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珠玉の公演再開への祈りを込めて 『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』

少し前に、数冊買って読んだ本の中の1つに書かれていた言葉が、ミュージカルを観始めて日の浅い私の頭に、こびりついていた。

英国の作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーと作詞家ティム・ライスのコンビの登場という点で意義深い。キリスト(ジーザス)最後の7日間を、裏切り者ユダの目から挑発的に描く。オペラのようにセリフなしで全編を音楽で綴るロック・オペラだ。

 
ー 小山内伸著「ミュージカル史」より
  『ジーザス・クライスト=スーパースター 』の作品解説

ロック? ロックでオペラってどういうこと?? とたくさんの疑問符が頭に浮かんでさっぱり分からなかった。だがとにかく、『エビータ』や『オズの魔法使い』などの作品を手掛けた、名コンビが手掛けた演目だということだけは記憶に残った。

BunkamuraのWEBチケットサービスの会員になっているので、東急シアターオーブやシアターコクーンで行われる公演は、優先的にお知らせが来る。『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』の上演お知らせが来たのは、確か4月のことだった。

「ロック」なんでしょ?それは観なきゃならんでしょ?しかもユダ役はラミン・カリムルーですよ?と、チケットを取った。せっかくの海外スター勢ぞろいの作品だ。プレビュー公演と本公演を見比べられたら面白いんじゃないかと考え、両方のチケットを1枚ずつ取ってみた。

ラミン・カリムルーをご存じない方にも、すごさが伝わりそうな動画を見つけたので、リンクを貼っておく。

ちなみに、ラミンは日本語は喋れないはずだ・・・と思う。多分城田優さんに音と日本語の意味合いを少し教えてもらって、歌ったんじゃないかと推測している。

海外ミュージカルスター、見参

冒頭の引用部分にも書いてあるけれど、『ジーザス・クライスト=スーパースター 』は、全編「歌」で構成されていて、セリフはない。日本で上演するけれども、全員英語で歌う。日本人は、劇団四季でご活躍していた柿澤勇人さん(シモン)、LE VERVETSの宮原浩暢さん(カヤパ)らが出演している。

ジーザス役に韓国のミュージカル俳優であるマイケル・K・リー、ユダ役に言わずと知れたラミン・カリムルー。この二人の歌を聴けるだけでも心躍るけれど、他にも豪華キャストが目白押しだ。劇場に向かう前の事前情報だけでもウキウキしてしまう。

6月末から7月初旬にかけて、私の観劇スケジュールはとち狂ったものだった。けれど少し間を開けたおかげで、体調を整えて東急シアターオーブに向かう準備をすることができた。

渋谷ヒカリエで夕食

三浦春馬さんがラミン・カリムルーのファンだったなと思い出し、出社する前にカバンの中にBUAISOUさんのバンダナと、春馬さんのキーホルダーを詰め込んだ。ついでに、左手を「春馬仕様」にした。

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上演される東急シアターオーブは、渋谷ヒカリエの11階にある。同じく渋谷ヒカリエの8階にあるd47食堂で、三浦春馬さんの出身地・茨城県の定食が劇場に行く当日7月13日まで提供されているという。

夕食に茨城定食を食べよう!と意気込んでd47食堂へ行ってみたら、「本日茨城定食は売り切れです」と・・・やはり思い付きで行動するものではない。茨城定食は、計画的に。

結局、食べたのは「長崎定食」。アジフライはタルタルソースじゃなくて、レモン塩が最高だった。

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春馬さんの故郷の味はお預けとなったが、長崎定食を美味しくいただいてから、11階の劇場へと向かった。

まさかの最前列

チケットには「2列目」のセンターブロックの座席が書かれていて、前から2列目でこの豪華キャストを拝めるなんて夢みたいだ、と思って劇場に入ってみると、1列目の座席が無い。

いくら見てみても、無いのである。

私は自分の目がおかしくなったのかと思って、劇場の扉横にある座席表を何度も見に行ってしまった。挙句の果てに、係員の方に「すみません。1列目が無いんですけど」と訊いてしまった。

このチケットは、最前列のチケットだと言われた瞬間、私の心拍数は一気に跳ね上がった。

ささささ、最前列???? このメンバーのミュージカルで?

リアルに死ぬかもしれない、明日私は生きているだろうか? もしかして全ての運を使い果たしてしまって、帰りに事故に遭って死んでしまうんじゃないか? いろいろな想像が頭を駆け巡る。

とりあえず深呼吸して、最前列に腰を下ろしてみた。オーケストラピットがないので、もう目の前、手を伸ばせば届きそうなところにステージがある。
BUAISOUのバンダナと、春馬さんのキーホルダー入り小銭入れを、膝の上に置いた。

こりゃ、始まったら本当に失神してしまうかもしれないなと、ドキドキしながら開演を待った。

息をするのを忘れ、勝手に涙が頬を伝う

ラミン・カリムルー演じるユダの見せ場は始まってすぐだった。Overtureの後のナンバー、「Heaven on Their Minds」。ユダが大衆の心を惹きつけすぎているジーザスのことを、気に掛ける場面で歌う曲である。

・・・カッコいい。いや、無茶苦茶カッコいい。これがロック・オペラと言われるものか(どこら辺を指して「オペラ」なのかは全く分かっていない)。ラミンの伸びやかで、「ジーザスを心配している」という感情ののった歌声に魅せられる。「曲に感情を乗せて歌う」、という部分は曲がロックでも、普通のミュージカルと何も変わらない。

アンドリュー・ロイド=ウェバーはこの曲を20代で作曲したというのだから、まあ天才なんだろう。ちょっとびっくりする。

どの役者さんも、本当に息を呑むほど歌が上手い。だが、ユダ役のラミン・カリムルーとジーザス役のマイケル・K・リーはやはり別格だった。

マイケル・K・リーの衣装は、白いTシャツに革のパンツ。首からはストール。きわめてシンプルな装いで、余計なものがそぎ落とされている。衣装からは貧しいのか、富んでいるのか、名声が欲しいタイプなのか、慈愛に満ちた人間なのか、全然分からない。そのうえで、実にシンプルに歌に感情を乗せていく。

マリアの歌う「Everything’s Alright」で甘えたようにマリアに寄り添い、気持ちよさそうに癒されているジーザスが幼く見えた。あれではユダに心配されても、仕方ないかなと思わされる。

で、マイケル・K・リーの見せ場は何といっても「Gethsemane」だろう。
曲の前半ではジーザスの苦悩があふれ出し、後半に差し掛かるにしたがい、だんだんと覚悟を決めてすべて受け入れ、先に進むことを決意する。曲の中での感情の移り変わりを、歌とともに表現していた。特に後半の「覚悟」を歌い上げる場面で、私はしばらくの間、本当に息をするのを忘れた。

そういえばこの前、海宝直人さんが「Gethsemane」のダイジェスト版MVを公開しておられたのを思い出したので、貼っておく。

生で、最前列での、マイケル・K・リーの鬼気迫るパフォーマンス。勝手に涙が流れて、息をするのを忘れて、いや、なんだかもう、感情がわけわからなくなってしまった。いったいあの気持ちは何だったのだ? 上手く説明する言葉は、私の頭の中に見つからない。

ノリノリのカーテンコール

全ての出演者が、とんでもないパフォーマンスを見せてくれた『ジーザス・クライスト=スーパースター in コンサート』。私が観に行ったのは「プレビュー公演」と言って、本公演より少しお安くなっている公演だ。通常は、ここから演出上の変更などが入るらしい。本公演のほうのチケットも取っていたので、比較出来たらいいなと思っていた。

プレビュー公演であっても、ユダを演じたラミン・カリムルーはもちろん、ジーザスを演ったマイケル・K・リーが本当に凄かった。カーテンコールでは二人だけではなく、他のキャストもノリノリで、「キュンです」ポーズまでしてくれた。

そして私は最前列で興奮しすぎて、スタンディングオベーションするとき、膝にのせていた春馬さんのキーホルダーをどこかにすっ飛ばした。

あとで、後ろの席の方が拾ってくださった。本当に申し訳ない。

終わりに

世界的に新型コロナウイルスが流行しているなか、リスクを承知で日本にわざわざ来てくださって、素晴らしいパフォーマンスを魅せてくださったことに、心から感謝したい。世界的ミュージカルスターがこれだけ集まった公演を、東京で観られるチャンスがあと何回あるだろうか。

本公演も楽しみだ・・・と思っていたら、突然のお知らせが。

私の持っていた本公演のチケットは、見事に対象に含まれていた。残念ではあるが、まあ一度観たし、むしろ細心の注意を払っている中で、感染者を出してしまった関係者の方々が、気落ちしていないといいなと思っていた。早く再開して、大阪公演も出来るようになってほしい、とも。

で、これを書いている最中にまた新しいニュースが入ってきた。

公演が再開できることになって、本当に良かった。
一人でも多くの人が、素晴らしいパフォーマンスを堪能して、感動を味わってほしいと思う。

コロナ禍に必要なのは、こころの栄養だと思うから。


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