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4Kデジタルで蘇る、映画の父の作品群_『リュミエール!』作品レビュー

こんにちは、夏目です。

1月は映画前史をお届けしているラジオ。
今日は「物語る映画」をテーマに、映画が機械の発明から見世物へ、そして語る装置へと変化していくまでを話しました。

昨日紹介した『グレイテスト・ショーマン』がハリウッド大作だったので、今日はまた随分コアな作品紹介になるなぁ、、と思うのですが、本日は映画の発明者としても名高いリュミエール兄弟が撮影した初期作品を堪能できる1本、ティエリー・フレモー監督が2016年に製作した『リュミエール!』を紹介したいと思います。

100年以上昔に撮影された作品なのですが、4Kデジタルで蘇った映像は本当に美しいんですよ!

私は古典映画を楽しむためには「画質が荒い」というハードルを越える必要があると思っています。ガビガビのモノクロ映像というだけで、ちょっと興味が削がれてしまう人もいますよね?

今やiphoneの画質がアレですからね。ガビガビなんて耐えられない!その気持ちも分かります。でもこの映画は画質のハードルはクリアしているので、
余計なストレスを感じることなく初期映画を楽しむ事ができるんですよ。

■リュミエール!
2016年製作/90分/フランス
監督:ティエリー・フレモー
ナレーション:ティエリー・フレモー

【ストーリー】

1895年12月28日パリ、ルイ&オーギュスト・リュミエール兄弟が発明した
“シネマトグラフ”で撮影された映画『工場の出口』等が世界で初めて有料上映された。

全長17m、幅35mmのフィルム、1本約50秒。
現在の映画の原点ともなる演出、移動撮影、トリック撮影、リメイクなど多くの撮影技術を駆使した作品は、当時の人々の心を動かした。
そんな1895年から1905年の10年間に製作された1422本より、ティエリー・フレモー氏が選んだ108本から構成され、リュミエール兄弟にオマージュを捧げた珠玉の90分。

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リュミエール兄弟が発明した当時、映画は「1本約50秒」という時間制限の中にありました。「よーい、アクション」から「カット」までが50秒。その間カメラはその場に固定されていて動くことはありません。

つまりスクリーンの中の50秒は現実の50秒と同じでした。

ここからカット割りや映像の文法が発見されることで、映画が「時間と空間」を手に入れ、物語り始めます。

このように書くと、まるでワンシーン、ワンカット50秒時代の映画が、今の映画と比べると劣っているように感じてしまうかもしれませんね。

でもね、それはちょっと違いました。
確かに50秒時代の映画と今の映画を、物語る内容という観点で比べると今の映画のほうが時間的空間的広がりは遥かに広くなっています。

ところが、カメラが動き出す前のリュミエール兄弟作品には「映画で何を語るのか」「どう語るのか」「そのためにどこにカメラを置くのか」という映画製作者が初めに考えなければならない重要事項が熟考された結果が映っていたのです。

リュミエール兄弟と言えば映画を発明した人物、世界で初めて映像をスクリーンに投影した人物、映画の父として有名なのですが、私は「リュミエール!」を観てリュミエール兄弟は発明家であると同時に芸術家なのだと分かりました。

発明家の興味の対象は発明した機械の仕組みにグググと寄っていますよね。実際エジソンが発明した「キネトグラフ」と「キネトスコープ」は機械が重すぎて、カメラを外に持ち出すことが出来ませんでした。つまり被写体の重要性はそれほど考えられていなかったのではないでしょうか?
それに比べ写真家でもあったリュミエール兄弟の興味は、カメラが映し出す映像そのものにもあったと感じます。

「リュミエール!」ではリュミエール兄弟が1895年から1905年の10年間に製作した1422本の作品から、ティエリー・フレモー氏が選んだ108本を楽しむ事ができます。1本50秒なので、どんどん画面は変わっていくのですが
どの作品もフレームの中がきちんと設計されていて、映像を観る愉しみ、喜びを感じることが出来るんです。

例えば観客がスクリーンから列車が飛び出してくるのではないかと思って逃げ出したなんてちょっと”盛った”逸話をもつ「列車の到着」のカメラ位置の完璧さには驚かされること間違いなし。
ナレーションをするティエリー・フレモー氏の言葉通り、モクモクと湧く煙によって画角に立体感が出ています。

最古のホームビデオと言われるリュミエール一家の映った「赤ん坊の食事」には赤ん坊と子供を愛でる両親という家族の姿が瑞々しく表現されています。

サザエさんで有名な長谷川町子さんが描くような、昭和の4コマ漫画の香りを感じるコメディ映画「水をかけられた散水夫」は動き回る登場人物によって画面の奥行きを際立たせるという演出が行われていますし、

飛び込み台から次々と海に飛び込む子供たちを映した「海水浴」の躍動感は眩しいくらいなんですよ(そしてナレーションをしているティエリー・フレモーの「そんなことより変な水着だ」の一言ね 笑)

オーギュスト・ルノワールの絵画を思わせる「妹と従妹にぶどうをあげる少年」は絵画を参考にしたと思われる人物配置を感じます。そして、50秒というタイムリミットが子どもにもたらす使命感はとっても可愛らしい。

100年以上前のヴェトナムを移動撮影によってとらえた作品が映し出すのは、好奇心で輝く女の子の視線です。

とにかく1作1作が美しく、面白く、発見があり、ティエリー・フレモーのナレーションも心地よいので、書き出したい作品ばかりなのですが、そこには、たった一つのフレームと50秒という限られた世界で映像の力を最大限に表現しようとした映画作家リュミエール兄弟の存在が色濃く映し出されているのです。

リュミエール兄弟が制作した映画と今の映画を比べて、今の映画のほうが優れているなんて事は全くありません。

もしかしたら、50秒勝負ならリュミエール作品のほうが魅力的な可能性は十分にあります。
もし一緒に映画製作を取り組む仲間ができたなら、カメラマンとは是非リュミエール兄弟の作品についてディスカッションしたい、そんな風にも思いました。

映像の力を改めて感じる。
そして私にとっては「映画で何を語るのか」「どう語るのか」「そのためにどこにカメラを置くのか」を考えさせられたのが「リュミエール!」でした。

「リュミエール!」U-NEXTで配信中。Amazonプライムではレンタルで視聴可能です。
予告はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=F9R3vX0lAsE

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