おうみ

戯曲(演劇の台本)

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廃熱バイパス【第22回AAF戯曲賞・特別賞】最終バスの住人たち【かながわ短編・最終候補】

3月28日追記。 かながわ短編演劇アワード2023戯曲コンペティションの結果が出たので、そちらも掲載しておきます。 『最終バスの住人たち』と『廃熱バイパス』は短編⇔長編の関係性となっております。同一の世界観を持つ作品が2つの戯曲賞にリーチをかけることはまたとないことでしょう。 どちらの選考でも“戯曲らしくない”ということを言われ、当然それを自覚しつつも、応募2年目でそれでもここまで持ってこれたんだから上等なものですよね。 結果に満足はしていませんが、これ以上のものを書ける

    • 最終バスの住人たち【長編】

      最終バスの住人たち 登場人物 長尾(65)製鉄工場の送迎ドライバー ダン(27)勤勉なベトナム出身の若者 若槻(23)自転車乗りの青年。入社して間もない。施設管理課 有田(52)肥満体で不健康。部長 古河(26)右腕が動かず、包帯を巻いている。施設管理課 白井(25)高機能自閉症で、自立のため努力している 12月。愛知県渥美半島の、太平洋に臨み山を背にした町。 全編を通して雪が降っている。 一、工場の正面玄関。10人乗りのハイエースワゴン

      • 熱血この身に宿りて走る【長編】

        熱血この身に宿りて走る 登場人物 長尾(70)シルバー雇用で勤める。入社5年目。 ダン(27)勤勉なベトナム出身の若者。入社4年目。 若槻(24)茶味がかった髪の、自転車乗りの青年。入社して間もない。 古河(26)鋭く尖った印象の青年。右腕がうまく動かない。入社3年目。 有田(52)肥満体で不健康さを滲ませる宿直の警備員。 白井(25)高機能自閉症で、自立のため努力している。 場所 愛知県、太平洋に臨み山を背にした町の製鉄工場。及びその周辺。 時期 12月 舞台 上

        • 熱血この身に宿りて走る-②

          熱血この身に宿りて走る-② 長尾(66) 若槻(23) 有田(52) テイ 中部地方・太平洋に面した町の製鉄工場。 従業員は全員この町に住んでいて、うち3割は寮から通っている。 二か月前に起こった作業員の転落死も忘れられようとしていた矢先、同じ部署の青年・若槻が倒壊したフォークリフトの木材に足を挟まれ大怪我をする事故が起こった。 10月として前例のない寒さの20:00過ぎ、工場の食堂で長尾はひとりカップそばの麺が戻るのを待っていた。 鍵を閉めに回っていた警備員の有田が厨

        廃熱バイパス【第22回AAF戯曲賞・特別賞】最終バスの住人たち【かながわ短編・最終候補】

          熱血この身に宿りて走る

          熱血この身に宿りて走る 登場人物 若槻(22) 長尾(66) 有田(52) 20:00過ぎ、製鉄工場の社員食堂。 それなりに広い食堂に半分ほどの電灯とテレビがついている。そこで作業着の長尾がカップそばを啜っている。食堂には彼一人だけ。 中を伺う様子で若槻が入ってくる。明かりの灯っていない厨房を覗きこみ、営業時間の看板と薄暗い食堂を見て、落胆と困惑といった表情で肩を落とす。 長尾 ストライキ、みたいなもんだね 若槻 え? 長尾 遅番の締めくらいしか来ないから、19:30

          熱血この身に宿りて走る

          バスタブのめだか(水槽の中で冬が去る) *添削前

          バスタブのめだか(水槽の中で冬が去る) 登場人物 由良(ユラ) 23歳。新任の小学校教師。 来日(ライヒ)18歳。不登校。 場所 由良の部屋 時刻は22時過ぎ。 由良は1DKの部屋に帰る。 奥の部屋は暗いが、同居人の気配がある。 由良は黙ってドアを開ける。 来日 おかえり 絨毯に寝そべり来日は言う。傍らにはスマホや携帯ゲーム機が転がっている。 来日 ただいまくらい言ったらどう? 由良 お風呂は入ったの 来日 ん……身体が動かなくて。動かなくてというか、床と張り付い

          バスタブのめだか(水槽の中で冬が去る) *添削前

          雪が眠るとき(添削前)

          雪が眠るとき 大島 女 場所 公園 時  夜 視界が塞がるほどの豪雪の夜、会社からの帰路に就く大島は公園の片隅で雪をかき分けている女を見つけた。足を深い雪に埋めながら公園を出る女は真夏に着るようなワンピースを身に纏っていた。 大島 あの。……あの!何を埋めていたんですか 女は脂汗を浮かべていて、恐れるような目で大島を見た。足元には血が伝っている。 大島 今、救急と警察に連絡しました。事情は分かりませんが、助けられる命は助けましょうよ。とりあえず近くの交番の方が来

          雪が眠るとき(添削前)

          魂(添削前)

          魂 佐井(23)受刑者 兵庫(32)記者 場所 面会室 刑務所の面会室で、兵庫は佐井に質問を重ねている。 佐井は、相手を値踏みする視線を絶やさない。 兵庫 あなたは、被害者を死んで然るべき人間だといい、動画内で「象徴的死」という言葉を使いましたが、具体的にどういう行いを指して言っているのですか 佐井 人と人を区切る行為。言葉を破壊する行為 兵庫 事件の時、助手席には夫人が乗っていました。彼女も拘束する必要はあったのでしょうか? 佐井は兵庫から目を逸らし鼻で長く息を吐

          魂(添削前)

          夢、希望、詰め込んで(添削前)

          夢、希望、詰め込んで 押村(三十代)  森末(六十代) アパートの管理人。元警官。 場所 二階建てアパートの前 時  平日の白昼 森末がアパート前の雑草抜きをしていると、2階からリュックを背負った押村が錆びた階段を降りてくる。リュックには酒瓶が4本入っていて、カン、カンとぶつかる音が小さく鳴っている。 森末 おはよう! 押村 …… 快活に挨拶をする森末を避けるように会釈だけして、自転車に鍵を挿す。 森末 暑いね! 押村 …… 森末 どこ行くの? 押村 は……仕事

          夢、希望、詰め込んで(添削前)

          光(添削前) トマトともやし(添削後)

          光 要田(21) 兄 野分(18) 妹 場所 車内 時  夜 母の火葬式を終えた要田は、妹を新幹線の駅に送るため高速道路を走っている。火葬式は二人だけの短時間で行われたが、疲れが滲んでいる。 野分 ……お疲れ様 要田 …… 野分 ごめんね、喪主、任せちゃって 要田 長男がやるもんだ 野分 急だったね 要田 葬式は、いつだって急だ 野分 何、初めてでしょ 要田 ラジオで言ってる 野分 『お別れは、いつも突然だから。家族葬なら、ノアール。0120……』 要田 ……電話番

          光(添削前) トマトともやし(添削後)

          シルバーレース

          シルバーレース 若槻 24歳。大学卒業後一年経て工場に就職する。 古河 23歳。片腕が動かない。 場所 工場の点検歩廊 時  昼前 工場の歩廊で、若槻は手持ち無沙汰にしている。 古河は首から下げたバインダーを胴体で支え、チェックシートを記入している。 若槻 何書いてんすか 古河 気にしないでいいよ。見学のつもりでいればいい 若槻 むずいっすか 古河 何も 若槻 いっこ前の紙、見てきていいすか 古河 どっちでもいいよ 若槻は大きなあくびをした。 反対側に作業をしてい

          シルバーレース

          氷河の幻流(添削後)

          氷河の幻流 登場人物 長尾(70代前半) コンビニ店員 ダン(20代前半) コンビニ店員。留学生 場所 コンビニ店内 時 夕方16時頃 ダン ……ありがとうございましたー 長く続いた列の最後の客が店から出る。 自動ドアから冷たい風が舞い込み、長尾は手を擦る。 ダン 間氷期らしいですよ 長尾 え? ダン 地球は、氷河期の中で暖かい間氷期ですよ 長尾 はぁ。だからどうだと? ダン いつ氷期になるか、分からないです 長尾 ……? 外は雪

          氷河の幻流(添削後)

          氷河の幻流

          氷河の幻流 冬の日。傍目にはそこまで高齢に見えない長尾(71)がコンビニのレジ打ちをしている。ありがとうございました、と見送った客の自動ドアからの寒風に手を擦る。導線に並びかけた次の客を案内するが、冷凍食品を陳列していたベトナム人のダン(二十代)が駆けてきて自身のレジに導き、接客を終えた。やはり激しく風が舞い込み、ドア付近の新聞や吊り下げたパウチがカサカサ揺れる。寒そうにする長尾に、ダンは近寄った。 長尾 いいんだよ別に…… ダン 間氷期らしいですよ 長尾 え? ダン 地

          氷河の幻流

          代替脳 冷凍睡眠

          代替脳 冷凍睡眠 【あらすじ】 架空の令和三年。『亜種』と呼ばれる、新型ウイルスの新たな変異株が日本を席巻した。窮地に追いやられた劇団・奴隷の邦(どれいのくに)は、代表・五能の指導により暴力的手段と扇動を以て感染拡大の収束を実現。多くの揺るがぬ支持を集めた。数年後、毒性を増した亜種の第二波に奴隷の邦は再び立ち上がる。しかし、記者会見場に現れた副代表・三沢が行橋博士と共に発表したのは新技術「冷凍睡眠」だった。亜種に蹂躙され、少数のみが生き残る架空の未来。 ……そんなこ

          代替脳 冷凍睡眠

          メーデーメーデー ーcanary in the coal mineー40分版台本

          メーデーメーデー ‐canary in the coal mine- 男 女(ゆり) 金糸雀 暗闇に鋸の音が響く。プロジェクターの明かりが灯り、作業をする男の姿が浮かび上がる。 下手から女が現れる。女の歩みは壁を頼りにした酷く遅いものであり、言葉は明瞭だが遅い。 女 おかえりなさい 男 ただいま 女 椅子ももういらないの? 男 うん 女 ご飯出来てるから 男 今日はどれくらい歩いたの 女 …… 男 大人しくしてろって言った

          メーデーメーデー ーcanary in the coal mineー40分版台本

          メーデーメーデー-canary in the coal mine-第三稿

          国会中継《メーデーメーデー》‐canary in the coal mine- 男 女(ゆり) 金糸雀 舞台は額縁で縁取られひと部屋程のスペースが見える。またその縁には紗幕のカーテンが引かれている。スクリーンが灯る。その明かりで影が浮かび上がる。 ・自由、公平、思考、思想、愛、始まり、ノコギリ《ソー》 ・利己主義、俗悪、無礼、知性、家族、爆薬《ダイナマイト》。 ・芸術、屋根、完成、追求、親愛、釘《ネイル》、衛生《ハイジーン

          メーデーメーデー-canary in the coal mine-第三稿