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読む一人芝居~2020年春、別世界の始まり!!編⑤~

第12場 
2020年3月下旬。
アゴラ劇場の宿泊スペース

第6回の続き)

スマホの音:
「ブーーーッ、ブーーーーッ。」

ハルカ:
「うん?(携帯のメール画面を開く)え!?」

そのメールに私は、思わず息を呑んだ。
心臓が高鳴った…。

ハルカ:
「え!?」


ハルカ:
「(メールを読みながら)みなさま。おつかれさまです。
とても残念なお知らせをお送りしなければなりません。」


!!!!!!!!!!


残念な、お知らせ…?


ハルカ:
「(メールを読みながら)連日の協議の結果、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2020」5/2~5に上演予定だった『アンティゴネ』公演を中止することといたしました。」


え!?
演劇祭も!?
中止!!!???


私が所属している
SPAC-静岡県舞台芸術センターでは、
毎年5月に
「ふじのくに⇄せかい演劇祭」

「ふじのくに野外芸術フェスタ」
を開催している。

GWに合わせて、
いつものSPACの劇場や、
駿府城公園に舞台を造って公演をする。
日本中から、海外から、
出演者やお客さんがやってくる。

毎年、この時期は忙しいけれど、
なんだかんだいって、
みんな演劇祭が大好きだ。

2月に『メナム河の日本人』の公演が
中止になったときも、
「演劇祭はやろう」

って、話が進んでいて、
チラシも配っていたはずだ。


それが…


中止。


私は『アンティゴネ』という作品に
出演することになっていた。


しばらく経って、もう1通メールが来る。


ハルカ:
「(メールを読みながら)演劇祭中止の決定に伴って、臨時で全体ミーティングを行います。
ZOOMという会議のアプリを使ってやってみます。明日の20時からです。できる限り参加してください。」


えーーーー…


ど、どんな会議になるんだろうか。。。
怖い…


第13場 
2020年3月末。
アトリエ春風舎稽古場

演出家:
「今日の稽古はここまでにします。あー、もうあと数日で劇場入りですね!」

うさぎストライプの制作スタッフさん:
「コロナの影響で、団体予約のキャンセルが出たり、公演についての問い合わせがいくつか来ていますが、劇場と連携を取りつつ、現時点では実施する方向で進めています。」

共演者:
「はーい。お疲れさまですー!!」

ハルカ:
「お疲れさまです!あ、私、今日ちょっと急いで帰ります。なんか、オンラインでSPACの臨時ミーティングがあるみたいで…大丈夫なのだか…ちょっとどうなるか怖いんですけれどもね…」

演出家:
「へー、大変だね…ではでは、また明日!!」

ハルカ:
「お疲れさまです!!」


急ぎ足で稽古場から駅に向かっていく


ドキドキ


ドキドキ



第14場 
2020年3月末。
アゴラ劇場の宿泊スペース


ハルカ:
「あっ!もう20時過ぎてる!急がなきゃ!!」


ZOOMの画面を開く


ハルカ:
「へー、初めてやってみたけど、こうやって参加者が表示されるのか…え、しかも、静岡と東京がこんな感じになるのね…」


久しぶりに聞く、
宮城さんの声、
SPACの先輩の声、
SPACのスタッフさんの声…


しばらく東京にいて、
演劇の現場ではあったけれど、
SPACとは全然ちがう劇団の稽古場にいた。
身体も心もSPACの現場にいるときと違った。


オンラインでみんなの声を聴き、
一気に、
自分がSPAC俳優なんだ…
この劇団の人なんだよ、自分!


ZOOM画面で束の間の
懐かしい名前と声と時々、顔をみて、
喜んだのもつかの間だった。


SPACの人①:
「稽古場でも色々と話し合ってきた通り、このような状況の中で、人が集まって演劇の稽古をすること自体、どうなのだろうか…」

SPACの人②:
「家族も一緒に暮らしてる、だから怖い。」

SPACの人③:
「無観客配信というのもありだよね…」

SPACの人④:
「稽古などを続けていたとして、誰かが体調を崩したらどうなるのか。体調を崩すことなんていつでもだれでもありうる…」

ハルカ:
「(無言)…」


無言・・・・


無言・・・・



何の言葉も今の私には思いつかない。


わたし、


わたし、


完全に、置いてかれている!!


私は今、

稽古場で、

対面で、

来たるべき本番に向けて

ふつうに、全力で稽古している!!!!


SPACの人たちの話し合いを聞きながら、
一気に現実に引き戻された。


この状況の中で稽古をすること、
本番をすること、


もう、どう考えたらよいか分からない。
体調崩したらどうしよう。
もし、稽古場の中に感染者がいたら…?
自分が感染していたら…?


公演を始めたとして、
お客様は…???


SPACの人たちの話し合いの中から出てくる
言葉の数々が今の自分に重くのしかかった。

でも、
でも、
でも…

私たちの公演、
私たちの、
『いないかもしれない』
の公演は、


やりたいーーーー!!



第15場 
2020年3月末。劇場入り前稽古最終日
アトリエ春風舎稽古場


ハルカ:
「わーん、もう、昨日のミーティングは辛かった…どうすればいいの…?でも、私は、今の、今の稽古に集中する。それだけだ。それが俳優の仕事だ。よし、今日は早く稽古場に行って祈りを捧げよう。」


祈りを捧げる

って、

なんだ!?
とにかく今は、心を落ち着かせる…
今日の、劇場入り前最後の稽古に
集中する!!
それが、私の仕事だ。

ハルカ:
だいじょうぶ、わたしの足はわたしよりかしこいし、わたしの天使はわたしを見捨てないわ。『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』のセリフ)」

ハルカ:
すべてのものはあるべき場所に。(『グリム童話~少女と悪魔と風車小屋~』のセリフ)」



わたしの足はわたしよりかしこい。


わたしの天使はわたしを見捨てない。


すべてのものはあるべき場所に。



だから、私はこの稽古場にいていいんだ。
信頼する仲間たちと共に、
今を
生きるしかない。
それだけだ。

そして、この日の稽古は何事もなく終わる。
そして、
やっぱり、
稽古は楽しい。
劇場入りが楽しみだ。


第14場 
2020年4月1日。劇場入り日
こまばアゴラ劇場

もくもくと、
いつも通りに、
舞台セット、照明、音響が
仕込まれていく。

ハルカ:
「お疲れさまですー!」

共演者:
「すごいね、だんだん、舞台できてきてるね!」

演出家:
「あと、明日の午前中に『いないかもしれない』の上演に関して劇場と協議することになりました。明日のミーティングで、また内容を共有しますね」

みんな:
「はーい!!お願いします!!」


協議ってなんだろう…?


まあ、いいか。
そこは任せるしかない。
何があっても私は、
今、
いっしょの、
このチームの人たちと
いっしょに生きる!!

第15場に続く…

※写真は、劇場入りしてワクワク、舞台セットの椅子に座ったハルカ、です。
撮影:西泰宏(うさぎストライプ)

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