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あの子の中のダークサイド

会った時はいつも笑っている
仕事は可も不可もなくなようだ
週末の夜はお酒を飲んで談笑する
休日は予定を入れているようで
あまり家にはいない
たわいもない話と束の間の真顔

何も言わずに遠くを見つめる目
その後何もなかったかのように
ぼくたちにまた笑顔を向ける

一見何の問題もないように見える
しかし話す内容は食べ物や仕事の話ばかり
政治や夢、人生についてなどの
議論を招くような話題は一切口にしない

当たり障りのない会話をしているだけで
流れていく多くの時間と月日
この日々は取り戻せないという事実を
まるで忘れるかのように
キミはお酒とともに心の中の気持ちを流し込む
本音は話さない
事実も語ろうとしない

そんなキミを見てぼくはあえて何も聞かない
語られない気持ち
見せない本音
笑顔のマスクをしてキミは今日も声をかけてくる
「おつかれさま」
瞳のなかの炎はどこかに行ってしまったようだ
出会った頃から感じていた違和感はこれだった

ただ今を生きている
光とも言えないような面だけを見せて
キミはダークサイドを隠しているのだろう
ぼくにはわかってしまうのが悲しいかな

初対面の人に心を開くのは簡単なことではない
過去の経験から得たことから
自身の深いところにある
あのどろどろとした気持ちは語らないと決めた
小さくとも眩しい光をチカチカと灯す
あの高まる気持ちの話はしない
すべては自分の心を守るため

本音で向き合わない相手に
本音で向き合ってくれる相手は見つからない
心を開かない相手に
心を開き続けることは難しい

何気なく笑う横顔
話さないことほどその人が避けたい話題なのだろう
ダークサイドを見せないように
見られないように今日もキミはマスクをつけている
張り付いた笑顔
長く使用するうちにその笑いは廃れてしまったが
当の本人は気づかない
外部の人間にしか分からない感覚
誰しも心の闇を抱えながらも
今日も何もなかったかのように生きる

「おかえり」
「楽しかった?」
「よかったね」
「いいなあ」
その言葉の意味を一番知っているのは
何も言わないキミだ


届けたい言葉
語られない言葉
言葉にできない気持ち
言葉にしたが届かなかった思い
想いを馳せた日々

何も言わないことの裏にある感情
口に出される言葉よりも
語られないことの方に本音がある
表情と合わない行動の根源にあるもの
放たれる言葉に隠された気持ち

言わないやらない見せない
この3つが本当のキミの姿をシャドーで包み込む
はじめは薄く柔らかなふわふわとしたものだったが
重なるうちにそれは次第に濃くなり分厚くなり
少しの風が吹いただけでは全てを拭い去ることはできない
なにより中にいるキミ自身がそのシャドーを
なくならないように払い除けない
誰からも自分がハッキリとは見えないように
強く引き止めている

そんなキミをぼくはほんの数メートル先から見つめている
いつかキミが自身の美しさに気づき
慣れ親しんだ暗く曇った環境を抜けて
ぼくに眩しい瞳とともに
無邪気に笑いかけてくれる日々を願いながら

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