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天才作曲家の波乱に満ちた生涯を描く 『モーツァルト!』

どうしても観たいミュージカルだった、『モーツァルト!』。タイトルからも分かる通り、天才と呼ばれた作曲家・モーツァルトの生涯を描く物語だ。

何度も「チケットをご用意できませんでした」メールを受け取り、リセールチケット(いけなくなった人がチケットを売りに出すことがある)をチェックしていたところ、2階席の端の席がリセールに出ていたので、迷わず買った。

気が付いたら、『ライオンキング』から中一日で観に行く羽目になっていた。しかも、なぜか翌日、坂元裕二朗読劇を観に行くというとんでもない予定になっていた。

結果的に過密スケジュールになってしまって、アタマが疲れて、書くのが遅くなってしまったが行ってよかった。とても素晴らしい作品に出会えたから。

いきなり市村正親御大の歌を聴く

幕が上がって、2階席から見えたステージには、思いのほか大きなセットが設えられていた。ビックリしつつ、始まったお芝居にすぐ心を掴まれた。

しょっぱなのナンバーは『奇跡の子』。ヴォルフガング・モーツァルトの父・レオポルド(市村正親さん)が、息子ヴォルフの天才ぶりを歌い上げる。

2階席の端までよく響く声に感動しながら、市村正親さんて何歳ぐらいだっけ?と思った。帰宅して調べてみたらなんと70歳を超えていた。マジか。もう伝説じゃん。70歳を超えていてもあの声出るのか・・・と妙なところで驚く。レオポルドはダブルキャストでもトリプルキャストでもなかったので、毎日帝劇の舞台に立って歌っているということだ。

年齢的に、それだけでも素晴らしいのだけどよほどミュージカルの舞台を愛していらっしゃるのだな、と感動してしまった。

人間・ヴォルフガングと才能の化身・アマデ

青年ヴォルフガング(私が観賞したのは、古川雄大さんの回)の傍らには、子どもの姿のモーツアルトが付き添っている。アマデだ。

「曲を作る才能」を表すアマデと、普通の青年ヴォルフガングは常に舞台上で一緒だ。作曲するのは、アマデであってヴォルフではない。

2人して登場してきたところで歌うのが、『僕こそ音楽』。本作の宣伝などでよく使われている曲である。
「才能のある僕」だからではなく、そのままの自分を愛してほしいという願いを込めた曲だと思っている。私がCDでよく聴いているのは、井上芳雄さんのものだ。古川雄大さんの『僕こそ音楽』はどうなるのだろうと思っていたが、伸びやかな歌声を披露してくれていた。古川雄大さんの演じるヴォルフは、繊細というより少しやんちゃで、精神年齢がアマデに近いように思えた。

歌の方は、今の時点でも素晴らしいのだけど、まだまだこれから表現力が伸びそうな気がした。

次があるなら、また観てみたい。

ヴォルフの背中を押す、ヴァルトシュテッテン男爵夫人

ザルツブルクからパリへ行って、うまくいかずにザルツブルクへ帰ってきたヴォルフ。気が短い彼は、雇い主との関係がうまくいかない。父レオポルドはとにかく雇い主のコロレド大司教との間をとりなそうとするが、ヴォルフの才能を買っているヴァルトシュテッテン男爵夫人は、ウイーンへ行くことを進める。

レオポルドとヴォルフの間を取り持つように、ヴァルトシュテッテン男爵夫人が歌うナンバーが『星から降る金』である。

私が行った回で、ヴァルトシュテッテン男爵夫人を演じておられたのは香寿たつきさん。いやもう、本当にこの曲を歌う香寿たつきさんが素晴らしくて、鳥肌が立った。音域がとても広くて、伸びがあって・・・宝塚時代から、さぞかし歌がお上手だったのだろうと思う。

宝塚時代は男役でいらしたとのこと。どんな作品に出演されていたのか知りたくなった。探して観てみようと思う。

コロレド大司教(山口祐一郎)さんに心奪われる

ヴォルフの、というよりレオポルドの代からのパトロンであるコロレド大司教。彼の怒りをしょっちゅう買っているヴォルフだが、怒りを買うたびにコロレド大司教の歌が聞けるから、観ているこちらはつい、「まあいいか」と思ってしまう。

コロレド大司教を演じるのは、ミュージカル界のキング(井上芳雄さん談)・山口祐一郎さん。コロレド大司教の歌うシーンはたくさんあるので、そのたびに耳が幸せになる。

しかし、市村正親さんに、山口祐一郎さんに、香寿たつきさんに・・・なんという豪華なメンバーだろう。こんなことがあっていいのだろうか。もちろん、これがどうしても味わいたくてチケットを取ったのだけれど。

ストーリーは悲しい結末へ

『モーツァルト!』は名曲に彩られたミュージカルだ。物語の場面場面にあった曲に身をゆだねていると、ヴォルフガング自身の苦悩や、周囲の失望・諦め。家族仲の悪化、妻との不仲によりヴォルフが精神的に追い詰められていくのが伝わってくる。

一旦はウィーンで才能を認められ、成功をおさめるヴォルフだが、彼の生来の性格もあってか、次第に状況は悪化していく。

ヴォルフの才能を何だかんだ言って買っていたコロレド大司教は、彼を諭す。その時に使われるナンバーが『破滅への道』だ。

市民のために曲を書くというヴォルフガング。

市民は芸術など理解してない。そっちは破滅の道だというコロレド大司教。

二人の道は交わらない。

驚きポイント:舞台美術

帝国劇場の大きな舞台の上に、さらに目立つピアノのセットがどーんと置かれる。
舞台美術も愛でたかったのだが、いかんせん2階席だったので遠くてよくわからなかった。細かいところは見えなかったが、大がかりなセットであることはよくわかったし、セットが回ったりするので、それだけでも面白かった。

終わりに

モーツアルトの生涯を名曲で彩るミュージカル、『モーツァルト!』。これまでいくつかミュージカルを観てきて、演じ手が違えば作品全体の雰囲気がちょっと変わること、歌のうまさや表現力で、鑑賞しているこちらの気持ちが変わってしまうことなどが分かってきた。

それが、役者というものだろう。

欲張ったことを言わせてもらえば、山崎育三郎さんのヴォルフも観たかったし、涼風真世さんのヴァルトシュテッテン男爵夫人も観てみたかった。

『モーツァルト!』、ぜひ次回は違うキャストで観てみたい作品になった。次があるなら、チケット争奪戦には覚悟をもって参戦したい。

以下は自分用の覚書。

2021/4/19(月)夜の回 主な出演者(敬称略)
ヴォルフガング・モーツァルト 古川雄大
アマデ   深町ようこ
レオポルド(父)  市村正親  
ナンネール(姉)  和音美桜 

コンスタンツェ(妻) 木下晴香 

コロレド大司教 山口祐一郎 
ヴァルトシュテッテン男爵夫人 香寿たつき 

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