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1月観劇記録 『トッツィー』

山崎育三郎さんとはあまり縁がない。

『モーツァルト!』は結局育三郎さんヴォルフの回は取れなかったし、『エリザベート』も公演中止。唯一観に行けたのは『ファインディング・ネバーランド』。育三郎さん自身もだが濱田めぐみさんが素晴らしく、2人の共演が初めてだと聞いてとても驚いた。

『トッツィー』と言えば、だれが何と言おうとダスティン・ホフマンである。彼は小柄で華奢だからあの役ができたと思っているけれど、名作コメディ映画のミュージカル版でドロシーを演じる山崎育三郎さんはぜんぜん小柄じゃない。ちょっと不安はあるが、相手役になるのが愛希れいかさんだし、身長差とかはまあ大丈夫だろうと、ミュージカル版『トッツィー』をエンジョイしに日生劇場へ。


観劇日・キャスト


2024年1月13日(土)マチネ
場所:日生劇場

キャスト(敬称略)は以下の通り

マイケル・ドーシー/ドロシー・マイケルズ 山崎育三郎
ジュリー 愛希れいか
サンディ 昆夏美
ジェフ 金井勇太
ロン エハラマサヒロ
スタン 羽場裕一
リタ キムラ緑子

あらすじ

実力はあるが売れない役者・マイケル・ドーシー(山崎育三郎さん)はある日、藁をもつかむ思いで女装してオーディションに行ったらプロデューサー・リタ(キムラ緑子さん)に気に入られ、合格してしまう。女優・ドロシーとして過ごすうち、主演俳優に惚れられ、演出家とは衝突し・・・。ドタバタのうちに幕をあげた公演は大ヒット。引くに引けない状況の中、マイケルは共演する女優・ジュリーに惹かれ始める。

感想

ザッツ・エンターテインメント!

元々、1983年に公開されたコメディ映画が大変な名作なので、期待していったのだけれどミュージカルコメディらしい作品に仕上がっていた。ダスティン・ホフマンの女装と比べると、山崎育三郎さんは男性らしい体格なので身体の厚みや背の高さが、だいぶミッツマングローブ感を醸し出していたけれど。美しくはあったし、女声で歌う声も良かった。

お笑い芸人さんがキャストに入っているのも、コメディ色強めなこの舞台ならでは。座長である山崎育三郎さんを中心に、「笑わせよう」というスタッフキャストの熱を感じた。

ジュリー役・愛希れいかさんの男前さが際立つ

『エリザベート』のシシィとして歌う曲や宝塚時代の娘役として歌う曲はいずれもキーが高くて、「おんなのひとです」という感じの曲が多い。愛希れいかさんが歌う「おんなのひとです」な歌はたくさん聴いてきたのだけど、ジュリーは中低音域を多く使う、少しこれまで聴いたことのない感じの曲調のソロが多かった。

カッコいい。素直にそう感じた。

ジュリーは自分の仕事にプライドを持っている。オンナであることを武器にして仕事を取ったりはしない。マイケルはそんなジュリーと一緒に過ごすうち、「女性がもともと抱える生きづらさ」を目の当たりにしていく。

ジュリーはまた、思考の柔軟なひとでもある。もともとヘテロセクシュアルであるが、ドロシーをドロシーとして愛することをあっさり受け入れ、「・・・わかった。しよう!」と言い放つ。愛した相手の性別などどうでも良くて、まっすぐ。スッと立つその姿は気高い。

NHKドラマ『大奥』の家定役も記憶に新しい愛希れいかさんが、本業の舞台で素敵な女性を魅せてくれた。

カーテンコールのダンスは、元々得意なだけあって実に楽しそう。

サンディ役・昆夏美さんのコメディエンヌぶり

昆夏美さんといえば、最近だとNHK朝ドラ『ブギウギ』での李香蘭役だけれど、わたしの中では『ミス・サイゴン』のキム。小さな体からほとばしる力強い歌声で魅了する、若きミュージカル界の星。

『トッツィー』ではマイケルの元カノの売れない役者で、ちょっぴり情緒不安定。マイケルのところへ来るたび不安を歌い上げる。この歌いっぷりが笑っちゃうほど面白い。そしてシツコイ。

ラスト近くにジェフとどうにかなっちゃうのも、若い女の子の不安を昇華させる手段として、実にリアルだし上手い。

とにかく、こんなにコメディがハマるとは思っていなかった。願わくば違う舞台でコメディをまたやってもらいたい。

俳優さんたちのお芝居について

主演の山崎育三郎さんは、マイケルとドロシーを行ったり来たりするというだけでも大変なのに女声で歌うところと男声で歌うところがあり、大変だったと思う。身体性の点ではちゃんと女性に見えたし、むしろ美しかった。

だがやはり上背があるし身体の厚みが女性ではない。どうしても女性には見えず女装している男性にしか見えない。舞台でミュージカルでコメディだからまあいいか、とファンタジー眼鏡をかける。

残念だったのは、育三郎さん自身というより演出だ。『トッツィー』は男性社会で生きる女性のつらさに男性自身が気づいて、歩み寄るというところが大きなポイントの作品。コメディ要素をこれでもかと詰め込みすぎて、マイケル/ドロシーの「女性としての気づき」や、「女性全般に対して抱く思い」が分かりづらくなっている。このあたりをもう少し丁寧にお芝居で魅せてほしかった。1回しか観ていないから分からなかっただけかもしれないけど。

というより、映画をミュージカル化した時点でそういう形になってしまったのかもしれない。もしそうならちょっと個人的には残念だ。

ドロシーから影響を受けて才能を開花させ、女優としてカッコよく輝くジュリーを演じた愛希れいかさんが、最高に良かった。彼女はこういう役が続いているように思うけど、実に似合うし、上手い。

終わりに

ミュージカルコメディとしてとっても楽しい作品なので、この先も日本で上演され続けるだろう。盛り上がるし誰にでも勧められる佳作。

でもちょっと違う演出でも観てみたいなと思うわたしは、贅沢ものなのだろうか。


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