恋と友情は平行線 不思議な関係の行方(1)
いつの時代もイエスかノーで答えを出せない問いがある。
例えば、『大人になった男性と女性の間に友情は成立するのか』とか。
期間限定であれば成立するような気がするし、お互いに信頼できるパートナーがいるのであれば無期限に成立しそうだ。
とはいえ、お互いのパートナーを抜きにして2人で会うと「W不倫だ」とか言われかねない。
「ありえない」という大多数が使う言葉。
「大人の男女が時間を共にするのは色恋の感情があるもの」という思い込み。
ひょっとすると、本人たちの気持ちや様々な事情を理解しようとしない世間が大人の男女の友情を成立させない土壌を作っているのではないだろうか。
・・◇◆・・
僕にはちょっぴり不思議な関係の女性の友人がいる。
前の妻と別れて婚活をしていた時に知り合った奈波さんだ。
それは友情なのかかといえば少し違うような気がする。
もちろん恋愛関係ではなく、『心友』と言うものに近いかもしれない。
奈波さんとは年に一度だけ会って、お互いのことを報告したり、励ましあったりする関係なのだ。
たった一人ための専属の応援団長・・みたいな。
「そんな関係も素敵ね。うん、ありだと思う」
「この関係に名前を付けるとしたら・・何だろう」
「名前なんて、いいじゃない」
とにかく、お互いの合意の上で緩やかな二人の関係がはじまった。
もう、20年近くその関係は続いている。
けれど、その関係もそろそろ見直すというか、終わりにする時期に来ているのかもしれない。
この一年間じっくりと考えて出した僕の結論。
これを伝えたら、奈波さんはどのようなリアクションをとるのか楽しみだ。
奈波さんとの約束の時間までまだ40分ある。
いつもより早めに来てカウンターに座ったのは、心を落ち着かせるためだ。
普段は店の外で待ち合わせて一緒に店に入る。席に案内されてからその日の気分でワインの銘柄を選ぶ。
カウンターに案内されジンベースのカクテルを頼んだ。
鮮やかなグリーンのミントが添えられたカクテルを一口だけ含みゆっくりと飲み込んだ。
そうだ、奈波さんにメッセージしておこう。
「早く着いたから、先に店に入って飲んでいる」
速攻で返信がきた。
「先に入って一杯やってるなんて、ひどい!」
ちょっぴり拗ねた奈波さんの表情が浮かび、僕は目を細めた。
・・◇◆・・
奈波さんを待っている間、僕は20年前のお見合いで初めて彼女に会った時のことを思い出していた。
奈波さんは緊張まじりのの表情を保ちつつ、時折見せる明るい笑顔の後ろ側に、、悲しみを隠しているようだった。
それもそのはず、結婚を前提に付き合っていた男性から別れを告げられてからまだあまり時間が経っていなかったのだ。
「私ね、最近失恋しちゃったの」
食事を終え、デザートが運ばれてきた時奈波さんが話し始めた。
「2年も付き合っていたのに。出会ってから2週間しかたっていない女に負けたの」
「そうなんだ」と僕は短い返事をする。
奈波さんは話を続ける。
「遠距離恋愛だったから仕方がなかったのかな」
遠距離恋愛だったのか・・と、僕は心の中で呟く。
「私って、お嫁さんにしたいと思える部分が欠けているのかな」
「料理が得意なだけじゃダメなのかな」
奈美さんは、もう止められないという感じでどんどん話を続ける。
新しい彼女はすぐに会える距離に住んでいるらしいから、この2年間で私と彼が過ごした時間なんてあっという間に上書きされてしまったのよ・・
あの日、大切な話があるって言われて急に会うことになったの。
3週間ぶりに会うから嬉しくて待ち合わせの場所に早めに行ってドキドキして待っていた。やっと今日、プロポーズしてもらえるんだって。
ところが、顔を見るなり別れを告げられたの。ひどいでしょ。
舞い上がっていた私には、思いっきり頭を殴られたような衝撃だった。
別れ際に彼の手首を見ると、いつもとは違う手作りのパワーストーンのブレスレットを付けていた。
それを見て、ああ、もう彼の心は私にはないって悟った。
まあ、笑い話にするしかないよね。悔しいけど・・・。
別れを告げられた辛い日のことを、誰にも話せなくて抱えていたんだろうなと、僕は思った。
「あ、ごめんなさい。私のことばかり話してしまって。くだらない愚痴を言うために悟さんと会っているわけではないのに」
少し頬を膨らましながら一気に話しまくっていた自分に気づいて、奈波さんはほんの少しうつむいた。
(つづく)
●次回のお話
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