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サンドウィッチと紅茶の朝

僕は朝の時間を喫茶店で過ごすのが好きです。休日の朝は、平日より少し遅いくらいの時間にもそりと布団から抜け出して、今日はどんな朝ごはんを食べようかしら、と考えを巡らせながら、レースカーテン越しに朝日をじわじわと身体に染み込ませます。如何せん朝にとても弱いので、身体を起こすためには、しばらく時間がかかります。古いパソコンみたいに。ぐるぐると読み込みマークのごとき寝癖を手でしゃかしゃかとかき混ぜる。
休日がいかに充実したものになるのかは、スタートダッシュが重要です。用事よりもちょっと早めに出かけて、待ち合わせまでサンドウィッチを摘みつつ、紅茶をのみながら昨晩読みかけの小説の続きを読む。なんて素晴らしい朝だろう。絵に描いた餅、もといキャンバスに描いたサンドウィッチにならないために、支度をして出発します。

この日に訪ねたのは、いわゆるカジュアルなティールームのようなお店で、僕が最初のお客のようでした。二階の広い窓のあるお店で、むにゃむにゃと起き始めた日曜の朝の街を眺めることができる。同じ時間の開店のようである向かいの店シャッターが開くのが見える。最近の事情で席はずいぶんゆったり間隔で、僕は窓の隣の席に座る。お店の方はなんと言いますか「マダム」という感じの奥様方でした。マダムと言っても、ぎらぎらと宝石を光らせて宮殿にいる感じ(もちろん想像です)のマダムではなくて、しゃきっとしつつ、さっぱりしたなんと言いますかとても人当たりの良い奥様方で、朝に挨拶をする人類の中でも、かなり心地の良い方々だなあと思いました。

注文をしたのは、サンドウィッチと温かい紅茶。用事はお昼くらいで昼ご飯を食べる用事ではなかったので、朝昼兼用の食事にするために、ちょっとボリュームのあるサンドにしました。サンドウィッチはコンビニのやつだともの量も少なくて、味も淡白でご飯にはちょっと足りない感じなのですが、こういった感じのお店で、少し大きめのお皿に守られて出てくるサンドウィッチはしっかりお腹を満たしてくれる。濃い目味付けのものも、さっぱりしたものどちらも入っていてボリュームがあります。

サンドウィッチと紅茶が運ばれてきました。
まず紅茶を口にして、朝の移動から一息ついて、4つあるサンドウィッチのうち一つ目を食べます。トマトとレタスとベーコンにトマトソース、水々しくてそれでいてしっかりとトマトソースの濃い味もする。

朝にふさわしい「サンドウィッチ」はどういうものか。僕なりに思うものは、ちょっとサンドウィッチにしては、多いんじゃないの?ってくらいのボリュームがありつつも、胃に負担なく食べれるくらいのボリュームがあるもの。そして片手で持てる小さめサイズに切られていて、本などを読みながら手軽につまめるサイズに切られているのがいい。これがお昼ご飯用となると、両手でがぶりと食らいつける甘めのソースがついた照り焼きのチキンが挟まったこってりサンドも良いけど、朝のサンドはお腹に優しくて、しかし1日の活力になるものがいい。そしてもっと言うと、小さいサイズのサンドウィッチが、4つくらいあって、さっぱりした味付けのものと、ちょっと濃いめの味付けのものが半分ずつ、もしくはさっぱりした具材と濃いめの具材が合わさっているものがやっぱり素晴らしい。さっぱりめの卵サンドやハムレタス、そして濃いめのトマトやピザのソースが挟んだものがどっちもあると、とても良い。もちろん最初に食べるのは、さっぱりしたやつから、そして濃いめのサンドを名残惜しく食べつつ、さあ今日も良い1日にしようって気持ちになるのです。

紅茶は熱々のものが運ばれてきます。まだこの日はとても暑かったのでレモンを添えたものをお願いしました。紅茶はそんなに詳しくないのですけど、ゆっくりしたい朝はさっぱり飲めるものをできればカップに二杯〜三杯くらい飲めると、とっても嬉しい。
そう。特に紅茶を出すお店で嬉しいのは「ポットサービス」なるものです。お茶をポットで出してくれて、自分で注いでおかわりができるのです。なんと素晴らしい制度。僕は「おかわり」って言葉が小さい頃からとても好きなのですが、これを朝からできるのはとても嬉しい。
しかも自分で注げるとなると、朝のお店の中を、右へ左へ通り過ぎていく店員さんをちょうど良いタイミングで呼び止める(しかも大抵朝は店員さんが少ないのだ)ゲームに勝利する必要もないのです。普通のご飯で例えると「ご飯をお櫃で好きなだけどうぞ」というお店はそれだけで通いたくなりますし、「おひつのごはん」って言葉だけで嬉しくなってしまいます。

また、おかわりをお願いするときに、朝から「あ、スミマセ…」と声を上げつつも聞こえてなさそうなので、言葉の後半ではすっかり声を潜めて、(また声を上げないといけない…)というようなことをしなくても済むのです。あれってなんでしょうね。「すみま」くらいのところで(あ、聞こえてなさそうだわ)ってことがどうしても分かりますよね。おかわりってお店にとって損になりそうと思ってしまうので、多少の後ろめたさを感じてさらに声が小さくなります。

夕方ごろとなると僕もお腹が減っているので、お茶碗を持ってジャスチャーでおかわりを伝えたりするのですが、生まれたっての低血圧(低血圧界のサラブレットの僕は朝に鉛筆で字を書けない)が朝にできるのは、秋の夜長に囁くコオロギくらいの声で「あのお」っていうくらいなのです(大抵最初に発話するときは声がかすれて言い直す)。しかし今日のお店はポットサービスだし、最初の注文も声を出すまでもなく、目配せだけで気がついてくれる素晴らしいサービスでした。しかも紅茶ポットにはポットにかぶせてあげる布製のポット用の服みたいのがついてきて、二杯目以降も温かくいただけるのである。

差し込んでくる朝日が紙面に差しているのを見ながら、本を読み進めて、サンドウィッチを食べて、ちょっと行儀が悪いのかもしれないですけど、ゆっくり朝ご飯と昼ごはんの間のものを食べます。ちなみに僕はこれを「あひるごはん」と呼んでいます。友達にも布教しようとしているのですけど一向に広まらない。だめですかね。ブランチを日本流に行って「あひるごはん」。

サンドウィッチも食べ終えて、紅茶も二杯目とやや少なめの三杯目。本の方に集中していたら友人との約束の時間がいつの間にか近づいていました。小説もキリがいいところまで読めたので、お店を後にします。おいしいサンドウィッチと温かい紅茶がもてなしてくれた、ピカピカの一日がはじまります。

尋ねたお店:「ラ・パレット」(下北沢)

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