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ぼくの足は、あんなにあがらない

 われわれ運動音痴にとって、柔軟性ってやつは鬼門だ。学生時代、前屈で地面に手がつくことはななかったし、背中で手を組むこともできなかった。おもわず悲鳴があがるレベル。開脚? なにそれおいしいの。

 だからだろうか。サッカーなどという複雑怪奇な競技のなかで、しなやかにからだをあやつる選手を見ると、無条件に心をもってかれる。

 山﨑大地さんは、ぼくの心をうばいさった選手のひとり。ホントにしなやか。身のこなしにこわばったところなんて、なにひとつ見つからない。じつに上手にからだをつかう。アジア大会では、その様子をおもうぞんぶん堪能できた。

 やっぱり目を見張るのはビルドアップ時。立ち位置をとるときの足運びが、とにかく軽くてしなやか。多少味方のパスがよれても、パッとまわりこんでおさめられる。アジア大会のあいだ、ぼくはその足運びに目が釘づけだった。サイドステップやバック走、いろんな方向の足運びを瞬時にそして正確にえらび出し、こまかく、自由自在に立ち位置を微調整するのを、じっと観ていた。ときには、ロングフィードをたくらむ相手DFに足の運びのリズムをあわせなおしたりもしてた。

 うつくしい。いやはやなんてすばらしい身体操作術か。ぼくなら足がこんがらがって、固結びにでもなってしまいそうだ。

 山﨑さんって、足、こんなあがるのよ。

 ため息。断言しちゃう。わきでるようにくりだされるあの軽やかな足運び、その源泉はこのしなやかな股関節まわりにある。あと、彼のノビのいいフィードにもいきてるんだろうなあ。ほんと見惚れるくらいにイヤになる。

 ここ数年、ぼくは運動音痴ながらにストレッチにだいぶ時間をついやしてきた。40の大台にのってただいま絶賛厄年中だが、しなやかさって意味では人生史上いまがいちばんだ。でも、山﨑大地さんの足運びを目の当たりにすると、もうなんだかすべてをほっぽりだして「山﨑さん観てりゃいいか」って気分にさせられる。ぼくのかわりに、ぼくのぶんまでしなやかであっておくれ、って。……いやプロのアスリートと運動音痴のオッサンくらべんなよ、って話ではあるんだけど。

 あぁ、今日ぶんのストレッチ、さぼっちゃおうかな~。

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