樹木図鑑 vol.2 シラカバ 樹木界のナイチンゲールの逆襲
こんにちは。樹木図鑑第2弾を公開したいと思います。今日の主人公は、樹木の中でも最も美しい美貌の持ち主、シラカバです。
では登場していただきましょう。
ばん。
↑こんな感じの木です。美肌〜!!
2019年8月18日 北海道釧路市阿寒湖温泉
シラカバ 身分証明
学名 Betula platyphylla
カバノキ科カバノキ属
原産地 アジア東北部
樹高 10メートル
漢字表記 白樺
別名 シラカンバ
白い幹が特徴的な、北国を代表する樹種です。北海道の新千歳空港でこの木の街路樹を見ると、お、北海道に来たな、という感じがします。
しかし、この木は、北国らしさを演出すること以外に、もう一つ重要な役割を担っています。
しかし、この木は、北国らしさを演出すること以外に、もう一つ重要な役割を担っています。
北国の森は、この木が作っているのです。
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競争が、ニガテ!というかキライ!
シラカバは、自然界の中では競争力のない、マイペースな木であると言えます。
それはなぜか。
極端に日陰に弱いのです。
つまり、日が当たらないと枯れちゃう。
このような樹木のことを、耐陰性が低い樹、と表現します。
そうした樹種は、残念ながら栄養分豊富な土地での生活は諦めなくてはなりません。
栄養分が豊富な場所というのは、すべての植物の憧れの地。そのぶん植物間の競争も激しい。もし、シラカバのような耐陰性が低い樹がそんなところに住んだら、繁茂する植物で自分の体が埋もれ、日光が自分に当たらなくなってしまいます。そして1本寂しく日陰で葉を落として孤独死。
………………悪夢です。
こんな未来は絶対に避けたい。
そう思ったシラカバは、台風で森が更地になってしまったところなど、他の植物が生育できない痩せ地に生えるようになりました。
だれも住みたくないような貧栄養な土地は、競争なんてほとんどナッシングだもんね!日光独り占め!………という考え方。
………………大丈夫かなあ。
栄養を捨ててまで日光にあたりに行くなんて。
こんなやり方でうまく存続できるのかなぁ。
心配になります。
気がかりなので、その後のシラカバの経過を見てみることにしましょう。
↑排水地かなんかの跡地に、1人寂しく生えるシラカバ(写真中央左寄り)。こんな条件が悪い土地に生えれる樹木は、シラカバぐらい。
2019年8月20日 北海道千歳市
シラカバのその後
………………数十年が過ぎました。
シラカバはすっかり大きくなり、彼らが落とした落ち葉は微生物に分解され、痩せ地は富栄養の土壌へと変わっていきました。
「やった!子供達がいい土壌で生育できる!」
親のシラカバは、喜びながら種を自分たちの「下に」落とします。
そのよく年の春。
待望の出産、じゃない、発芽。
何百本ものシラカバベビーたちが人生ではじめての春を迎えます。
……………となるはずでした。
なんと、まさかの全員発芽せず。
予想外すぎるアクシデント。なぜこんなことになったのか。
じつは、シラカバの種子は日陰では発芽しないようにできているのです。
たとえば、日陰に弱いシラカバの種子が、運悪く日陰に飛来し、発芽しても、すぐに枯れてしまいます。
それは果てしなく虚しい。
そんなことにならないように、シラカバの種子は、日陰では発芽しないようにできているのです。つまり、「発芽の自動ブレーキ」搭載。
………リスクマネジメントがしっかりしています。最近トヨタが、踏み間違えサポート機能をPRしていますが、それよりも早く、シラカバは同じような発明をしていたのか。
やっぱ植物って、人間の何倍も賢いなあ。
そして、一度発芽ブレーキを作動させた種子たちは、長期間の休眠に入ります。
上空で日光を遮っている、他の高木たちが、台風や病気などなんらかの理由で枯死し、自分が日光を独り占めできるようになる、その日まで。(要するにほかの木に早く死ねと願いながら待っているのです。なかなかゲスいな。)
先ほどのシラカバベビーたちも、親木が日光を遮っているせいで、種子の自動ブレーキが作動し、発芽できなかったのです。
ですが、困ったのはシラカバの親たちです。
自分たちが日光を遮っているせいで、子供に日が当たらず、発芽できないというのは明らかです。かといって何かできるかと言われても、何もできません。自ら枯れて子供に日光を当てるわけにもいかないし………
どうしよう。シラカバの親たちは根腐れするぐらい悩みます。
っが!しかし!
まさかの略奪、でもシラカバの行動が感動的
解決策が見つからず、シラカバがグズグズしているうちに、
「あ!いいところ見ーつけた!ここにを生育地とする!」と、図々しくも侵入してくるやつが!
ミズナラなどの、耐陰性の高い樹です。
彼らは、シラカバが苦労して作り出した、栄養たっぷりの土壌を、いとも簡単に横取りしていきます。
………かわいそすぎる。
シラカバはいったいどうするのでしょうか。
なんと、不平不満を一切言わず、潔くその土地をほかの樹種に明け渡すのです。シラカバの親たちは、最後の種を飛ばしました。(シラカバの寿命はものすごく短い。数十年だけ)
「おまえたちは、競争相手が誰もいない裸地を探し、そこで暮らしなさい」と語りかけながら。
ぼくはこの、シラカバの平和的な姿勢は賞賛に値すると思います。
ここは俺の土地だあ!と言ってミズナラを無理矢理追い出そうともせず、
「じゃあ俺、無駄な争いはせずに他のところ行くわ」
と言ってその場所を譲るなんて。
なんて潔い。
世の中シラカバみたいな人ばかりなら、(もちろん白い服を着ている人がウジャウジャいるという意味ではない)無駄な争いごとも少なくなるのになぁと思います。
さらに、シラカバを讃えるべき点はもうひとつあります。
それは、彼らがいなければ森は維持されない、という点です。
台風が起きても森がほんの数十年で元にもどるのは、更地になってしまった森に、シラカバが真っ先に侵入し、土壌を作ってくれるから。現在森に生えている木が快適に過ごせているのも、もとはといえばシラカバのおかげなのです。
しかし、シラカバは見返りを求めません。たとえ自分が作った土壌をほかの樹種に横取りされてしまっても、ひたすら彼らは森を再生させるべく今日もやせ地に種を飛ばし続けているのです。
ここまで行くともはや樹木界のナイチンゲール。
シラカバよ、さっきは存続できるの?とか性格がゲスい、とか言ってごめんなさい!
あなたは、森の重要なコーディングネーターだったんだね!
あなたがいなければ、地球上は全て砂漠になってしまう!
↓下から見上げたシラカバ。優しそうな見た目………
2019年8月18日
北海道釧路市阿寒湖温泉 (冒頭の写真とはまた別の木)
平和主義のシラカバだって、キレるときはキレる。
そんな優しいシラカバですが、地球上でただひとつ、彼らがマジでブチギレている存在があります。
人間です。人間は、よく森をぶちぬいて高速道路を作っていますが、そんなの植物からしたら大迷惑。
そこでシラカバは、痩せ地に強いという特性を生かし、そうして作られた高速道路の道路脇に侵入。花粉を飛ばして人間を攻撃しています。フィンランドではすでにシラカバ花粉症が深刻になっているそうですから、この復讐は成功したと言えるでしょう。
しかし、さすが樹木界のナイチンゲール。
人間に復讐するだけではありません。ちゃんと人間にサービスもしてくれています。
じつは、シラカバの樹液には人の肌を保湿したり、うるおいを与えたりする効果があり、よく化粧品に使われています。よくよく考えると、本人たちの木の幹の肌はあれだけ綺麗なんですから、そこからとれる樹液に美肌効果があるのも当然と言えるでしょう。(?)
↑シラカバの樹皮。
どうしてシラカバは樹皮が白いのかは、実はまだ解明されていない。
白い幹で太陽光を反射させ、森全体に日光を行き渡らせるため、という説がある。
2019年8月18日 北海道釧路市阿寒湖温泉
他にも、ガリガリ君の棒や、ガン細胞の抑制など、さまざまな場所でシラカバは人間の役に立ってくれています。
人間にも、その他の生き物にも、これだけ頼りにされている木って、あんまりないのでは?
↑シラカバの樹皮は、古くなると黒いぶつぶつができる(先ほどあげた画像は、真新しい樹皮)。この黒いぶつぶつは、皮目と呼ばれるもので、幹内の空気を入れ替えるための組織。
2019年8月18日
北海道釧路市阿寒湖温泉
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[同定のポイント]
同科同属の、ウダイカンバ(Betula maximowicziana)とよく似ており、なかなか見分けにくいです。
↑ウダイカンバはこんな感じの樹。パッと見シラカバだと思ってしまう。
2019年8月22日 北海道長沼町 マオイの丘公園(植栽木)
シラカバとウダイカンバの違いを下の図にまとめました。
即席で学校のプリントの裏に、そこらへんに転がってたシャーペンで書いた図なので分かりにくいところがあったらごめんなさい………
※申し訳ありませんが、シラカバの葉の画像は現在準備中です。
庭で育てているシラカバの葉が開いたら画像を載せるので、しばらくお待ち下さい。それまではとりあえず上の図で………
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