見出し画像

「1917」感想(今回はネタバレなし)

今回は1917。
今回はネタバレなしです、って言ってもいいと思う。

個人的に期待通りの出来栄えだったと思うのだが、余韻というか後から振り返ったときの感情がいわゆる「戦争映画」を見たときと違っていた。
言語化にくいのだが敢えて言葉にするなら爽やかさとかほんのりとした寂寥感なんかが近いだろうか。
この違和感を軸にしながら、述べていきたい。

また本作はワンカット(風味)が話題になっていたのだが、映像については技術的には構語りつくされている印象。
なので技術的な話というよりは、自身の感覚にどう影響したのかという観点で触れてみたい。

リアルでなくリアリティ

まずは目玉の映像についてから。
ワンカット(あえて繰り返すけど風味)やセットの作りなどから徹底的にリアルを追求したというイメージでいたが、これを見事に裏切られたと思っている。

燃え盛る街、桜の花弁の折り重なる河岸、背をもたれる一本木からの草原、どれも戦場のリアルとは似つかわしくないような感覚を覚えた。
※自分が西部戦線の何を知っているんだという話はあるけど

だが、この絵こそが相応しいという納得感しかない。
その映像は神の目線でなく、多分に主観的だったからだ。
僕は完全に一人称の目線ではないが限りなく近しいものとして、主人公であるスコフィールドから見える景色として見た。
そう思うと、これで正しい。

この段の小見出しにしたリアルとリアリティの話になるのだが、僕としては作品としての調和があるか納得感があるかが僕はリアリティがあるか、あるいは優れているかを決めると捉えている。
その意味では彼の見た、感じた心象風景として捉えたとき微塵も不自然さを感じなかったという点において、満点のリアリティであった。
そして、その幻想的な雰囲気が印象を決定的に変えるものになっていると思う。

リアルとリアリティの話は個々人によって違うし、もっと細々と自分にも思うところはあるが、それだけで一本書けてしまいそうなので、ひとまずはここまで。

愚直という美徳

次に主人公スコフィールドの心の内について思いを巡らせてみる。

そこで彼を彼たらしめてあるのはその愚直さであろう。
時代遅れな美徳かもしれないが、それが心を打つ。
彼は自らを誇らない、 無駄に多くを語らない(語る相手がいないのではあるけれど)、ただ黙々と任務に邁進する。
だから、彼の使命感は極めて「命令を受けました」という自然体の延長線上にある。だから悲壮ではあっても悲惨ではない。
作中で彼はいくつもの葛藤に突き付けられるが、己の中の葛藤は己で決着をつける。
結果として見る者は、その境遇を受け止めながらも、無駄に推し量らず、彼の中に没入していく、いやさせられてしまう。
そこでは戦場の不条理は心理の外側にあり、ただただ使命を果たす、そこに焦点が当てられていく。

等身大の英雄譚

そして物語として見るとどうか。

いわゆる戦場の現実を描く映画は往々にして陰鬱さが付き纏うものだと思う(それが良い悪いを別にして)。
それは戦場と同時に登場人物がごく普通の人であることが多いからではないかと。

一方でスコフィールドはただの兵隊ではない。
彼が戦場にどれだけの影響を与えたかという点においては、落ち着いて考えてみれば、そこまで大きな働きをしてはいない。
言い過ぎだとしても極めて限定的であるとまでなら言ってもいいだろう。
しかし、彼の足跡を辿ってみれば、限りなく困難な任務に就き、それをパーフェクトな形ではなかったにせよ、成し遂げた。
その点では間違いなくヒーローと言っていい。

スコフィールドが英雄になる、その過程を観客としてながら共有したから、あの犠牲も、戦争という悲劇もどこかで救われた、そう感じるのだ。
現実はそう単純ではないし、たった一人の英雄が全てを救済などできないことは解っている、それでもこのストーリーの結末として「ああ、良かった」と思ったのだ。

物語は決してハッピーエンドではない、それでも救いはあった。

ふわっとまとめてみて

最後に振り返ると思うのが果たして、この映画は「戦争映画」だったのだろうか?
一昼夜という短い時間を切り取った話でしかないが、そこには別れがあり、出会いがあり、アクシデントがあり、ゴールがある。
この要素を集約すると実は「ロードムービー」だったのではないかと思う。

いや、映画をこうやって区分すること自体がもう古いのかもしれない、あるいはそもそもナンセンスなのかもしれない。

以前に評した「パラサイト」なんかも典型的に、どんなジャンルの映画?と聞かれたら、答えられない。
サスペンスでもありブラックコメディともヒューマンドラマとも。どう答えても正しいし、間違っているように思う。

優れた作品は往々にして、見る人が作ったジャンルなどという壁を簡単に飛び越えていくものなのだろう。


思った以上に書けてしまったので、一つ一つのエピソードについてはここでは触れない。いや思いの外書けてしまったので「残りは劇場で!」という気持ちと言おうか。
単なる戦争の現実を描いたのでもなく、かと言ってスペクタクルに描いたのでもない。
寧ろ戦争ではなく、戦場で一人の人間が生きた一日の記録として見てほしい、そんな思いでいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?