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占いエンタメシリーズ③ 宝塚宙組『白夜の誓い』 グスタフIII世の暗殺を予言した当たりすぎる占い師の悲劇

 今日は宝塚宙組「アナスタシア」千秋楽のライブビューイングを近くの映画館で見てきました。「アナスタシア」については既に書いたので今日はその話ではなく、2014年11月から2015年2月にかけて、同じく宙組で上演されたミュージカル『白夜の誓い —グスタフIII世、誇り高き王の戦い—』に“登場しなかった占い師” ウルリカ・アルヴィドソンについて書きたいと思います。

スェーデン国王・グスタフIII世の暗殺を予言した占い師がいた

 『白夜の誓い』はトップスター凰稀かなめさんのサヨナラ公演で、「ロココの寵児として、北欧史にその名を残すスウェーデン国王・グスタフIII世の波乱に満ちた生涯を描くミュージカル」だったのですが、歴史を知るには有意義でも、宝塚作品の主人公としては地味すぎたというのが率直な印象です。

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 ベルサイユのばらやマリー・アントワネットのファンなら、恋人のハンス・アクセル・フォン・フェルゼンが仕えていた王様がグスタフIII世で、実はフェルゼンをスパイとしてフランスに送り込んだのが彼だったと聞かされれば、少し興味がもてたかもしれません。ただ、占い師にとっては、とても興味深い王様なのです。

 グスタフIII世は占い師に暗殺を予言されていたにもかかわらず、その忠告を無視して仮面舞踏会に出かけていき、命を落とした王様です。ヴェルディの歌劇『仮面舞踏会』は、グスタフIII世の暗殺事件をテーマにしています。ただ、実名の脚本では検閲が通らないので、ボストンの知事・リッカルドという設定になっています。そして、『白夜の誓い』に占い師は出てきませんが、『仮面舞踏会』には「黒人の女占い師ウルリカ」が登場します。

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 グスタフIII世は1792年3月16日、ストックホルムのオペラ座で開かれた仮面舞踏会で、下級貴族でグスタフIII世の元近衛士官だったヤコブ・ヨハン・アンカーストレム伯爵により、背後から拳銃で撃たれ、46歳でこの世を去りました。ところがその6年前、グスタフIII世は当時スェーデン国内で有名だった占い師ウルリカ・アルヴィドソン(Ulrica Arfvidsson, 1734年 - 1801年)のもとに身分を隠して訪問し、占ってもらっていたと言われています。

ウルリカは宮廷人や王族を顧客に持つ有名な占い師だった

 ウルリカはトランプ占いとコーヒー占いを得意として、宮廷人や王族までも顧客に持っていたそうです。トルコにはいまだにコーヒー占いがあって、飲み終わった後のカップにソーサーをかぶせてひっくり返し、カップの底に残った粉の状態によって飲んだ者の運勢を占うそうですが、ウルリカの占いがそうだったのかどうか、今となってはわかりません。

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 ウルリカはグスタフIII世が王であることを知りつつも知らないふりをし、「剣を持つマスクの男に気を付けなさい。その男は、あなたの命を奪うでしょう」と予言したと伝えられています。その2年後、グスタフIII世は1788年のロシア・スウェーデン戦争の時も彼女のもとを訪れたそうです。テレビもインターネットもない時代に王様がわざわざ足を運ぶほど、彼女の名はスェーデン中に轟いていたのです。

 ところが、グスタフIII世がウルリカの忠告を役立てることはありませんでした。一説によれば、オペラ座の私室で晩餐を終えたのち、グスタフIII世のもとに暗殺を警告した手紙が届いたそうですが、「彼らが暗殺を行うのだとしたら、今夜ほど良い機会はないだろう」と語ったと言われています。それでも、それが自分の運命なら、運命に従うまでだと言って、王は仮面舞踏会へ行くのをやめようとはしなかったのです。

人は占い師から真実を聞きたいと思ってはいない

 さて、グスタフIII世の暗殺を予言し、それが当たったウルリカは、よく当たる占い師として益々名をあげ、行列ができる占い師になったでしょうか? いいえ、現実はその逆です。予言が当たったことで彼女は人々から恐れられ、訪れる人も途絶えて、貧困のうちに67歳で亡くなったと言われています。

 ネットではよく「東京でよく当たる占い師10人」といった特集をみかけます。あるいは、「○○で一番よく当たる占い師」といった自己PRをホームページに書いている人もいますよね。でも、よく考えてみて下さい。もしあなたが「2週間後に身近な人の手にかかって亡くなります。刃物を持った人をみかけたら逃げなさい」とよく当たると評判の占い師に言われたら、嬉しいでしょうか? むしろ、聞かなければよかったと思いますよね。

 大半の人は占い師から真実を聞きたいのではなく、自分が言って欲しいことを耳にしたくて訪れるのです。占いジプシーになるのもそのためです。ウルリカ・アルヴィドソンの悲劇は「当たりすぎる占い師」だったことです。グスタフIII世と彼女のエピソードからも、占いは当たれば良いとは言えないことがわかります。

 人は幸せになりたくて生きているのです。寿命や死因を教えられるより、どうせお金と時間を使うのなら、より幸せになる方法をアドバイスをされた方が良いに決まっています。私はウルリカのような予言はできませんが、「人を幸せにする占い師」でありたいと思っています。



 




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