お金のためじゃない

 私は新興宗教で教祖の世話係をしている。組織は約10人で構成されていて、一応ナンバー2だ。ちなみに序列は加入順であって年功序列ではない。
 教祖は自分は神の子だとか水の上を歩くとか、死んでも復活するとか俄かには信じがたいことを日頃から吹聴している。彼と似たようなことを言う新興宗教の教祖はたくさんいるのだが、うちの教祖は図抜けて人気があり信者も多い。長い髪に長いひげ、やせ細った頬といった絵になる容姿がカリスマ性を醸し出していると思う。実際肖像画は人気で高く売れる。加えて声もいい。
 私が思うに「本物感」が他とは違うのだ。見た目が質素で粗末なものを食べて、いかにも常に人々のことを考えてそうだ。

 これは大きな誤りだ。日頃の食卓には豪華な食材が並ぶ。貴族並みだ。しかし教祖はパンは嫌いで肉や魚ばかり食べる。加えてビールでなくワイン派。つまるところ、彼が痩せているのは炭水化物や糖質を取らないと言うそれだけの理由だ。おのずと私は彼が食べないパンを食べ、ビールを飲むことになるので私の体型はカリスマ性をどんどん失っている。

 出会ってすぐの頃、私は晩餐の席で教祖に尋ねた。当時から彼はワイン、私はビール。「教祖は死んだら善行をした人は天国、悪行をしたら地獄に行くっておっしゃってますが、どう言う仕組みであの世にいくんですか?そもそも誰しもが善行も悪行をすると思うんですよ。そう簡単に1か0かって分けられなくないですか?」教祖は声を荒げた。「そんなことわかってるよ。そのルールづくりはこれからみんなで考えていこうって話でしょ?そもそも逆に死んだら全て終わり!あなたの人生全部無駄wwwって言って誰かがこの宗教の信者になると思うの?誰がお布施をくれるん?答えろよ!」「え、つまりそれは知らないってことですか?」「当たり前じゃん。だから俺だって自分が神とは名乗ってない、神の子ってのは神じゃないからわからないこともたくさんある、と言う保険なわけ。」

 一瞬声を荒げたあと、いつものいい声に戻って教祖は続けた。「でもさ、なんかみんなの前で神の子って言ってると本当に神の子になったような気がするし気分がいいんだよね。そう言う生き方ってありじゃないかな?俺が信じて断言して言ってればみんなも、あいつの言ってること本当っぽいな。信じてみよう!お布施を払おう!って感じでこの辛い世の中を生き抜く希望を持てるじゃん?ギブアンドテイクな訳。」

 あくまで自分の生活のための活動。そう割り切る教祖がとても頼もしく見えた。しかしそれを快く思わないものもたくさんいる。前途は多難だが、私はこの教祖を支えて世界一の宗教を作るんだ。そう誓ったのだった。

 

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