恋と友情は平行線 不思議な関係の行方(2)
●前回のお話
・・◇◆・・
「それはつらかったですね」
僕は続ける。
「今日はお互いのことを少しでも多く知るための時間だから、話してくれて嬉しいです」
「そう言ってもらえて、ホッとしました。ありがとう、悟さん」
「僕だって、妻に振られたようなものですから。もう3年前のことですが」
「振られたんですか。差し支えなければ、元奥様から離婚したいと告げられた理由を教えていただけませんか」
そうだな・・。どう伝えれば良いだろうか。僕は言葉を探した。
「僕たちの間にはもともと本物の愛情は無かったのかもしれません」
「それはどういうこと?」
僕と元妻の互いの両親が仕事上の知り合いだった。ゴルフ仲間でもあったので、プレーの合間の雑談中に息子と娘を結婚させたらどうかという話になったらしい。
「まあ、お見合い結婚みたいなものかな。なぜか僕はとても彼女に気に入られて。両親たちも乗り気で気が付いたら結婚していた・・みたいな」
過去のこととはいえ、元妻との馴れ初めを話すことは少し気恥ずかしかった。
「好きではなかったのなら、断ればよかったのに。親の手前、できなかったとか」
「いや、妻は‥あ、元妻はとても聡明で明るく家庭的でした。結婚するならこんな人がいいのかなと思っていたのは事実です」
「恥ずかしながら僕は彼女と出会うまでほとんど恋愛経験がなく仕事一筋でした。
親のおぜん立てとはいえ、これも運命なのかなと。30歳を過ぎていましたし、タイミング的にもちょうどよかったのです」
「確かに、大恋愛してもすぐ別れてしまったり、仮面夫婦という状態になってしまったり。
経済的な理由なんかでとりあえず夫婦をやっているという状態だという話も聞きますものね」
「そうですね」
「奥さんとの出会いはきっと運命だったのでしょうね。」
「はい。たぶん」
大恋愛の結果ではなく成り行から始まったような結婚生活だったけど、二人の日々を重ねることで妻への愛情が深まっていったのだから。
・・◇◆・・
「幸せだった?」
奈波さんは僕の話を聞きながら左手で頬杖をついた。
「けど、妻の方は僕とは逆だったみたいで。結婚4年目を迎えた時、二人の生活に意味を見出せなくなったと。
一人で考える時間が欲しいと家を出て行ってしまいました」
「まあ・・」
「それから2か月後、突然離婚届が送られてきた。
後で知ったんだけど、妻には新しい恋人がいて二人の生活を始めたくて家出をしたらしい」
「それって、不倫というか浮気というか。奥さんと相手を訴えてもよかったのでは?」
今度は、右の手で頬杖をつき、少し上目遣いで奈波さんは僕を見つめている。
「そんな気はなかった。ショックだったけど、僕にも至らない点があっただろうし。何より、妻を幸せにしてあげられなかった」
「私ね・・」
奈波さんが、婚活を始めた理由を話し始める。
「別れは悲しいこと。けれど、また新しい出会いのチャンスや日常の世界が広がるきっかけにもなる。
だから、気を紛らわすためというより、自分の可能性を広げたくて婚活を始めてみたの。
もういい年齢だし、自然に出会えるとは思えなくて」
「僕も同じです」と、彼女の理由に共感した。
「気持ちを切り替えるのに3年もかかってしまったけど、やっぱり人生のパートナーが欲しいと思って。
お見合いサービスを利用して婚活を始めることにしました」
・・◇◆・・
食事をして、海の見えるテラスでお茶を飲み、同じ時を2人で過ごす。
初めて顔合わせをした瞬間の互いの緊張はすっかりほぐれていた。
まるで、以前からの知り合いのように自然と会話が進む。
レストランで向き合ったときは奈波さんのことをちゃんと見られなかった。
お互いのことを話して打ち解けていくうちに、僕は奈波さんに惹かれている自分に気づいた。
秋の海はまだ穏やかで、優しい風が彼女の髪を微かに揺らす。
僕は、奈波さんに恋をしてしまったようだ。
秋の海は夕暮れの色を纏い始めた。
「今日はとても楽しかったです。はじめて会った日にこんなことをいうのは早いのかもしれませんが・・」
僕にまた緊張が戻ってきた。今を逃すときっと後悔する。
別れ際に正直に気持ちを奈波さんへ伝えた。
僕と、結婚を前提にお付き合いをして欲しいと。
彼女の答えは「NO」だった。
理由は、もっといろいろな人に会って話をしてから、ゆっくり決めたい。
心の底ではまだ元カレのことが吹っ切れていないとも。
急ぎたくないんだ・・と小さく呟き、
「だけど、ありがとう。嬉しかった」
奈波さんの笑顔には、もう悲しみは潜んでいない。
「じゃあ・・」
僕は、ふと思いついた提案を奈波さんに伝えようとした。
(つづく)
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