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チャレンジの回転/野辺山 Gravel Challenge

まだ暗い中、目が覚めた。ざああと雨の音が聞こえる。雨はいやだなあ。スタートまでに上がると良いけど、降ってたらやめようかなあ。アラーム時間にはまだ少しあったので、後ろ向きなことを考えながら掛け布団を目まで引き上げる。

会場は霧のような雨だった。レインウェアを着込んで受付に行く。昨晩は楽しい宴も翌日朝から走るからと言って中座して寝てたし。散々今日は走るって言ったし。後向きの気持ちをなんとか少し前向きにしながら、自転車を車から下ろす。

そういや、このためにJ.I.Parkを持ってきたんだった。90年台前半のクロカンMTB。平成ジャンプした、SHOWAのフォーク。今回のコースならシクロクロスでも走れそうだし登りは楽だろうけど、下りグラベルを堪能したいチョイス。

スタート地点まで行ってみんなの顔を見て、ようやく吹っ切れた。霧立ち込める中、会場は静かに熱気を帯びてきている。野辺山10年目にして初めてのイベント。期待が膨らまないわけがない。一度車に戻り、レインウェアを放り込んでウィンドブレーカーに代える。スタートはクロスのレースと打って変わって、なごやかな中の熱気。昨日とは温度は同じだけれど、種類が違う熱気。

ほころんだ顔が並ぶ中に、昨日のレースには来ていなかった自転車仲間のケイタさんを見つけた。クロスには出ない人とも野辺山の時間を共有できるのも嬉しい。話し込んでいると、あっという間にスタート。昨日と違って飛ばす必要のない舗装路をごーりごーりと踏んでいく。

雨というより濃霧、空中に浮遊している細かい水滴の中を進むようだった。のんびりマイペースでいく。まだタイム計測区間じゃないしな。そもそもそんな競るつもりもないしな。それよりどんなグラベルが待っているのか楽しみだしな。とか考えながら、苦行のようにペダルを踏む。身軽な人たちにどんどんと抜かされ、置いていかれる。

スタートして20分ほどすると、周りには誰もいなくなった。八ヶ岳はおろか、半径数十メートルより先は霧に白く溶けている。時折後ろからザッザッと息を切らせてくる選手に抜かれるくらい。ひとりひたすら路面と向き合って対話する。砂利がきれいに敷き詰められた、上質なグラベル。質はいいが、とにかく登る。登る。ペースはゆるくても、しんどいものはしんどい。視界の端にいて、抜きつ抜かれつする29インチMTBの選手と時折言葉を交わす。しんどいですね。下りは楽しいでしょうかね。

もうこれ以上登らされたら嫌になる、という絶妙なタイミングで、登りは終わった。CANYONのテントがある。レモネードをくれる。温まる。あっという間に置いて行かれていた人々とも再開。ゴール後じゃなくて、途中で交流あるのもいいな。

ひと息ついて下りにかかる。上質なグラベルの下りは、スキーのようだ。それも圧雪したてのゲレンデの。ザリザリザリと砂利の上を滑る。路面からのリアクションが足裏だけでなく分散するので、ちょうど良い浮遊感。下りに関しては、イージーすぎにもならず、とても良いバイクチョイスだったと自画自賛しつつ、ウヒョーと叫びながらあっという間に下りきってしまった。

下ったあたりでbikin!樋口さんと合流したので、四方山と話をしながら戻れたので舗装路もさほど苦にならずに済んだ。

たっぷり背負っていた補給食をモグつきながらステージ2のスタートを待つ。コースプロフィールを見るとステージ1とは逆で、前半下って後半登る。お楽しみは前半か。しかも、この辺りの地理に明るい草くん曰く「中学校曲がったら登りしかもかなりキツイ」ということなので、前半楽しむつもりで出発。

畑の間の道をそこそこ曲がりながら下るので、プリントアウトした地理を見ながら進む。が、そんな必要ないくらい手厚いマーシャル体制だった。ほぼ全ての分岐にマーシャルの方もしくはわかりやすいサイン、ミスコースする方が難しいレベル。サインも必要十分な情報量で、すこぶる良い運営。切り開くアドベンチャーというより、路面と景色を楽しむことに集中できる。

グラベルを待ちつつ良いロケーションの舗装路を下っていると、学校らしきものが見えた。嫌な予感がした。勾配が上りに変わる。再び足取り軽い人々にズビズバ抜かれ、細い道に折れた先に「少し先から計測区間ですー」と柔かに微笑むマーシャル・マサルくんの姿。止まって上着をザックにしまい、ハイドレーション飲みつつ補給タイム。おそらくこの先待っているキツイ登りグラベルに、気が進まずしばらく路端でみんなが突入していくのを眺める。

泥だった。

ステージ1のハイパースムーズ砂利と対照的な、林間ネチャネチャ泥。しかも急勾配。汗が滝。修行。つまりある意味の滝行。悪態が口をついて出る。ごーりごーりとクランクを回し続ける。あと何回回せば、悟りの境地に辿り着けるのだろうか。ごーりごーり。だんだん無心になっていく。八ヶ岳から続く、林の木々の下の、路面の泥の上に、タイヤのノブをひとつひとつ突き立てて、スポーク、スプロケ、チェーン、リング、クランクを通してシューズから、体へと、つながった。無心の一体感。ととのう、とはこういうことなのだろうか。違うか。

その、違うか、と我にかえる余裕もなくなる頃、パアーッと視界が開けた。草地の端に出た。計測区間はまだ続いているが、自転車を降りて深く息を吸う。空気だけは爽やかである。

再び乗車するとほどなく遠くにraphaの車が見える。計測区間はもうすぐそこまでだ。

朝と変わってすっかり顔を出した山々と、ジリジリと照らす太陽の下で、いつまでも近づいてこないゴールに向かって心のマニ車を回し続けた。

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これは一体何の「チャレンジ」だったのか、と帰りの車で考えていた。主催者にそんな意図はなかっただろうが、サイクリストの心の中にある「野辺山」というものを、単なる泥の滝沢牧場という限定されたイメージから、もっと懐の広い本当の「野辺山」へと変わっていくチャレンジだったんじゃないか。

そして矢野さんのインタビューを見れば、この「チャレンジ」は終わりではないしもっと良くなっていくと感じる。まだまだ日本では始まったばかりのグラベルイベント。参加者の求めているものも、持っているスキルも、走り方も、手探りでぎこちない。

個人的には、もっと下りを楽しみたいし、シングルトラックも走りたい。計測区間も登りだけでないほうが面白いと思うし、距離は短いけどテクニカルに行くか、このまま長くなるか、グラベルもFTPみたいな感じに進むのはなんだかなあ〜と思う。

ただまあ、それも、慣れていない一個人の思っていることで、他の人と違っているはず。その思いと、主催する側が見せたい感じさせたいものが、どう折り合うのか、折り合わなくてもいいのか。よくわからない部分が大きい。

なんて書いていると、文句あるんか的に取れるかもしれないけど、ものすごく楽しんだことは間違いない。初回の状況の中から、多くの楽しみを掘り出せた自信はある。しかも、何より運営が素晴らしかった。

つまり、多分もっと楽しくなるだろう次回がもう楽しみだってこと。

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2019.11.24
Nobeyama Gravel Challenge

写真は Bikin!樋口さん、草くん、ツジケイ、ユッキーから、ありがとうございます!!

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