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【あつ森】マリーゴールドの夢🌼Halloween storyクリエイトストーリー

あつ森ドラマ『マリーゴールドの夢 Halloween story 』のクリエイトの裏側を描いた番外編ストーリーです🎃

※10月31日 エピローグを加筆しました!

🌼ムービー本編はこちらです🌼

0 プロローグ


ハロウィン祭のレイアウト準備中、僕たちはおばけのロイと出会う。彼は50年前に若くして亡くなったマジシャンだった。

彼は昔のハロウィン祭で、唯一無二の花の手品を披露するはずが…楽しみにしてくれていた奥さんを残し、事故で亡くなってしまったという。


彼の奥さんは50年後の今も、彼のことを忘れずにいてくれるのに…おばけになってしまった彼の姿は彼女に見えないのだった。

しかもポルターガイストを起こして、かえって怖がらせてしまっているそうだ…。


僕たちにおばけのロイの姿が見えるのは、やはり前世が魔術師と春の精霊だからだろうか…。

愛する人に姿が見えない、言葉が伝えられない悲しみは、僕たちもかつて痛いほど経験していた。

どうにか彼の助けになりたい。董子も僕も想いは同じだった。


前世でトーコと行きたかった場所を、現代のレイアウトに再構成してきた僕だからこそ…彼のためにできることがあるかもしれない。

幸運にも、僕たちが準備していた『花と灯りのハロウィン』は彼のマジックにぴったりだった。


彼のマジックの要素をレイアウトに取り込めないだろうか。

けれどロイの話だけでは、視覚的な情報が足りない…。

ロイがマジックを再現しようとするとポルターガイストを起こしてしまうし、長年の修練が必要なマジックを素人に口頭で伝授するのは困難なのだそうだ。

制作イメージを膨らませるために資料を集めないと。
僕と董子は、ロイの奥さんの暮らす家を訪ねてみることにした。

1 モノクロの思い出

ロイの奥さん、マリーさんは、黄色い屋根のこじんまりとしたお家にひとりで暮らしていた。

僕たちが訪れた土曜日の午後は、丁度玄関の前の花壇に水遣りをしている最中だった。

白髪をふんわりと結った上品なおばあさんの姿に、僕は見覚えがあった。

「えっ…董子、あのおばあさんって。」

「やっぱり?高校の時の外国語のマリー先生だよね?私、話しかけてみるよ!」

「こんにちは!マリー先生、お久しぶりです。」


マリー先生は水遣りの手を止めてこちらを振り返った。
「あら?あなたたちは…。お久しぶりね。」

突然の訪問にも関わらず、今年のハロウィン祭関係で、ロイさんについて伺いたいと伝えると、マリー先生は僕たちを気前よく家に上げてくれた。


「ロイのことを知りたいだなんて…嬉しいわ。」

マリー先生はにこにこと笑顔で古いアルバムを渡してくれた。
先生もよく眺めているのだろうか、書斎のテーブルの上に何冊も重ねて置かれていた。

アルバムを開くと、若い頃のマリー先生と、同い年くらいの若い男性が仲良く写ったモノクロ写真が丁寧に並べて貼られていた。


この人が「ロイ」…。
ぴょんぴょん跳ねた髪に、人の良さそうな穏やかな顔つきの青年だった。

どことなく…だけど僕と雰囲気が似ているような…?


結婚式に、ふたりで出かけた旅行、何気ない日常…幸せな2人の日々が続く。やがてロイのマジックの舞台のページに差し掛かった。


花と光が舞台いっぱいにあふれて…なんて幻想的で美しい世界なんだろう。
モノクロ写真からも不思議な美しさを感じた。

「これがマリーゴールドの手品…!」

「わあ…ロイさんすごい!お花を舞わせてこんなに美しい世界を表現できるなんて!」

董子も隣で目を輝かせていた。春の精だった董子はお花や美しいものが大好きなのだ。


「これは…最後の舞台の練習中の写真ね…。

私はあの人の花の手品のファンだったの。ファンレターを送るようになって…文通が始まって……ずっと応援してきた人と結婚できるなんて夢みたいだったわ。

マリーゴールドの手品は、ロイが私の名前に因んで考えてくれたものだったのよ。」


2人の幸せな日々は突然に終わる。アルバムの空白のページに新聞記事の切り抜きが貼られていた。

【奇術師ロイ•ゴールド、事故により死去。今年のハロウィン祭の舞台は中止に。】


「あの人が亡くなってから、ひたすら教師の仕事に没頭してきたけれど…
定年退職してからなんだかどっと寂しくなってしまってね…。
なんだか最近は妙なことも起こるし、ロイが今も生きていてくれていたら…ってふと思ってしまうの。」

「私があなたたちに教えてあげられることはこれくらいね。
残念だけれど、ロイのマジックは映像にも残っていないの…。
お客様を楽しませるために、マジックのトリックは秘密にしたいし、今みたいに気軽に動画撮影できる時代ではなかったから…。

教え子たちが立派に成長して私も嬉しいわ。
『花と灯りのハロウィン』私も楽しみにしていますね。」

マリー先生から直接話を聞けてよかった。


ロイ•ゴールド、享年26歳。僕と同い年だった。
もしも自分が今、人生これからって時に、董子を残して亡くなってしまったとしたら辛すぎる…。おばけになってしまうのもわかるな…。

ロイとともに世界から失われてしまったマリーゴールドのマジック。

雰囲気を再現するために1番難しいのが、本物を見ていないために正確な色合いや質感がよく分からないということだった。
レイアウトにどんな素材を使うべきか悩んでしまう。

ロイに話を聞きながら、モノクロの写真で見た光景からイメージを膨らませないと…。

2 マリーゴールドの夢

その日の夜、僕は夢を見た。


またここに来てしまった…。
僕と、僕の兄が持つ夢見の力。

僕は任意に使うことはできず、何か考えごとをしながら眠りについた際に、稀に夢見の空間へ辿り着いてしまうのだった。

不思議と同じような夢を何度も観ることがあったりしないだろうか、それは忘れられない記憶が無意識のうちに夢番地に登録されてしまっているからなのだそうだ。

実はゆめみさんにはこれまで何度も助けられていた。ここに来れたということは、今自分が見たい夢番地が存在するのかもしれない。


「お願いします。50年前の夢番地、『マリーゴールドの夢』へ。」

「ふふ…貴方は本当に運がいいですね。それでは、どうか良い夢を。」


「ここは…。」
写真で見せてもらったロイの舞台に立っていた。
モノクロだった世界に色が付き動き始めた。
目の前に広がる極彩色の世界。

ろうそくの灯りとともにゆらめくマリーゴールドの幻が陽炎のように立ち昇っていく…なんて美しい光景なんだ…。


夢のような世界に見惚れているうちに、ロイは演技を終えた。

若い頃のマリー先生が、にこにこしながら舞台袖から駆け寄ってくる。


「どうだったかな?マリー?」

「すごくよかったよ!だけど、本番ではクライマックス前のパフォーマンスはもう少し抑え目にした方がいいかな?
もっと緩急がついた方が、ラストの盛り上がりがお客さんにもっと伝わると思う!」

「ありがとう!いつも丁寧に観てくれて助かるよ…!」
「うんうん、この調子!本番もきっとロイらしい素敵なパフォーマンスにできるよ!」

なんだかすごく共感してしまった…。
自分の表現を1番に好きでいてくれて、側で応援してくれる人の存在がどんなに心強いか。


僕にとっての董子と同じなんだ。
今回の『花と灯りのハロウィン』も、僕のクリエイトの良さをよく分かって提案してくれたことを感謝していた。

本番の晴れ舞台、マリー先生に見せたかったよね。
燃え上がるマリーゴールドの幻をしっかりと目に焼き付ける。


だんだんと視界がぼやけ始めた。そろそろ夢から醒めるようだ。
ふたりの思い出の風景、必ず再現するから。


目が覚めると、隣りで眠っていた董子はもういなかった。今日は日曜の朝だ。


リビングに向かうと珈琲の香りがした。董子がゆっくりと朝ごはんの準備をしていた。

「おはよう灯火、珍しいね。今朝はとってもぐっすりで、起こしても全然起きなかったよ?
夢でもみてたのかな。」


「うん…!とてもいい夢だったんだ。」

3 花と灯りのクリエイト

『花と灯りのハロウィン』の会場クリエイトを進めないと。

元々の僕のレイアウトプランに、ロイの手品の夢のような世界観をプラスして作りたい。

まずは会場全体を秋色の花やマリーゴールドで飾りつけていく。
お花のレイアウトは董子に協力してもらった。


前世が春の精の董子は、お花を育てたりアレンジするのがとても上手だ。

長く世界に春をもたらし、草花を目覚めさせる役割を果たしてきた彼女が育てるお花は、とても生き生きと美しく咲いていた。

そしてハロウィン祭は夜に開催される。
たくさんの灯りで照らさなければ綺麗な花が見えず、花の比率が少なくなってしまうのが課題だった。


そこで、夏のスタードロップガーデンの技術を応用することを思いついた。

キューブライトやエレガントなランプにマリーゴールドの花を描いて、会場を華やかに照らす照明にした。


「なんてあたたかな光…!灯火、やっぱり君のクリエイトは私の理想ぴったりだ!」

ロイもふわふわと宙を舞って喜んでくれている。がんばってよかった…!


1番の難関はハロウィン祭のメインホールの飾り付けだ…。
ここにマリー先生をお招きしてロイのマジックの世界を再現するつもりだった。

あの燃えあがるような美しい世界を再現するなら、僕の得意な家具磨きが最適だろう。


だけど、ロイのように天井から床まで空間全体に華やかに花を舞わせるには家具磨きだけでは足りない…。

考えろ、考えろ…部屋中をマリーゴールドでいっぱいにする魅せ方。

これまで作ってきたクリエイトから応用できないか思い出してみる………。


……そうだ!夏の金魚喫茶も、部屋中で金魚を楽しめるように作ったんだ!窓を活用しよう!

夜の暗い会場でもマリーゴールドの花が浮かび上がるように、特殊なちっこう塗料を使って、光るマリーゴールドを窓にペイントする方法を思いついた。


窓に細い筆で小さな花を描きこんでいく。
夜でなければ光の加減がわからないから連日連夜睡眠時間を削って作業していた。

ずっと見上げながら描いていて、首も腕も痛んでくる…だけど…あの風景を夢で見た僕にしかできないんだ…。


ロイが飛びながら全体のバランスを確認してくれていた。
「灯火!マリーゴールドがだんだん斜めに偏ってきてるよ。それから、今描いている辺りの花は他の窓よりも大きさが小さくなってる。」

「えっ…全然気づかなかった!ロイ、しっかり見てくれてありがとう。」

そこに董子が大きなダンボール箱をたくさん抱えて帰ってきた。


「灯火!お待たせ、注文してた新しい塗料と筆、運んできたよ!」

董子も作家業の傍らで会場のたくさんの花の世話をしつつ、塗料を補充してくれたり…一緒懸命頑張ってくれて心強い。

2人の細やかなサポートのおかげで、大変な作業も乗り越えられた。
メインホールが完成したのは完成期限当日の午前3時だった。

「やった…。できた…。」
体中が軋んで痛い…もう体力も限界だった。
床にへたり込んでしまった僕に、董子とロイがくっついてきた。


「灯火がんばったね!すっごく綺麗だよ!!」
「灯火、私とマリーのために…こんなにも美しい空間をありがとう!」

「ふたりのおかげだよ…僕の方こそありがとう。」
僕は力の入らない腕でふたりを抱き寄せた。
あたたかさが痛む身体に沁みる…。

けれどロイの願いを叶えるには…もう一つやらなければならないことがあった。

雪に頼むしかないな…。

4 降霊

天野雪は僕の双子の兄だ。幼い頃から非常に優秀で、大人になってからは弁護士をしている。


前世の魔法時代で最強レベルの魔術師だった雪には、失われた魔法とは異なる系統の不思議な力があり、霊が原因のトラブル解決にも密かに携わっているそうだ。

ロイの願いを叶えるには、僕の身体を貸してあげて、マリー先生と話して想いを伝えるのがきっと1番いい。

実は僕には特別な素質があって、霊的なものが入り込みやすいらしい。

その理由は前世で僕が生まれた原因に遡るのだけれど…『まっさら』にできてしまったが為に、乗り移るのに最適な体質なのだという。

この体質絡みで過去に危ない目にあったので、今は雪の力で厳重に封じられていた。

ロイに身体を貸すためには、一時的に雪に封を解いてもらわなければならない。


けれどハロウィン祭当日は、僕はレイアウト監督として、会場で董子と一緒に来場者をおもてなしする仕事もあった。

そこでこれまで度々僕に変装してきた雪に、少しの間だけ僕の代わりをお願いすることにした。

ーハロウィン祭当日 控室ー


僕のお願いを渋々引き受けてくれた雪は、僕たちに怪しげな契約書を差し出した。

『身体貸借契約書』

…第15条
「乙が期間を満了しても甲の身体から退去せず、身体に危害を加えたり、道連れにしようとする場合は強制的に退去させ、消滅させる。」


目を通してみると、およそこの世の契約書とは思えない強烈な条項が並んでいた…。


「あのさ…雪…。僕のことが心配なのはわかるけど、少し厳しすぎない?」

「ロイは度々ポルターガイストを起こし、昨年も準備中のハムスケを怖がらせている。
力の制御が上手くできないなら気を引き締めてもらうしかないだろ。」

「は、はい…。灯火や周りの方に危害を加えるようなことは絶対にしないと約束します。」

雪の圧にロイも気圧されている…。やっぱり本物のおばけよりも雪の方が怖いよ…。

ロイと契約を交し、雪の用意してくれた椅子に座る。
「灯火、目を閉じて…行くよ。」


瞼の裏にぱっと光がまたたいた。目を閉じていても、あたたかな光とともにロイの意識が溶け込んでくるのがわかる。

「終わったよ。灯火、目を開けて。」


うーん…。身体が自分のものじゃないみたい。頭がくらくらする。

口が勝手に動いてロイが喋り出す。
「あ、あの…。灯火って…。」


雪に鋭い目つきで睨まれた。
「灯火について余計な詮索はするなって…契約しただろう。」

「ひえ…。」

ロイ、何か気になったのかな…?
だけどそろそろ会場でマリー先生を迎える準備をしないと…どうか上手くいきますように。

「雪、ありがと。入れ替わるなんて久しぶりで懐かしいね。じゃあ、行ってくるね。」

「ああ、僕もすぐに行くよ。」

ふらふらとよろめきながら控室の扉を開けると、扉の向こうにはハムスケとグルミンがいた。

去年のこともあったし、おばけのことを怖がっていたから、てっきり今日も来ないのかと思ってた…。

「えっ、ハムスケ、グルミン来てたの?」
あっ…今はロイの姿なのについ話しかけてしまった…!

「董子から全部聞いたんだぞ!オマエ悪いおばけじゃなかったんだってな。」


「えっ!?ああっ、あの時は本当にごめんなさい。」
僕の口を借りて、ロイが申し訳なさそうに言う。


「オイラこそ…去年はあんなにびっくりしちゃって本当ごめんな。

灯火と一緒なら、今度はきっと大丈夫だぞ!オイラたちも応援してる!」

「おばけさんがんばってね!キュン。」

「ありがとう!!」

いつの間にか僕に完璧に変装した雪もやってきていた。
「灯火の役割は僕がちゃんと演じるから、安心しろよ。」

「みんなありがとう…!マリーに贈る舞台、必ず成功させてみせるよ!行ってきます!」

こうして僕はロイに身体を貸して一緒に舞台に立ち、マリー先生にロイの想いを伝えることができた。

不思議なことに、ハロウィンの夜、マリーゴールドの舞台にいざなわれたマリー先生は、50年前のあの日の姿をしていた。

あれはきっと…僕たちの想いがこもったレイアウト空間が見せた、ハロウィンの夢だったのかもしれない。

5 エピローグ 50年後のハロウィン

ー50年後 ハロウィン祭会場ー

「懐かしいね…まるで50年前のハロウィン祭にに戻ったみたいだ。」

「そうね!あなたとロイと一緒に頑張った、大好きな『花と灯りのハロウィン』にまた来れるなんて嬉しいわ。」

50年前のあの日、「一緒に過ごす時間を大切に生きていきたいね」と語り合った僕たちは、ともに歳を重ねていた。

嬉しいことも悲しいことも、君と分かち合って、ここまで来れて本当によかった…。

今日はある人から招待されてハロウィン祭を訪れていた。

「それじゃあメインホールへ行こうか。」

メインホールの扉を開けると、懐かしい2人の姿がそこにあった。

幸せそうな若いふたりの笑顔に視界が滲む。
「ロイ、マリー、今夜はお招きありがとう。」

「灯火、董子、来てくれてありがとう!
50年後の未来でまた会えて嬉しいよ。」

生まれ変わったロイとマリー。ふたりは再びこの世界で出会うことができたのだ。

「それではショーをはじめます!」

「マリーゴールドの夢の世界へ、ようこそ!」

『マリーゴールドの夢』
〜ハロウィンストーリー〜
              おしまい👻🌼


読んでくださりありがとうございます☺️🧡
春はどこへ行った?シリーズのハロウィンのお話を書けて本当に楽しかったです👻🌼

トーカとトーコのお話はまだまだ続きます📖
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❄️はるどこCH(太宰&ゆりーな制作)

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