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勇気100%/さぬきシクロクロス

1枚ギアが重かった。スタート少し踏み遅れた。

あるいは、10秒前のコールがなく、30秒前が最後のアナウンスになったという新制度にまだ慣れていないのか。

少し踏み遅れたものの、位置はキープしたまま180度ターンして最初の舗装路の登りにかかる。腰を上げて踏んでいく。ここがゴールと思って踏んでいく。

勇気。

垂れるかもしれない。が、ここでなるべく前に位置を取っておかないと次の急登セクションで詰まる。詰まって後ろで展開してしまうと、舗装も長く地脚がものを言うこのコースでは、ズルズルとただ後ろを走るだけになってしまう。だから、無理をして最初だけでも前へ前へ。

勇気。

今年のさぬきシクロクロスは申し込み順にコールアップだったので1列目スタート。ホールショットには届かないものの、4〜5番手で階段脇の急登セクションに入る。入り方が難しい下部、左右2ラインある中部、左が乗れる上部と分かれている下部は、1周目は降りる。これはスタート前から決めていた。

半分くらいの選手は階段を担いでいたので、中部上部の乗車が詰まることなく頂上に到達。ここで心拍数も頂点に到達。なんとか半分前後の順位だろうか。上出来だ。

さぬきのコースは、舗装路の登りに始まり、階段の急登、スピードの出るダートの登り降り、芝クネクネ、長い舗装路の直線、というレイアウト。

スピードコーナーにはまだまだ体が慣れておらず、てこずる。その上もう心拍マックスなので冷静さも欠いて、余計にてこずる。てこずってるうちに、横から抜かれたり、後ろで詰まっていらつかれたり。

ラインだけはコースウォークと試走でわりと決められていたので、遅いなりに最速ラインを取れていた。はず。ラインが1本しかない急な登りで、後ろから半本だけ横のラインで来た選手にぶつかられる。で、足つき。突っ込んでくるなよ〜と思いつつ、冷静に押しに変えて先に越える。対応が早かったので後ろはちょっと離れた。

で、中盤の芝クネクネのスラロームを楽しんでいると、突然後ろから「ドケッ!!」と怒鳴られる。たぶん、さっきぶつかってきた選手だろう。

いわゆる“ドケ問題”である。俺はこの手のドケ発言には否定的である。その場面で速度差がたとえあったとしても、ルール上その時点で前を走ってるならそれは邪魔じゃなくて、ただ前を走っているだけ。怒号の対象じゃない。もちろん、故意にラインを消してブロックしたりはダメだし、周回遅れやカテゴリ違いだったら譲るべきだけれど。

たしかに、こちらはそんなに早くないし、早くないわりに幅いっぱい使ってコーナーを曲がっていくので(その方が速いから)邪魔なのだろう。ただね、後ろに詰まってしまわないように最初に勇気を出して突っ込んだから今俺はあなたの前を走っているのですよ、と。こちらはただこちらの最速ラインを通ってるだけでブロックしてるわけでもないし。ドケと言うなら最初に突っ込んだ心拍数を返せ。「ドケやないやろ。」「同じカテゴリやろ。」と。

最後のふたことは声に出てしまう。こちらも冷静さを欠いていたようだ。それもあってか、言うほどコーナーは遅くなかったからか、怒号はそれ以上聞こえてこなかった。

が、舗装路に入ったとたん、バビューンとぶち抜かれる。同じカテゴリを走ってるとは思えないくらいのスピード差で。ああ無情。ドケさんに惨敗なんて。でもまあそれがレースなのである、と俺なりに必死に踏む。しかし無情は重なるもの。後ろにこんなにいなかったんじゃないかというくらいの人数にバビューンとぶち抜かれる。

こっちも必死に踏んでるのだけれど、伝わってない。この必死さが、ペダルに、タイヤに、路面に、伝わってない。コミュニケーションの問題。

いかにもロード早そうな外見の選手だけでなく、なんとなくこのレースでライバルになりそうと思っていたカジ選手や宮選手にもバビューンと抜かれる。路面とのディスコミュニケーションは深刻である。がびーん。

ショックを隠せないまま舗装路の登りをふたたびこなして2周目へ。階段脇は全乗りでいける。ここだけ。ほんとここだけは満足。

ここでなんとか宮選手を抜き返し、スピード昇り降りと芝クネクネへ。宮選手には去年はあちこちでデッドヒートして、たいがいちょっとの差で負けていた。後ろに存在を感じながらクネクネ。確か去年の日吉がまさにこんな感じだったなあと感慨に浸りつつクネクネ。また同じように走れて楽しいなあとクネクネ。

そして、クネクネを終えたとたん、宮選手はバビューンと前に消えていってしまった。

2周目終わりの舗装路登りをこなすと、残り周回数が3とある。手は離せなかったので、心の手で目をこすってもう一度見たが、3。つまり全部で5周。しんどいなあ。。。

階段脇の急登はなんとか乗っていけて満足しながらも、徐々に脚が売り切れつつあることを感じ取る。心肺機能ではなく、脚の筋肉がもう限界。コミュニケーション能力に問題があるのに、人格にも問題発生である。もはや比喩も崩壊だ。別の比喩を持ち出すならば、1周目は若鳥みたいだった腿がもう親鳥みたいになっている。

スタートからずっとマックスだった心拍数が若干落ちている。落ちざるをえないくらい踏めてない。

と、後ろから「ハリマさん垂れてる〜」とのんびりした声が聞こえた。若林選手だ。負傷からシーズン後半に復帰して、レース前も「後ろでのんびり走りますわ〜」と言ってはった若林選手。

バビューン。

そして誰もいなくなった。

天気は良かったが、闇だった。暗い中、重い脚を持ち上げては下ろす運動を繰り返す。使役。

腿はもう、親鳥の出汁ガラみたいになった。ちなみにどうでもいいが、山形では親鳥のことをふるっぱ(古っ羽)と呼び、その出汁でとった冷たい鳥ソバが滅法うまい。レースが終わったら食いたいと思った。

さて。

普段、周回数が多くなることは実はそんなに嫌いではない。そのぶん長く走れるから。レースの展開で着に絡む時は気になるが、そうでなければ多ければ多いほど良いとさえ思っている。しかし今日ばかりは違った。

闇。

そんな闇の中でも、最後まで階段脇の急登を乗車で越えられたのは一陣の光。でもそれ以外は真っ暗闇だった。

16人中16位。つまり、順位パーセント100%。

これが勇気を出して最初突っ込んだ結果なのか、そうでなくても100%だったのかはわからない。

わかっているのは、絶望的に、今、走力がないことだけだ。

勇気の果ての、闇。すがすがしくもあるが、どこまでも広がる闇だった。

鳥ソバではなくかけうどんと、高松名物骨付鳥を食べながら、エスキーナレーシングのみんなに惨敗をメッセンジャーで報告する。

すぐさまイケッチから返信が返ってきた。

「でも楽しかったんでしょ?」

親鳥は噛み応えがあって、肉の味がしっかり染み出してたいそううまかった。

来週はそんな走りをしようと思った。

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'18-19 さぬきシクロクロス善通寺 カテゴリ:C3
16位/16人出走

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レース以外では、阿波に続いてシオストチームとわいわいしたり、オッチーに久しぶりに会ったり、感動のカッキン優勝を目撃したり、非常に楽しかったさぬきでした。

うちの若いチームメイトは、友人の父がふたりも優勝したので、うちはどやねん?と尋ねてきましたが、うしろから1番でしたよ、と(笑)。

つづく。

サポートありがとうございます! 次のおもろい文章という形でお返しできるようがんばりますね