アマチュア時代のアイディアからお話を構築し直す
発売中の新刊『嘘つきな私たちと、紫の瞳』(ことのは文庫)、舞台の紹介などはしたけど中身の紹介をあまりしてなかった気がしたので、今日はどんな感じでお話を組み立てていったかみたいな話を内容紹介兼ねて。今作の根っこのアイディア、実はアマチュア時代に書いた話が基になってます。
◆あらすじ
特設サイトにあるものをまずはご紹介。
◆紫色の瞳の話
今作では、初期症状として左目の瞳が紫に変わる、という架空の病が出てきます。この病には、13~17歳の思春期の時期にしか発症しない、確認されてから10年程度の新しい病で治療方法が確立していない、伝染性のものではない、初期症状として左目の色が変わりのちに身体にも紫斑が出る、などの特徴があります。
左目の色が変わるという外見にも影響する初期症状のため、周囲から忌避されたりと様々な問題が生じるわけです。
で、実はこの紫色の瞳というアイディア、アマチュア時代に書いた作品に元ネタがあります。そのときは遠未来学園SFで、瞳が紫色のある種族は特殊な能力を持っていて周囲から忌避されている、一部の人間は瞳の色を隠している、みたいな設定でした。長野まゆみ作品とか新井素子作品を通ってきたので、遠未来の学園ものみたいなの大好きで一時期こういうのばっかり書いてたんですね。
その作品自体は今見ると表に出せる感じではないのですが、設定自体は気に入っていたので今回アイディアを組み込んでみました。かれこれ10年くらい前に考えたアイディアなので、こうして活かせる機会が巡ってきたということに、続けてきてよかったなという気持ちと感謝で一杯です。
なお、アマチュア時代に書いた作品のタイトルは『紫の瞳』。『嘘つきな私たちと、紫の瞳』というタイトルは担当さんが候補を出してくださったのですが、偶然にも『紫の瞳』がかぶっていたので、一周回ったような感慨があります。
◆病を理解すること
今作の企画が始動したのは2022年の夏で、コロナ禍まっ只中。ということもあり、病気について考えていたことなども色々詰め込みました。病気の情報は発信されているはずなのに、陰謀論やデマもあり、発症者を差別するような風潮もあったり。
そんななか、ある種の反抗として、そして亡くなった親友を理解するため、主人公の咲織は病を発症しているフリをします。詐病のアイテムは簡単で、左目に紫色のカラーコンタクトを入れること。
ちなみに、作中では咲織のように詐病をすることは「不謹慎メイク」と呼ばれていて、一部の若者のあいだに病みメイクの一種として広まっています。
◆嘘と真の2部構成
詐病という「嘘」からスタートする物語なので、色んな人の嘘を絡めた展開に決めました。物語は「嘘の章」と「真の章」の2部構成。以下が目次。
「アナザーサイド」というタイトルのところは、主人公の周囲の人たち視点の挿話になっています。ここにも色んな嘘や真があります。そんな構成もあって、今作は群像劇っぽい雰囲気にもなったかと。
個人的に、「アナザーサイド」の部分、すごく好きな文体で書けて大満足しています。こういうの大好き。
◆自分なりの味つけ
前もnoteに書きましたが、今回こういうテーマで書くにあたって先行作品も色々読んだうえで、自分なりの味つけにできたかなと思ってます。高校生たちの青春はもちろん、病や大人との関わり方も考える内容にして、YAっぽい感じも出せたかなと。YAっぽいってなんだと言われると言語化難しいんですが、自分が好きなYAっぽい空気感は出せたかなと。
また、こちらもnoteにまとめてますが、舞台はデビュー作と同じ海浜幕張に。海が近い場所って絵になるしテンション上がりますよね。今作も海岸に行くシーンあります。
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長く続けていると、昔のアイディアがふとした瞬間に別の形で蘇ったり、活用できたりすることもあるんだなぁとしみじみします。
ちなみに今作47冊目の単著なんですが、実は今まで完全なリアリズムで、異能とかSF設定の作品は1作もなく。架空の病というSF設定を含むのは今回が初めてでした。アマチュア時代には色々書いていたのですが、商業ではまったくやってなかったので、そういう意味でも新しいものを書けました。
『嘘つきな私たちと、紫の瞳』発売中です。全力で書きましたのでぜひ!
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