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原作『私を離さないで』とドラマを重ねてみて

予防接種をした今日は、大事を取って仕事を休んだ。ゆったり過ごさねば。
なので、夫が結局挫折した「私を離さないで」の原作を読むことに。
ドラマ版は残念ながらリアタイでは観ていなくて、今になって思えば悔いが残る。

あの日以来ひたすら春馬さんの作品を探す毎日の中、このドラマに出会った。
原作がカズオイシグロだということだけ以外、予備知識もないまま観始めたけど、音楽もなかなかの重厚感があり涙なしでは観られなかった。この涙は、現実の出来事とも重なり、号泣していた記憶がある。それなのに何故か観ることをやめられなかったドラマだ。


久しぶりにドラマでみた春馬さん。「?三浦春馬ってこんなだったっけ?」という思いとともに、まさにトモでしかない春馬さんにあっという間に惹きつけられ、何回も何回も夜更けまで観る日が続いた。とても辛かったのに、泣きながらなのに、何故か何回も観てしまっていた。(時々、春馬さんが顔を覗かせたりして。例えば、恭子を見つめた時の笑顔や、のぞみが崎からの帰りの電車をまつシーンや車の中での手の握り合い。←強く印象に残っているシーンの一つで、これはお芝居だろうけど、春馬さんにしかできない手の演技だ!と実感するもの。回復施設でサッカーして苦しむところなんかも、顔を真っ赤にして本気で痛いお芝居している!)

そして、とても難しいテーマについてのお芝居をする春馬さんを観る度に、やっぱり春馬さんて凄い人だ!とありきたりな感想ではあるけれど改めて思った。と同時に、誰かを思い浮かべて他の人ならと想像するのだが、やっぱり春馬さんだからこのドラマは成り立ったのだ、他の誰にもトモは演じられないだろうなと思うのだ。

ドラマの冒頭、潮が引いていく映像は、過去の記憶を振り返る恭子の語りを意味しているのだろう。そして、切ない音楽と共にドラマは始まる。サントラ版によりBGM『私を離さないで』は今も日常にある。
こうしている今も、頭の中で流れている。

さて。

原作もキャシー(恭子)の過去を振り返るところからはじまっていた。

何回もドラマを観ていたお陰で、キャシー、ルース(美和)、トミー(トモ)をドラマのキャストと置き換えて読むことができた。
原作の中で三人の関係は、意外にもあっさりと描かれていたので、キャシーとトミーのお互いに対する愛も、キャシーとルーシーのお互いに対する友情や怒りも、自分の感情を揺さぶられる事なく読み進めることができた。

ドラマでは、感情移入してしまい、恭子にイライラしたり、美和にイライラしたり、トモにイライラしたり、そしてそれぞれの思いに共感して辛くなり、切なくなり、ついざわざわしてしまう事が多かったが原作では、割と淡々と話は進み、そのような事はなかった。
でもトミーが、トミーはトミーのままでいいのだ。とルーシー先生と話をしてだんだん成長していくところから、いつの間にかキャシーに哲学的な表現で語るところなどは、ドラマのトモと重なり、春馬さんの顔が思い浮かび、恭子を想う繊細な表現を思い出しとても愛おしくなった。
ルースもやはり身勝手ではあるのだけれど、本音はキャシーの事を大好きだということが、よくわかった。
キャシーの方が、ドラマの恭子より感情的で、どちらかといえばドロドロした感情を誰よりもっていたのかもしれない。

エミリ先生(恵美子先生)の気持ちは、マダムさんの気持ち同様、終盤で描かれていて、フィクションなのにノンフィクションのような、将来起こりうるかもしれない事に関しての本来の人の気持ちのあり方に、とても共感できた。これはドラマでも麻生祐未さんの迫力あるお芝居で、十分に伝わってきた。
「あなた方は天使なのです」そうでなければ救われないのだ。

結局、キャシーとトミーは提供者と介護人の関係を解消してしまう。トミーは最期を愛するキャシーと迎えたくないからだった。キャシーとトミーの関わりはそこでおわってしまう。結局トミーの使命は他の介護人のもとで終わりを迎え、キャシーは使命を終えたことを聞くことになるのだ。
ドラマでは、トモは恭子に最期を託す。一度は自暴自棄になり別れるものの「とっくに夢は叶っていたんだ」と穏やかに恭子と向き合い最期を迎える。トモの愛する人と最期をという気持ちにとても共感したし、トモは幸せだったと思えるドラマの終わり方に、辛いのだけど唯一の救いがあった。そして、春馬さんの彼ならではお芝居の素晴らしさを実感した。
ドラマでは、恭子とトモと美和のの微妙な心の移り変わりが段階的に丁寧に描かれていたと思う。
恭子とトモの好きあっているのに、美和に壊されてしまう、だけども、ずっとお互いを想っている。

トモの繊細さ純粋さを演じきった春馬さん、聡明で冷静な中にも感情の抑揚を表現し切った綾瀬さん、原作とは少し違うけれど、美和の憎らしいほどのワガママと素直さを見事に演じた水川さん。
他の皆さん方も、本当にぴったりのキャスティングだった!このドラマはまさに名作だと思う。

原作にはないけれど、ドラマの重要な役どころに「真実」がいる。私は家畜ではないと訴えながら命を落としていく。
そして「恭子!私を離さないでよ」と泣き叫びながら手術室に運ばれる「美和」。
深く考えさせられる。
辛い。辛いシーン。

人間とは?命とは?愛とは?希望とは?

原作を読むことより、ドラマのメッセージ性がより明確になり、脚本の素晴らしさも際立って、ますます『私を離さないで』が大好きになった。

もっと『私を離さないで』を知ってもらいたい。

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