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MLBのサブマリン、T.ロジャース

SFジャイアンツのタイラー・ロジャース

一風変わった投げ方のピッチャーが好きな自分にとって、アンダースロー(アンダーハンド)は貴重で愛すべきもの。日本でも何人かの投手がプレイしているが、アメリカにも少なからずアンダーハンドは存在している。その一人がサンフランシスコ・ジャイアンツ所属のT.ロジャース。「地面スレスレから投げるアンダースローは日本にしかいない!」という思い込みを打ち砕く、本格派のサブマリンだ。

今シーズンは60試合に登板して4勝1負、防御率 1.95、WHIP 1.09と安定した成績を残している。投球回数は60回なので、主にリリーフとして起用されていることがわかる。投球の割合はフォーシームが55%、スライダーが41%、シンカーが3%。典型的なアンダーハンドだと言えるだろう。3A時代にはイニング数を上回る奪三振を記録することもあったそうだが、近年は打たせてとるスタイルにシフトチェンジをしつつある模様だ。また、今シーズンのBB%は3.8であり、滅多に四球を出さない投手でもある。

牧田との比較

さらに特徴を深堀すべく、日本人投手と比較してみることにする。今回取り上げるのは、2018年にパドレスでプレーした牧田(現・楽天、元・西武😭)。スタットキャストにデータが残っていることから、まずは数字上の違いを見ていくことにしよう。

スタッツの比較(牧田2018、ロジャース2021)

ロジャースのフォーシームの平均球速は82.5mph (132.7km/h)、牧田は80.6mph(127.7km/h)。スピンレートは前者が1883、後者が2021となっている。Whiff%(空振り率)はそれぞれ9.3、29.9となっており、球速こそ劣るものの、牧田の直球の方がよりスピンの効いた、空振りの取れる球であったことがわかる。なお、被打率に関しては牧田の方が低いが、被長打率では逆にロジャースが優っている。このように、フォーシームのスタッツのみに着目すればやや牧田に分があるように思われるが、牧田の防御率は5.40(35イニングス)。シーズンが違うので一概にはいえないが、ロジャース(1.95/60IP)の凄さが際立っている。その大きな理由の一つに挙げられるのが、ロジャースの決め球である 「ライジング・スライダー」。変化球を低めに散らしつつ高めのストレートを中心に組み立てる牧田に対し、ロジャースは真っ直ぐを低めに集め、高めのスライダーを決め球とする投球スタイルを基本としているのだ。このスライダーが凄まじく、被打率は.126、Whiff%は24.2となっている。被長打率も.253となっており、高めに投げ続けてもそう簡単には打たれないボールであることが分かる(牧田のフォーシーム被長打率は5割近い)。

アンダースローの代名詞といえば高めの真っ直ぐのイメージだが、ロジャースはその例に全く当てはまらない。アッパースイング全盛と言われて久しいMLBだが、アンダースローがその中で生き残るためにはこのような投球スタイルが求められるのかもしれない。

フォームの比較

リリースポイントは両者ともに同じくらいの高さだが、決定的に違うのは上体の高さ。牧田が全身を沈み込ませて投げているのに対し、ロジャースは下半身の位置をほぼ変えていない。ほぼ上半身だけで投げているといっても良いくらいだ。リリース時の右足を見てみると一目瞭然。なんとロジャースは地面から離している。日本人的にはあまり綺麗な投げ方ではないように見えるし、そもそもこんなフォームに耐えられるメカニズムを持っている人などプロであってもそうそういないだろう。

先程のスライダーを実現しているのは、この独特なフォームなのかもしれない。頭の位置から見たリリースポイントに着目すると、牧田が斜め下45度程度なのに対してロジャースはほぼ垂直。あくまで仮説に過ぎないが、ここから上体手動で擦り上げるようにしてリリースするからこそ、あのような軌道のスライダーを投げられているのではないか。牧田は体全体を使って横回転で投げるタイプのアンダースローだ。このフォームでは回転数の多い綺麗な直球が投げられるものの、スライダーはあくまで「ぬく」ようなイメージでのリリースになり、フリスビーのように曲がっていくことはない。このようにフォームの違いもまた、彼らの異なるピッチングスタイルに影響している可能性が高いと言えるだろう。

終わりに

アンダースローは奥が深く、日本に限っても多くのバリエーションがある。メジャーリーグのアンダースローは大体がロジャースのようなフォームで投げているので、彼らの投球をみる機会があれば是非こちらの記事を参考にしてみてほしい。

マネーボールにも登場したブラッドフォード


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