見出し画像

猫の話。島で。

 猫(みーや)に会う前の話。『猫の話。』の背景。

 「おかあちゃん」は南の島にいたことがある。その前は北国に住んでいた。

 北の国では冬、鳥たちの食糧難を憂いて、バードテーブルを置く。小さな粟、稗から、ひまわりの種まで入った袋を売っている。突然の引っ越し、南の島に住み替えた。6月のこと。
 余った餌は引っ越し荷物に紛れて島に届いた。
 もう、冬鳥はいない。で。庭の畑に蒔くことにした。ホントは防疫の観点からはダメだったのかもしれないが、ひまわりは咲いてほしい。小さな畑に餌袋をまるまる蒔いた。南の島で6月の種まきはどう見ても遅い。発芽するかどうか怪しいものだ。

 2~3日したら、蒔いた種から全部芽が出た(気がした)。黒々とした畑に碧色の美しい芽が、ひまわりの殻をかぶったいたいけな芽がびっしり覆った。1個ずつ、丁寧に蒔かなかったことを反省し、
「ごめんね、ちゃんと間引いて、間引いたのも別の地面に植えるからね」
と呼びかけた。

 深く耕し肥料も整えてくれたのにひまわりを蒔いてしまったから、もう畑にはならないだろう・・・。関係のみなさまに心で詫びつつも、緑の畑の幸福感。夏の日のひまわりが目に浮かぶ。

 雨が降った。カラッとした風通しのいい島が、じっとりと潤った。

 翌朝。
 畑にはひまわりの苗が一本もなくなっていた!
 びっくりして、島の花屋さんに言うと、
「ナメクジが食べた」
と教えてくれた。島特有の真っ黒なナメクジなのだそうだ。ナメクジは病原体を持っているそうで、ナメクジが食べた野菜は食べないほうが良いという。花屋さんは続けて
「でも、そんなにいっぺんに食べられたのなら、土壌も汚染されているかもよ」
「農薬を撒いてみたらどう?ナメクジは根絶できないけど」
と畳みかけてきた。どうやら、ナメクジも新参者で悩みの種のようだった。

 畑は完全な花畑になった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?