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宝塚宙組「エクスカリバー」で見た芹香斗亜の底力と運の強さ

 池袋の東京建物Brillia HALL で上演中の宝塚宙組のミュージカル『エクスカリバー』、7月28日に見ていたのですが、仕事が忙しくアップできず。翌日にライブ配信もあったので、ご覧になった方も多かったと思うのですが、自分のリマインダーとして、感想をアップしておきたいと思います。

痛感したのは宝塚のコスパの良さ

 まず、作品の評価とは直接関係ないのですが、同じ週に帝劇の『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のコスパのよさでした。というのも、帝劇ではS席最前列センターで17000円、宝塚の方はA席、3階2列目センターで6000円だったわけです。でも、画像をご覧いただけばわかるように、3階でも全体はよく見えるし、オペラグラスがあれば、なんの問題もないんですよね。

Brillia HALLは3階席でもセンターならよく見えます

 A席って東京宝塚劇場なら5500円ですから、帝劇S席の3回分でなおお釣りがくる。なら、感動は3分の1かと言われれば、そんなことは全然ないし、どうしても顔をアップで見たければ、「A席+ライブ配信」「A席+ライブビューイング」という選択肢もあるし、1年待てるなら、スカステで放映されるのを待てば良い。そう、コロナのお蔭ではあるのですが、宝塚って、リアルの観劇以外にも、お財布の中身に応じた選択肢が幅広くあるのです。 
 宝塚をよくご存知ない方は驚かれるかもしれませんが、宝塚が満席になるのは、推しのいるファンが複数回見に行くからです。おそらく、男役スターのファンクラブに入っているような人は3回とか5回とか見に行く人もかなりいるはず。つまり、「複数回見る」人がいて、はじめて満席になる世界なんですよね。

宝塚の強みは価格やメディの選択肢が多いこと

 複数回見るなら、全部S席では例え実家暮らしのシングルのOLや稼いでくれる夫のいるマダムでも苦しい。でも、S席1回、A席1回、B席1回で組み合わせれば18500円です。これなら帝劇や日生のS席とそれほど変わりません。 
 宝塚歌劇団は商売上手と言いますか、S席を決して1万円以上にせず、A席を5500円というお財布にやさしい値段に留めることによって、最近のトップスターさんが初日の挨拶で口にする「何度でもご覧下さい」を可能にしてるんですね。歌舞伎も宝塚並みの料金にすれば、もっと客入りが良くなるのではと思います。

ワイルドホーン作曲の壮大な音楽が最大の魅力

 前置きが長くなりましたが、『エクスカリバー』、作曲がワイルドホーンさんですので、壮大なミュージカルでした。舞台は6世紀のイングランド、「アーサー王と円卓の騎士」伝説をもとにしたものなので、ケルト音楽、ロック、R&B、バラードと曲調がバラエティに富んでいる上に、歌い上げる曲が多くて、音の洪水に包まれているような快感があります。

 私的には韓国ドラマ『太王四神記』の世界観に似てるかなと思いました。というのも、『エクスカリバー』は半ばファンタジーの世界ですし、『笑う男』『マタ・ハリ』を制作した韓国のEMKミュージカルカンパニーが、同じくブロードウェイの脚本・イヴァン・メンチェル、音楽・フランク・ワイルドホーン、作詞・ロビン・ラーナーを招聘して制作したオリジナルミュージカルなんですね。それを稲葉太地先生が宝塚風に潤色・演出したものです。

 研17の芹香斗亜が20歳の青年に見えた衝撃

 雑誌『歌劇』によると、アーサーは登場する時、20歳の若者という設定なんだそうです。主演の芹香斗亜さん(キキちゃん)は2007年入団の研17。初舞台から17年目でトップスターに昇り詰めたジェンヌさんです。「中卒でも30歳は超えているはずなのに20歳かぁ」と思っていたのですが、スポットライトが当たった時、目の前にいたのは20歳の青年だったんですね。本当に下級生の桜木みなとさんがお兄さんに見えるんですよ。キキちゃんって、演技の幅が広くて、少年から中年まで自然に演じられるし、何色にも染まれる真っ白い布みたいな人なんだなぁと改めて感心しました。
 努力しなくて白なわけじゃないと思うのです。数秘術で言うと、ルートナンバーの最後の「9」のように、1から8まで、全てを含んだうえでの白といった感じですかね。これまでの経験は無駄ではなかったのです。その証拠に育ての父のエクターをサクソン族に殺されて闇堕ちした後は、衣装も黒になり、完全に黒のキャラクターになってましたから。

真白悠希(104期)のモーガンは息を呑む旨さ

 さて、ここで新トップ娘役の春乃さくらちゃんと2番手の桜木みなとさんを飛ばして、一番感動かつ驚いたことを語らせて下さい。それは、異母姉のモーガンを演じた真白悠希くんが言葉に目が点になるほど上手かったことなんです。宙組はそれほど詳しくありません。推されている娘役にしては、お顔が男っぽいから男役には違いない。だけど、路線スターでないことは、名前が出てこないことからして明らかで、「いったい、この人誰なんだ〜!! 演技も歌もメチャ上手くて完璧なんですけど。こんな人、宙組にいたんだ。伏兵じゃん!!!」と、もうもう、滅多に買わないプログラムを買うことを即断。後で調べたら、みなさん、ブログに書かれてましたね。真白くんに驚いたと。

モーガンの真白悠希さん、妖艶な美しさです

 真白悠希くんは2018年に星組公演「ANOTHER WORLD/Killer Rouge(キラー ルージュ)」で初舞台を踏んだ104期生なんですね。紅さんの大ファンだったので、彼女の初舞台を目にしているはずですが、LINEダンスとかなので、判別できてません。真白くん、星組の碧音斗和くんに次いで2番で卒業しているので、入団時から実力はあったはずです。が、何故か104期は月組のきよら羽龍ちゃんが初詣ポスターで登場し、最初から推されていた以外、ちょっと遅れて花組の都姫ここちゃんと美羽愛ちゃんが新公主演したくらいで、男役は105期に遅れをとっていました。最近になって花組の天城れいん君が新公主演で話題になったくらいです。
 真白くんは公称169センチと高身長の宙組の男役としてはやや小柄です。別格歌える娘役、例えばかつて男役から転向した純矢ちとせさんみたいな路線に行くのでしょうか。とはいえ、169センチなら男役でも実力さえあれば問題ない身長なので、次は新公主演で見てみたい逸材です。

若翔りつのマーリンとモーガンの絡みはハイレベル

 ちなみに、カジノロワイヤルでは、ドクトル役(若翔りつ)とM長官役(松風輝)の2役を演じていたそうです。若翔りつさんは長身で歌も芝居も上手く、大好きな男役さんですが、今回、彼女の演じたのがマーリンという重要な役でした。マーリンはケルト人が信奉するドルイド教の司祭・預言者で、平凡な青年だったアーサーが実はイングランドの前王・ウーサー・ペンドラゴンの息子で、聖剣エクスカリバーを受け継ぐ者だと告げるんですね。それから、ずっとアーサーがサクソン族からかつてドルイド教の聖地だったキャメロンを守よう導き、守っていくのです。

 このマーリンはかつて、前王ウーサーの王妃の娘だったモーガンを修道院に閉じ込めており、少女時代にマーリンを慕っていたモーガンは彼にもアーサーにも恨みを抱いています。でも、心の底ではマーリンを愛しているという複雑な関係で、この2人は絡みが多く、歌も多い。元々韓国ミュージカルですからメインキャストで、比重の重い役なのです。歌も演技も抜群に上手いので、この2人の場面には惹きつけられました。若翔りつさん、長身だし、何もかも完璧で、せめて一度でも新公主演させて欲しかったと、今更ながら残念です。

春乃さくらは男前でクール、歌える娘役

 さて、娘役トップになった春乃さくらちゃんの役はグィネヴィアです。ご存じの方も多いと思いますが、アーサー王の妻になるも、最終的に円卓の騎士・ランスロットと恋に落ち、キャメロットを追われてしまう残念な役です。プレお披露目になんでこんな物語を?と思ったのですが、韓国版は観客が納得するようなストーリーになっていました。まず、グィネヴィアは自ら弓をひく女戦士という設定。ディズニーの『ムーラン』みたいなキャラクターです。男に守ってもらうのではなく、自分が国や男を守ると口にするような女性です。さくらちゃんは長身で男前の娘役さんなので、この役がとても合っていましたし、トップコンビの関係性にも通じるものがあるように思いました。

グィネヴィアは女戦士

ランスロットとの不倫は納得できるストーリーに脚色

 元々最初にグィネヴィアを好きになったのは、兄弟のように育った兄貴分のランスロット(桜木みなと=ズンちゃん)なんですね。アーサーとグィネヴィアが相思相愛になったから、自分の気持ちを抑えていたけれど、闇堕ちしたアーサーを救えなくて悩むグィネヴィアを慰め、相談相手となり、心を通じ合わせていく。ランスロットもいっぱい我慢したんだからしょうがないねと言う感じです。
 グィネヴィアとランスロットは不義密通(古い!)の罪でとキャメロットを追放されますが、最後はアーサーを救うために戦います。そしてランスロットは命を落とす前に「グィネヴィアはおまえを愛している。許してやって欲しい」と頼むのです。

 春乃さくらちゃんは正統派のクールな美人で歌ウマさんです。山吹ひばりちゃんの方が推されていたので、突然トップに躍り出たような印象がありましたが、歌も演技も安定しています。個人的にはこういう大人の娘役さん、好きなんです。102期ですから、93期のキキちゃんとは9年差ですが、年齢差を感じさせないし、並びも良くてお似合いです。クセがないので、どんな役柄も演じられるタイプですし、何より、歌えるキキちゃんの相手役として相応しい娘役さんだと思いました。

 今の宙組、2番手のズンちゃんは歌の人ですし、最近は演技力もメキメキ向上しています。なので、この3人の場面もハイレベル。松風輝組長も歌える人なので、歌が残念な人が一人もいなくて、「コーラスの宙組というけど、一人一人が上手いからコーラスも綺麗」なのです。新生宙組への期待が高まりました。

無言で剣を掲げるラストに胸打たれた

 星組の下級生時代からずっと見てきたキキちゃん。実力があるのに9年も2番手をしてきましたが、『エクスカリバー』は彼女がこれまで蓄積してきたものが遺憾無く発揮された作品でした。とにかく朗々と歌い上げるスケールの大きい歌が続くのですが、立派に歌いこなしていました。花組時代も歌えていたけれど、やはり宙で2番手になってからの歌の進化には目覚ましいものがありました。
 それから、20歳の平凡な青年でスタートするけれど、王となり、闇堕ちして人を殺し、そこから自ら這い上がって、「人を許すことを学ぶ」と言う成長物語になっていて、最後に山頂で立った独り、無言でエクスカリバーを掲げる場面は胸を打たれました。キキちゃんの歩みにも通じるものがあるし、トップスターって、孤独ですものね。すべてを背負って組を守っているとも言える。ラストシーンでセリフを入れず、その後にショーも付けなかったのは、英断だったと思います。

 ききちゃんは待たされたお蔭で注目度の高まる宝塚110周年の年にトップスターとなり、来年はミュージカル『FINAL FANTASY XVI(ファイナルファンタジー16)』が上演されます。きっとゲームファンも大勢足を運ぶことでしょう。
 若くしてトップになれば、それだけ宝塚という夢の世界にいられる年月は短くなります。宝塚でなければ出来ない男役を長く、しかもメインキャストでやれることは、決して不幸なことではありません。その意味で、キキちゃんは本当は「運の強い人」なのです。

 



 
 


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