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はるなからの「お返事ペーパー」15通

1990年代の後半、
まだ私がホームページやブログを始めていなかった頃、
本を読んで下さったみなさん(男性もけっこうおられました)から、
それはそれはたくさんのお手紙を、編集部あてにいただきました。
ありがとうございました。どれだけはげみになったことか。

ネットや携帯がまだ一般的ではなかった時代。
自分が読んだ本の感想を、誰かと「共有」することは、
なかなか大変でした。(特に中高生にとっては)
作者に手紙を書くのは、一つの手段だったと思います。

私は「お返事」を出したいと思いました。
感想をくれたのは、あなた一人だけではないよと伝えたかった。
しかしながら、一通一通手で「お返事」が書けるはずもありません。
そこで、
一作書き上げたタイミングでみなさんに対して「お返事」を書き、
それをA4用紙にプリントして、封筒に入れ、それぞれに返送するようにしました。
印字した内容は、みなさんからの感想に対するお返事や、執筆裏話、などなど。
私は、あとがきにはあまり裏話を書けなかったので、
(一冊書き上げた直後は、脳みそがへろへろでとてもまともに書けない)
喜んでくれたひとが、多かったようです。

そして、
印字した余白や、余白で足りなければ紙の裏に、その人個人にあてて、肉筆で多少書き添えていました。
相談というほどではなくても、日常のあれこれを書いてきてくれた若い人には、何か元気がでるようなエールの一言を添えたかった。
自分の子どもをはげますような気持ちで、ペンを走らせていました。
(その節は乱筆乱文で本当に失礼しました)
するとまたそのお返事をいただいたりして、
文通のようなやりとりが、何年も続いた人もいます。
(メールに姿をかえ、今でもやりとりが続いている方たちもちらほら😊)

誰がいつのころからそう呼び出したのか覚えていませんが、
それがはるなの「お返事ペーパー」です。

そう、だから、当時の私には、子どものように思っている若い人たちが、日本全国にたくさんたくさんいました。
二十年近くたつ今でも、子どものように思っています。
あのころ、私の本を読んで感想を書き、送ってくれたみなさん、それぞれの場所で、元気に暮らしておられますか。
どこかで自然災害が起こるたび、
行ったことはないけれど、この地域には確か昔「お返事ペーパー」を発送したことがあるよなあ、ご無事でおられるかなあ、とひどく心配になります。

そして逆に、はるなもしっかりしなきゃあ、と思います。
だって「お返事ペーパー」をくれた子どもたちに、心配かけたくない。
おかげさまではるなは、今、いい感じで年を重ねています。年をとるのもそんなに悪くないです。年取ってペースが落ちた分、あれこれ丁寧にするようになりました。いろいろなものや人のおかげで、幸せです。

今回、古いblogの整理(このnoteへのお引っ越し)をするにあたり、
「お返事ペーパー」はさすがにもういいかなあ、いらないかなあと思ったんですが、
ひょっとして、私のつたないエールをまだ覚えてくれている人がいて、
懐かしがってくれるかもしれない。
ひょっとして(こんな時代だからね)思い出したことが、何かの力になるかもしれない。そう思って、そのまま移すことにしました。

あれからほぼ二十年。
みなさんからのお手紙は、いまでもはるなの宝物。
大事に大事にしまってます。
断捨離?いえいえ、あの段ボール3つに関してはありえない。


(念のためご注意。
みなさんからの感想に対するハルナの返事なので、いわゆる「ネタばれ」になります。どうぞよろしくお願いします。
あと、当時ご要望の多かったファンクラブ会誌に寄稿したもの2つも、
いっしょに読めるようにしました)

1.『マリア ブランデンブルクの真珠』のお返事ペーパー 1996年暮れ


『マリア ブランデンブルクの真珠』を読み、手紙をくださったみなさんへ

榛名しおりです。お手紙ありがとうございました。

処女作なので、励ましのお手紙をいただくのも、そしてもちろんお返事を書くのも初めてのことです。
どのようなことをここに書けばいいのか、戸惑っております。

編集さんに叱咤激励されながら、今現在も書いています。
忙しくて思うように書く時間がとれず、なかなかこのワープロ(注1)に向かうことができません。
自分の担当に当たった編集の方は、本当にご苦労が多いと思うのです。

「マリア、よかったよ」という、うれしいうれしいお手紙を、たくさんいただきました。
あなたの他にも、本当にたくさんの方が手紙を書いてくれたんです。
自分がこれほど単純な人間だとは思わなかったなあ。前に編集さんが
「ファンレターが来たら、きっと感動しますよ」
なんていってくれたときにも、ぜんぜんぴんとこなかった。
でも、感動しました。
本に仕上がったときより、本屋の店頭に売りに出されたときより、感動しました。
遠くに嫁に出した一人娘が、見ず知らずの人にずいぶんとかわいがってもらってるんだなあという気分。花嫁の父みたいに感傷的になりました。
本当にうれしいお手紙、ありがとうございました。

多くの方が指摘されたとおり、『マリア』は、応募したもののあとに、受賞後、さらに話を書き加えたものです。
まあ隠すようなことでもないから、どのくらいまでがもともと受賞したお話だったかといいますと
ソルビンの樵小屋に迎えに来たのが選帝候で、そのあと少々あって
と、いう程度のお話でした。
ここらへんで枚数の制限がきたので、そこで丸くおさめたわけです。

自分としてはマリアが幸せになればよかったわけで、十分それで満足しておりました。
審査していただいた内舘先生や秋元先生のおっしゃること(注2)はほんとうにごもっともで、
だからといって、もっと続きを書かされるとは思っていませんでした。
おかげでマリアには苦労をかけることになりました。申し訳ないと思ってます。

歴史が好きって人が多かったです。歴史は、おもしろいと思います。
ただ私も受験は世界史で受けたので、
年号やら、人名やらばかり覚えさせられる世界史はもうたくさん、という印象がえらく長かった。
本当に歴史がおもしろいと思ったのは、最近、すぐ近所に図書館(注3)ができてからです。
自分のおもしろいと思う時代、おもしろいと思う土地にたって、
ゆっくりとそのあたりをみまわすのは
ちょっとした旅行にも匹敵するような、ストレス解消でした。(注4)

『マリア』の場合は、『ドイツ史』(山川出版)という本の中に
フリードリヒ=ヴィルヘルムを見つけたのが
ただのストレス解消から転回するきっかけでした。
でも、確かにドイツは好きですが、今思うと、あの時代のヨーロッパ全体がおもしろい。時代そのものが揺れているのです。

ということで、二作目は、少しだけさかのぼったイングランドが舞台になりました。
今回はほとんど全員が実在する人物設定になってしまいました。
つまり、ひたすら推理する毎日です。
なんでエリザベス一世は独身をとおしたのだろう、からはじまって、
自分の父親が自分の母親を処刑したとき、三歳の女の子だったらどうなるだろう…などなど。

もうひとつ、自分の場合は新聞を読んでいて、書き出すきっかけを拾うことが多いようです。
「言葉によるいじめ」で、果たして人は死ぬか、
というのが、二作目『王女リーズ』を書き出すきっかけでした。
ちなみに、『マリア』のときは、
強姦された相手と心を開きあうことは果たして可能か、というようなものだったと思います。(やはりそんなような新聞記事を読んだ)
はて、私、性格はけっこう明るく楽天的だといわれるのですが、
なんで書く話は、こんなにも陰惨なんでしょう。
三作目は健康的でさわやかなものにするぞ、と誓う今日この頃ですが…。(注5)

おかげさまで『マリア』の売れ行きは好調とのことですが、
みなさんからのお手紙をたくさんいただいて、初めてそれを実感することができました。
ワープロうちの手紙(注6)なんかもらうのは、自分でも好きではないのですが、
最近、おかげで手で書くよりもずっと速くかけるようになったことと、
とにかく自分は字がへたくそなのです。(そこであらためて封筒の宛名書きを見直さないように)
どうぞこの『マリア』が生まれ育ったワープロに免じて、自筆の手紙でないことをお許しください。

それではまた。感謝を込めて。  1996年暮れ  榛名しおり

(注1)二代目のワープロNEC文豪のこと。いただいた賞金でとりあえずこれと、全自動洗濯機を買いました。(それまでは二槽式だった)
パソコンで書くようになったのは、アレ伝4あたりから。
原稿をメールに添付して送れるようになり、とても楽になりました。
(それまではファイルを保存したフロッピーディスクを、郵便局から郵送してた)いろいろなものが進歩しました。

(注2)「後半がお粗末。後半をもっとうねらせてもっと虚構に引きずり込んで欲しかった」との選評のお言葉をいただきました。

(注3)平塚市西図書館。平塚市には四館の図書館があって、
中央図書館以外の三館は、それぞれ、海、園芸、歴史に強いという特色をもっています。うちに一番近い図書館が歴史関連の書籍に強かったのは、
本当にラッキーでした。

(注4)当時は幼子を抱えていてほいほい旅行に行けませんでした。

(注5)…と、いう心づもりで書き出したのが『ブロア物語』。
ええ、健康的でさわやかな話ですな😊

(注6)『マリア』を書いたのと同じワープロで、
このお手紙(つまり、最初のお返事ペーパー)を書いて印字して発送しました。受け取った人は、全国に200人いないと思う。かなりレアかも。

2.『リーズ テューダー朝の青き瞳』のお返事ペーパー 1997年早春

『王女リーズ』を読んでくださった皆さんへ

うれしいお手紙をよせていただき、本当にありがとうございました。

二冊目のジンクスという言葉があるそうですが、確かにこの本は難産だったと思います。 作家をめざしていろいろ書きためていたわけでもなく、(注1)
前作の『マリア』で賞をとりたくて、当然、好きなキャラや設定を出し切ってしまった私。私事でも多忙な中、(注2)
三、四ヶ月で、次作をといわれても…。(注3)
困ったあげくに、「少女時代のエリザベス一世がおもしろそうなんですけど」と、
たいしたひらめきもなく編集さんに口走ってしまいました。
駆け出しの私にとって、
これはなんともだいそれたことでした。どれだけ後悔したことでしょう。
途中で投げ出そうと思ったことが何回もありました。

前作に比べて、いやらしい箇所もラブシーンも少なく、
こむずかしくなってしまった、分厚すぎた…と、不安を多々残しながらも、
『王女リーズ』がこうして無事に本にしあがったのは、
ワープロの神様のお導きと、編集さん、そして、
イラストの池上先生が、今回はどんなイラストを描いてくださるかという期待。
これが、どれだけ励みになった事でしょう。
これは、『マリア』を書いていたときにはなかった楽しみでした。

前作以上にやっかいな歴史物ということで、校閲の方にも大変なお世話になりました。
何かを書いて一冊の本にするということは、作家の独りよがりな努力ではできないということが、
今回よくわかりました。この本はけっして私一人の力で生み出されたわけではありません。
そして、発売日が過ぎて、読んでくれたみなさんから届いた「よかったよ」の手紙。
この手紙は、一通一通が私の宝物です。これがなければ次を書こうなんてとても思えません。みんな、本当にどうもありがとう。

ドレイクが人気でしたねえ(と、内心にこにこするハルナ)
サー・フランシス・ドレイクというお方には、調べれば調べるほど惚れました。本当に素敵な海の男だったらしい。
なんとか少女のエリザベス一世と絡めることができないかなあと、思ったのでしたが、いかんせん、年が下。それも、離れすぎていました。(注4)
ああいうかたちで登場することになりましたが、
ドレイクはドレイクで、いつかまた別のお話にできないか…とも思っています。

セシルも人気でした。(よかったよかった)
『マリア』の選帝候があまりにも女に手が早かったせいか、
今回はこういう奥手の男性が主役になりました。もどかしく思われた方も多かったようです。
セシル邸には、エリザベス女王が最晩年に、もっとも若く美しく描かせた肖像画が残されているそうです。
女王は、自分が死んだあとの跡継ぎについて、ロバート・セシルにすべてたくしましたが、
ロバートはわれらがセシルの長男に当たります。(そう、セシルは家庭持ちだったんですねえ…)

今回、資料を片端から読んで、素人なりに、つくづく思ったんですが、
女王としての業績はともかく、
エリザベス一世の日ごろの素行については、資料は概して厳しい。
特に、男関係や、その容姿について。
しかし評価を下した後世の歴史家というのは、みな男だったわけで、
特に、美貌の女王メアリ・スチュワートを処刑したあと、八十過ぎまでしぶとく生きたということで、エリザベスは完全に損しているなあと。
一人の女性としても、彼女はもっと魅力的だったと、ハルナは確信しております。(注5)

それにしてもイギリス人が歴史好きなせいか、
ちょっと集めようと思ったら、うんざりするほど資料が集まってしまいました。
あまり資料に縛られずに自由に書くため、(注6)
今度はちょっとやそっとでは様子がよくわからない中世は十二世紀、
存亡の危機にあるフランス、ロワール河畔のブロア城を舞台にしています。
『リーズ』よりはもっとメロドラマっぽくなるはず。
フィリップ・オーギュスト尊厳王、リチャード獅子心王あたりが絡んでくるかと思います。
もっと薄い本にすることも約束します。
(でも当初、『リーズ』は『マリア』よりはるかに薄くなるはずだったのですが…)
この春には本になる…予定ですが、何しろ日々多忙なもので。
え、いったいハルナは普段何をしているのかって?
あんまりみなさんの夢を壊したくないので、いわないことにしておきます。

ぜひ、ここをこうしたら、とか、ハルナはここがよくない、なんてお手紙もください。
次はこんなのを書いたらなんて、アイディアも大歓迎です。(注7)

それではまた。
窓から見える箱根の山向こうの夕暮れの空が、毎日美しいです。どうぞご自愛ください。

  1997年早春       感謝を込めて   榛名しおり


(注1)作家として書きためていたわけでもなく…
……昔からこつこつ書いていたひとならば、素材とか、キャラだけでも、引き出しの中にためてあったりするもんでしょうが、ハルナにはそれがなかった。そしていまだにない。ためてるものがない。いつもゼロから書き出し、書き終われば限りなくゼロに戻る……(涙)

(注2)私事でも多忙な中……『リーズ』発売の八ヶ月前に第三子を出産。

(注3)三、四ヶ月で次作を…
当時はできれば一年に二、三冊書いて欲しいと言われていました。

(注4)年が下。それも離れてたから、男女のカップルとしては考えられなかった。「個人的に残念」だと某先生に言われた。ごめんね~何しろ「私には」経験ないもんで(笑)

(注5)エリザベス女王は魅力的だった
……この数年あとに『エリザベス』という映画ができまして、
エリザベス女王といったらおばあちゃんというイメージはくつがえされたと思います。でもセシルは年寄りだったらしいね。(実はまだみてない)

(注6)資料に縛られずに自由に書くため
……つまり、反省したわけです。イングランドが舞台の『リーズ』はあまりに資料が多すぎて自由に書けなかったので、次からは、こういうことのないよう、資料があまり手に入らないような時代を書こう、と。
それで選んだのが、アレクサンドロス大王。(正解だったと思う)
で、この反省点をうっかり忘れたのが、ルネサンス時代が舞台のフィレンツェシリーズ(笑)。資料なんか…資料なんか…

(注7) 次はこんなのを書いたら……どうか中国以外で←漢字に弱い。

3.『ブロア物語 黄金の海の守護天使』のお返事ペーパー  1997年夏

『ブロア物語 黄金の海の守護天使』を読んでくださった皆さんへ

お手紙ありがとうございました。
編集のNさんを始め、講談社のいろいろな人のご努力で、
何とか榛名も三冊目の本を出すことができました。

何より榛名の力になったのは、
面白かったよ、次も次もと手紙を書いてくれる
みなさんからのたくさんの手紙です。
Nさんもそれを知っているから、
講談社に手紙が届くと、すぐに送転送してくれます。
榛名に早く書かせるための、何よりの薬というわけです。
今日はこんなうれしい手紙が来てましたよ、と、
電話で報告してくれることも多いです。

だからすでに何通もお手紙をくれている常連さん、
いつも本当にありがとう。
『ブロア』が世に出ることができたのは、
あなたが力を貸してくれたおかげです。
いつまでも榛名のよきサポーターでいてください。

今回初めてお手紙を下さった方、初めまして。
正体のよくわからない作家(相変わらずあとがきを書くのが苦手で…)に
励ましの手紙を出してくれるあなたの行動力のおかげで、
榛名は次も書こうと思うことができます。

一通一通感謝のお手紙を書くべきとは思うのですが、
それをしていると、
次作を書く時間などとてもとれないということがわかりました。
心苦しいのですが、こうしてワープロ書きになってしまいます。
申し訳ありませんが、どうぞご了解くださいね。

あと、この手紙に対し、さらに榛名に丁寧なお返事をくれる人がいます。
同じ理由で、そちらにもなかなか返事を書くことができません。
本当にごめんね。
こぼれ話を書くことで、少し罪滅ぼしをさせて下さい。
「私も書きたい」という人がけっこういるようなので、
どういうふうに榛名が今回悩みつつ書いたかという、苦労話を…。

『リーズ』に来たお手紙に、値段が高い!という声が多かったので、
次は絶対500円台にしようと編集さんと話したのが、97年の一月頃。
ところが、榛名はうぬぼれておりました。
ご要望通り、姫様もの(また?)を300ページ以内(500円台だとそうなる)
で、ハッピーエンド(これも多く寄せられた注文。『リーズ』がハッピーエンドだったかどうかはみなさん意見が分かれたところでしたが…)でまとめるなど、
駆け出しの分際には、どだい無理な注文、そう簡単にはできないのです。

200ページほど書いた当たりで、
当初のプロットは、いつの間にか姫様ものを遠く離れ、
手のつけられないほど膨れ上がったものになっていました。
どこら辺がどう膨れていたかというと…
そうです、榛名に手紙を下さるほど読み込んで下さったあなたになら、
もうおわかりですね。
(でも、ここで明らかにしちゃうのはちょっと避けたいなあ。
あの設定には、いつかどこかで日の目をみせてやりたい…)

ともあれ、へたをすると『リーズ』よりも分厚くなってしまいそうな、まず~い雰囲気に。
いろいろ考えた末、紆余曲折を経て、ダイエットに励み、
結局、あのようなお話になりました。
ブランは、それほどナゾめいた少年ではなくなったわけです…ね。

しかし、
ふたを開けてみれば、『ブロア』をよんだみなさまからは、
ページ数が少ない!との声また声(どうして?)
う~ん難しいものです。私はまだまだ未熟だ…。

というわけで、次作は榛名も初心に帰り、わがまま放題に書かせていただきます(笑)
分厚くなっても仕方ない。ヨーロッパも離れます。
少年吟遊詩人ブランには、必ずいつかどこかで再会できることでしょう…。

それにしても今回は、レイチェル派とジェシカ派にみごとに別れました。
ジェシカ派の方が、多少多かったかな。
いろいろな感想を、本当にどうもありがとう。楽しませていただきました。
榛名としては、自分の子どもの優劣を付けるわけにはいかないんですが、
やはりレイチェルには苦労したなあ。

二人のどちらに、自分が寄り近いかということなら、
間違いなくジェシカです。
レイチェルは、マリアやリーズの対局にある女の子ということで生まれたキャラクターです。なに不自由なく生まれ育った美しいおばかさん(笑)
物語の中で生きるかどうか最初心配でしたが、
結局最後は、こっちが振り回されてしまいました。いい根性してます。
今ではなかなか気に入ってます。馬鹿な子ほど可愛い…。

私事ですが、榛名はこの『ブロア』を書いている最中、
このお仕事以外のことで、ある決断を迫られました。
思い悩んだ末に選んだのはこれまで想像もしなかった道でした。
いまだにこの選択が正しかったか不安です。
後悔することになったらどうしようとくよくよしています。
でも、人生そう簡単に答えの出ることなんてないので、
この思いは、当分しょっていくことになりそうです。
『ブロア物語』はきっと榛名にとって、思い出深い作品のひとつになるだろうなあ。

みんなも暑さに負けず、事故のないように、残り少ない夏をエンジョイして下さい。
でもって九月に月刊amieでおあいできたらうれしいです。
それでは、感謝をこめて…

         1997年 夏    榛名しおり

4.月刊amie掲載『マゼンタ色の黄昏 マリア外伝』のお返事ペーパー 1997年晩秋

『雑誌amie マゼンタ色の黄昏――マリア外伝』に手紙をくださったみなさんへ

心のこもったお手紙、本当にありがとうございました。

思い起こせば、あれは気持ちのいい初夏の一日でした。
『ブロア物語』のエンドマークがようやく見え始めたころで、
雑誌amieの編集さんから、40ページ、もしくは二回分、前後編で80ページでなにか…と依頼が参りました。
さて、いったい私に何が書けるだろうと、はたと考え込んでしまいました。
『ブロア物語』のあと、すぐまたホワイトハートで一冊というお約束をしていたので、あまり時間の余裕がありません。
とりあえず40ページ、『マリア』の外伝でよければ…ということになりました。

『マリア』の外伝と言うことで、ハルナはいったい何を書くのだろうと、
皆さんいろいろ想像されたようですね。
『マリア』へのお手紙ではなんといっても、マリアとフリードリヒのその後、というのが圧倒的に多かったのですが
いまのところ、私の中では、二人に関して続編を書くつもりはありません。
ミクエル君のその後、とか、オーラ兄ぃの話、という声も結構ありました。うん、おもしろそう。
でも、最初から私の腹は決まっておりました。『マリア』で私が書き残し、心が残っていた部分があったのです。

それは、ラスト近くで、マリアがエーベルト老人と父クレプトについて会話をする場面でした。
どうして聡明な父クレプトが、フリードリヒに代印を託しながら、
自分ではハプスブルク家を裏切れなかったのか、という部分でした。
文中で説明するとあまりに長いお話になってしまうので、
いたしかたなく、さらりと流してしまったところでした。
エルザの名前が、ちらっとだけ出てきたかと思います。
こうした大人の複雑な思いのやりとりの中で育ったからこそ、
マリアがああいう少女に育った、ということがみなさんに伝われば、と、今回はそれだけ考えて書きました。

が、ちょっと恋愛物としてはむずかしく、それにこんな短編ははじめてだったので、気に入っていただけるかとても心配でした。
早速受け取ったみんなからの「よかったよ」の手紙、なによりもうれしかったです。本当にありがとうね。一通一通大切にさせていただきます。

で、ハルナの近況といたしましては、ようやく次を書き上がりました。
編集さんも気に入ってくださって、ほっとしたところで、
こうしてようやくお返事を書くことができるわけです。
タイトルは、『テュロスの聖母――アレクサンドロス伝奇(ロマンス)』
なんと、完結いたしませんでした。つまりこれは第一巻なのです。
こんな事になるとは思いもしなかったなあ。
販売店さんからは、シリーズ物を書いてくれといわれていたのですが、
まさか、まさか、アレクサンドロスが顔も出さないうちに300ページを越えてしまうとは…(著者本人が一番驚いている)
というわけで、主人公はアレクサンドロス大王ではないということだけ、
ここで皆さんにお伝えしておきます。
『ブロア物語』に比べてかなり…う~ん、みんなが気に入ってくれるといいなあ。

では今回はこのへんで。
夕焼け空に見惚れて風邪を引いたりしないように…(私も気をつけます)
また書店でお会いできたらうれしいです。

   1997年 晩秋  感謝を込めて  榛名しおり

5.『テュロスの聖母 アレクサンドロス伝奇1』のお返事ペーパー 1998年初夏

『テュロスの聖母 アレクサンドロス伝奇(ロマンス)1』を読んでくれた皆さんへ

お手紙どうもありがとう。

『テュロスの聖母』は、これまでとは少し毛色の違う話だったし、
始めてのシリーズものということで、
みんなに気に入ってもらえるか、ハルナはとても不安でした。
でもクリスマスを過ぎて、手紙がくるわくるわ…いま、とてもほっとしています。
なるほど、シリーズものっていいなあと、しみじみ思いました。
今までは、みんなから読み終わった感想を一方的にもらうだけだったのに
今回は、これからの話の展開をどうするか、
みんなと一緒に考えながら進めることもできるわけだもんね。
真夜中に一人ワープロを打っていても、
きっと日本のどこかで、誰か一人くらいは、
今もサラやハミルのことを考えてくれてるはず……なんてしみじみしたり。
(そう、想像以上にわびしい孤独な仕事なんだよ)
しばらくは、サラといっしょに、ギリシアの旅を続けることになりそうです。

それにしても、みんなからの手紙がきれいにくっきり
ハミル派と、リュシアス派に分かれました。
池上先生の描いてくださった表紙イラストのハミルが、
まったく惚れ惚れするほどだったので、
これはリュシアス苦しい! と思ったけれど
なかなかどうして、リュシアスも善戦しております。
この先、サラがいったいどっちとくっつくのか…
若い者は若いもの同士という、
説得力あふれるハミル派からの手紙もあるし、
前例(年齢差のうんとあったマリアとフリードリヒ等)をあげて、
ぜひリュシアスをと押す手紙もあり、
どちらも参考にさせていただきますが、さて、どうなることやら…。

ここで、特に多く寄せられる質問に、まとめてお答えを。

Q.「ハルナは暇なとき何を…?」
暇はない!(断言できてしまう自分がとっても悲しい)

めげずに次。Q.「占いは好きか?」
いつも自分が何座だか忘れてしまう。なんだっけ?

Q.「一押しのキャラクターは?」
う~ん、セシルだろうなあ…
(といいつつドイツ車をのりまわしてにこにこしている私。
基本的にドイツが好き)

Q.「世界史の勉強をしたのか?」
していません。大学ではペルシア語を専攻しました。

Q.「ファイナルファンタジーっていいと思いません?」
このクリスマスに、ようやくサンタさんが
我が家にプレステなるものを持ってきてくれました。
(それまで花札しかなかった)
そこで、フライフィッシングと、ミニ四駆のソフトを買いました。
ああ家族構成がばれてしまう。

Q.「自分も小説を書いているが、うまく書くコツのようなものは?」
そんなものがあったら教えてください…(切実)

Q.「自分も小説を書いているが、どうしても最後まで書けない。
榛名が最後まで書くことができるのは、
みんなからの「次も楽しみにしているよ」という手紙と、
編集さんのおかげです。
これがなければ、とても書きつづけてはいられません。
確かに、書いていてよく思う。あ、こりゃマラソンだなって。
(榛名はプロットをたてられないまま書き進めているので、
自業自得といえば自業自得。
以下、あくまでも「榛名しおりの場合」と思って読んでください)
榛名にとっては、一冊一冊が、始めて走る未知のマラソンコースのようなもの。
ゴール(結末)がどこらへんにあるのか、よくわからない。
なが~いトンネルが続いてたり(先の筋がまったく見えない)、
足がえらく重くて(すらすら書き進まない)、
それでも編集さんやみんなからのお手紙にはげまされて、
がんばってよたよた走っていると、
突然、いきなり、ぱあっと視界がひらけて(ある程度プロットがみえて)、
何キロも先まで見晴らすことができたり、足が不思議と軽くなったりします。
なんとかゴールにたどりつけ、みんなにほめてもらったりすれば、もう最高。
だから、ほとんどスポーツです。
完走後の適度な疲労感と爽快感がたまらなくて、走っていられる。
(打ち上げのビールのおいしいことよ)

ひとつだけ、偉そうにいうと、
がむしゃらに机にしがみついているより、外に出て、
まずは、自分の興味ある仕事につき、
社会というものの表裏をみるのも悪くないと思います。
作家になって長いこと書きたいなら、
なおさらいろいろな経験が必要。(いろいろなひとと出会うことも)
だから私は、年をとればとるほど、いいものが書けると信じてる。
自分自身、早く年を取って、いい老け方をしたい。
素敵で可愛いおばあちゃん作家になって、
孫のように若い編集さんたちと、
楽しく打ち上げするのが、いまの私の夢。

というわけで、なぜかぽっちゃり型の体型を維持しつつ、走りつづける
孤独なマラソンランナー榛名しおりを励ましてくれるのは、
なんといっても、沿道からの暖かい声援です。
これからもハルナをよろしくね。

ということで、
心のこもったお手紙、どうもありがとうございました。
『アレクサンドロス伝奇2 ミエザの深き眠り』で
またお会いできるのを楽しみにしています。

  1998年初夏   感謝をこめて   榛名しおり

6.『ミエザの深き眠り アレクサンドロス伝奇2』のお返事ペーパー 1998年秋

『ミエザの深き眠り アレクサンドロス伝奇(ロマンス)2』にお手紙をくださったみなさんへ

かなりお返事が遅くなりました(申し訳ない)
とりあえず、お手紙どうもありがとうございました。

新しい本が出るたびに、ああ今度はみんなに気に入ってもらえたかなあ…
あそこらへんがちょっとまわりくどかったかなあ…
あそこは説明が足りなかったかなあ…など、くよくよ思います。
もちろん、いつも自分なりにベストは尽くしているけれど、
うまく伝わったかどうかは、まだまだ自信が持てません。

だからみなさんからの、「おもしろかったよ」という手紙を読むと、むちゃくちゃうれしい。
感想を手紙にしてくれて、そのうえ切手を買って貼ってポストに入れてくれたあなたの行動力に、深く深く感謝いたします。本当にありがとうね。

そんなに驚かれるとは思いませんでした。
ハルナに子どもがいることは、本文を読めば一目瞭然だと思っていました。
もちろん、子どもがいるということは、それなりに配偶者も存在します。
どんなひとか?
ははは。そりゃもちろんフリードリヒとセシルとリュシアスを足して二で割ったような…(それは濃すぎ)
でもって、若い頃はちっとハミルみたいな…(ますますわからない?)
ともかく、彼のおかげで、ハルナは地に足をつけて物書きをしていられるわけです。

もう三年も前のことになりますが(早いものだ)
「しめきりは消印当日」というまさにその当日、
ポストに走っていったのに、もう最終集配時刻は過ぎておりました。
初めての投稿だった私は、呆然。
(家に持って帰って、押入にしまい込もうか)
と思ったところに、ちょうど会社帰りの主人が通りかかり、
ポストの口に、ぽんと放り込んでしまいました。
「なんだかしらんが、締めきりを多少過ぎてたって、目を通さずに捨てることはないさ」
とかなんとかいいながら。(実は早く帰宅してビールを飲みたかっただけか?)

それが、『マリア』の応募原稿でした。
ちなみに、主人は私の原稿や本を読んだことがありません。

さて、みなさんの感想から…
とにかく、アレクスが人気でした。
彼の複雑な心情をわかってもらえるか、というのが今回の最大のポイントでしたから、
いやよかったよかった。イラストの池上先生にも感謝!

思いの外、人気があったのがセレウコスでした。
あと、ルデトなんかちっとも人気がないだろうと思っていたのに、
結構もててました。
まあ、主役のアレクスやリュシアスがかすむようでは困るのですが、
脇がにぎやかしてくれるのはうれしいです。
ルデトには、これからもしっかり出てもらうつもりでいます。

リュシアスはだれがなんといっても22歳です。文句あるか(笑)

あとごめんごめん、ハミルを出さなくて悪かった。非難ごうごう。
彼は三巻でがんばっていますから、もうしばらくお待ちくだされ。

というわけで、三巻がすでに書き上がっています。
ハミルの巻です。
表紙イラストがもう最高。ハミルファンにはたまらないことでしょう。
池上先生は本当にすごいです。私も原画のカラーコピーを額に入れて壁に飾りました。

登場人物もほぼこれで出そろい、もうキャラは増やさない予定…
でも、私も死んだと思っていたあのひとが、やっぱり生きていて、でてきました…
あんまり突然ワープロ画面に現れたので、私もびっくり。
ハルナはいつもそういう心臓によくない書き進めかたをしています。

サラがいるトラキアを目指したハミル…ですが…
『碧きエーゲの恩寵 アレクサンドロス伝奇(ロマンス)3』よろしくおねがいします。

返事が遅くなってしまったこと、最後にもういちどおわびします。
実は、5月から6月にかけて、アレクスのふるさとを訪れていました。
それが言い訳。
旅の様子については、三巻のあとがきでふれるつもりです。

それではまたね。感謝をこめて。1998年初秋   榛名しおり

7.『蒼きエーゲの恩寵 アレクサンドロス伝奇3』のお返事ペーパー 1999年1月

『碧きエーゲの恩寵 アレクサンドロス伝奇(ロマンス)3』にお手紙をくださったみなさんへ

お手紙ありがとう。お元気ですか。
ハルナはようやくアレクサンドロス伝奇の4巻を書き上げ、
一息ついたところです。
今回も、皆さんからの励ましのお手紙を読ませていただき、
元気づけられながら、なんとか一段落つきました。
手紙をくれてどうもありがとう。
4巻もまた気に入ってもらえればうれしいです。
早く返事を、とずっとずっと焦っていましたが、
なんだかんだで、なかなか時間がとれなくてごめんね。勘弁してください。

さて、近況としましては、キャラクター人気投票の結果がでています。
たくさんの投票のお葉書、本当にどうもありがとう。
ラッキーな人には、
池上先生のイラストのすてきな図書カードがもう届いているのではないのかな?(私の名前の落書き入り)
詳しい結果は四巻のあとがきでふれますが、
一位がセシル、二位がフリードリヒ、
そして三位は、最後の最後にリュシアスを大逆転してマリアが競り勝ちました。
(おじさん三人組じゃなくてよかった~という編集部の声あり)
みなさんの予想は当たったでしょうか。
ハルナにとっては、ちょっと意外な結果でした。編集部でも意外だったのが、
堂々二位の、フリードリヒでした。
『マリア』を読んでくださったみなさんならよくおわかりだと思いますが、
彼はいわゆる少女小説に出てくる王子さまタイプの人物ではないので…
(最初がいけない最初が)

セシルの一位も意外でした。
私があえてセシルを応援したのは、もちろん好きだからですが、昔のキャラだし、
多分上位には入らないだろうなあと思ったからでした。
新しいキャラのほうが強いはずだと思っていたのに、ちっともそんなことありませんでした(笑)
二巻までのアレ伝のキャラが、そろいもそろってふがいない!(笑)
ということではなく、
読者のみなさんが二年近くも前にでた本をいまだに大切に思ってくれているんだなあと、
良い風にとらえることにしました。

というように、ファン投票でもはっきりしましたが、
アレ伝は、とにかくみんなのお気に入りキャラが、めちゃくちゃに割れていて、
「リュシアス命!」という人もいれば、
「リュシアスなんかぜったいやだ。とにかくハミルだハミルハミル!」
というひともいれば、
「ハミルなんか大っ嫌いだ。なんといってもアレクスだ!」
かと思えば、
「アレクスが好きだけど、サラとくっつくのはぜったい許せない」
などなど、
それはもうすごいことになっています。
いったいだれが主役なのか、作者ももうよくわからないこのシリーズですが、
それでもカイルーズなんかは間違いなく脇役のくせに、熱烈なファンをもっていたりします。
ありがたいことです。
そういえば、手紙でカシモフに触れた人も多かったです。彼はいよいよ不思議なキャラになってきました…。

で、四巻で果たしてどうなるんだろうと思っていたら、
思わぬ男女の思わぬ話がでてきました。
投票順位ではずうっと下の方の人たちです(笑)
いったいどこまでこの話が続くのか、という質問も多くなってきましたが、
五巻で終わるのはちょっと無理そうなので、六巻で納めるつもりでいます。
そのあと、まずは『マリア』の外伝の単行本化にとりかかることになると思います。が、予定は未定。

そして四巻はなんといっても表紙がすごい。ものすごくすてきです。こうご期待(誰かな?)

さて、みなさんからの声におこたえして――

――本が出るペースが多少速くなったのは、シリーズの続き物なので、資料を新しく調べる必要がないためです。(書くペースは同じ)

――『マリア』の外伝(ユリアの話)は必ず書きます。

――四巻は2月発売ということで、学生の皆さん、特に受験生にとっては、また忙しい季節になってしまい、
大変心苦しく思っています。ごめんね。申し訳ないです。

――「リュシアスは幸せになれるのでしょうか?」――う~~ん…(苦)

――ハルナへの手紙は、ためことばでokです。気軽に書いてください。
何色のペンでもかまいません。どんな封筒便せんでもok。
ただし、「いま授業中です」とか、「明日から試験です」なんてさりげなく書くのは心臓に悪いからやめて(笑)

――ブランとジェシカの話の続きも必ずいつかと思っています。

――三巻は、これまでで一番明るく楽しい雰囲気で
さくさくと最後まで読むことができましたという声が多かったです。
内容が比較的軽かったのは、単に登場人物乗せ書くと場面の関係上だと思っています。
四巻は覚悟してください。ほぼ全編、暗い戦場のお話になっています(笑)

――カシモフについて。
榛名しおりもいよいよその手の小説を書くことになったかという、喜びと期待の声(笑)が多かったです。

――「ハミルの浮気者!」(ごめんなさい、と、ここでは一応謝っておこう)

――ナーザニンについても票が分かれました。
編集さまとイラストの先生から、強力なナーザニン助命嘆願がきたので、
なんとか…と思いましたが(私も彼は大好きなのよ)

――一躍大人気のマティア兄ぃ。四巻の最後に出てまいります。

――ヨーロッパ以外は書かないというわけではないのですが、
ただハルナはいかんせん、漢字が大の苦手なのです。申し訳ありません。
いまだに三国志を読了できないという情けなさ…

――イラストについては、私も毎回惚れ込むばかりです。
特に三巻では、表紙やマティア兄ぃもさることながら、
あのハミルとサラが港の桟橋ですれ違う場面、
池上先生にイラストを描いていただける幸せをあらためてつくづくとかみしめました。

――「四巻の主役はいったいだれ」…サラでないことだけは確かです。
サラという名前だけはけっこうあちこちにでてくるのですが、
実際登場する場面はえ~っと、ひいふうみい…(笑)

以上、ハルナの近況でした。2月にアレ伝4でおあいしましょう。

    1999年お正月  感謝をこめて     榛名しおり

8.『光と陰のトラキア アレクサンドロス伝奇4』のお返事ペーパー 1999年初夏

『アレクサンドロス伝奇(ロマンス)4』にお手紙をくださったみなさんへ

 お手紙ありがとう。返事が遅くなって本当に本当にごめんね。
 ハルナの場合、みんなからの手紙が一通も来なくなったら、こんな孤独なお仕事はとても続けてられないと思います。
 どうかあらたまったり緊張なんかせず、これからも気ままに手紙をくれて、ハルナを力づけてやってください。

 アレ伝四巻では、登場人物がそれぞれみんな好きといってくれる人が増えてうれしかったです。
 ハルナはいったい誰が一番おきに入りなの?って質問は難しい。
 キャラクターは、みんな自分の子どものようなものだから、一生懸命生きる姿は、とにかくみんな愛しいです。
 でもやっぱり、リュシアスだけは違うかな(我が子としては、チト育ちすぎ)
 「最近リュシアスが活躍しないから、マティアに乗り換えちゃったよ」って人も多いけど(笑)
 ハルナの中では、無理に活躍なんかさせなくても、安心してそこらにおいておけるキャラクターなんだろうね。
 このごろは、損な役回りばかりさせています。
 このリュシアスとティナの二人が、フリードリヒとマリアの関係に似ていて、ちょっとあやしい…と指摘する声も多かったです。なるほどなるほど。
 リュシアスのファンの中でも、サラとは絶対にくっつかないでほしいという声もあったりして、とても複雑。

 とにかく、出番待ちしている人が多すぎるよね。シリーズ物だと仕方ないのかな。
 あれ?このひとどんなひとだったっけ、と、二巻を出してきたり、一巻を必死でさがしたりしてます。
 多分みんなにも同じ苦労をかけているんだろうなあ(ごめんなさい)
 そこら辺を早々に心配してくださったイラストの池上先生が(さすがだ!)
 四巻の巻末に『超早わかり人物相関図』を描いてくださいました。
 ありがとうございます。(メムノンパパに惚れました)

 「ナーザニンが死んじゃった、せっかく好きになったのに~」と嘆いてくれる人がものすごく多かったです。
 ナーザニンは、三巻ではめちゃくちゃ人気がありませんでした。
 でも、人気がないので殺しちゃおうって進め方はできないです。
 ハルナの場合、他人様の意見はもちろん、
 自分の中の「あ~こっちに話を持っていっちゃいけないよ~」という内なる声さえ無視して、
 ひたすらキーボードに宿る神さまの命じるままに書き進めることしかできないみたい。困ったものです。

 サラもっとがんばれ!って声も多かったです。
 五巻では、彼女なりにがんばったと思います。が、ラストは相当物議を醸すかも知れません。
 編集さまは、このラストを読んだみなさんがどう思うか、反応がものすごく知りたいと言っていました。

 アレクサンドロス伝奇(ロマンス)五巻『煌めくヘルメスの下(もと)で』の表紙イラストは、なんと豪華三人組です!こうご期待。
 是非帯をはずして堪能してくだされ。

 みんなからの手紙は時節柄、進学、進級の話題が多かったね。
 志望校に受かろうが、滑り止めに進もうが、
 親しい人とまたいっしょになろうが、離れてしまおうが、
 そこから先は、やっぱり自分次第なんだよね。
 出会いや別れを大切にしながら、
 あなたの一番いい時代を、とことん生きてほしいと思います。

       感謝をこめて   榛名しおり

9.ファンクラブ会誌に寄稿 『アレ伝キャラ ハルナ一番のお気に入りは?』1999年6月

Q.『アレ伝』の中でハルナが一番気に入っているキャラクターは?

最近この質問がものすごく多いです。
いったいハルナは誰が一番好きなの? 
そもそも、いったいだれが主役なのよっ
…って、おいおい、そんなに気色ばまなくても…(汗)

こんなにみなさんの好みが割れるとは思いませんでした。
おおざっぱに分けて三派…アレクス派、ハミル派、リュシアス派ですね。
(気を使って五十音順にしなければならないところが…)

愛しくて抱きしめてあげたいというアレクス派。
とにかくかっこいいからハミル派。
年齢層が比較的高く、ちょっとこのごろマティアに気が動いちゃっているわという、正直なリュシアス派。
(マティアのファンはまんべんなくどの派にもいて争いにならない)

結局最終的にサラを誰とくっつけるつもりなんだ、ということでもなくて、
サラとだけはくっついてほしくないというリュシアス派もいるし、
それぞれとても複雑です。

二巻がでた時点でキャラクター人気投票をしたのですが、
ベストスリーを他の作品にさらわれてしまったのも、
これだけはっきり好みが割れてしまったせいか…
(作品としてはアレ伝への票が一番多かった)

ハルナとしては、自分のキャラクターはみんな子どものようなものだから、
一生懸命の姿を見れば、それぞれに愛しい。
でも、やはりリュシアスだけは違うかな(我が子としては、ちと育ちすぎ)
思い起こせば遠い昔、
そもそもこの長い物語が始まった場面にふらりと登場したのが、
風来坊のリュシアスでした。
でもやはり彼は、物語の最後まで生き残って幸せになれる男じゃない…
つまりいつどこで彼が殺されるのか、おちおちしていられないのが、
リュシアスファンのつらいところであります。
ちなみに、リュシアスが亡くなる場面だけは、
一巻を書き出す前からハルナの頭の中にしっかりとあるのです。
その場面につなげるために、いまあれこれ延々と苦労しているようなものです。
こんなことも初めてで、やはりリュシアスは別格のような気がします。

アレクスについていえば、
彼の資料を読みあさり、この人はいけると思ったからこそ、シリーズを書き始めたわけです。
それだけ魅力のある人物です。四巻の表紙イラストの彼にはほれぼれ。
彼はだんだんいい男になってきました。

じゃあハミルはいったいなんなのよって、そんなにぷりぷりしないで(笑)
やはりこのお話はハミルとサラのお話なんだよ。
サブタイトルがアレクサンドロス伝奇であろうが、
作者が多少リュシアスのおじさんにいれこんでいようが、
やはりハミルががんばってくれなきゃあこの話は完結しないし、
サラも幸せになれないのです。

というわけで…ちっとも答えになっていませんが(汗)
まあ、そういうことでしょう!

           1999年6月21日   榛名しおり

10.『煌めくヘルメスの下に アレクサンドロス伝奇5』のお返事ペーパー 2000年冬

『煌めくヘルメスの下に アレクサンドロス伝奇5』を読んでくれたみなさんへ

お久しぶりです。ハルナです。みんな元気かな。

ようやくアレクサンドロス伝奇六巻を書き終え、一息ついたところです。
五巻を読んでみんながくれた手紙を前にして、いったいどうしようかと思いましたが、
やはり意地でもお返事は書きたいと思いました。
ずいぶん間があいてしまって、もう忘れられたかもしれなけれど、とにかく、お礼だけは言わせてください。みんな、本当にいつもお手紙ありがとう。
苦労して書いた本を、ちゃんと読んでもらえてるんだなと実感できるのは、みんなから手紙が届くときだけです。
意志の弱い私が、なにがあっても次を書こうと思えるのも、みんなからの手紙を読めるからです。
こうして何とか無事に六巻を書き上げることができました。みんなのおかげです。

さてさて、五巻はちょっとつらい場面ばかり続いてしまいました。
想像したとおり、みなさんからは、怒られたり、しかられたり、ののしられたり……(汗)
『マリア』からかぞえて八冊目になりますが、やっぱり今回のお手紙が一番強烈でした。
怒濤のように押し寄せた手紙に埋もれながら、いま、果敢にも返事を書こうとしているわけです(笑)

実はね、五巻は最初、11章で終わっていました。
つまり、「シャアラの花の…」の下りを書いて、展開のあまりの悲惨さについていけなくなり、
精根尽き果てたハルナは、ページ数も足りていたこともあり、
「六巻に続く」と打って、講談社にメール添付して送信し、倒れ伏したわけです。
そうしたら編集さんが、すぐに鼻を詰まらせながら電話してきて
「これじゃあまりにも救いがたいから、もう一章なんとかならない?」
それで急遽、ハミルの十二章を最後に入れました。
結果は、よかったと思っています。試しに読んでみればわかりますが、
シャアラの花で読み終わるのと、あのハミルの笑顔で終わるのとでは、
ぜんぜん読後感が違うからね。
(当初六巻は、あのハミルの章から始めるつもりでした)

ルデトとティナは、二巻で登場したわけですが、
それぞれ、二巻のあの章、あの行にさしかかるまで、ハルナの頭の中のどこにもいない人たちでした。(変な日本語だ)
つまり、「え?これは誰?なんなのよあなたたちは」と自問自答しているのに、何の答えもでないまま、唐突に堂々と現れたわけです。
当然、二人の先行きも全くわかりませんでした。

四巻で、マティアもからんだ昔のトラキアの下りにさしかかったとき、
作者としては、ものすごく困りました。
つまり、「こっちいっちゃまずいよ。本筋じゃないよ。サラはどうなるんだよ」という状態。
まるで、全く知らない道を車を走らせているようなもので、
本当は引き返すべきなんだけど、現れる風景があんまり意外なので、
「もうちょっとだけ先までいってみようか」って感じです。
わかってもらえるかな。当然プロットもなにもありません。
プロの物書きとしては、何ともまずい仕事の進め方でした。

でもサラ(一応主役)を放っておいて、そのまま走り続けた今にして思えば、
あの二人はそれほど自然に生まれて自然に(作者を無視して自分勝手に)動き、
話をぐいぐい引っ張ってくれたわけで、
ハルナの中では、単なるキャラクターではなく、
「ほんとうに生きてた」って印象がものすごく強い。
だから決して面白がって殺したんじゃないの。
あの二人には勝手に登場され、そして勝手に二人で死なれてしまったというのが実感です。
不条理な死でしたが、どうすることもできなかった。助けてあげることができなかった。
たぶん一番泣いたのは私です。本当にかわいそうなことをしました。
しばらくは、無力感にさいなまれました。
この複雑な心境、わかってもらえるだろうか。

ハミルの男娼すがたが大変好評でした(笑)
六巻のイラストも最高です。どうぞお楽しみに。
表紙はあの二人のツーショットで、とても雄々しくすてきです。池上先生に感謝!
もっとHを書け、甘甘なシーンを書けというご意見、ごもっともです。
しばらく書いていないものねえ…。

アレクサンドロス伝奇六巻「儚きカルタゴの花嫁」は二月五日ころ発売の予定です。
完結いたしませんでした。七巻が完結編になります。

そして今年もまた時期的に、受験やら試験で大変な季節に発売になってしまいました。ごめんね。
試験ではベストを尽くしてくれることを祈っています。

それではまたね。 感謝をこめて はるなしおり

11.『カルタゴの儚き花嫁 アレクサンドロス伝奇6』のお返事はがき 2000年初夏

『儚きカルタゴの花嫁 アレクサンドロス伝奇(ロマンス)6』に手紙をくださったみなさんへ

前略 お手紙ありがとうございました。
返事が大変遅くなってしまってごめんなさい。
先日、ようやくアレ伝の七巻を書き終わり、
無事(?)アレ伝は完結いたしました。
みんなが手紙でハルナを励まし続けてくれたおかげで、
当初思いもしなかったところまで走り続けることができました。
最後までおつきあいくださり、本当にありがとうございました。
『アレクサンドロス伝奇(ロマンス)7 フェニキア紫の伝説』は、七月はじめ発売の予定です。

みんなからのお手紙を読ませていただいて…
「リュシアスを偲ぶ会」の参加申し込みが多くて、
またほろりとしたり、ちょっとうれしいやら、どうしていいやら…
リュシアスのことについては、いろいろな感想をいただきどうもありがとう。
かえすがえすもいい男でした。
マティアの人気は相変わらず。でもやはりハミルの方が優勢かな?

それと、絶対思った。
来年からは、2月始めに本を出すのはやめよう。受験生に酷だ。

で、お約束したとおり、次はマリアの外伝になります。
内容は、ちょっと前に雑誌amieにのせた短編に手を加えた物と、
ハプスブルグの姫さまもの等になります。
みんなからは、マリアのその後を書いてくれという要望が多いですが、
これは、多分ないでしょう。
ハルナの中で、あの二人が完結しているからだと思います。
これをできれば年内にだして、さて、その次は…?

ということで、ハルナはおかげさまで元気です。
梅雨明けが待ち遠しいね。
薄着になると身も心も軽くなりますが、自分は自分。
ふわふわと周囲に流されずに、
それぞれ夏のすてきな思い出をつくってください。
応援してるからね。それではまた。

    2000年初夏  感謝を込めて   榛名しおり

12.ファンクラブ会誌に寄稿 『アレ伝完結 こぼれ話』 2000年7月

送信者:  七巻(最終巻)を書き終わったばかりの榛名しおり
送信日時: 2000年7月10日 11:47
件名:   アレ伝こぼれ話、思い出すままにあれこれ…

1.「五巻で完結」

七巻を書き上げた翌日、
イラストの池上先生と電話でしみじみしながら話したのは、
主役を食ってしまったティナについてでした。
私にとってはかえすがえすも不思議なキャラクターでした。
あの圧倒的な存在感。
「もしティナが出てこなければ、きっと五巻で完結してたね~」
「うむうむ」

2.「九巻で完結」

「この女の子、名前つけないの?」と編集さん。
「つけない!」と、妙にかたくなな私。
この仕事をするようになって、はじめてプロっぽい決断を下した。
「この子には絶対名前つけない!」

どこらへんでだったか、突然ぱあっと前方の視界がひらけた。
いったんこうなると、書くのは口述筆記並に早い。
…滅ぼされた故国、マティアの人質奴隷になっている自分は、目が見えない足手まとい。
マティアの胸には、自分に押されるはずだった焼き印。
マティアが好き。でも、マティアは彼女に妹(フィエーラ)を重ねているから、一つ部屋で寝ても、けして手を出してくれない。
いっそマティアが自分を捨てて逃げるか、殺してくれないかと思いながら、
マティアに捨てられる恐怖におののき、
そしてマティアが、意に染まぬ殺人を犯して帰ってくるのを、
ただ待つしかないもどかしさ。
こんなに好きなのに、マティアの顔をみたことがない…
そんなこんなが、一気に頭の中にあふれてきた。
話が作者を無視して、またもや勝手に暴走する…彼女の名前は…
「だめだ!ティナの二の舞になる~」

ということで、彼女はとうとう名前をつけてもらえませんでした。
幸せにしてあげたかった心残りベストツーが、彼女とキュンナです。
「もしもあの子に名前をつけてたら、きっと九巻までいってたね~」
「うむうむ」

3.登場人物はみなバイリンガル。

マニアックな話になりますが、出てくる言語は五つ。
フェニキア語、ペラで使われるマケドニアなまりのギリシア語、
トラキアで使われるはげしくなまっているギリシア語。
ハミルが家庭教師に習ったアテネ流ギリシア語、
そして、ペルシア語(いまイランで使われている現代ペルシア語とはぜんぜん違うもの。
フェニキア語が母語であるハミルは、これも家庭教師について習った。
非常にきっちりとした幼年時代を送った割には…)

全部ぺらぺらなのは、ルデトだけ(あんたは偉い)
アレクスはフェニキア語はだめだけど、ペルシア語ならOK。
(ペルシアからの使節とペルシア語で会話したという資料あり)
お勉強が苦手なマティアは、奴隷にされてからやっとのことでペルシア語を覚えました(涙涙)
リュシアスは旅先でフェニキア語を覚えてしまう行動派で、
威勢のよいスラングから身につけるタイプ。

七巻の途中で、サラとバルシネがお互いの素性を知らないまま、
すれちがいざまに会話を交わすほんのりとしたシーンを考えていたのですが、
この言語の問題をどうしてもクリアできず、泣く泣くぼつになりました。
(いろいろ覚えなければならなかったサラにくらべ、
最後までペルシア語しか話せなかったバルシネが悪い)

4.ようやく出番。

『ブロア物語』を書き終わったあと、
次はアレクサンドロス大王のテュロス陥落でいこうかなと思ったとき、
一番はじめに思い浮かんだのは、実は、七巻に出てくるカイとエリッサのエピソードでした。
テュロスを守備する側にハミルという親友をおいてみたら、
あれよあれよというまにハミルに話を引っ張られていってしまった…ハミル強し。

5.一番苦労し、根を詰めたページは

なんといってもカシモフ♂とパウサニアス♂のシーン。
たった数ページを書くために、どれだけ時間を費やしたことか…
(それでもX文庫の作者か)

13.『フェニキア紫の伝説 アレクサンドロス伝奇7』のお返事ペーパー 2000年秋

『フェニキア紫の伝説 アレクサンドロス伝奇7』に手紙をくださったみなさんへ

みんな元気ですか。いつも応援の手紙ありがとう。

ハルナはいま、マリアの外伝を書き終えたところです。
マリアの外伝については、内容について、たくさんリクエストがきてました。
(マリアとフリードリヒのその後を書いて、とかです)
結局誰のリクエストにもこたえられなかったけれど(笑)
この話も、みんなに気に入ってもらえればいいなあ、と、
そんな気持ちで、いまはいっぱいです。  
『マゼンタ色の黄昏――マリア外伝』は、2000年十一月始めに発売予定です。

なお、この本には、池上先生がマリアを題材に描きおろした漫画ものる予定です。こちらもお楽しみに。(私も楽しみ♪)

さて、アレクサンドロス伝奇のシリーズが、7巻で完結しました。

とにかく、長い旅でした。こんなに長くなるとは想像もしなかった。
最後までついてきてくれたみんなには、本当に感謝のことばもありません。
いろいろな感想ありがとう。お手紙、本当にうれしかったです。

ひとつだけ取り上げると、最後、サラが自分の子どもを放り出してしまったことについて
リュシィがかわいそう、母親としてどうか、という声がありました。
そうなんだよね。
私だったら、多分バルシネのように、
愛する人を捨てることになっても、自分の産んだ子どもといっしょにいると思います。

子どもを選んだバルシネと、子どもを選ばなかったサラについて、
書き終えたいまも、いろいろ考えてます。
それぞれの生き方なんだから、どっちが正しいか、ということにはならないけどね。

サラについていえば、
彼女には最後に、作者を超越されてしまったなあと感じています。
私は信条として、
自分がいえないようなせりふは、登場人物にいわせない……はずだった。
だけどサラは、おかまいなしでいうんだよ。
「一生分愛した」
これは、いまのハルナには絶対にいえないなあ。

こうして書いていると、
もっともっとサラとつきあっていたかったなあと言う気持ちがつのります。
サラは作者の分身などではなく、
いいも悪いもすべてしってる、よき幼なじみといった存在でした。
また彼女やティナみたいなキャラクターに巡り会いたいねえ。

「はたしてこれは、ハッピーエンドだったのか」
という点でも、みなさんの意見が分かれました。

もっと劇的にドラマチックに、現実離れしたお話、
たとえば魔法とか超能力とかばんばんでてきて
最後は必ず「めでたしめでたし」で終わる幸せなお話を、
ハルナは書けないものかなあ。
そこらへんのもやもやが、今度出るマリアの外伝にもでてきます。

結論をごくかいつまんでいうと
「いつどういう死に方をするにせよ、
死ぬ瞬間に、
まあよくやったよと、自分をほめたい」これが、ハルナの根っこです。
幸せにぬくぬくと暮らした期間の長さを誇るよりも、
一瞬でも自分が輝いた記憶を、大切にしたい。そうすれば、
死ぬとき自分をほめてやれる――ハルナにとっては、
それが何よりのハッピーエンド。

こんな人間の書く話ですから、
「末永く幸せに暮らしました」では完結できないんだよね。

むしろ、いろいろな読み方をしてほしい。同じ人が二度目に読むとき
違う読み方をしてくれるほうがうれしい。
六巻のあとがきに書いたとおり、
みんなに、自分なりにあれこれ考えてもらうための、踏み台、
もしくは敷石に、ハルナの作品がなれればなあ
と、思いながらいつも書いています。

あなたが真剣に自分自身と向き合い、
つきつめて出してくれたハミルやサラの死の意味は、
いまのあなたにとって、大正解に違いない。

前回(七巻書き終わりました)のお返事が「はがき」だったこと、
みんなに大変不評でしたので(ごめんよごめんよ)
やっぱりお返事は、封書ですることにしました。
いい季節ですね。ハルナも次のシリーズ物のために、
せっせと図書館に通ったり、読書したりしています。

というわけで、マリアの外伝の次は、
文芸復興(ルネサンス)まっさかりの、
十五世紀フィレンツェの予定でいます。
新しい出会いの予感に、期待と不安の毎日です。
それではまたね。

   2000年秋   感謝をこめて  榛名しおり

14.『マリア外伝 マゼンタ色の黄昏』と『薫風のフィレンツェシリーズ』のお返事ペーパー 2002夏

『マゼンタ色の黄昏』と『薫風のフィレンツェシリーズ』への応援ありがとう

こんにちは。榛名しおりです。

応援の手紙を下さったみなさん、ありがとうございます。
忙しさにかまけて、一年ほど返事を出すのをさぼっていましたが、
みんなからの手紙は、やはり、私にとって一番の元気のもと!
読んで本当に楽しませてもらい、元気をもらっています。
返事が出せないことが、気になって気になって…
というわけで、今回、友人に宛名書きを手伝ってもらい、
ようやくお返事を出せることになりました。
返事が遅くなってしまった人、本当にごめんね。

さて、『アレクサンドロス伝奇』が七巻で完結し、
余韻にぼーっとするひまもないまま、
マリアの外伝『マゼンタ色の黄昏』を書いて、
フィレンツェシリーズを三冊書いて、
今、新しいシリーズを始めようというところです。
その合間に、X文庫の企画でアンソロジーの超短編
(マティアパパが出てくるアレ伝外伝『レヴァント残照』)と、
インターネットでの連載『ドルフィンムーン』もありました。

『マゼンタ…』では、泣いてくれた人が多かったみたいだね。
この話は、榛名としては初めて、
何年も暖めてから書いたもので、かなり入れ込んでみました。
結末が悲劇だというのが、読む前からわかっているし。
人気の『マリア』の外伝ということで、プレッシャーもあったけれど、
みんなに気に入ってもらえて、本当に良かったです。

実は、後半、もうちょっといろいろ書いてみたかったんだけど
(ユリアにからむダースの話とか、
ヨハンとミクエルとマリアの三角関係…
三角関係なんだけど、実はマリアがファザコン娘で、
恋がまだよくわからない…とかいう話)
時間切れでした。残念。

『薫風のフィレンツェ』シリーズについて

どうせ榛名のことだから、最後にみんな殺してしまうんだろうという、
大方の予想(?)を裏切ってしまいました(笑)
(実在の人物の死ぬ年をかえるわけにはいかないよ~)

アレ伝とはカラーががらっと違う、
芸術家肌の男の子が主役の、骨太い話を書いてみたいと思っていました。
ミケルは、ちょっと大物過ぎて、無謀かと思ったときもありましたが、
天才だって、出だしはいろいろあるはず。
ジュリオ坊やにも救われました。
リフィアが出てくるまでが、ちょっと長かったかな。

実をいうと、最初に書こうと思っていたのは、このあとの、二十歳台のミケル。
今回、脇役のルチアーノ兄ぃに人気が集まりましたが、
二十歳を過ぎたミケルが、かの『ダビデ』像に取り組もうとしたとき、
とりあえず屈強の友人をモデルに引っ張ってきて、
裸にむいて悩む…
なんて場面が榛名の頭の中にありまして、
ルチアーノ兄ぃはそこからうまれたキャラでございます。

おおざっぱな構想としては、
ミケルと同居しているリフィアを、美少年だと思った天才ラファエロが、
横から絡んできて、ジュリオともめたり…
何てことをつらつら思っていると、
ああ、また、花の十五世紀に飛んでいきたくなってしまう…

さて、ここからは近況。
近々、角川書店ビーンズ文庫にお呼ばれして、とりあえず一冊書く予定です。
何を書こうか、かなり迷いました。
『ブロア物語』のジェシカとブランの話ものびのびになってますが、
今回は、八月に発売するホワイトハートの新刊にリンクしたゲルマーニアものになる予定。
秋頃になると思うので、ぜひそちらもチェックしてください。
(題名は『花降る千年王国』)

あと、七月発売の『活字倶楽部』さんに、榛名のインタビュー記事が載っています。
楽しい雰囲気につられて、いろんなことをしゃべってしまいました。
写真も撮られてしまいました。
榛名の良いイメージを壊したくない人は、見ない方がいい…かも?
(うそうそ。みてね)

さらに、榛名しおりの公式ホームページを開設いたしました。
こちらに、もっと詳しい作品の裏話を随時載せていく予定です。
ぜひ遊びに来てね。待ってます。

さてさて肝心の、新刊の発売予告です。
講談社ホワイトハート文庫で新しく始まるシリーズものは、
民族大移動直前(四世紀)のゲルマーニアを舞台にしております。
凛々しい男主役二人に、池上先生は「狼コンビ」と名付けました。
みんなにも気に入ってもらえるとうれしいです。
メロヴェというのが、女主人公の名前です。今までのキャラの中では、アレ伝のティナに近いかな。

『黒き樹海のメロヴェ ゲルマーニア伝奇1』は、2002年八月はじめ発売の予定です。

というわけで、なんだかお知らせばかりの、ばたばたした手紙になってしまってごめんなさい。
みんなが書いてくれたいろいろな近況に、
ああ、私もそうだったな、そうそう、そんなこともあったよな~と、
頷いたり、笑ったり、時にはいっしょに腹を立てたりしながら読んでます。

どうぞこの夏、何歳になっても楽しく振り返ることのできるような思い出を、ひとつでも作って下さい。友達とでもいいし、一人ででもいい。
何かと思うようにはいかないこのごろで、一寸先は闇だけれど、
とりあえず、今日をしたたかに生きてみないことには、なにも始まらないものね、
榛名もがんばるからね~。それではまた。どうぞご自愛下さい。

  2002年夏  感謝をこめて   榛名しおり

15.新しい『マリア』f文庫から発売のお知らせ 2005年初夏のお返事ペーパー

こんにちは。榛名しおりです。
ほぼ三年ぶりにみなさんのお手紙に返事を書いています。
なかには、「ハルナに手紙なんか書いたっけ?」という人もいるかもしれません(笑)ごめんなさい遅くなって。

『ゲルマーニア伝奇4』を書き終えたあと、しばらく体調を崩し、執筆をお休みしていました。
心配かけてしまった方には、本当に申し訳ありませんでした。
おかげさまで、ようやく元気を取り戻してきました。

一般論として、編集さんから、
「少女小説の読者は、次の新刊との間があくと、待てなくて、
自然とその作家から離れていってしまう。半年も持たない…」
と、デビュー当時から何度も聞かされてきました。
八年目にしてはじめて執筆を休むにあたり、気になったのはこのことでした。
ハルナのことをみんないずれ忘れてしまうだろうな、しょうがないけど、ちょっとさびしいな。

でも、みなさんからのお手紙が、半年を過ぎても一年を過ぎても二年を過ぎても、
ハルナのもとに届きます。一通一通に、どれだけ励まされたことでしょう。
みなさんの暖かいことばに、ハルナは間違いなく「力」をもらいました。
おかげさまで、なんとか体調も元に戻りつつあります。
だから、励ましのお手紙をくださったみなさん方には、どうしてもお礼が言いたかった。
ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。心よりお礼申し上げます。

さて今回、デビュー作の『マリア』が、
F文庫という、講談社が新しく立ち上げた大人向けの文庫から
装いもあらたに出版されることになりました。
読み直しているうちに、またうずうずと書きたくなり、
結局数カ所、数十ページにわたって内容を書き足しております。
また、表紙カバーイラストを、
なんと、あのグインサーガシリーズなどで有名な丹野忍先生が担当してくださいました。
油絵です。私も一目でうっとりしました。
とてもすてきな絵を描いていただいて、本当にうれしく思っています。
F文庫版の『マリア』は2005年6月に発売予定です。本屋さんで見かけましたら、ぜひ手にとってやってください。

近いうちまたみなさんに、新しい作品をわくわくしながら読んでいただけるよう、努力したいと思っています。
引き続き応援いただけたら、これほどうれしいことはありません。
ぜひよろしくお願いします。

道ばたでは立ち葵も咲き出し、夏の足音が近づいてきました。
娘の小学校でも今週からプールの授業が始まりました。
最近の日本の夏はつらいです。くれぐれもご自愛くださいね。
私も気をつけます(笑)

それではまた
       
         2005年6月   感謝をこめて  榛名しおり


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ありがとうございます。サポートして下さったあなたのおごりでゆっくりお茶を頂きながら、次は何を書くか楽しく悩みたいと思います😊