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たかが一週間 ①雨の月曜日

今週始まって初日だというのに、朝からずっと雨が降っている。朝傘をさして家を出て、ずっと頭のどこかにざあざあいう音が反響して、そして夜が来て家に帰る。傘をさして暗い道を背中を丸めて歩く。濡れたくない、けれどもう家に帰るだけだからあまり気を使うのも面倒くさい。

雨と低気圧のせいか仕事中ずっと頭が痛かった。それで早々に退勤して会社を出たのだけれど、職場を離れてみると急に頭痛がおさまって、一日温存していた体力が残っていることに気づく。少し寄り道していこうと電車を途中で降りる。

この街の繁華街は一ヶ所にギュッと集まっている。地下鉄の駅を降りて地上に出るとそこはもう喧騒の中で、歩道はアーケードになっていて屋根がついている。傘は畳んだまま歩く。
仕事をするためだけのパンツと襟のついたシャツを身につけた私には不似合いな、大型デパートに入る。読み方もわからない海外の高級ブランドの店の前を通り、馴染んだエスカレーターに乗る。するとそこはワンフロア丸々本屋になっているのである。

まずは新刊をチェックする。とはいっても頻繁にくるので、そうそう入れ替わっているわけではない。続いてスマホのアプリにチェックしていた、最近気になっていた本を探す。
さらにキャンペーンを打っている棚をチェックして、普段はあまり買わないようなジャンルの棚も覗く。最近のヒット映画の原作が平積みになっていて、ポスターがデカデカと貼られている。なんとなく手に取るがもう一度棚に戻す。

そうこうしている間に手に本が溜まってきて、いつしか片手で持つのは厳しくなった頃、ようやくレジに並ぶ。会計をすましカバーをかける店員の慣れた手つきを長め、ぼんやりと外の天気を思い出す。こんな雨の日に本を大量に買うなんて、濡れるかもしれないのになんで今日なんだろう。

重い袋をぶら下げて、再び人で溢れた繁華街を駅を目指して歩く。屋根の下は濡れることはないけれど、人で溢れていて歩きやすいとは言えない。時計を見て時間を知ると急に空腹を感じて、もう一軒寄ろうと決めた。
繁華街の終わりの屋根の端まできて傘をさし、地下鉄の入り口を越えて少し歩く。地下に降りる階段を数段降りて木製の扉を開ける。そこは馴染みのカフェで、席につきコーヒーとドーナッツを注文すると買ったばかりの本を取り出して読み始める。

コーヒーが運ばれてきたところで一度顔を上げてスマホを見ると、友達から連絡が入っていた。
「来週の土曜あいてる?」
カレンダアプリをチェックして返事をする。読書を再開。
ドーナッツが運ばれてきたところでもう一度スマホを見ると返事が来ていた。
「久しぶりにご飯に行こう」
もう一度返事をしてまた読書を再開。

コーヒーを啜り、ページを捲る。本は濡れていないけれど湿気っていて、ページを捲るたびに書店の紙のカバーに手の型が残る。ドーナッツを食べ終わってしまい、コーヒーを飲み終わってしまうまでのほんの少しの間の贅沢。
ひとりのようでひとりではなく、雨は降っているけれど濡れてはいない。雨の月曜の夜、週明けは寄り道で始まった。
(続く)

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