見出し画像

meviyの感想

ものづくりワールド

6月22日、中日に行ってきました。
面白かったのはやっぱりミスミさんのmeviy!
昨日Twitterで感想をつぶやこうとしたら以外と長文になったためこちらにまとめます。
設計者の立場として、それも2次元CADを使う立場の経験から見ていきます。
一言で設計と言ってもいろいろなパターンがあります。代表的なところでは製品設計と設備設計とか。
全てを網羅することは不可能ですので、私の経験を一つ例に挙げつつまとめていきます。
あくまで私の経験がベースになっているため、一般論とは異なる部分やお読みいただいた方のご経験に照らし合わせるとおかしなところがあるかとは思いますが一つのお話として読んでください。
また複数社での経験をまぜこぜにして書いているため多少の違和感があるかもしれませんがご了承ください。

設計実務の流れ

基本的に生産技術の立場で社内設備の一部、ワークハンドリングを行うためのロボットハンドを開発設計したときの設計フローを例にとります。
購入品10点、加工品10点程度で文字通り手のひらサイズ程度の完成品をイメージしています。
ところどころで対比するように設備メーカーの設計者としての対応を記述します。購入品200点、加工品200点程度でW×D×H=2m×2m×2m程度の完成品をイメージしています。
*生産技術の立場で仕様をまとめてメーカーに依頼する場合は全く別の業務になります。
*あくまで私の経験をベースにしています。
完成品は組立ラインで使用するものです。
CADはもちろん2次元です。

設計フローを書いていきます。(あくまで私の場合です。)

①構想

まずはフリーハンドでポンチ絵を描いて全体の構想を練ります。
図面を描くのは2次元CADを使いますが、設計のとっかかりでは頭の中に3次元でイメージします。これを寸法・数値という制約なしで自由に紙に書き出した結果できあがるのがポンチ絵です。
ポンチ絵を基にCADで図面を描いていく。ポンチ絵とCADの大きな違いは、ポンチ絵は寸法などの数値が不明確で、CADでの絵は数値が明確であることです。
ポンチ絵では細かな数字を考えることなく自由に発想できるためアイデアが浮かびやすくなります。
フリーでアウトラインを考えて、ポンチ絵である程度は形が見えるようにしてからCADで構想図を描いていきます。
このタイミングで使用する購入品の選定を行い、加工品を描いていきます。
ベースプレートはこんな感じ、チャックはこんな感じ、動かすためのエアアクチュエータの型番はこれこれ、継手はあれを使おう。といった感じです。
加工品は後の詳細設計で多少形が変わるかもしれないけれど、この段階である程度まとめておきます。見積もりのためです。
設備設計の場合は点数が多くなるため加工図は後回しにします。

②概略見積もり

構想図ができたら概略見積もりを行います。これは設計者がやります。
なぜこの段階で見積もりをやるのか?
後の詳細設計・手配・調達のためには予算申請が必要だからです。
予算もないのに自由に設計・購買はできません。
この見積もり額次第で予算申請先が課長までか部長までか、あるいは事業部長、さらには社長決裁が必要かが決まります。というわけで手配業務に入る随分前、設計の初期段階から見積もりというものは必要になります。
概略とは言いますが、かなり重要な数字になります。
このときどうやって見積もりを行うか?購入品だったら商社に依頼する。よっぽど変わったものでなければ割とすぐに出してもらえるので助かります。
あるいは、ミスミさんのサイトで型番を検索すると価格や納期が掲載されているものもあるのでそういったものも利用します。
加工品はどうするか?3つパターンがあります。

(1)業者さんに見積もりを依頼

ある程度の加工図が必要なためそもそも依頼までに時間がかかりますし、依頼してからもそこそこ時間が必要です。基本的にある程度の時間がかかりますので、時間に余裕をもって行う必要があるけれど一番確実です。

(2)過去の実績から類似を探す。

似たような加工品の過去の実績を採用します。ただし材料費や工賃が値上がりしていることもあり注意が必要です。これらを想定したつもりでも予想より高くつくこともあります。もちろん予想より安くつくことも。

(3)材料費と加工の工程から自分で見積もる。

材料(平鋼6×32とか)から材料費を見積もって加工にかかるであろう時間×単価から自分で見積もるパターンです。よほど理由がない限りは避けたいパターンです。そもそもある程度の加工経験がないと無理だと思います。

とまあこのような感じで加工品の見積もりを行います。今回例にあげている社内設備のちょっとした開発品であれば(1)のパターンが多かったです。
一方で設備メーカーで機械設計をやっているときは(2)が多かったと思います。
ちなみに単純な形状の軸や、プレートはミスミさんのサイトで選定、型式決定させることで図面を描かずに見積もり(後に発注)することもかなり多いです。
このタイミングで仕様もまとめておきます。
ハンドの設計であれば、ハンドリングの対象、取り付けるロボット、サイクルタイムの見通しなど。

③申請

予算と仕様をまとめて申請。申請が通れば晴れて詳細設計の着手です。
*社内設備の一部を開発したときの事例で、設備メーカーの設計としての場合だと担当設備の見積もりができたら営業に預けて客先提出。見事受注となれば晴れて詳細設計の着手となります。
申請前にDR(デザインレビュー)を行ったりもします。DRをいつどのタイミングで何回行うかなどは会社によりけりです。

④詳細設計その1

まずは組立図を仕上げます。
構想図ではボルト類などの記載を省いていることも多いので、ここのタイミングで書き込んでいきます。
ボルトを選定するときにちょうど良い規格(長さ)がなく構造をいじるということが発生すると非常に面倒なので本当は構想段階できっちり描くのが理想。ボルトの呼び径だけでなく長さも書き込むのが理想。
他にはいわゆるバルーンをあげて部品表を記入する組立に必要な寸法を記入するなどを行い組立図を完成させます。
組立図が完成したら次は部品図の作成です。

⑤詳細設計その2

部品図の作成は組立図から部品図を抜き取る形で行います。いわゆるバラシと言われる作業です。部品図は加工図とも言われます。
概略見積もり段階である程度できている場合は確認と多少の手直しを行います。
概略見積もり段階でバラしていない場合(設備全体の設計を行い部品点数がとても多くてバラしをせずに実績ベースで見積もった場合など)ここでバラしを行います。

⑥手配作業

バラしが終わったら図面を印刷します。もちろん複数部数です。何部印刷するかというのは会社組織や状況次第ではありますが、3~5部が多い印象。最も多いパターンで7部印刷というのがありました。
印刷したものをA4サイズに折り畳み。このとき同時に最終チェックを行い必要に応じて修正をします。軽い修正なら鉛筆で手書き修正することも。
畳み終えたら手配書を作成。購入品と加工品に分けて手配表を作成する。
これも会社組織によりけりですが、加工品を「切削品」「製缶品」「板金品」「溶接物」など加工種ごとに図面を設計者がわけて調達部門に回すというパターンもありました。
調達へ図面と依頼書を回してからは大きく2つのパターンに分かれます。
一つはそこから先を受け持ってくれるパターン。業者に図面を送って見積もりを依頼する。もちろん相見積もりも自分たちで行う。
もう一つは見積もりを要求されるパターン。そこで申請時に取った見積もりを添付すると「相見積もりは?」と言われ業者リストを渡されることも。相見積もりを取って調達に回して、購買先を調達が決めて手配。お断りの連絡は設計が入れるということもありました。

長くなりましたがこうやって部品の調達が進められていきます。

meviyは使えるのか?

そもそもmeviyを使うためには3次元CADでモデリングを行う必要があります。
2次元CADユーザーにとって、まずここに敷居があります。
とはいえ本来、設計者は設計始めでは頭の中で3次元のイメージを持っているので3次元CADの使い方さえ覚えれば違和感なく使えます。
*ちなみに私は3次元CADはPro/E(現Creo)、Inventer、Fusion/360の使用経験があります。
CADを3次元に置き換えてmeviyを利用することを考えてみます。
構想でポンチ絵着手~3次元モデル構築まで行います。
組立図や加工図を作成する必要はありません。
3次元モデルをmeviyにアップすれば見積もりが出ます。また、加工不能な形状の場合はエラーが出ます。
注!このエラーはあくまでmeviyで対応できない加工形状ということで、他の業者さんに依頼すれば加工できるものもあります。
(私がデモなどで確認した2023年6月23日時点)
このためmeviyに頼りすぎると設計の幅が狭まってしまいます。
ここで出た見積もり額をもって申請ができるかと思います。
申請が通ればmeviyのサイトに行き先にアップしたデータを発注すれば、ものによっては最短1日で納品されます。

設計工数を確認します。

2次元CADを使用した設計の場合

一例です。
①構想設計   5d(ポンチ絵~構想図)
②概略見積   7d(業者さんに依頼)
③予算申請   3d(階層による)
④詳細設計1  2d(組立図完成)
⑤詳細設計2  5d(加工図完成)
⑥手配依頼   3d(加工先依頼)
2次元CADを使用した設計手配の場合、構想着手から加工業者さんへ依頼が届くまで25日ほどかかります。

3次元CADを使用した設計の場合

全く同じ設計を3次元CADに置き換えてmeviyを使用する場合の想定。
①構想設計   5d(ポンチ絵~3Dモデル)
②概略見積   0.5d(サイトにアップ)
③予算申請   3d(階層による)
④詳細設計1  0d(組立図完成)
⑤詳細設計2  0d(加工図完成)
⑥手配依頼   0.5d(加工先依頼)
3次元CADとmeviyを利用した場合、構想着手から加工業者さんへ依頼が届くまで9日(25日から16日の短縮)ほどになる見通しとなりました。
組立図作成およびバラしが不要となるのはやはり大きいです。また手配を加工先に依頼する日数も削減できますが、本音として嬉しいのは調達に関わる煩わしい手続きが不要になるというのが大きいです。
私の経験上では調達部門の方ははっきりいって不遜な方が多かったので(特に調達担当が年上の場合)、そことやり取りするだけでも憂鬱なことが多かったです。
数十枚の図面を出図して持って行っただけで、こんな大量に持ってくるなと怒られたこともあります。
これが無くなるのは設計以外のことに気を使う時間が大幅になくなるのではっきり言ってとても嬉しい。

とはいうものの現実は。

調達部門というのは業者から相見積もりをとって値下げを要求することだけが仕事ではないと思います。
・新たなより良い調達先を探す。
・組織の機能として担当個人と業者の癒着を防ぐ。
(だから調達担当は定期的に変わることが多い。)
あくまで調達部門の経験のない私の認識ですが、こういったことも重要な役割だと思います。
となると、いくらmeviyが便利で設計者に使い勝手がいいからといって調達部門が不要になるかというとそうはならないと思います。
現実的には、構想段階でコストを見るために設計者が利用する。
さらに手配段階で調達部門が業者に見積もり依頼をした際に相見積もり先として利用する。
その結果、meviyでの調達の方が有利な場合は当然meviyで調達部門から発注となる形にまずは落ち着いてしまう気がします。
そうすると結局は図面を描く必要があり設計工数は変わらないままです。

meviy利用の最大のメリットは設計工数の削減だと思います。設計工数の削減はシンプルにコストダウンに効きます。
当然、人手不足対応や長時間労働の削減にも効果がありますね。
利用の判断は調達部品のコストダウンという部分最適ではなく、トータルコストの削減という全体最適の視点を持つ必要があります。
現実問題としてここが苦手な会社は導入が難しそうです。

内閣総理大臣賞

ミスミさんはこのmeviyで第9回ものづくり日本大賞「内閣総理大臣賞」を受賞されています。
ここで毎年5月下旬~6月初旬に経産省・文科省・厚労省が出しているものづくり白書に少し触れてみます。
ものづくり白書では10年ほど前の2013年にハードウェアとソフトウェア、システム、デジタル化等について書かれています。
それ以降ずっとIT、IoT、AI、そしてDXと言葉を変えながらデジタル技術の活用について言及し続けています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)という単語が出てきたのは2020年からですが、個人的にこれは以前はIoTやAIと言い続けてきたが製造業の現場でIoTやAIの利用が進まないのはそもそもデータがアナログだからなのでは?つまり手書き、紙ベースでの保存データが多いからでは?それだとIoTやAI利用無理だね、まずはデジタル化をしないと。ということで言われ始めたのだと思っています。
10年に渡り言い続けているが思うように進まない製造業におけるデジタル技術の活用。
実際、私が新人だった20年前から展示会などでは3次元CADの展示があり、3次元データの有効活用がいろんなところで言われていました。しかし20年経った今も2次元CADを使用し(それ自体はデジタルデータですが)紙に印刷して、という部分は多くの会社で変わっていないように私は感じます。
そのような状況で出てきた、3次元データをアップすれば見積もり、発注まで行えて最短1日で納品される仕組みであるミスミさんのmeviyがものづくり日本大賞「内閣総理大臣賞」を受賞されたのはうなずける話です。

おわりに

このシステムは決して単一の会社におけるコストダウンの手段ではなく、製造業のさまざまなシーン、設計、調達、加工などにおける人手不足を解消する。
社会課題を解決するための1つのシステムだろうと私は捉えています。

あ、最大寸法どれくらいまで対応しているのか聞くの忘れてた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?