっしゃい。

私はおしゃべり好きのおばさまや、おじさまが大好きだ。
つい、色々と話をしてしまう。

冬でも充分に魅力的な街、ウルム。
きっと私は、この街を再度訪れることだろう。
大聖堂の70メートル地点に登っただけで、私は翌日筋肉痛になった。
140メートル地点は、その倍だ。
大聖堂の工事が、なるべく早く終わる事を願う。
おばあちゃんになってからでは、とてもあの階段を登りきることはできないだろうから。

私はそして、暖かい風の吹くドナウ沿いの城壁を散歩し、薔薇の香り漂う庭のベンチに腰掛けるだろう。

隣に、おしゃべり好きのおばさまや、おじさまが座ってくれたら、それ以上望むことはない。

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