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読む一人芝居~2020年春、別世界の始まり!!編④~


第10場 
2020年3月下旬集中稽古。稽古前
アトリエ春風舎の休憩スペース


ハルカ、稽古場に到着し、手洗いうがいをしている


共演の青年団の俳優さん:
「あー、はるかちゃん!!コロナ対策?」

ハルカ:
「あ、はいっ!!それもあるけれど、私、1月~3月とか、感染症流行る時期の稽古と公演期間はいつもこんな感じです!」

共演の青年団の俳優さん:
「へー!すごい、でも、俳優にとってそれはとても大事なことだよね!!体が資本だし…。え、稽古の方はどう?アゴラ劇場に泊まってるらしいけれど、不自由とかない?」

ハルカ:
「あ、はい、アゴラ劇場は備品そろってるし、寝る時も、寝袋とか防寒具とかいろいろもってきたので大丈夫です。長旅は慣れてますし…ははは。あと、やっぱり稽古がとても楽しいから心がとても健康でいられるというか…」

共演の青年団の俳優さん:
「へー、でも、青年団とSPACだと、演技のやり方とか全然ちがうよねー。」

ハルカ:
「そうですねー!この前、図書館で平田オリザさんの『演技と演出』借りて読んだんですよー、むかーし一回読んだことがあったのですけれどそのときはピンと来なくて、でも今読んだらすごく面白くて…」

共演の俳優さん:
「(稽古場に入って来ながら)おはようございますー!!聞いた??あの劇団の地方公演?中止になっちゃったんだって…東京はできるのかねエ。なんだか時間の問題な気もするんだよね。」

そう、このような他の劇団の公演の
「中止」の知らせ。
私たちの稽古場でもそれが話題だった。
でも、ちゃんと開催された公演もあった。

だから、

だから、

私たちの公演はきっとできる!!
そう信じていた。

第10場 
2020年3月下旬集中稽古。稽古前
アトリエ春風舎の休憩スペース

演出家:
「今日の稽古はここまでにしますー。
明日は、この部分をちょっと復習した後に
一回通すことができたらいいな…」

俳優たち:
「はーい!!」

うさぎストライプの制作スタッフさん:
「みなさんお疲れさまです。新型コロナウイルスの影響で、他の劇団が中止になったり、そういう類のお知らせがたくさん来て、焦ると思います。でも、この『いないかもしれない』の公演は、今のところやります。何か不安はありませんか。」

ハルカ:
「あの、すみません、静岡のお客様でチケットを買ってくださったけれども、東京に来るのが心配で、キャンセルを検討しているという知らせが何件か来ているのですけれど、どう対応しましょうか。キャンセルは可能ですか。」

制作のスタッフさん:
「なるほど。普段の公演だったら、チケットのキャンセルとかを積極的に案内することはないのだけれど、改めてお知らせを出しましょうか。静岡のお客さんに限らず、そういう方いると思うので。」


私のところにも
静岡からちらほら連絡が来ていた。

お客様のひとり:
「本当に公演できるの?」

友達:
「チケット予約したけれど、やっぱり家族にこの時期に東京に行くのはやめとけって…」

そりゃそうだ。
静岡から東京に来るのはお金も時間もかかる。

それでも、
チケットを予約してくれた
静岡の友達や
静岡の劇場のお客様。

優しくて温かな静岡のお客様。

問い合わせをしてくれた友達との
やりとりの中で、
静岡の方が、大都市での、東京での
“感染症”を
どんな風に心配しているのか
垣間見えた。

東京では、私は今、
稽古場に通って、稽古して…
普段通りの“日常”を送っているはずだ。
でも、それが静岡の方からすると
「今東京って危険??」
と捉えられる。

きっと、私が静岡にいたら同じことを
思うだろう。

「無理にでも絶対、公演に来てください。」

とはいえない。

心配の連絡を入れてくれるお客様には
1人1人返信をしたり、
稽古場でメッセージビデオを撮影して送ったりした。


note第6回使用写真

↑実際に撮影したメッセージビデオの中の1コマ


今、私は東京にいるけれど

元気です。

幸せです。

幸せな稽古場で、

ほぼ初対面な、でも本当に素敵な仲間と、

この上なく幸せな時間を過ごしています。

だから、劇場に来られなくても、

予約いただけただけで私は

本当に幸せです!!

無事本番ができることを祈りつつ、

いつか静岡のお客様に観ていただける機会を

夢見て、精一杯頑張ります!!


第11場 
2020年3月下旬集中稽古の後
帰りの電車の中

ハルカ:
「(静岡の家族宛てにLINEを打ちながら)
正直、今、私が東京にいるのって、心配だよね…」

家族:
「(LINEの返信)うん。でも、今、そこで精一杯の仕事をするのがあなたの仕事なのだから。」

ハルカ:
「(LINEで打っている)こちらの稽古場にも、他の劇団や公演の『中止』の情報が入って来てる。私たちの公演は「やる」って思って頑張っているけれど、確証はないのかもしれない。全部できなくても、1ステージだけでもいいから、やりたい。」

家族:
「(LINEの返信)そうだね。あ、そういえば、静岡から東京に帰ってきたら、念のため隔離ができるように、部屋を用意しておいたよ。
あなたも私たちも仕事もあるし、万が一のことがあったらいやでしょう。」

ハルカ:
「(え、そんなにおおごとなの…???)、あ、そんな…ありがとう。」

そうだ、当時静岡では、大都市圏から
帰って来た人から家庭内で感染していく、
というケースがたくさんあったのだ。

家族も、私も、静岡で、仕事がある。
お互いのために、大事なことだ。


第12場 
2020年3月下旬。
アゴラ劇場の宿泊スペース

ハルカ:
「(荷物を置いて、寝支度をはじめながら)
はー、やっぱり、今、大変なんだ…。」

だいじょうぶ、私の足は私よりかしこいし、
私の天使はわたしを見捨てないわ。

『グリム童話—少女と悪魔と風車小屋』のセリフ)

1か月前、劇場で毎日聞いて、
稽古場で毎日言っていた台詞が、
突然降って来た。

ちょっと、モヤモヤと、グサグサとした、
どうしようもない不安でいっぱいの
心の中に、演劇の言葉は、
一滴の薬のように染み渡る。


その奇跡に、
ひとつぶの涙がこぼれた。


スマホの音:
「ブーーーッ、ブーーーーッ。」

ハルカ:
「うん?(携帯のメール画面を開く)え!?」

そのメールに私は、思わず息を呑んだ。
心臓が高鳴った…。

ハルカ:
「え!?」


(第12場、続きは次の投稿で…)


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