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  • 本屋パロール(Books Parole)

    不遜にも「本屋」を名乗っておりますが、実形態はありません。 ずっと、在り方を探り続けています。 http://parole-sayuridaikuzono.tumblr.com tumblrに、言葉を落としています。

最近の記事

Tumblrに掲載した文章 2023.5.22 AM4:23

 夜、少し歩いた。西の空に、切った爪の欠片みたいに細い月が浮かんでいた。一昨日から、喉に違和感がある。乾燥して痛めたのかと思い込んでいたけれど、咳が出始め声が掠れてしまい、夜に微熱が出た辺りでやっと、風邪を引いたらしいことに気付いた。葛根湯を買いに行くつもりで部屋を出た。夜気が心地良い。現状をまだ、風邪の引き始めと捉えてよいのか、ぼんやりと考えながら、細い月を見上げた。バニラアイスも買おう。ありがたいことに熱は下がっているけれど、無性に食べたくなっている。葛根湯とバニラアイス

    • Tumblrに掲載した文章 2023.05.03 AM3:11

       波の音が聴こえた気がした。潮の匂い、真っ暗な砂浜。脳裏で昏い波の音が騒めく。海の街に住んでいるのに、随分長いこと、海を見ていない。午前二時。歯磨きをしたあとに、注いだまま忘れていた緑茶をすする。五月に入って晴天が続いている。それでも、夜は足先が冷えて肌寒い。明日か明後日には、墓参りに行こうと思う。五月五日。母の命日が今年も来る。三十年が経とうとしている。母が若くで亡くなったことも、三十年経つことも、母の年齢を五歳も超えてしまったことも、何もかもが、なんだか嘘みたいだ。  

      • Tumblrに掲載した文章 2023.03.21 AM0:38

         午前0時になる8分前。ホットミルクに匙一杯の蜂蜜を入れて飲む。口に含むたびに舌がほのかな甘みを探す。甘味と香りが鼻に抜ける。棚の上からこちらを見下ろす猫は眉間に薄く皺を寄せていて、なんとも感情の読めない顔をこちらに向けている。見つめ返すと視線を逸らすのはいつものこと。どうした?   午前0時2分、いや3分になった。雨になるという天気予報をふと思い出したのは、蛙の声が聴こえてきたからだ。鳴いたり止んだりを繰り返している。蛙が鳴き止んで、静けさが瞼に膜を張る。その重みに促され

        • Tumblrに掲載した文章 2023.03.10 AM7:37

           午前6時を示したあとの秒針が盤面を滑っていく。ごみを捨てるために扉を開ける。夜中の雨をしっとりと含んだ外気を吸い込む。市道沿いの通りに出て目を上げると、細く、薄くたなびくように霧が広がっていた。  話し声が不意に耳に飛び込んできて霧から視線を移すと、40、50メールほど先、道路を挟んで反対側の歩道にスマホのディスプレイ画面が光っているのが見えた。ご夫婦だろうか、それともたまたま鉢合わせたご近所さん同士なのか。しばし立ち止まって話をしていた様子だったが、わたしが15メートルく

        Tumblrに掲載した文章 2023.5.22 AM4:23

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        • 本屋パロール(Books Parole)
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          Tumblrに掲載した文章2022.11.29 AM0:42

          あ、いうえお かきくけ、こ さ、し、すせ、そ たのしい、な、にぬねの はれるや はれるや、ゆ、よし、よくできました らしくないかしらりるれろ、らしくないわ、を、ん はじめまして、と、 て、と、た、ちつてと、っ、とっと よろしくどうぞ、こんにちは ひふみよいつむななやくとう、とう ふみをつづるひ、ふへほ、はひふへほ、はひ あそんでいたら、ひとりぼち ひとりぼっち、り、ぬる、を わかよたれそ、つねなら、む むかしむかし、あるところ、に おじいさん、

          Tumblrに掲載した文章2022.11.29 AM0:42

          Tumblrに掲載した文章 2022.08.09 AM3:44

          2022.08.08 夕刻。 枕崎市の風景です。 綺麗でした。 届きますように。

          Tumblrに掲載した文章 2022.08.09 AM3:44

          Tumblrに掲載した文章 2022.08.07 AM4:50

          この、脆く弱い愛が、わたしの愛ならば このままで、目の前のものを、愛し続けたいと思った 誰の支えとなることの出来ぬ祈りであったとしても 思いのままに、ただ、捧げたいと思った お前など要らぬと言われたとしても 微笑んで、受け入れたいと思った 涙を止められないときの己れを もう、無闇に罵倒するのだけは、やめようと思った 誰かが、わたしを優しいと言ってくれる、そのことばを 本当は優しさなどでは無くとも 感謝して、受け取りたいと思った 「違う」を飲み込んで、「ありがとう」と 優しさ

          Tumblrに掲載した文章 2022.08.07 AM4:50

          Tumblrに掲載した文章 2022.08.03 AM4:17

          不意に髪に絡んだ枯れ葉が、うまく取れない こどもの頃に時折襲われた、心許ない、理由のわからない不安が、不意によみがえった こらえる涙腺を緩めようとする不安 押し殺していたかなしみが零れ出す 気付かないふりが出来ずに咄嗟に掴み隠す 台風が間近を過ぎたあとの、吹き返しの突風が、底から巻き上げるような強さで、この身を包み振るわせ過ぎてゆく 風の音が、木々の葉擦れが、耳の奥を満たして塞ぐ 滞っていた感情が、からだから引き剥がされて、風に絡めとられる うねる枝葉の向こうの、空の青さ

          Tumblrに掲載した文章 2022.08.03 AM4:17

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.29 AM10:30

          この、雨が上がった刹那の 雲の切れ間から差し込んだひかりに輝く、雨粒を湛えた夏の野原を 向こうの海原に、空から幾つも架けられてゆく梯子を 疑えずにいる天使の眼差しを ささやかなこのひとときをひとつひとつ言葉にしていって 何故、それらが貴方に届くと、信じているのだろう 信じてしまうのだろう 最後の忘れもののように頬に落ちてきた雨のひとしずくが首筋を伝う 呼応する雨粒たちが、空に還る日を誓い合っている 誓い合う声のひとつは、喉元から、わたしの声となってこぼれそうになる わたしの

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.29 AM10:30

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.25 PM10:02

          遠く、どこまでも広がる、その伸びやかな歌声を笑顔で見送ったあと、 寂しさで胸が詰まりそうになって鳩尾に思わずてのひらを当てると そこに、見送ったはずの歌がいた 胸の奥深く、歌声は確かに刻まれていた 生々しくて、けれどもどこまでも軽やかで ふと、笑みがこぼれた 刻まれた痕をなぞるように、そっと歌ってみた メロディーをリズムを詩を抱きしめて、口遊みながら、ぎこちなく舞う 手を取られるままに、ぎこちなく踊りながら 歌声の伸びて行った先には、種蒔く人が手を止めて、こちらを見ている

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.25 PM10:02

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.18 AM3:47

          廻り続けるメリーゴーランド 幻想的な浮遊の感覚は、いつしか現実のものとなり 分離した馬はともに旅する友となる 華やかな装飾から離れてきてくれた、物言わぬ友よ その身のきらびやかな装飾を外し、旅の装いでともに歩もうとしてくれる友よ 人と仲良くするのを続けるのが下手くそで、いつも最後には愛想を尽かされてばかりの僕に 君は、君は。 君は僕の首根っこを口で咥えて、背中に乗っけようとしてくれるけれど 歩みが遅くなってしまうのを許してくれるなら 並んで、歩いて行きたいんだ この旅の終

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.18 AM3:47

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.15 AM10:24

          隣の大叔母宅の庭で、いつか、 もう遠い、遠い、いつか、一輪の薔薇が、密やかに花をつけた。 小さな、手入れの行き届いた庭で、そっと、あかりが灯るように、咲いていた。 白を散りばめる野ばらが、囁きと沈黙を同時に湛えているように、 大叔母が丹念に手を懸けていたその薔薇も、 何かを話したげな、けれどもどんな言葉も無為にしてしまうのではないかという躊躇いと遠慮深さを、その身に淑やかに纏い、佇んでいた。 問い掛けたら、わたしも、薔薇の声を聴けただろうか。 けれども、大叔母の眼差しと、指と

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.15 AM10:24

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.10 AM5:43

          清く美しく生きたかったと、時折、思う。 わたしの足元は、泥水でぬかるんでいて、 つまづいて、顔も服も手も腕も足元も、泥まみれ。 ずっと泥まみれで、笑っている。 これが、ほんとうのわたし。 笑えている、笑えている、あなたに微笑む。 泥まみれのわたしが、あなたのために祈る。 ぬかるみにひざまづいて、あのひとのために祈る。 泥にまみれながら笑みを浮かべる人生を選んで、生まれてきたのだ。 誰かがわたしを、綺麗だと言ってくれた。 あなたも、綺麗だと言ってくれた。 あのひとも、綺麗だと言

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.10 AM5:43

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.06 AM5:50

          その日の午後、自宅の裏手を揚羽蝶が、ひらひら舞っていた。 揚羽蝶は、黒く縁取られた羽の内側に、青を、快晴の空を水面に映し込んだときのような、黒に縁取られた澄んだ青を纏わせ、揺らめいていた。 六月末日。 日蔭からからだを、ひなたに放つ。蝶と共に。 例年よりも随分と早い、気象庁からの梅雨明けの発表が、この街にも、六月下旬に届いていた。 短い梅雨を追いかけて行こうとするかのような紫陽花。 目前に示された夏を見つめ返し、感受する向日葵。 羽を閉じるたびに、黒に青が秘匿さ

          Tumblrに掲載した文章 2022.07.06 AM5:50

          Tumblrに掲載した文章 2022.06.21 AM9:34

          鍵盤の閾値を隙間を外側を揺らす雨粒、虹纏う指

          Tumblrに掲載した文章 2022.06.21 AM9:34

          Tumblrに掲載した文章 2022.06.17 AM2:50

          愛されたいと叫び喚いているあなたは、きっと こんな自分では愛される未来などないと思っていて わたしの腕など求められていないかもしれないと それでも、あなたの背中に手を伸ばす 抱き締められないのは、わたし自身の臆病さ 泣き喚く誰かを、なぜ、簡単に笑えるの? 誰かを愚かだと嘲笑って、なんになるの? 叫び喚いているそのひとのなかからこそ、美しい何かを見出して 目の前に差し出さなくてはいけないのに その身に降り注いでいる愛を、そのこころが捧げたい愛を そのひとが見失わないように

          Tumblrに掲載した文章 2022.06.17 AM2:50