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読む一人芝居~2020年春、別世界の始まり!!編③~


第6場
2020年3月上旬。静岡のハルカの自宅

ベッドを背もたれにして
床に座る

「えー、このイベントも?
これも?
でもそうだよね…。」

私が出演した
『グリム童話—少女と悪魔と風車小屋』
の次にSPACで上演されていた
『メナム河の日本人』も中止‥。

私のところにも、
中止のお知らせがたくさんきた。

3月上旬に入っていた
ワークショップの講師のお仕事。

七間町ハプニングで上演予定だった創作ダンス「Frontier~未開拓な私たち~の公演…。

受信メールボックスに連なるいくつもの件名を見ながら、

落ち込んだ。

でも、
いちばん辛いのは誰?

それはきっと、主催者の人だ。
私は受けた仕事を精一杯やるだけ。

でも、
主催者の人はちがう。
様々な思いを胸にして、
企画を一から立ち上げて、
劇場をおさえ
出演者、
演出家、
照明、
音響、
舞台装置、
誘導スタッフ、
などなど
もう支払ってしまったお金。
膨大は時間を費やして
もろもろのリスクも背負って…
でもそれらの努力が


「中止」

なんとか開催する道を模索し
世の中の情勢を考えたら中止すべき、
でも、みんなのことをかんがえたら
絶対開催したい!


認めたくない
「中止」という
そのたった2文字の決断によって、
水泡と化す。
このやり切れぬ思いをどうするのだろう。


ふと、思いたって、
台本が入ったカバンをもってきて、
台本のファイルを開く。

ハルカ:
「ふふふ、超かわいい♡♡」

相次ぐ「中止」の連絡で
鬱々とした日々を過ごす中、
私に一筋の希望を
もたらしてくれるものがあった。

そう、
既に稽古が始まっていた、
東京で、初めて出演する予定だった作品の
チラシだ!!

私は、うさぎストライプさんという劇団の
『いないかもしれない』という作品に
出演することになっていたのである。

ハルカ:
「あのさー、もーう♡、
この、A4より一回り小さいサイズ感で、
あまり光沢のない紙の質感…
青空にランドセルの赤が映えて、
髪がサラっさら…。字体も素敵!!」

↑チラシオタクか!!!!!!!!↑

なーんて、
いつもそんなに
チラシオタクじゃないくせに、
このときばかりは
テンションが上がった。

画像1

↑こちらがそのチラシです。

(チラシデザイン:西泰宏(うさぎストライプ))


このチラシを手に取っているときは
現実の不穏な空気なんて忘れ、
自分がどこまでも気高い存在で
いられるような気がした。

裏面の上演スケジュールを何度も観て、

ハルカ:
「4月上旬にはコロナ収まって、
この公演は無事にできるよね…」

そんなことを考えていた。
俳優ってどこまでも純粋だ。



第7場
2020年3月集中稽古2日目。東京の稽古場。

演出家:
「これまではいろんな稽古場を
点々とする感じだったのですが、
明日からいよいよ
アトリエ春風舎での稽古が始まります!!
舞台セットとかも
より本番に近いセットなどが
準備できると思うんで。頑張りましょー!!」

みんな:
「はーい!!」

共演者のひとり:
「え、
ミヤギシマさんって
こっちでの稽古のときどこに泊まるのー?」

ハルカ:
「あ、私?あのー、
アゴラ劇場の上の稽古場に
泊まらせてもらうのー。
冷蔵庫とかレンジとかシャワーも
あるみたいだし…。
俳優の仕事で長旅には慣れているから
大丈夫!!」

本当は、
稽古期間カプセルホテルを予約していたり、西東京に住む祖母の家に
泊まる予定だったりした。
でも、
体調を崩すリスクを少しでも減らしたい。
そう考えると、劇場がいちばんいいと思った。※1

第8場
2020年3月集中稽古3日目。
アトリエ春風舎

ハルカ:
「うーん、
このシーンって何をみせたいのでしょうか…。今やっている感じだと、
『ちがうなあ』
というのは自覚できるんですけど、
結局最終的に
どうもっていきたいのか分からなくて…」

演出家:
「うーん。そうですねー。
なんか私の方も
まだよく分かってないのだけれど
色々と試してみましょう!!」



云々…




ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ




ハルカ:
「あの、
SPACだと
いや、つまり、
宮城さんのところにいると、
~な考え方とかで
けっこう解決しちゃったりするんですけれど、なんだかそれだと違いますよね…」

演出家:
「そうそう、
こちらの方法論は、それとは真逆で、
どうしたら、
より、こう、
なんかそうやって
上手くいくかを探るんだけど、
そこにすごく集中力が必要で…」



云々…



ぶつぶつぶつぶつぶつぶつ




つまり稽古稽古稽古稽古稽古!!!



話し合い話し合い話し合い話し合い!!!




ハルカ:
「うーん、
やっぱ、
もう一回
やってもらってもいいっすか!!??」

演出家:
「もちろん!!」





うーーーーー…




楽しい


やっぱり楽しい。




稽古は楽しい。
しかもこの稽古場はとりわけ楽しい!!!!
自分が期待していた通りだ。

決して萎縮することなく、
共演者が、
俳優が、
対等な立場で、

「いい作品」

という一つの目標に向かって、
突き進んでいく。


稽古場は楽園だった。
アトリエ春風舎から駅までの道を
歌いながら歩く。
スキップして進む。
踊りながら歩く。
発声練習をしながら歩く。

稽古場の近くにあった
マンションの駐車場で
遊んでいた男の子の
ボールが目の前に転がってくる。

ニコニコ投げ返してあげる。


世界は平和だ。
平穏だ。


平穏なんだ、
だいじょうぶ、
だいじょうぶ!


第9場
2020年3月下旬集中稽古中のある日
こまばアゴラ劇場。宿泊部屋

ハルカ:
「今日は、
稽古がいつもよりちょっと遅く始まるから
大学の図書館にでも行こう…」

こまばアゴラ劇場は、
東京大学の駒場キャンパスのすぐ前だ。
私は、ここの大学院生でもあって、
稽古期間中は
よくここに来て勉強をしていた。


いつもの道を歩く。
門から入ろうとする。
あれ?


ハルカ:
「新型コロナウイルス感染拡大防止のため~…ここは入れないのか…」


正門まで歩く


ハルカ:
「関係者以外は入れない…?」


学生証を見せて正門を通り、

いつものように図書館に行く。



ハルカ:
「椅子が…勉強スペースがなくなっている…」




稽古場という楽園に浸っていた自分。


そうだよ、
世界は、日本は今、
新型コロナウイルスという未曽有の危機(?)なのか分からないくらい
よく分からないモノに
直面しているんだ。




次の日の朝は、東京に雪が降った。

咲き始めの桜に雪が積もる。

歩道に積もった雪をサクサク踏みながら進む。

雪のない静岡に住んでいる
私にとっては
変な感じだった。


稽古場と稽古以外の日常が、
なんだかよく分からなかった。



非日常の世界を、
虚構の世界を、
全力で創り上げることを日常としている
「演劇」という私の職業。


今は、創り上げている虚構の世界の方が、
なんだか普通な日常のような
そんな感じがしてしまった。


なんで、こんなに


無駄に

本当に無駄に

ドラマチックなのよ!?



私は、
私の周りにある小さな
「非現実の世界=演劇」
という日常が、
ふつうに、
ふつうにできれば、
それで、
それだけでいいと思っているのに。



※1私が出演していたうさぎストライプさんという劇団の主宰は大池容子さんという方で青年団という日本を代表する劇団の演出部というところに所属されています。公演の会場となっていたこまばアゴラ劇場は青年団が主な活動の拠点としている劇場で、集中稽古の稽古場のアトリエ春風舎も青年団のアトリエとして稽古場や公演の場所として使われています。こまばアゴラ劇場の稽古場は、地方から劇場に上演にやってくる地方の劇団のために、宿泊場所としても使用できるようになっています。

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