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疑問に満ちた、ウーフの世界

世界は疑問に満ちている。
ウーフのいる世界は、とてもキラキラしている。
おとうさんも、おかあさんも、ウーフの疑問を優しく受け止めてくれる。
それをうらやましく思う。

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『くまの子ウーフ』シリーズは、刊行から50周年を迎えたそうだが、「キナリ読書フェス」に参加して読むまで、一度も触れた記憶がない。
私は現在34歳なので、間違いなく、私の子ども時代から存在しているはずだ。
だが、絵本として読み聞かせてもらったことも、教科書に載っているのを読んだこともない。
理由は分からないが、タイミングが合わなかったのだと思う。だから、今回読む機会が得られて良かった。

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冒頭で、愛情を受けて育つウーフをうらやましいと言ったが、よく思い返してみれば、私も母に絵本の読み聞かせをしてもらったではないか。
「ウーフ」ではなく、『11ぴきのねこ』シリーズだが。
こちらは、11ぴきのねこたちが色々なところを巡る冒険譚。私は、コロッケを作る話が好きだった。彼らがどこで何をするのか、いつもワクワクしていた。
「ウーフ」は冒険に出るわけではないので、ワクワクするわけではないのだが、素朴な可愛さが愛おしい。
そして、作品から提示される疑問が心に残る。

ちょうちょだけに なぜなくの

「へえ、ウーフ、こないだ、ぼくと、とんぼとってあそばなかった?」
 ツネタはへんな顔をしました。
「あのとんぼ、はねがもげてしんじゃったけど、ウーフ、なかなかったね。どうして?」

この疑問に的確に答えられる人はいるのだろうか。
私もいまだに上手く答えられない。
ただひとつ言えるのは、愛着を持っているかどうかの違い、なのかなと思う。
ウーフが蝶を見た瞬間の描写が印象的だ。

 青いはねから、光がこぼれるようでした。
 ウーフは、むねがどきどきしました。そっと、つかもうとすると、ひらひらとびたちました。

この時のウーフは、蝶に恋に近い感情を抱いていたんじゃないかと思う。だから、捕まえようとしたし、おとうさんに「ぼくのちょうちょだ」と主張した。
けれど、ちょうちょはウーフのものになる前に死んでしまった。叶わぬ恋に、ウーフは泣いた。勝手な推測だけれど。
実は私も、ウーフと同じような理由で泣いたことがある。私の場合は、消しゴムに対してだけれど。
小学生の頃、林間学校で消しゴムを無くして(ベッドの隙間に落ちて取れなくなった)、大泣きした。なぜか分からないけれど、その消しゴムを大事な友達というか、自分の一部みたいなものだと思っていた。
つまり、愛着があるかどうかで、泣くか泣かないかも変わってくるのかなと思う。上手く言えないけれど。

おっこどさないもの なんだ?

読んだ人の多くは、ウーフも疑問に思っていた「おっこどさないもの」に意識を向けるのだろう。
だが、私が気になったのは、冒頭のピピとのやり取りだ。
「あつくていやになっちゃうなあ。」と嘆くウーフにピピが伝える言葉。

「ちょっと、ウーちゃん、いいこと教えたげる。あたしね、町のお店で毛皮を売ってるの見たことあるのよ。」
「へえ、毛皮を売ってんだって。」
 ウーフは、目をまるくしました。
「だから、あんたも、毛皮をぬいで、売ったらどうお。お金もちになれるわよ。」

くまが毛皮を脱いだら、死んでしまうのではないか?
ピピが知って言っているのか、知らずに言っているのか気になる。前者だとしたら、相当いじわるだ。後者だとしたら、「なんで暑いのに脱がないの?」と純粋に疑問に思っているだけなんだろう。この後のピピの言葉を読むと、なんとなく後者のような気がするけれど。

「へい。だから、くまはばかなのよ。夏でもふうふう毛皮きて、いつまでたっても、お金もちになれないのよ。」

くま一ぴきぶんは ねずみ百ぴきぶんか

一番印象的だったのは、最後に収録されている「くま一ぴきぶんは ねずみ百ぴきぶんか」だ。
おとうさんとウーフのやり取りが、とても深い。

「くまは百ぴきぶんたべるから、百ぴきぶんはたらけば、いいんだ。そうだね、おとうさん。」
 すると、おとうさんがわらいました。
「いいんだよ。ねずみは、ねずみ一ぴきぶん、きつねは、きつね一ぴきぶん、はたらくのさ。だれのなんびきぶんなんかじゃないんだよ。おとうさんはくまだから、くまの一ぴきぶん。ウーフなら、くまの子一ぴきぶんさ。みんなが一ぴきぶん、しっかりはたらけばいいんだ。や、にじがむこうの上までかかったよ。」

自分のほうが体が大きいから、丈夫だから、人の分までたくさん働けばいい、というものではない。
そうではなくて、自分ができる範囲で精一杯やりなさい。
おとうさんは、そう言っているように聞こえた。
もうちょっと、肩の力を抜いていいんだよ、と言われているようで、嬉しかった。
私は普段、介護職として働いているのだが、新人ばかりの職場にいた頃、「新人の分まで働かなば」と気張っていた。休職明けだったのに、復帰して1ヶ月で早番・日勤・遅番・夜勤をフルでこなしていた。結果、半年弱で限界を迎え、別の職場に異動することになった。
あの時の私に、おとうさんのこの言葉をかけてあげたいな。

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