大学に入れなかったら、パティシエになろうと思ってた。
勉強もテストも点数も順位も、
何もかも関係ない世界で生きていこうかな、
と思っていたことがあった。
滑り止めの大学に引っかかったから、実現しなかったけど。

幼少の頃から、勉強が苦ではなかった。
というか、元から好きなことしかできない性格だ。
昔から、勉強が好きで勉強をしている。

だけど、中学に入った頃から事情が変わってきた。
ド田舎の公立中学だったからか、
学年全体の順位を貼り出すようなことはしていなかったのだけど、
なぜか学年のみんなが私のテストの点数を知っていた。
順位が良い人の点数は、広めてもいいらしく。

全然意味が分からなかった。
たとえ順位が良くても、私の点数は私の点数であって、
勝手に広めてほしくないんだけど。
プライバシーって何なのかな。

そんなに真面目な人間でもないので、
ガリ勉呼ばわりされたことはなかった。
だけど、同じ学年の子からでさえ敬語で話しかけられたり、
テストの前に何故か握手を求められたり、
大嫌いな先生が私の機嫌を取るようなことをしてきたり。
「私って何なのかな？良い点数を取って、
学年全体の平均点を上げるためだけのマシンなのかな？？」
と思わざるを得ないことが多発していた。
うっかり地元の高校に進学してしまったら、
こんな生活が高校に行っても続くのかと心底ゲンナリしていた。

色々なことがありすぎて、
私は中学を卒業したら実家を離れようと思った。
この、成績とプライバシー的なところの話で、
母親と全く意見が合わず、家にいても疲れるとも感じていた。
それに、実家から離れて、勉強が得意な子が集まる学校に行けば、
きっと私は平凡な順位しか取れず、目立つこともないだろう。
安直な考えだった。

その後のことは、想像つくだろうか。
結局、高校に行っても私は同じように自分の順位に振り回された。
進学校だったからか、中学校のときよりえげつなくて、
テストとその順位発表に追われる毎日だった。
人間ってそうそう変われるものではないらしい。

いつの日からか、私は担任にお願いするようになった。
「テストは受けますが、順位表に私の名前を載せないでください。」
成績処理めんどくさいんだけどー、と言いつつも、
担任はダメとは言わなかった。

こんなに勉強で苦しむならやめてしまえばいい。
大学も行きたいところだけ受けて、
受からなかったらパティシエになろうかな。
と言ったら、何故か親も納得してくれた。
さすがにそのことは担任には言えなかったけど。

40歳を過ぎて、未だに「勉強が好きです！勉強したいです！！」と言っている。
そんな私を見て、学生時代からお世話になっている医療関係者は
「結局、話はそこになりますか。」
と呆れたように笑いながら言う。
私が学生を辞めるときも、
「勉強が好きです！勉強したいです！！
でも学生辞めなきゃいけないんです！！！」
と言っていたのを、その医療関係者は当然覚えていてくれていて、
「昔とちっとも変わりませんね。」と呆れたように笑いながら言うのだ。

そう。今の私は勉強に救われているのだ。
あれほど苦しめられた勉強に、今は救われている。
高校時代みたいな勉強に対するストイックさは失ってしまったけど、
それと引き換えに、勉強を楽しむ気持ちを取り戻した気がする。

滑り止めの大学にしか引っかからずに、
己の無力さ（単に勉強しなかっただけだけど）を
嘆いていたけれど、それでも、パティシエへの道を選ばずに
勉学の道に残ったのは間違いじゃなかったのかもしれない。

芸は身を助くのだ、結局は。