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触れないものの美しさ

それは例えば、ペットのよう。

ペットショップに並ぶ犬達は、
幸せであたたかい未来を想像させる。
一緒にいれば癒され、寂しさも紛れるだろうと期待する。

しかし、いざ手に入れると、
思ったよりも金がかかる。
部屋は糞尿で汚れ、自分の時間は減る。
たまに噛み付いてきたり、無駄吠えに頭を抱えることもあるかもしれない。




それは例えば、
古めかしい外車のよう。

錆や色褪せは前の持ち主のロマンを語り、
その車に乗ればどこに行っても様になると想像させる。

しかし手に入れてみれば、メンテナンスなしではポンコツで、そのメンテナンスにも手間と金がかかる。
流行はすぐに廃れるかもしれないし、自分が飽きた頃にはただのおんぼろ車にすら見えるかもしれない。


そう、触れないものは、いつも美しい。
遠くから見ているだけの、
自分とは関係の無い世界のものは、
とにかく綺麗で魅力的で、美しいのだ。

それは恋も同じく。


叶わせる気のない片思いほど
美しく、魅力的なものはない。

ガラスケースに入れたまま蓋を閉め、
それを遠くから眺める。

私は、ガラスケースの中の「それ」の
匂いも、温度も、質感も知らない。

ただ、外から眺める「それ」は、
恐ろしく綺麗で魅力的なのである。


きっと近づいて触れてみると、
思ったよりも美しくないのだ。

肌触りも、匂いも、全て想像とは違う。

想像よりも脆いかもしれないし、
腐っていたり、傷ついているかもしれない。

だけど触れない限り、私はそれを知らない。
私にとって「それ」は、永遠に美しいのだ。

触れてしまって壊してしまうくらいなら
触れてしまって理想との違いにがっかりするくらいなら
その脆さに胸を傷めるくらいなら

もう少しだけこうして、眺めていたい。

例えそれが、永遠に手に入らないとしても。


はるこ《公式》
#エッセイ #コラム #片思い #写真

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