やんちゃな読書家

流行に疎く、勉強も運動も苦手な娘。
学校にはほぼ友達がいないので、
どんな友達が欲しいかと娘に尋ねたら、
「好きなものを強制したり仲間はずれにしない子がいい。出来ればお互いの好きな本の話とか出来る子だったら最高」

高校入試の話になり、成績に従って
受験できる高校が決まるらしいよ、
このままの成績でいける学校があるとするなら
やんちゃな子の割合が少々多い学校になるかもね
なんて話になったんですが、すかさず娘は、
「どんなやんちゃな子でもいいよ。好きな本があるといいな」と話していた。
その返答を聞いた私は、
校舎の裏とか公園の隅とかに呼び出したりして、
取引みたいに本貸し借りするのかな、
なんて、和山やまさんの世界観でつい勝手に
想像しては可笑しくて、一人笑ってしまった。

しばらくして、ふと、
旦那の血の繋がらない兄弟の末っ子の
近況を思い出した。

彼は、高校入学後すぐ自主退学し、
そのまま家を飛び出し上京し仕事に就いた。
初めて私が彼と会ったのは、
彼がまだ10代後半であったと思うが、
旦那と私が同棲している家に
遊びにきてくれた日だった。

彼は『愛』という漢字がデザインされた
白いビッグスクーターに跨り、
眉毛が無く、金髪で襟足だけが長くて赤かった。

私の知り合い史上、
一番、東リベな見た目だったが、
中身は寡黙でとてもシャイだった。
夕飯の後も話し込んでしまい、
遅くなったから泊まっていきなよと、
ちょっとマシめな
旦那のパンツとTシャツを手渡すと、
言う通りお風呂には入って出てきたが、
お風呂上がりの彼の襟足が
びちょびちょだった。
「もうちょっと拭いた方がいいよ」というと、
大人しく拭かせてくれた。
髪の毛が傷んで絡まっていたから、
櫛でとかしている間も痛かっただろうけど、
ただ黙っていた。

その夜はシングルの布団2枚敷いて、
3人で眠った。

これが、彼単体との唯一の思い出のなんですが、
旦那の妹が話してくれた彼の近況がまさに
娘の求めるそれだった。

彼のもっぱらの楽しみは、読書だという。
退勤即帰宅、ゆっくり家で小説の続きを楽しむ、
そんな生活を毎日送っているそうだ。
10代からずっとこんな調子で、
ほとんど遊びにも行かず働いてきたから、
貯金の総額も相当なものだとか…。

望むのは、
今後の娘の人生に、彼のような読書家の友人との
素晴らしい出会いがあって欲しい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?