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限界の向こう側/東海シクロクロス WNP

ピカーン。

と、目の前に1本のラインが見えた。

一番外側、コーステープギリギリのところ。
スタート直後の長めの砂のカーブ。
先頭以外はみんな詰まって、降りて押したり夏のプールのようにごちゃごちゃしている横、乗っていく。

57人大量出走のほぼ最後尾スタートから、一気に20番手くらいまで上がった。

久しぶりに、スタート直後の人の海の中にラインが見えた。やっとこの感覚が戻ってきた。今季初戦、2列目でも前に壁が立ちはだかっているように見えた感覚に比べると、大した進歩である。

スタートでは真後ろに増田選手がいてはった。去年の桂川で抜きつ抜かれつしたり、MMCでハードテールでダウンヒルをびしーーっとかっ飛ぶ姿をみたり(俺は骨折で観戦だけ)、なんどかすれ違っていたのだけれど、初めてちゃんと挨拶できた。

「このスタートがポイントだね」と事前に話していたのは、エスキーナレーシングのエースでみんなのコーチ、和尚。内側が空いて抜けるか、乗りやすそうな外側から行くか、どっちにしても大渋滞になるか。ここに限らず、ポイントを読む目はさすが参考になりまくる。ただここは、直前のC4のスタートを見ても一面の大渋滞だったので、半ば諦めつつ並んだスタートだったが、結果大成功である。

良かった。

ここまでは。

コースの多くを砂が占めるものの、残りは固い路面スピード区間。そこで、ズドーン、バビューン、と抜かれまくる。既視感。ああ無情。

「ぐはははは、追いついたぞ〜」と、仮面ライダーに立ちはだかる悪の組織の長みたいなセリフが聞こえてくる。今回同じレースが楽しみだったひとり、サークルズ齋藤選手だ。仮面ライダーであれば、この逆境を乗り越えて齋藤選手を打倒するところであるが、あいにくこちらは亀ライダーであり、手も足も出ずおいていかれてしまった。

さらに、桂川で辛くも逃げ切ったバイキン樋口さんが、今回は追いついてくる。もう、スタート台無し。栄光はもう過去のもの。だめだめやんか。

ということで、奮起したのが砂の長い登り。通称「ゾンビ坂」。

さすがにみんな担いだい押しでランの区間。C3でも歩く選手が多いので、走って抜いていくと、ギャラリーも盛り上がってくれる。調子に乗って、あげていく。心拍数は最大心拍数を超える。明らかに限界を超えているが、気力で走る。体力はなくても、気力ならある。気力で走って、笑いが止まらないくらいのゴボウ抜きである。

しかし、気力脚はカバーできず。下ってスピード区間に突入するやいなや、ゴボウ抜かれである。ランで作った貯金をあっという間に取り崩し、借金生活。全然計画的じゃない。

つき離したはずの樋口さんにも華麗に抜かれてしまい、このままではまたもや100%か、というくらいの後退具合で最終周回を迎える。

砂をバイクで走るには、漕ぐパワーももちろんだが、思った轍のラインにタイヤを乗せていくバイクコントロールが重要だ。

もういちど意識を集中させて砂の乗車率を上げていく。

最後の「ゾンビ坂」。30mほど前に樋口さん。

しかしこの「ゾンビ坂」という名前、選手たちがよろよろと歩く様を的確に表現しているのだろうけれど、個人的にはもうちょっと前向きな名前にならんもんかな、と思う。選手の苦悶を笑う方向ではなく、乗り越え方とか、楽しみ方とかを共有できるといいのにな。(対案はありません。)

樋口さんはここのランは遅い。遅いという言い方は的確ではない。明らかに、力を抜いて越えることで、その後へ温存しているのだ。とういことで、こちらは逆に全力で行く。ぐぐぐっと距離が縮まる。呼吸は限界。でも足は止めない。歩みを止めるな。もう少し。登り切る前に抜けなければ、温存していた力で離されるのは見えている。心拍数はついに200を超えた。視界が歪む。登りのラスト、外からギリギリ追いついて、抜いた。樋口さんは不敵に笑っているように見えた。前に出て飛び乗る。

あとは逃げ切るだけ。息も絶え絶え、ぐにゃぐにゃの視界の中、意識を統一しようとするが焦点が合わない。

そして、その後の砂区間、ありったけの丁寧を発動させたものの、限界を越えた状態ではコントロールは難しかった。視界全体がぼんやりと発光する中、あっさりと轍を外してストップ。

降りて押しに切り替えた視界の端、限界の向こう側にふははははと笑いながら軽々と砂を乗っていく樋口さんが見えた。

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'18-19 東海シクロクロス ワイルドネイチャープラザ カテゴリ:C3
50位/57人出走
写真はキクゾーさん(お久しぶり!コハルンかわいい!)、ようかんさん(ありがとうございます!)、和尚(出ないのに同行ありがとう!)から

砂で有名なベルギーのシクロクロス会場・コクサイデのよう、と言われる東海ワイルドネイチャープラザ。言われるだけあって、砂につぐ砂。それも平坦だけではなく、砂の登り、砂の下り、砂のキャンバーなど変化のある砂フルコースで面白かった。遅かったけど、楽しかったのは間違いない。また来年も行こうっと。

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