触れ合わないグラスの音
「「かんぱーい」」
二人してグラスを掲げる。
それぞれ好きなお酒を買ってきて、それぞれの家で飲んでいた。
画面越しに相手の美味しそうな顔が見える。
「ほんと幸せそうに飲むね」
「そう? だっておいしいから」
世界的に遠出が敬遠されるようになってから、地元が同じでも都会に出た人と飲むときはオンラインで家飲みが当たり前になってきた。
でも、私はそこまで重く受け止めていなかった。
「この状況ってさ、ちょっと寂しいけど、ちょっと嬉しいな」
「嬉しい? なんで?」
「だって、これまでは遠隔で飲みをするっていうのがマイナスな感じがしてたのに、それが普通になったし、こうして気軽にやりやすくなったしさ」
「ほほーん」
「そう思わない?」
「私は前からそんなマイナスな感じはしてなかったけどな〜。みんな楽ならそれ正道」
「なるほど、あなたらしい」
二人して笑い合って、またグラスを傾ける。
「こうしてると、ほんとは乾杯してないのに、グラスの音が聞こえてきそう」
「確かにねえ。不思議なもんだ」
他愛ない会話をしながら、今日も夜は更けていく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?